■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■  公務員試験大始末記No.04  「トンデモ参考書の世界」 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 私の手元に、私を激怒させた参考書があります。 皆さんは見たことありますか?  その本は、本文部分に赤いカバー(国家三種・地方初級用は青)が かかっていて、そのため中身を読めないようになっています。 「三日で合格!」というコピーが表紙に記されています。 書店や大学生協などにうず高く平積みされ、多くの受験者の心を 惑わしました。 その名は「公務員試験○秘裏ワザ大全」(津田秀樹、宝島社)。 最近、とんと見かけなくなったので、話の種にと思って、 大学生協に1冊だけ残っていたのを買ってきました。ところが、 これがひじょうにトンデモない仕上がりの本で、頭痛がして きましたので、今回はひとつこの本を断罪してみます。 表紙にあるように「誰も書けなかった」のではなく、 「(あほらしくて)誰も書かなかった」本なのだ、ということが わかっていただけると思います。 今号はひじょうに長くなります。それだけ言いたいことが いっぱいあるということであり、こんなくだらない本に ひっかかってほしくない、という気持ちの表れでもあります。 また、もしすでに買って持っている方はさぞ気分を害すると 思うので、たいへん申しわけないのですが、 「それほどまでに役に立たない本だ」 と(私から見たら)感じたということで、ご了承をいただきたいと 思います。 ●ユダヤ陰謀論(嘘) まずは、カバーがかかっていない冒頭の「プロローグ」部分を 読んで、反論してみます。 「これだけのもの(出題科目)を全部勉強するのは不可能だ」 断言します。そんなことはありません。 科目数は多くても、公務員試験に出題される範囲など、たかが 知れています。 不可能だと言いきることで、 「やっぱり不可能なんだ、必死で勉強しても意味無いんだ」 と、自分にいいわけをして勉強しないような、怠惰な受験生を ひっかける手口です。 「誘惑に弱い、迷いやすい人の場合は特に要注意だ。筆記試験なら  正解できても、択一式では間違えるということがあるのだ」 また断言します。そんなことはありません。 うやむやにして覚えているからまんまと引っ掛かって間違うので あり、そんな人は筆記試験で同じ問題が出ても間違えます。 択一式でうっかりミスをするような人こそが、筆記試験でも、 「未成年者は権利能力を制限され……」などと平気で書いて しまうのです。(正解は行為能力) 「(試験予備校では)正攻法だけでやらせた方が、講義の数も  増やせるし、たくさんの教材も買わせることができる」 これは予備校が利潤追求でやっている以上は当たり前のことで、 それが嫌なら予備校に行かなければいいだけの話です。 なぜ予備校で正攻法の解き方しか教えないのかというと、 正攻法だけでやらせた方が、効率よく知識を蓄えさせることが できるからです。 それを、「予備校の収益が上がらなくなるから教えない」という 予備校陰謀論に転嫁させ、高い授業料などに不満をもつ受験生の 心をくすぐるわけです。 つまり、そういうことにしておかなければ、この本は売れないの でしょう。陰謀論の助けを借りて売れた本などというものが、 ろくな本であったためしはありません。 このへんのことは、今回のタイトルのネタ本(笑)でもある 「トンデモ本の世界」(と学会編、宝島社文庫)に詳しいです。 「裏ワザで解けるものは(本や通信講座等を)買わずににおこう  なんてことをされたら(予備校としては)まるっきりソンだ」 そういう下心でもって予備校の講座を受けても、そういう人は 間違いなく試験に落ちるので(くわしくは後述)、広告に出せる 合格率や合格人数が下がってしまいます。 そんな「ソン」なことを予備校がするでしょうか。 「この本は、さまざまな迫害を受けるかもしれないが、それはこの  本に実力がないからではない。完全に信用してもらいたい」 ほら出た。いかがわしい本を書いた人が、必ず口にする言葉です。 信用してもらいたいのなら、中身を公開して、内容で勝負するのが 筋というものです。 具体的な内容は出さずに、このような実体のない美辞麗句を並べて、 「この本はすばらしい、公務員試験の受験者は買わなきゃソンだ」 と思い込んでいるのは、機嫌よく書いている当人くらいのものです。 むしろ実は自分と自分の書いたものに自信がなく、コンプレックス があるからこそ中身を隠し、美辞麗句を連ねて、 「自分の本に威力があるように見られたがっている」 と考えるのが素直な見方でしょう。 たとえば、誰かがが自分のことを評して、 「私は明るくて協調性があって、努力家で人徳がある」 と言っているのを聞いて、素直に信じられますか? それと同じで、こけおどしが必要なものほど、実がないのです。 「なにしろ、私自身この裏ワザで大学受験を切りぬけたのだし、  私の父は私の本を読んで行政書士に合格した」 それはこうした試験が、人間性というものを問われないテスト だからです。面接試験に裏技はありません。 ●許されざる抜け道 「知識がなくても、裏ワザで簡単に正解することができる」 という謳い文句の中に、この本の一番大きな自己矛盾があります。 カバーに隠された部分の最初に「常識的回答」という「裏ワザ」が 紹介されていますが、常識のない人にはこの裏技は会得できません。 例えば、 「イギリスでは早くから封建制度が解体し……」 の選択肢の解説に、 「イギリスではいまだに身分制度が濃厚なのは知識として知って いるだろう。×だ」 と書かれていることから、「裏ワザ」だけ知っていても問題は 解けないことがわかります。 「知識がなくても解ける」という謳い文句は、大嘘なのです。 知識を得るには、結局正攻法しかありません。 この、前文で正攻法を馬鹿にしながら、カバーで隠された本文では 正攻法にまるっきり依存し、逃げ道をつくっておく卑劣な書き方に、 私は腹を立てました。 いったいこれのどこが「裏ワザ」なのでしょうか? ついでに、「三日で合格」というコピーも斬ってみましょう。 この本の「裏ワザ」自体が実はひじょうに難解であり、解法を すべて会得するには3日ではできません。 読み進めていけばいくほど、つじつまを合わせようとして、 解法は複雑怪奇になっていきます。 しかも「必ず正解するとは限らない」という逃げ文句も増えます。 そしてこの本の方法論を極めようとすると、かんじんの知識獲得が おろそかになってしまい、結局「裏ワザ」を使っても解けない、 という末路が待っていることうけあいです。 もうひとつ、錯覚されやすい部分を指摘しておきます。 たしかに、この本に載っている問題と選択肢は、すべて過去の 公務員試験の復元問題です。それは間違いないでしょう。 実際、見覚えのある問題がいくつもありました。 しかし重要なことは、この本に載せる問題の選別は、すべて著者の 思うがままだということです。わかりやすく言うと、「裏ワザ」に 適合していない問題を、「載せるスペースがない」という理由で 切り捨ててしまうことができるのです。 はたして、この本を最初から最後まで一読してみましたが、 経済原論の問題は、国家一種からたった1問だけで、計算問題は 皆無でした。 経済原論はどの試験でも、(教養試験をあわせて)10問は出ます。 これら膨大な量の問題が「裏ワザ」で解けるのであれば、ぜひ 掲載してほしいところです。 しかし、この本の解法では計算問題までは解いてくれない、という 限界があるから、載せられないのです。 ●「買ってはいけない」 私がこの本を読んで「あほらしい」と思った一番の理由は、 正攻法で問題をたくさん解いているうちに、この本に書いてある がごとき技は身についてくるからです。 何百問、何千問も過去問を解けば、余裕も出てきて、 「あれ、2が間違いだとすると1と4が両方正解になるぞ」 「おや、2と5が正反対の主張だ」 「3はいくらなんでも正解らしすぎて変だ。とすると1かな」 というふうに、わかってくるものなのです。わざわざ、 「裏ワザ」用の本なんて読む必要はありません。 私は経営学の勉強はほとんどしなかったのですが、それでも、 上記のようにして正解を見つけ出すことは容易でした。 つまりこの本で言われるところの「裏ワザ」は、公務員試験に 受かるような人であれば、ごく自然に、無意識に利用している テクニックにすぎないのです。 それを針小棒大に、さも大発見を公開するようなふりをして、 「裏ワザ」だと言っているだけなのです。 となると、カバーをかけて中身を読めなくした理由も見えてきます。 この本には、ふつうに勉強している人なら、程度の差こそあれ、 誰でも会得していることしか書かれていません。もしそんな人に 立ち読みされると、それがバレてしまいます。だから、カバーを かけてあるというわけです。 なんとも皮肉なことに、本の外観が、それ自体で 「買う前に読まれてしまうと買ってもらえないような、  そんなつまらない本です」 と、なによりも多くのメッセージを語っているのです。 それにしても、この本って売れたのでしょうか? 最近はほとんど書店では見かけないけれども、やっぱり著者は 「私の本が書店に並ばないのは、参考書出版社と予備校の陰謀だ、  妨害があったに違いない。私の本が世に広まると、出版社と  予備校が困るから、裏で圧力がかかっているんだ」 と思っていて、自分の本がつまらなく、役に立たない本だったから という本当の理由には、ちっとも思い至ってないんじゃないかなあ、 と、私はそんな想像をしているのです。 ちなみにぽんたのコメント: 「公務員になってからも、法律の知識等が必要になることはいくら  でもある。裏ワザで受かったとして、法律知識が必要な部署に  入って、化けの皮がはがれたらどうするの?  こんなふざけた参考書は焚書にしてもいい」 だそうです。 TOEIC800点以上という資格を武器に、一流企業に入った人がいます。 その人は当然のことながら、国際取引の部署に配属されました。 しかし、彼はそこではまったく役に立たなかったそうです。 その真相は、彼がTOEIC対策の勉強をして、TOEICの問題が解ける ようになっていただけ、だったのです。 次回は、出願対象の選び方について、考えてみましょう。 試験科目が重なるからと、安易に併願していませんか? ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公務員試験大始末記 Written and Published by "フィル" マガジンID:0000018909 ・購読,解除手続きとバックナンバーはこちらです →http://www.freepage.total.co.jp/phil/ ・ご意見,ご感想,ご質問等はこちらへ →philphil@mcn.ne.jp  このメールマガジンは,インターネットの本屋さん  「まぐまぐ」のご協力で配信されております。 →http://www.mag2.com/ ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆