ニューヨークで本物の戦車を走らせたという(!?)話題作。原題『THE SIEGE』。原作&脚本:ローレンス・ライト。脚本&監督:エドワード・ズウィック。脚本:メノ・メイエス。1998年、アメリカ映画(製作:20世紀フォックス映画)。カラー・シネスコ。SDDS&ドルビー・デジタル。上映時間118分。2000年4月15日より全国松竹・東急洋画系にて公開。チェーン・マスターは丸の内シャンゼリゼ。配給:20世紀フォックス映画。興行収入成績:6億7000万円。
1998年、ナイロビでアメリカ大使館の入ったビルが爆破され、80人の死者と1000人以上の負傷者を出した。これは、クリントン大統領が行ったアフガニスタンに対するミサイル攻撃に対する報復テロと見られている。アメリカは、この蛮行に対し、強行手段で対抗することを表明(何と、ここまでは実際にあった出来事なのだ)。ペンタゴンは先のテロの指導者と思われるイスラム僧侶を拉致する。しばらくして、ニューヨークでバスジャック事件が発生。犯人は爆弾を持ったアラブ系の男性であった。彼らは拉致されたイスラム僧侶の解放を要求するが、軍が極秘に拉致したため、FBIのテロリスト対策本部長のハバード(デンゼル・ワシントン)には何のことだか解からない。交渉は失敗し、犯人は自爆。人質はバスごと吹き飛ばされた。バスジャック事件調査委員会で、証人に話を聞いてまわるCIAの女工作員エリース(アネット・ベニング)を不審に思ったハバードは、彼女を拘束する。だが、反アメリカ国家において反政府集団を組織した経歴を持つ彼女の「情報」に目を付けたハバードは、エリースからテロリストたちの情報を提供してもらうことにし、その見返りとして彼女に協力することにした。エリースの情報源であるサミール(サミ・ボージラ)から得た情報で、バスを爆破したテロリストグループの壊滅に成功したハバード。しかし、これに対する報復テロでブロードウェイの劇場が爆破される。続いて、小学校に爆弾を持ったアラブ系男性が立てこもり、最後に政府機関の入っていたビルが爆破された。事態を収拾させるべく大統領は戒厳令を施行。ダヴロー将軍(ブルース・ウィリス)率いる米軍が、アラブ人をかたっぱしから逮捕、収容していく……。
邦題の「マーシャル・ロー」とは「戒厳令」のこと。わざわざ「マーシャル・ロー=戒厳令」と説明するくらいなら、最初から邦題を「戒厳令」にすれば良かったと思う。「戒厳令」のほうがカッコイイ。ちなみに、原題の「THE SIEGE」だが、これは「包囲(攻撃)」という意味である。さて、映画についてだが、まず、テーマが非常に重かった。ハリウッド映画界に、これだけのモノを作れる人がいたことに感動(ハリウッド映画と言えば、女性向けのアホな恋愛モノか、頭カラッポのアクション映画ばかりという印象が強いので)。ハッキリ言って、この映画は観る人を選ぶ。頭の悪い奴は、お断り映画だ。かなりハイレベルな国際情勢知識と民族問題に対する造詣が無ければ、「なにこれ、わかんなーい」とか「とちゅーで、ねちゃったーぁ」とか言うことになるだろう。小学館の『SAPIO』くらい読んでおきたいところだ。
映画では、如何にして戒厳令に到るかを中心に描いているため、人間ドラマは(昨今の説明過剰のハリウッド映画に比べれば)説明不足気味かもしれない。そこで、少し考察してみた。まず、「何故にダヴロー将軍はイスラム僧侶を拉致したのか?」である。考えられる理由は2つ。1つはナイロビのテロに対する報復である。もう1つは、思想的指導者を失ったイスラム原理主義者によるアメリカにおけるテロを誘発するため。前者は説明の必要はない。後者はテロの続発によって世情不安を起こし、戒厳令を敷かせることが目的だ。「ちょっと待て、ダヴロー将軍は軍の介入に反対していたはずだ」という人がいるだろう。確かに、安全保障委員会で将軍はそう発言していた。だが、これが建前に過ぎなかったらどうだろう。思い出して欲しい。ダヴロー将軍は映画内で「テロはアメリカに対する戦闘行為である」と言い、さらに「これは自国領土内での戦争である」とも言っていた。さらにもう1つ、ダヴロー将軍がハバードのオフィスを訪れた時、大統領に対してダヴロー将軍はどう評価をしていたか思い出して欲しい。付け加えるなら、FBIの対テロ処理能力に対する彼の評価は決して高くはなかったはずだ。総合すると、ダヴロー将軍は、FBIの法律遵守的なテロ対策には否定的(映画内の安全保障委員会の場面で「テロリズムに対する司法構造の欠陥」を指摘する発言もあった)であり、法を犯して主義を通そうとするテロリズムに対して、超法規的な対応である「戒厳令」こそ効果的であると考えている可能性が高い。しかし、タヴロー将軍の「悪に対して悪で対処するというやり方」が一種のテロリズムであることも否定することは出来ないのだ。
また、ハバードのプライベートについては映画内で全く描かれていないが、彼の行動から読み取ってみよう。まず、バスジャックの場面で、とにかく子供を解放するよう説得していた。次に小学校での立てこもり事件では、内部の様子を知るモニターに子供の姿が映った途端、単独で突入するというシーンもある。以上から推察するに、ハバードは自分の子供を(もしかしたら妻も)テロで失っている可能性が高いのだ。ハバードはテロ対策本部長として記者会見に出ることが多く、そのため標的になりやすい。彼の家族がテロの標的にされたという可能性は否定できないはずだ。また、ハバードのテロに対する法律遵守的なスタンスも、テロという反法律的な象徴に対する反発からと考えられるだろう。とにかく、鑑賞後、あれこれと考えさせられる映画だ。「戒厳令」を扱った映画は、これ以外に『パトレイバー2 the movie』(監督:『攻殻機動隊』の押井守/脚本:『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』の伊藤和典)という名作がある。観比べてみるのも面白いだろう。
●おすすめ対象
知識レベルの高い人しか楽しめないだろう。
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●一言で言えば……
実写版『パトレイバー2 the movie』!?