2000年カンヌ国際映画祭正式出品作品。2000年東京フィルメックス『アジア[新・作家主義]映画祭』特別招待クロージング作品。原題『KIPPUR』。ビデオ&DVD版タイトル『キプール〜勝者なき戦場〜』。脚本&監督:アモス・ギタイ。脚本:マリー=ジョゼ・サンセルム。撮影:レナート・ベルタ。2000年、イスラエル=フランス=イタリア合作(製作:MPプロダクションズ&ストゥディオ・キャナル・プリュ&オーシャン映画ほか)。カラー・ビスタ。DTS&ドルビー・デジタル。上映時間118分。2001年12月22日から2002年1月18日までシャンテ・シネ(日比谷)にて独占ロードショー公開。配給:アルシネテラン。
1973年10月6日のイスラエルから物語は始まる。この日、イスラエルはヨム・キプール(贖罪の日。ユダヤ歴で最も大切な聖日)。ワインローブ(リオン・レヴォ)は、恋人ディナ(リアット・グリック・レヴォ)との時間を楽しんでいた。そこへ軍から緊急呼集がかかる。ワインローブは友人ルソ(トメル・ルッソ)を車に乗せ、所属部隊へと向かった。その道中、ラジオから流れる情報でエジプトとシリアが侵攻してきたことを知る。何とか部隊集合地に到着したワインローブとルソ。だが、彼らが所属する部隊は既に前線へと送り出された後だった。茫然とする2人。そんな彼らの前に車が故障して立ち往生していたクロイツナー空軍医(ウリ・ラン・クラズネル)が現れる。彼と一緒に傷病兵収容ヘリコプター部隊に加わったワインローブとルソは、ノア部隊長(ジュリアーノ・メル)の指示で、ヨラム操縦士(ヨラム・ハタブ)が率いる小隊に配属となった。コビ副操縦士(コビ・リヴネ)やガダッシ(ガイ・アミール)、整備兵カウチンスキー(ラン・カウチンスキー)、そして、クロイツナー軍医と共に戦場を飛び回るワインローブとルソ。当初、初めての戦争に対する高揚感から興奮していた2人であったが、傷病兵を繰り返し病院の医師(ピニ・ミットルマン)へ送り届けるうちに、厭戦気分や疲労感、そして、無力感に囚われていく……。
1973年に起きたヨム・キプール戦争(第4次中東戦争)に23歳で従軍したアモス・ギタイ監督の体験に基づく作品。つまり、実話モノである。8億円の制作費をかけ、ドキュメンタリー・タッチで撮影されているため、当時の戦闘を記録したかのような印象を受けた。
さて、冒頭、ほとんど人がいない街を主人公が画面の奥から手前まで歩いてくるシーンがある。続いて画面の端から端まで主人公が誰もいない街を歩いている場面。そして、主人公が画面の手前から奥に向かって去っていく様子が延々と流される。最初、私は、このシーンを無意味だと思った。同じ様な場面を繰り返すので退屈だとも思った。しかし、このシーンにも、ちゃんと意味があったのである。10月6日、ヨム・キプール。日本人にとっては、「元旦」に該当するような重要な日なのである。現在、1月1日でも仕事をする人が増えたが、昔は「元旦」に仕事や家事をするのは「御法度」であった。本来なら「書き初め」も「年賀状書き」もしてはいけないのである。そのような重大な日に攻撃を受けたということが、イスラエル国民にとって、どれだけ衝撃的なことだったか想像に難くない。同じように考えるならば、アメリカがラマダン中にも空爆を続けたことは、イスラム諸国民にとって耐えがたい屈辱であっただろう。本来なら、アメリカは、もっと非難されるべきだ。
閑話休題。この冒頭シーンの後、絵の具を塗り付け合うセックス場面が挿入される。一見、本編とは関係無さそうだが、このシーンにも意味はあるのだ。この作品、戦争場面は抑えた色調で描かれている。それに対してセックス・シーンでは様々な色が氾濫していた。要するに色調によって「生」と「死」を描き分けているのである。なかなか巧い演出だ。……が、特筆すべきは、やはり戦争シーンだろう。死んだ仲間もヘリに乗せてくれと暴れる兵士。彼をなだめようとするワインローブたち。音楽は無く、声もヘリコプターのローター音で掻き消されている。号泣。このシーンを始め、涙無しでは観られない場面が淡々と綴られていくのだ……。深い悲しみに満ちた作品である。
●おすすめ対象
20歳以上の男女にオススメ。
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●一言で言えば……
教科書だけでは判らない「戦争」の実像。