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ぺったりと肩に頬を寄せる。 淡い茶の髪が佐伯の鼻先で揺れる。 ふわりと掠める、甘いような香り。 「ねえ、佐伯」 見上げてくる眼差しは琥珀。 白い小作りな顔は、うっすら上気している。「何、不二」 あたかも甘い香りに引き込まれたように佐伯は不二の肩を抱き寄せる。 「はい」 くすぐったそうに肩を震わせながら不二はすいと冷たいそれを差し出した。 アイスクリーム。 白とミントのマーブルにかわいらしいスピネルとグリーンクォーツが散らされたそれはポップでキュートなイメージ。 保守的と言わば言え、迷いもせずマスクメロンを選んだ佐伯には未知のフレーバー。 かてて加えて。 青学NO.2、天才の二つ名を以て広くしられる不二周助には実のところ本人すら知らない異名がいくつかあった。 ほぼ公然の秘密として有名なのは「青学プリンセス」だが、他にも知る者ぞ知る幾つかの名。 「風使い」、「微笑するネメシス」そして―――――「味覚の破壊者」。 実の弟なら泣いて逃れるというそれ。 なまじ天然で悪意がナイ分質が悪いと評判のソレ。 実際は、ただ辛みとえぐみに人一倍強いと言うだけで(酸味には弱い)、それほど特異でもないのだが。 噂が噂を呼び、また実弟裕太が甘味にシフトした舌を持つだけに、その名は恐怖を持って囁かれていた。 しかして差し出されるそれ。 裕太ならとりあえず脱兎からスタートのそれを、佐伯は一秒のためらいの後口にした。 何せ、佐伯にとって『不二を失う』以上の恐怖などこの世に遍く存在しない。天地神明あらゆる障害を薙ぎ払い討ち滅ぼし殲滅した挙げ句、手に入れた愛しい想い人。 自らの腕の中で、不二が笑ってくれる以上の幸福など存在しない。 その幸福の前には全てが相殺される。 …まあ、とりあえず公的に販売されているものではあるし。 佐伯が口にしたそれは当然のようにひんやりと甘く、次の瞬間ぱちんと弾けた。 痛みと言うよりは衝撃。 口の中でぱちぱちと弾ける。 「……っ」 「びっくりした?」 想像もしない感覚に、とっさに口元を押さえる佐伯を、不二は猫の子のような目で見上げた。 わくわくどきどきするような、瞳で。 その、瞳だけで。 人間、想像もしないものが口内に広がるというのは冗談抜きに心底びっくりするものだが、不二の楽しそうな顔だけでアタリマエのように佐伯には全てが許せた。 心から許せた、のだが。 ぺしゃ、と己を見上げる不二の鼻先にアイスを寄せる。 ひんやりしたそれに竦み上がるのを許さず、ちょこんと乗ったマスクメロンの緑に舌を這わせた。 ついでにやわらかく歯を立てて。 「あ…っ」 ぽっと染まる頬に、幸福そのものの顔で己のそれを寄せる。 「…バネさん」 「俺は何もできない。俺は何もしない。それが六角で長生きする方法だ。いいか、俺は何もしない。期待するな、桃城」 アイス片手に沈痛な表情の桃城に、黒羽は一息でそれだけ言うと顔を背けた。 そう、ここは某アイス屋。 六角と青学の合同合宿最終日にちょっとしたご褒美として立ち寄った場所。 「アイス屋なだけに愛すー」 相変わらずダジャレにもならないことをほざいたダビデの後頭部は、黒羽の蹴りで陥没した。 「………」 逃避行動でしかないそれを見ていられず、桃城が目を逸らせば。 「…………」 「やっちゃうかにゃー、殺っちゃうかにゃー、今度こそ殺っちゃうかにゃー」 アイス片手に殺意の波動を隠しもしないリョーマと菊丸がいた。 うわあと更に目を逸らせば。 「……わさびアイスとか、作れれば」 「………ふしゅー」 「ふむ。六角中佐伯に対する不二の好感度…これは少々問題が」 先輩2人と仲の悪い同級生がやはり何やらぐるぐるとしていた。 いや、俺だって不二先輩のことは好きだけど! つか、何とかしてえよな、してやりてえと想っているけど! …あー、でもココに手塚部長いなくてホントに良かったつーか…と想いつつ、更に平和を求めて視線を巡らせる先、大石と目があった。 「ははは、佐伯と不二は仲が良いな。でも中学生らしいつきあいが望ましいな。ははは」 いや、だから何でアンタいつもいつもそれでオチつけようとするんすか! そういう問題と全然違うじゃないすか! つか、俺レギュラー落ちだからそんな大口叩くの許されませんか、ねえ!? 「甘い」 「アイスは、甘いよ」 「そうじゃなくて、不二が甘い」 「…っ!」 愛は地球を救う。 まあ、時には。 |
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『魔性の小ネタ/あまいあまい』 E. |
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