きゅうりのサンドイッチ
(ディルとサワークリーム入り)
 泊る場所がないという華子を一晩だけ泊めることにして、私はコーヒーを入れた。夜ごはんを食べていないと

いう華子のために、きゅうりのサンドイッチも作る。薄いパンにバターとサワークリームをぬりながら、私は一体

何をしているのだろうと思った。それでも、空白よりましだった。健吾の好きな女にサンドイッチを作るのは、一

人で本を読むよりは健吾に近いことだった。少なくとも、健吾に関係のあることだった。

 コーヒーをのみ、サンドイッチをつまみながら、私は改めてその女を観察した。小さくて、全体が申し分なく整

っていて、細い指でサンドイッチをつまみあげ、形のいい、色味のない口で噛みとっては咀嚼している華子は、

陶器の人形のようだった。滑らかな肌も、倣岸な顔つきも。

「おいしいサンドイッチね」

華子は無表情に言う。

「そう?ディルが少し入っているの」

 このサンドイッチは健吾も好きだった。ピクニックバスケットにぎっしりつめて、よく後輩のラグビーを観にいっ

た。

「お風呂に入ってもいい?」

食べおわると、華子はたのしそうにそう訊いた。

                                      『落下する夕方』 江国香織著 角川文庫

 梅が見ごろのよく晴れた日曜日、梨果は8年も一緒に暮している健吾に突然別れを告げられます。その原因となったのは、根津華子という、不思議な雰囲気をもった女でした。健吾は、彼女には「ハナモヒッカケテモラエナイ」のに、出会いからたったの3日で、梨果との別れを決意したのでした。この「きゅうりのサンドイッチ」が登場するのは、その華子が真夜中に梨果のマンションに押しかけて来る場面。まるで自分のうちにでも入るように自然な動きで部屋に入ってきた華子は、なんとそのままそこに住みついてしまうのですが、梨果は、そんな彼女のために奪われた恋人が好きだったサンドイッチを作ってやるのでした。やがて梨果は、華子の不思議な魅力にとりつかれ、奇妙な三角関係が始まります。
 この物語は、一見どろどろしそうなテーマなのに全編さわやかな雰囲気に溢れていたり、非現実的な設定なのに奇妙なまでに現実感があったり、まるで「華子」そのもののような魅力に溢れています。噛むと、かすかにディルの不思議にさわやかな香りが広がるこのサンドイッチは、この物語にもっともふさわしい食べもののような気がします。

材料(2人分)

食パン(12枚ぎり) 4枚

きゅうり 2/3本
サワークリーム 100gくらい
ディル 適量

バター 適量

作り方

 ディルは葉のやわらかいところを軽くきざむ(新芽で茎もやわらかければ、一緒にきざむ)。きゅうりは、薄くスライ
 スする。

 サワークリームをボールにいれ、のディルを加えて混ぜる。

   
カフェの庭でつんだディルです。春の新芽なので、茎もやわらかいです。
生のディルが手に入らなければ、ドライのものでもいいと思います。


 食パン2枚にバターを塗り、きゅうりの薄切りを並べる。もう2枚にのクリームを塗り、重ねる。


 しばらく濡れぶきんをかぶせて落ち着かせ、食べやすい大きさに切る。

※ 写真は、ツナサンドと組み合わせてあります。ツナサンドは、缶詰のツナとたまねぎのみじん切りをマヨネーズで
 あえ、バターとマスタードをぬったパンにはさみました。

 






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