『明日を、夢見る』



4.魂の在処


 「何や、いったい。えらい自信やん」
 「室町」
 まさか、と声を低くする南に室町は視線だけで返す。
 「はい。俺の管轄です。…そう、そう考えれば不二さんの失踪も納得がいきます」
 「意味、わかんねーよ?」
 山吹内だけでは理解されたらしい話に、向日が突っ込む。
 ぐしゃ、と髪を掻き回しながら珍しく千石ではなく南が口を開いた。
 「…他校生には理解し辛いと想うんだが―――室町は『邪教の館』の主でな」
 何と説明すればいいのか、と口ごもる南を、こんな時ばかり口を閉ざして千石はにやにや見ている。
 「室町さんは悪魔をてなづけられるんだーん! すごいんだーん!」
 「おまえら、頭でも……」
 壇の脳天気な一言がトドメになり、ゲームには全く理解がない跡部は言い差すが。
 「えっ、てコトは悪魔出るのかっ!?」
 「すっげ、山吹って面白!」
 何故か同タイミングで楽しげな声を挙げた向日・ブン太に掻き消された(共通点:各校武闘派)。
 「てコトはアリスとかおんねんかっ」
 興奮した声は忍足。
 「ああ…説明は面倒なんだが、地下の防空壕と何処だかが繋がっているらしくてな」
 「何十年だか前の地震の所為で悪魔が出て来ちゃったらしくてさ〜。そのまんまじゃ人死にが出るってコトで、当時の在校生で『そういう人間』が結界張ったらしいんだけど、規模か何かの問題で小物の流出は避けられない。で、非常対策用に以降『そういう人間』が事態に当たってるんだ。室町は当代の『そういう人間』で『邪教の館』の主ってワケ。だからアリスなんかはいないよ。ていうか、アリスなんか出てきたら山吹とっくに吹き飛んでるし」
 説明しやすい部分になった途端、つらっとした顔で千石が前に出る。 
 南はややむっとした顔をしたが、まあ千石なので仕方ないと退いた。
 「理解は…してもらえなくて構いませんが。俺は確かに『そういう』人間ではあるんで、人には見えづらいものが見えるときがあります。…見える、というよりは『感知する』に近いんですが」
 目をキラキラ(ギラギラ?)させて、山吹探索ツアーを組め、山吹ばっかりそんな面白いコト独り占めすんな! と南に迫る向日・ブン太以外は困ったような室町の言葉をただ咀嚼する。
 「室町くん、だっけ? それは俺の電波とは違うのかな?」
 「…違います」
 「下らねえコトほざいてんじゃねえ、佐伯!」
 一喝した後、跡部はちらりと室町を見る。
 「俺は本来、その類には興味関心一切ねえし、理解も信用もしてねえがな。この事態は確かに異常だ。それに何より、周を取り戻せるんだとしたら何にでも賭けてやる。てめえの想ったことを話せ。聞いてやる」
 他者に意見を求めるにしては大上段も良いところの態度であったが、跡部なので誰も気にしない。
 「不二さんは、俺が見たところそもそも人としての性質よりも、属性性質の方が強く出ています」
 「属性って何や」
 「一口で説明するのは難しいんですが、人間は誰しも人間以外の存在を守護として持って生まれます。それはあくまでうっすらとした影のようなもので、その後の生育や人格に影響を与えるものではないんですが、時折それが人間であること以上に色濃く顕現する人がいます。不二さんが、そのタイプです」
 「ふーん。そんで、不二センパイって何?」
 「四大妖精の一。風を司る、妖精・シルフ」
 ほお、とそんな事態でないにも関わらず、納得したようなため息が上がる。
 「確かに、捕らえどこがないトコがカワイイちゅーかな〜。魅力のひとつやんな」
 忍足の脳裏には多分緑色のフワフワカクテルドレスに透明な羽装備の不二が描かれている。
 「『白鯨』も、その属性ってヤツの所為なのかにゃ? 俺の分身はどうかにゃ?」
 「なかなか面白い話ではありますね。他にも、そう言った例はいるのですか?」
 「ええ…まあ。…魔王の属性で、これを持っている人は稀少なんですが、それが更に強く顕現している人も、中にはいます」
 『へえ』
 感嘆符は二ヶ所から上がった。
 「すごいねえ、聞いた? バネさん。魔王なんてヤツ、いるんだ」
 「聞いたかい、ブン太。魔王だって…ふふっ」
 オマエラのコトだろうが!! と全員が全員腹の底から突っ込んだが、誰も口に出しはしなかった。
 雉も鳴かずば何とやら。
 「雑談なら聞かねえぞ。とっとと話を進めろ」
 しかしそんな事態もどーでもいいのか跡部は苛立たしげに急かす。
 「あ、はい。今の状態が夢だとすると、尚更不二さんの『人間』としての部分は小さくなり、属性の部分が多く出ます。人間を最も人間たらしめている『肉体』という枷から逃れているわけですから。それに、あの桜の樹が強く続く一日を願う際、不二さんほど具合の良い触媒はいません。あの日も、不二さんだけが樹の声を聞いていましたね?」
 もう遙かに遠い日にも想える、花見の日。
 確かに不二は、樹の声が聞こえると言っていた。
 「…どちらが先かまでは俺にも解りません。桜の樹が不二さんを招いたのが先か、このセカイの外形が作られたの―――夢が作り出されたのが先か。ただはっきりしているのは、あの時不二さんは桜に共鳴していた。それは不二さんの『人間ではない部分』が響きあったんだと想います」
 何百年も生きて意志を持った老木と。
 ふつりとそこで言葉を切る室町に、我が意を得たりと突然観月が背を逸らした。
 「ほら、僕が言った通りじゃありませんか。この事態の元凶は不二くんです」
 「違いますよ」
 鼻ターカダカの言葉は、あっさりと否定される。
 「は? だって今、何て言いましたっけ? 山吹の…君は」
 「俺が言ったのは『不二さんは人間より属性の性質が濃い』と言うことと『その部分が桜と響きあった』ということですよ。これには、人間である不二さんの意識は殆ど関与してないと想います。むしろ、桜に囚われてこのセカイを作るための触媒とされているなら被害者でしょうね」
 がっくり、観月は膝を落とした。
 「とりあえず、あの樹に周が居る。ついでに、アレが元凶ってことだな」
 この事態をついで扱いした跡部に、室町は首肯した。
 「なら話は簡単だ。周取り返して、このセカイに決着を付ける。巡らない明日なんざ真っ平だ」
 「いや、そう簡単には、いかない」
 先程から柳と並んで電卓を叩き続けていた乾が、手を止めてきっぱり言い放つ。
 その顔は心なしか青ざめていた。
 「さっきから俺達はデータを付き合わせ、何度も演算を繰り返していた。セカイの変調を鑑みて」
 すいと立ち上がる柳も、顔色は芳しくない。
 「間違いない。このセカイは消滅する―――まもなく」

 continue.