ミス・ギルクリストのスコーン
 台所では、 ミス・ギルクリストがオーヴンの中から最後のスコーンを取り出すところだった。 盆の上には

お茶の道具がちゃんと揃えてあり、 湯沸かしはほど良く湯気を立てていた。

「ガスリーさんとかいう方がお見えになって、 あたしお茶を飲んでらっしゃいと言っちゃったんだけど・・・」

「ガスリーさん? ああ、あのガスリーさん。 コーラさまの良い友だちで。 とても有名な批評家ですわ。 ち

ょうどようござんしたわ、 スコーンをたくさんこしらえましたし、 手製の苺ジャムもございますし、 ドロップケ

ーキももうでき上がっておりますから。 さっそくお茶をおいれしましょう。 茶瓶はもう暖めてあります。 い

え、 バンクス様、 結構でございますわ、 私が持ってまいりますから。 そのお盆とても重うございますの

よ、 いえ、 私一人で大丈夫ですから」

 しかし結局スーザンがお盆を持って居間に入ってきた。 ミス・ギルクリストはティーポットと湯沸かしを持っ

てあとから入り、 ガスリー氏に挨拶をすると、 皆でお茶を飲み始めた。

「暖かいスコーン・・・・・・これはご馳走だ・・・・・・。 おいしいジャムですね、 実際この頃街で売ってるジャ

ムときたら・・・・・・」

 ミス・ギルクリストはちょっと顔を赤らめながら、 それでもほめられて嬉しそうだった。 小さなケーキもおい

しかった。 何もかも申し分なかった。 スーザンもガスリーも大いにほめちぎった。 <柳荘>の影が部屋をほ

のかに包んで、 ミス・ギルクリストは限りない幸福に浸った。  

                      『葬儀を終えて』 アガサ・クリスティー著 加島祥造訳・ハヤカワ文庫

 イギリスのお茶菓子といえば、まず思い浮かぶのがスコーン。バター、小麦粉、牛乳といった、いたってシンプルな材料からなる、素朴なお菓子です。イギリスの女の子がまず習うお菓子がこのスコーンだそうで、アガサ・クリスティーの作品の中にもたびたび登場しています。
 中でも特においしそうなのが、『葬儀を終えて』に登場するミス・ギルクリストのスコーン。ミス・ギルクリストはこの物語の被害者、コーラ・ランスケネの家政婦をしているオールド・ミス。戦争でだめになるまで、「柳荘」という喫茶室を経営していただけあって、手早くササッとスコーンを作る腕前はさすがです。
 私自身、イギリスのアフタヌーンティーに憧れて、様々なレシピを試してみましたが、本場のスコーンの少しボソッとした口当たりが気になって、結局バターを多めに使ってふんわりと仕上げるこのレシピに落ち着きました。
 ミス・ギルクリストが作ったものとは少し趣が違うかもしれませんが、クリームやジャムをつけてお茶と一緒に召し上がれば、きっと幸せな気分になれますよ。
 ミス・ギルクリストも、夢が叶って新しい喫茶室を持つことができれば、たくさんの人を幸せにできたかもしれませんが・・・。

材料
(直径約6cmのプレーンとレーズン入り各5個分)

薄力粉 250g
ベーキングパウダー 小さじ3〜4
塩 少々
バター又はマーガリン(よく冷やし固めたもの) 80g
卵 2個
牛乳 50cc
バニラエッセンス 少々
レーズン(ラムレーズンでも良い) 50g程度(好みで)

打ち粉用の強力粉 適量

作り方

 粉類(薄力粉、ベーキングパウダー、塩)をあわせて2度ふるう。

 卵はといて、1/5ほどを取り分けた残りを牛乳と混ぜ、バニラエッセンスで香りをつける。

 に、冷蔵庫で冷やし固めて、粗く切ったバターを入れ、指先でバターを粉にこすり合わせて、さらさらのパン粉状
 にする。


※ 指の温度でバターが溶けてしまわないよう注意。暖かい時期は、バターを混ぜる前に、
氷水で指先を冷やしておくと作業しやすい。


 を入れ、ゴムべらで混ぜ合わせる。

5 4の生地を手で丸くまとめ、半分に分ける。

 の半分を、強力粉で打ち粉をした台の上に載せ、さらに生地にも強力粉をふってからめん棒で2センチの厚さに
 伸ばす。残りの半分にレーズンを混ぜ、同じように2センチ厚さに伸ばす。

 を直径6センチの丸型か菊型で抜いて、クッキングシートをひいた天板にならべ、上面にで残しておいた卵に水
 少々を混ぜたものをハケで塗る。

    
※ 型がなければ、手でそれぞれ5等分して形を整えておくだけでも良い。素朴なお菓子なので、
あるものだけで気取らずにつくりましょう。


 あらかじめ220度に温めておいたオーブンできれいな焼き色がつくまで(約12分)焼く。


さあ、どうぞ。




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