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通いなれた屋敷の門に足を踏み入れた聞きなれた豪快な笑い声を辺りに撒き散らせる声を 緋村の顔の筋肉がふと弛みそうになったが、続く言葉にピクリと強張った。
最初は物言い等から勝気でも淑やかな少女に見えたのに・・・・・・・・ 尤もらしい理由をでっち上げて早々にその場を立ち去ろうと目論んでも 薫と言う娘には一切通じなかった。 仮面と付けて人を欺く手段は緋村にとっては日常 それが一切薫には通じなかったのだ。 薫の父 越路郎の苦笑めいた言葉 「緋村君と言ったかな・・・・薫には 表面上の言葉では一切通じないよ」 自分の左腕を薫は両手で掴んだまま、声を掛けてきた父親の顔を見て にっこり微笑むと すぐさま視線を緋村の顔に移した。 「そうよ!そんな仮面みたいな顔した上、思ってもいない言葉を吐いたって、話をしているこっちは 「・・・・・思ってる事を言ってるんだが」 その言葉に薫は 吃驚した目で緋村を凝視した後、薫の額に縦シワが深く刻まれた。 「緋村さん・・・あなた私の事馬鹿にしてるの? それとも自覚がないってことかしら? その言葉に事の成り行きを楽しそうに見物していた植松は口笛をならし 桂も苦笑しながら横に入る越路郎へと視線を移す。 桂の視線に答えるかのように越路郎は真っ直ぐ視線を緋村に向ける。 「緋村君 別にハッキリ言っても構わんよ」 緋村は越路郎の顔を見て ため息を付いた。 そこにいる娘が感が良いだけでない・・・と言う意味合いを含めた視線 越路郎から視線を薫に移す。 「敵じゃないと分かった以上 これ以上関わる事は無いと判断したまでだ 他に他意は無い」 だからその手を離せ・・・と腕を掴む薫に視線を向けて言葉を吐かずに訴える。 仮面を剥がした 感情の無い瞳・・・・・ その緋村の瞳に薫は目を見張り、少し悲しそうな表情を作り掴んでいた手を緩めた。 「・・・・・・・」 自分の腕から温もりが離れていくのが もの寂しく感じてしまった事に内心驚きながらも ホッと心の中で息を付いた。 遣り取りを見ていた四人の視線が自分に纏わり付くのを改めて感じて 居心地の悪さを急に感じ 早々にその場を後にした。 心配そうに緋村の後姿を見詰める薫の視線が途切れた筈なのに 薫の視線や気配を感じるような気がして苦笑いを浮かべてしまった。
「中々気の強い娘だが、これがえらい別嬪でなぁ〜しがみ付かれた緋村のうろたえようったら・・・・」 全てを忘れるように頭を振った時 植松の言葉が全て言い終わらぬ内にと緋村は音も無く歓談の仲へと足を踏み入れた。 「楽しそうですね・・・・」 気配を完全に消して感情を抑えた緋村の声に 幽霊から声を掛けれたかのように その場に集まった者たちは一斉に慄いた。 上ずった声を上げる者や 尻餅をつく者 緋村に正面を向けながら 壁に駆け寄る者様々 一人舞台を演じていた肝心の植松は固まっている。 一瞬の間・・・・その場にいた緋村以外の者達は長く感じたであろう 緋村の仕方なさそうに吐くため息一つが合図のように 一斉に蜘蛛の子を散すように植松以外の者達はその場から姿を消した。
緋村から拳骨をくらった頭を抱えながら植松はあの日緋村が立ち去った後の話を凝りもせずに語りだした。 道場主の一人娘と言う事で物心が付いた時から剣術に興味を持ち師範代までになったと言う。 「娘可愛さかねぇ・・・・」と植松の呟きに緋村は頷けない。 小手先だけの剣術なら いくらでも飾る事は出来る ただの興味だけでは 剣気まで感じ取る事は皆無に等しい筈だ 自分や植松の発した殺気・・・・ただの脅しだとしても人斬りである自分達の気は 通常の人々には畏怖させるだけの威力が多分にあるのだ。 それを・・・・薫は怯む事無く真っ直ぐ見据えた。 まぁ・・・・第一印象で感じた燐とした清楚な美少女とは程遠い中身ではあったが・・・と 薫のクルクル変る表情が次から次へと走馬灯の用に脳裏に甦る。 数ヶ月前まで・・・・傍に居てくれた女とは似ても似つかない・・・と 黒曜石の瞳を持つ女性が緋村の脳裏を掠める。 ふいに・・・・・心の臓がツキンとする 彼の女を僅かでも思い出す出す事を避けてきた筈の自分 ちょっとでも彼の女の記憶を掠めるだけで、思考を覆い尽くすほどの憔悴感を感じ無気力になった。 しかし・・・・今の自分は痛む心臓は変わらぬままだが・・・激しい憔悴感は襲ってこない ほんの僅かな 薫との出会いのせいなのか・・・・? ・・・・・・いや・・・・・ 任された仕事としての能力は十二分に発揮されてはいる 普段・・・日常の生活においては怪しいものだ・・・と緋村の表情に苦笑いが走る。 日が降り夜の帳が下りると闇に鬼が蠢くこの京の都 人の体から流れる液体の匂いが風に乗り辺りを染めるように漂う この日常が普通となっている今の自分の前に現われた あの少女 ほんの一時味わった太陽のように暖かい気配 あの・・・日の光が・・・・匂いが・・・・・・・少女の全身を包んでいた その場を離れろと思う自分と・・・・・・少しでも・・・・触れていと思う自分 心と頭が別々の者になったような気分を味わった瞬間だったのだ。 彼女が絡みついた腕の感触が未だに残ってるような気がして緋村は苦笑する。
「また 薫ちゃんに会って見たいなぁ〜 なぁ緋村」
思考に囚われていた剣心の耳に 暢気な植松の声が入って ハッとする。 「・・・・まさか・・・・こちら側でない人を草々呼び出す事も出向く事も出来ないでしょう」 だから・・・もう会うわけは無いのだ・・・・ 「そりゃねぇ・・・・でも あの笑顔 もう一回見たいなぁ」 「笑顔?」 何故かふと反応してしまった自分に驚きハッとする。 同時に植松も少し驚いた顔した後に、ニヤリと嫌な顔を緋村へ見せた。
「道場の門下生たちが羨ましいと思ったぜ。・・・・・あの笑顔が見れなかったのは損だったな」
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