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松本大洋の初期傑作にして、最高ランクのボクシング漫画!!
松本大洋の主人公は『天才』が多い。『花男』の花男も、『鉄コン筋クリート』のクロも、『ピンポン』のスマイルとぺコもそれぞれの分野での天才だ。そして、この『ZERO』はボクシングの大天才であり、他の作品の主人公の天才ぶりとはかなり一線を画している。あまりにも強すぎるのだ。30歳にして現役世界チャンピオン。しかも、1度もダウンした事はない。あまりにも逸脱しすぎている強さなのである。『ZERO』は主人公・五島を通して『強すぎるが故の孤独』を全体的なテーマにして描いている。このテーマは他のボクシング漫画とはかなり違う。この深いテーマにタメを張れるボクシング漫画といえば、せいぜい「あしたのジョー」ぐらいではないだろうか?
『ZERO』の主人公・五島はあまりにも強すぎた。それ故にリングの上でしか生きていけなくなってしまった。リングの上でのみ自己を表現をし、主張する事が出来るのである。これは『あしたのジョー』のジョーにも言える事で、ジョーは現代の社会における言いようのない怒りや不満をリングの上で相手にぶつけ、それによって自己を世間に認めさせたのだ。ジョーの場合、それが段々と死んだ力石と同等、もしくはそれ以上の好敵手と闘いたいという単なる闘争の場としてリングを求めるようになる。ジョーには一応、リングに上がるべき理由や信念はちゃんとあり、幸いなことに数々の好敵手にも恵まれたのである。だが、五島は違った。彼はあまりにも強すぎて、好敵手など生まれなかった。どんな相手が来てもすぐに壊してしまう。だから、五島は「壊れないオモチャ(対戦相手)」を長年にわたって欲しがったわけである。それがトラビスだった。
五島がトラビスの存在を知ってからのトラビスに対してのこだわりは尋常ではない。わざわざ自腹で数百万円を出し、記者をメキシコに調査に行かせたり、日本で出会ってからもわざと怒らせたりと五島がとことんトラビスにこだわる描写が随所に見られる。結局、トラビスは五島にとってどういう存在だったのか?五島はトラビスを当初、『壊れないおもちゃ』として扱ったが、同時に初めて自分と同等に戦える「ともだち」として扱った。。五島の前ではどんな対戦者も相手にならずに壊されてしまう。五島の持つ強さの深さにまで常人はついていけないのである。そのために、五島は生まれてからずっと孤独だった。誰も自分のいる高過ぎる世界についてきてくれない。そこで五島はトラビスの存在を知る。そして、ビデオでトラビスを見て同じ匂いを持つものだと確信をする。事実、トラビスは五島と同じようなタイプのボクサーだった。五島からダウンを奪い、とことん追い詰めたが、結局は五島のいる高過ぎる狂気の世界にはついていかなかった。
五島の底知れぬ強さは「守るものが何もない」ところから来ている。人間はやっぱり守るものがあると、そこから恐怖が生まれ、隙が生まれる。例えば、ある人が自分の家族を何よりも大事に思っていたとしよう。そうすると、その人は家族を守るために闘うが、同時に「いつ自分の家族を傷つけられるかわからない」というような弱点が同時に生じる。そこがその人の最大の弱点となってしまうのだ。つまり、守るものが何もないということは弱点も生まれないことを意味する。五島のエネルギーはそこから来ており、それ+五島元来の強烈な狂気によって五島は世界最強のボクサーとして君臨していたのだろう。そして、最後には誰も行った事のない、あまりにも強すぎる強さを持ったものだけが行ける『狂気の世界』に足を踏み入れる事となった。これが五島の望んだことなのかどうかわからないが、リングの上でしか呼吸できず、生きていけない五島の姿は花のように美しく、鮮やかであるが、同時に非常に脆くも写る。
ZEROのストーリー
五島雅は30歳にしてミドル級の世界チャンピオンであり、1度も負けず、1度もダウンした事がない事から「ゼロ」というあだ名を付けられる事となったボクサーだ。どんなボクサーがこようが、五島はその圧倒的な強さでねじ伏せる。10年間もそうして勝ってきた五島はずっと「壊れないおもちゃ」を捜していた。そんな中、五島はスパーリングの相手を殺したというミドル級のメキシコチャンピオン・トラビスの噂を耳にする。そして、五島はトラビスが自分と同じタイプのボクサーだと確認し、トラビスに何かを伝えるためにリングに上る。
ZEROのデータ
| 著者 | 松本 大洋 | ![]() |
| 連載期間 | ||
| 掲載雑誌 | 週刊ビッグコミックスピリッツ | |
| 出版社 | 小学館 | |
| 巻数 | 全2巻 |
ZEROの中古価格
けっこう高い。そして、松本大洋の本は中古ではめったにお目にかかれない。新装本ならば、中古で500円ぐらいだろう。旧装版は現在生産していないためにかなりのプレミアがついている。オークションとかでは2冊で5000円とかで売っているのを目にする。