2000年の中頃だから、もう随分前のことだけど、山形浩生さんのサイトで35歳記念企画プロジェクト杉田玄白というものを見かけた。このプロジェクトのことは、以前にも聞いたことはあったけど、あまり気にしてはいなかった。どんなものかとのぞくと、ふむふむ、誰に頼まれたわけでもなく、勝手にいろんな文書を翻訳して公開しましょ、っていうプロジェクトだった。青空文庫の翻訳版だとも書いてある。なんとアッパレな企画。インターネット上にはかの有名なProject Gutenbergをはじめ沢山のE-Textがあることは知っていたけど、いかんせん多くは英語。そんなのの日本語訳はほとんど見つからない。青空文庫というのは確かにすばらしいけれど、著作権の関係から翻訳物は極めて少いのはしかたがない。語学力のなさに指をくわえて見ているばかりだった。ああ、こういう企画があらわれれば、いろんなものが日本語で読めるようになるにちがいない。ありがたや、ありがたや。
とはいえ、ぼくの読みたいものが、すぐにあるわけではない。誰かがやってくれるのを待てばいつのことになるやら分らない。「誰かやってくださいな。」ってお願いすれば、「おまえがやれば。」って言われるのは必定。ふぅむ、そうか自分でやればってことなんだ、と思い当ったしだい。語学力がないとはいっても、辞書をくびっぴきで調べて、行間をウッと睨んで考えれば、訳も多少は浮ぼうもの。「オープンソース流」というか「バザール式」というのか、このやり方は、「まずは訳して晒しましょ。そしたら皆でつっつきましょう。そしてゴロゴロ転がせば、やがてはりっぱな翻訳ができあがる。」とまぁこんなふうのものであるようなので、ヘタでもいいから翻訳してみようかという気になった。そうすれば、いろいろ間違ったところは、指摘を受けたり教えてもらったりして、そのうちまっとうな翻訳になるやもしれず、もしくは「おまえの翻訳にはあきれはてたから、オイラがちゃんとしたのをやっちゃったぜ。」という奇特な方があらわれるかもしれない。
こうして、ぼくはプロジェクト杉田玄白の翻訳作業員となったのだ。そういうわけ、ぼくは語学力に自信があって翻訳に手を染めたわけではないので、ぼくの訳にはいろいろ誤訳とかあるだろうし、日本語としてもわかりにくいところがあると思う。そういうところにお気づきになったら、どうかメールで教えていただければ、たいへんうれしい。
それから、これをお読みのあなた。あなたもプロジェクト杉田玄白に参加しませんか。テキストは山のようにあり、訳者の数はまだまだ足りない。「原文で読めばいいじゃん。」って人もいるかもしれないけど、そういう人は自分の読解に間違いがないかチェックできるし、翻訳をだせばそれを喜んでくれる人がいるんだし、いっちょうやってみる気にならないだろうか。英語とか苦手でねという人も(ぼくだってそうですが)、子供むけの読物とかもあるので、お勉強をするつもりで訳してみてはどうだろう。このプロジェクトは、参加するのに別段登録とか必要ない。翻訳したら、「こんなのできました。こういうところに置いてあります。」って山形さんに連絡するだけなの。
興味があったらプロジェクト杉田玄白の趣意書とかよくありそうな質問を見てね。
プロジェクト杉田玄白は、青空文庫の翻訳版で、いろんなテキストを勝手に翻訳して自由に利用してもらうというプロジェクトなんだけど、これがバザール方式で翻訳をやっていこうというものであることは、とっても重要なことだと思うんだよね。この点はもっと強調されていいと、ぼくは思う。
バザール方式というのは、翻訳物を読んでいて、typoや誤訳を発見したら翻訳者に連絡して修正してもらおう。そういうことを重ねていけば、だんだんとよい翻訳ができあがるということなんだ。もし翻訳者と意見が分れるのであれば、そこから分岐して、別バージョンを作ることも可能だ。
青空文庫だと、校正者が校正したから公開ということになるんだろうけど、プロジェクト杉田玄白はその点とってもゆるやかというか、ええかげんというか、翻訳したらばともかく晒してしまおう。そうして見た人からいろいろ修正事項を出してもらおう。という方式なんだ。
プロジェクト杉田玄白は翻訳なので、typoのほかに誤訳という問題を抱えこんでいる。プロジェクトの翻訳作業者は、いろんな人がいるが、たいていはプロではない。語学力もぼくみたいなヘッポコだって混っている。だから中には誤訳が混っているものもあるだろう。それに、世の中のちゃんとした翻訳本だって、いろいろ誤訳があるものらしいから、誤訳があると思ったほうがいいだろう。でも、そうした、翻訳本と違うのは、これがバザール方式だってことだ。誤訳に気がつけば、どんどん修正可能なんだね。翻訳してる原文もたいていはインターネット上で閲覧できるから、チェック可能なんだ。こうして原理上は、このプロジェクトの翻訳物はどんどん改良されていくはずなんだ。
でも、それには、読んでくれる人たちが、このプロジェクトがバザール方式だということを十分に理解してくれて、気がついたことは、どしどし連絡をとってくれることが必要な条件だ。(でも、メールでいろいろ指摘してくれるのは、なぜかこのプロジェクトで翻訳している人からが多いような気がするなぁ。)
そういうわけで、このプロジェクトを利用してくれる皆が、これがバザール方式でやってるってことを、よく知っておいてくれるのは、とっても重要なことなんだ。