于吉の復讐
孫策
(※1)
が揚子江を渡って許県(河南省)を攻めようとして
于吉
(※2)
を伴って行った。
ちょうど酷いひでりの時で、どこへ行っても焼きつくような暑さである。
孫策
は部下の将兵をせきたてて船をいそがせ、
ときには朝早くから甲板に姿を見せて督励した。
ところが、将軍や役人の多くが、
于吉
のまわりに集まっているのを見たので、ひどく腹を立てた。
「わが輩を
于吉
より軽く見る気か!わしより先にあいつの機嫌をとるとは」
と、すぐさま
于吉
をとり押さえて引き出させ、叱りつけた。
「ひでり続きで雨は降らず、進軍は難渋をきわめ、いつになったら乗り切れるか目算も立たぬ。
さればこそ、わざわざ朝早くからこうして甲板に出てまいったのだ。
しかるにお前は、わが輩と憂いをともにしようともせず、安閑として船中に坐り、
妖しげなまねをして兵士どもをまどわしておる。
今ここで成敗してくれよう」
部下に命じて、
于吉
を縛り、床に転がして日にさらし、雨乞いをさせて、
(※3)
「お前の祈りが天に通じて、正午までに雨を降らせる事ができたら、許してやろう。
さもなければ切って捨てるぞ」と言った。
すると、にわか雲が立ちのぼり、ちぎれ雲が集まって、びっしりと空に立ち込めた。
そして正午に近づくころ、大雨が一時降りそそぎ、支流の谷川には水が満ち溢れた。
将兵たちは大喜びで、このぶんなら
于吉
は許されるに違いないと、連れたって祝いに出かけたところが、
孫策
は、
于吉
を殺してしまった。
将兵たちは憐れみながら、
于吉
の骸を埋葬した。
その夜、突然に、ふたたび雲が起こり、骸を覆った。
翌朝近寄って見ると、骸はいずこともなく消えていた。
さて、
孫策
は
于吉
を殺してからと云うもの、一人でいると、きまって
于吉
がそばにいるような気がする。
心の底からおびえきった
孫策
は、どうやら頭がおかしくなってしまった。
その後、
孫策
は戦傷を負ったが、その傷がようやくなおりかけていた頃、鏡を手にとって傷を見ようとすると、
鏡の中に
于吉
がいるではないか。
ふり向いたが姿はない。
鏡と背後を再三見比べた末、鏡をなぐりつけ絶叫した。
同時に、傷あとが割れて口を開き、
孫策
はたちまち死んでしまった。
※1
孫策 三国・呉の孫堅の長子。孫権の兄にあたる。
※2于吉 三国・呉の人。道術に長じ、彼に弟子入りする人が多かった。
※3日にさらし・・・ 雨乞いの祭りには、術者を裸にして縛りあげ、日光にさらすのが例であった。
☆私の感想☆
雨乞いの仕方が凄いっちゃ。
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