3

 

月の無い漆黒の闇の中 揺れ浮かぶ堤燈の明かり 音も飲む込むような暗闇

ほろ酔い気分の侍数人の声が徐々に大きく近づいて来た。

気配を殺しやり過ごす為に身を潜める者が居たのを微塵も気づかずに通り過ぎてゆく

不意に酔った男の声が低くなる。

(・・・・・・・・)

身を潜めた男の手が腰にある物に自然と手が延る。

やり過ごそうとしてる男達の様子を息を潜めて伺っていた。

 

「戌の刻を目安に張って襲うのだ・・・・女は無傷で攫え」

息を潜めて身を隠す赤い髪の男の耳に届いた台詞に男は呆れた溜息を吐かせた。

(下らない・・・・)

舌打ちを打ちたくなる気分も束の間気配を殺した仲間が音も無く赤い髪の男に近づく

「二つ先の通り・・・・・全部で四人居る・・・・」

その言葉を 無言のまま頷き 赤い髪の男は場を離れた。

近寄って来た男は 赤い髪の男の気配が居なくなったのを確認すると共に

その場を離れようとした時突然 耳障りな笑い声を耳にして思わず身構えた。

(・・・・・あいつがやり過ごした者達か・・・・)

過ぎ去った男達から嫌な笑い声の主だと分かると構えを解き男達の後姿を見詰めた。

(夜の帳が降りたこの京の都で・・・まだ暢気な奴もいるとはな・・・・)

ホッと息をつき男達から背中を向けた瞬間話し声から・・・・・・・聞いた事のある名を耳にした。

 

 

 

 

 

 

 

「神谷・・・越次郎・・・・父親のあいつが居なくなれば・・・・娘も大人しくなるだようよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音も無く疾風の如く駆け抜ける。

頭の中に叩き込み身体に覚えさせた 京の都の地図

一番早い近道を緋村は駆けていた。

先程の会話が反復するかのように何度も何度も 頭の中を駆け巡る

その度に薫と言う少女の顔が過ぎる。

 

黒い封筒を受け取り・・・・任を遂行した後は

いつものように幕府方の目を欺く為に街中を駆け抜け 市外へと一旦抜ける筈だった。

検分役の言葉を聞く前にまでは・・・・・

 

 

 

 

(間に合うか・・・・・っ!)

無事を願う気持ちの為か嫌に長い道のりのように感じながら 駆け抜けてゆく

 

 

 

 

 

 

 

仕事が終れば直ぐに出てくる筈の検分役が来ないのを訝しげに緋村は思った。

(おかしいな・・・・)

感情の無い顔で 自分の振るった刀で横たわる数人の男達を見詰めていたが

慌てた様子で駆けてきた男の気配を確認すると そちらに顔を向けて抑揚のない声で問う。

「珍しいですね・・・・・・いつもは影から伺ってるのに」

駆けてきた男は 切り捨てられた遺体の上に 懐から取り出した紙を置く

いつもの様子と違う検分役の様子が多少・・・・気になったが いつもでも自分がこの場にいれば

人の目に留まる可能性が高くなる。

それは影身の者として絶対に避けねばいけない

「それじゃ・・・・後は頼みます」

緋村は検分役に背を向け一歩踏み出した。

検分役は立ち去ろうとする緋村に一瞬戸惑った気配を露にする

(?)

緋村の足が止まり思わず振り返り検分役に目を向け二人の視線がかち合う

「・・・・・・・・・・おい 植松から聞いたお前が動揺した娘の苗字はなんて名だった?」

こんな時に あの時の事を思い出させた 目の前の男に不愉快も露な表情を徐に見せた。

「こんな時に・・・・一体なんの冗談です」

仕事の後は何を言っても感情の端も見せない緋村に この質問は怒気を含ませた事に検分役の男は驚いた。

それゆえに・・・・・・後に知れば・・・・今以上に緋村の様相は変わる事になってしまう

普段なら震えあがるであろう程の気を発していた緋村の怒気に恐怖せずにいる検分役

真っ直ぐと緋村を見上げていた検分役の瞳が更に強くなる。

(・・・・・・・・なんだ?)

真剣な瞳で緋村を見詰める検分役に眉根を潜ませた。

「なんて名だ? 桂先生のお知り合いでもあるんだろう?」