私家版「新・必殺仕置人」ストーリーガイド&見所紹介
 第25話 「濡衣無用」・第31話「牢獄無用」

ニフティーサーブ「必殺会議室」に掲載した文章を改訂

「新・必殺仕置人」#25/濡衣無用

 「庚申の夜に身籠もった子は泥棒になる」‥‥そんな俗信から、戸外で一晩中騒いで、夜更かしをする江戸の人々。正八も、いつもの半額で錦絵を売りまくって大忙し。鉄も、今日ばかりは閑古鳥が鳴いている岡場所で、暇を持て余してる女郎たちに大モテだ!一方、寝入ってたところを、近所のお節介婆さんに叩き起こされた巳代松が、寝ぼけ眼のままブラリと外に出るや、華やかな着物姿のお嬢様らしき娘(石川えり子)がフラフラと通りかかり、巳代松の目の前で失神してしまう!慌てて抱き起こした巳代松の目に入ったもの‥‥それは、娘の喉元に残った二筋の縄の痕だった。
 ◎「売れた〜売れた〜みな売れた〜〜!」と、錦絵の完売で上機嫌の正八が屋根の上の男に目を留めるや「夜が明けた〜〜!」と、本編の時間経過を示すのには爆笑!

 朝。巳代松は転がり込んで来た娘に素性を問い質そうとするが‥‥返って来たのは「名前も住まいも、何も覚えてない」という答だった。信じようとしない巳代松に、それは記憶喪失と言う病だ…と断言する正八。困り果てる巳代松に対し、娘は「何でもしますから、ここに置いて下さい!」と必死に頼み込む!
 名前がないと不便だから‥‥と、彼女に名前を付けてやろうとする正八。いろんな名前を挙げて行くが、みな昔付き合っていた女の名前ばかりだ!
 ◎ちなみに、正八が挙げた名前が−あけみ、みどり、おせん、おてい。

 「‥‥おていちゃん!」そう言った途端、おていが顔を出す。急な雨の為に巳代松の家に雨宿りしに来たのだ。それを聞いて、慌てて洗濯物を取り入れに駆け出す巳代松。娘も、彼の手伝いをする為に雨の中に飛び出して行く!
 「誰、あの女?」と尋ねるおていに「おきぬ‥‥今決めた!」と答える正八。かくして、正体不明の記憶喪失の娘の名前は「おきぬ」となった。
 ◎「殺・殺」の解説でも触れられていたのだが、巳代松の家に女がいても、おていが嫉妬心らしきものを見せないところから、巳代松とおていの仲が進展したのは、この話以降か?それとも、巳代松の家にどこかの娘が転がり込むのはいつもの事(笑)なので、おていも今更動揺しなかったのだろうか?

 降り続く雨は次第に豪雨となって行く。既に六日に及ぶ長雨の為に、大川の水位は危険レベルを突破。必死になって土塁を築く人たち!もし堤が破れれば、江戸の街が水浸しになってしまうからだ。昼夜兼行で土塁の監視に当たらせるべく、蓑笠に身を固めた南町奉行所の同心に向かって、与力がハッパをかける!
 それだけではなく、20年前の蔵前の札差・伊勢屋一家毒殺事件の犯人・庚申の月三(近藤宏)が江戸に戻って来たらしいので、発見次第逮捕する事‥‥そして、首に縄の痕のある20才くらいの娘の行方を探す事まで主水らに命令する。
 主水の同輩の老同心が言うに‥‥かつて非道の盗みを働いたとして、南町の同心平田(神田隆)に捕縛されたものの、終始無実を主張していた月三と言う男が、伝馬町の大火の際に牢から脱走。以来、逃走し続けていると言う事だった。しかも、月三逃走の責任を取り、奉行所をやめた同心の平田は、途方もない出世を果たし、今では下谷御殿の三本杉と呼ばれる金貸しのお大尽になっていると言う事だった‥‥。
 ◎ストーリーでは入れにくいので省いたが、庚申の月三が増水した大川の杭に必死に掴まっている場面が、ここまでで数回描かれている。尚、六日続きの長雨‥‥と言ってる割には、庚申の夜の光景にはそんな気配は微塵も感じられない。

 寅の会で殺しの句が詠み上げられる。「枯れ落ちる〜下谷御殿の三本杉〜〜!」頼み料は百両‥‥だが、標的の余りの大物ぶりにビビリまくる俳諧師達は「百両あったって、命あっての物種」「三本杉には関わり合わない方が良い」「この頼みは流そう」「相手が悪過ぎる!」と、珍しく虎に詰め寄って来る!
 しかも、自分が千両で落とすという虎に対し、尚も「それは決まりが違う!」「元締がしくじったら、俺達まで危なくなる!」とまで言う俳諧師達に対し、「三本杉は俺が殺る」と言う死神‥‥と、その時、鉄の声が上がった!
 「百両!‥‥ただし期限なし」
 かくして、超大物相手の仕置きは、鉄の手に落ちた。競りの後、鉄に今回の仕事の頼み人を引き合わせる虎。頼み人の名は‥‥庚申の月三!
 「あの、札差し一家を皆殺しにしたって言う奴か?」と尋ねる鉄に、「あれはこの人の仕事ではない」と答える死神。そして、月三は20年前の事件の真相を語り出す‥‥。
 ◎虎が自腹を切ったと見られる#11「助人無用」(天狗の鞍三の助っ人料:金額不明)#19「元締無用」(17両)#29「良縁無用」(偽りの依頼に対する詫び料:10両)#37「生命無用」(12両)#40「愛情無用」(長次に強要された「死神の仕置き」;百両)#41「解散無用」(虎最期の依頼:金額不明)‥‥の中では、#40と並ぶ最高額の頼み料は、虎が月三にどれだけ恩義を感じていたか‥‥その大きさが伺われて来る。

 ‥‥20年前の庚申の夜。貧乏ながらも愛する女房のお秋と共に、慎ましやかに暮らしていた職人の月三は、月があんまり綺麗な事からフラフラと街中を歩いている内、蔵前の札差・伊勢屋の裏口で、鎧櫃を背負った同心・平田と出くわす。先祖伝来の鎧を方に金を借りてたんだが、金の工面が着いたので、やっと取り返しに来たんだ…と自嘲しながら言う平田。互いに笑い合って、その場を別れた二人だったが‥‥その時、既に伊勢屋一家は全員が毒殺され、五千両もの大金が奪われた後だったのだ!翌日、「伊勢屋毒殺の容疑」で逮捕される月三。
 彼を一方的に犯人と決め付けて、過酷な拷問を加える平田の態度から、月三は「(伊勢屋を)やりやがったのは、お前ェだな!‥‥俺に罪を被せようって言うんだな!」と、平田の企みを敏感に見抜く!
 だが、月三の住まいの裏庭から、五百両もの大金が現れた事‥‥そして、女房のお秋が、庚申の夜に月三が慌てふためいて戻って来た事、裏庭に何かを埋めていた事まで証言した為、遂に月三は伊勢屋一家殺害の下手人と見なされてしまう!何故、女房がそんな事を言ったんだ?…と聞く鉄に、お秋は貧乏暮らしが嫌になって、平田と示し合わせて偽証したんだ!…と答える月三。伝馬町の大火の際、月三は牢から脱走するが、その後直ぐに平田は同心を辞め、再び江戸に現れた時には金貸しの三本杉となっていた。伊勢屋から奪った金五千両を元手に、商売を始めたのだ!莫大な金を手にし、権勢並ぶ者のないお大尽となった三本杉は、江戸において恐るべき存在と化していた。そして、月三の女房だったお秋も、今では三本杉の妻として、思うがままに裁量を振るう「秋野御寮人」「今淀君」と呼ばれるまでになっていたのだった!
 虎は、旅先で月三に命を救われた為、彼の頼みを嫌とは言えないのだった。激しい雨に打たれながら歩く鉄の脳裏に、月三の血を吐くような叫びが響く‥‥。「平田とお秋の野郎‥‥殺しておくんなせえ!」 
 ◎伊勢屋一家毒殺事件と月三が濡衣を着せられる下りは、戦後間もない頃に起こった「帝銀事件」がモデルになっているのだと思われる。
 また、今回の話で不満点(1)と言えるのが、何故20年も経ってから月三が江戸に舞い戻って来たのか?‥‥と言う点と、三本杉の超大物振りが盛んに口にされる(闇の俳諧師を始めとする登場人物達)割には、画面上でその実像・悪行が描かれていない為に、「難関突破モノ」における記号としての強敵でしかない点だ。だが、それを余り感じさせないのは、神田隆の迫力ある演技故だろう。

 三本杉の下谷御殿を床下から探る正八。からくり仕掛けの警報が張り巡らされた堅固な屋敷の奥深く、四人の凄腕の用心棒によって守られている三本杉。たった一人彼に近づける秋野は、新しく開帳する賭場の件と‥‥庚申の月三が江戸に戻って来ている事を伝える。それを聞いて驚愕する三本杉!更に、自殺未遂を起こして記憶喪失となり、庚申の夜に姿を消した娘・静子を奉行所に探させている事も‥‥。「鶴の柄の着物」「首に残った二筋の縄の痕」「20才くらいの娘」‥‥静子の特徴を聞いた正八は、おきぬの事を思い出す!
 娘の安否よりも、三本杉の娘だと言う事を知られて、他人に利用される事を怖れる秋野。「あの娘だけが、私たち夫婦のかすがいだ」「世間には鬼であっても、あの子には良き父であった筈だ」「何故死のうとしたのか‥‥?」と、親としての一面を伺わせた三本杉も、次の瞬間には「月三が誘っていったんだ!月三を探せ!」とヒステリックに言い立てる!
 何かに怯えるようにして、秋野を強引に抱こうとする三本杉の脳裏に、20年前の情景が浮かぶ‥‥。月三の女房・お秋を金と色で籠絡して、月三を罪に陥れた平田。刹那の快楽に溺れる三本杉を、秋野は冷ややかに見つめていた‥‥。
 ◎三本杉も秋野も、決して悪業ばかりに身をやつしている極悪人ではない。画面のそこかしこから、常に何かに怯えている描写や、心の奥底に微かに残っているかも知れない良心・罪悪感に責め苛まれている光景、「娘を思いやる親心」も僅かではあるが見受けられる。クライマックスの庚申の夜に、三本杉が「百芸の会」を催している事や、秋野が一心に写経している事が、そうだとも言えるだろう。この辺りが、悪党も「人間」である事を示している。
 ◎この時、悪業を続けて来た三本杉が唯一人間味に満ちた片鱗を見せたのが、自分の娘である静子に対する、盲目的なまでの愛情だが‥‥逆にこのシーン、秋野は非常に冷ややかな態度を見せている。これはニフティーの必殺会議室に、この文章の元となるものを書き込んだ後頂いた感想に関連して、「ある隠された事実?」が浮かび上がってきたが、この事は(※A)にて。
 駕籠で外出する三本杉を、突如二人の刺客が襲う!だが、槍は鉄製の駕籠によって折られ、四人の用心棒は刺客をいとも容易く取り押さえてしまう!笑いながら、自分の命を狙った張本人の名を吐かせようとする三本杉‥‥。その光景を目の当たりにした正八とおていは、ゲンナリとなってしまう。
 一方、巳代松の家で甲斐甲斐しく巳代松の世話をするおきぬ。二人とも、実に良い雰囲気だ。早く両親の事を思い出して家へ帰るように…と言う巳代松に対し、「私はきぬです‥‥前の事など思い出したくありません!」(→※B)「私をいつまでもここに置いて下さい!」と、必死に訴えるおきぬだった‥‥!

 アジトに集結した巳代松・主水・おていの前で、自分が調べた情報を元にして、下谷御殿の絵図を書く正八。そこは、正に難攻不落の要塞だ!だが、おていが、いやらしい中年の下男頭に、自分の体を触らせながら得られた情報によると、庚申の夜には下谷御殿において、夜を徹した「百芸の会」が行われるとの事だった。
 「あの野郎は恐ェんだ‥‥庚申の夜は、20年前の悪事を思い出すから、一人じゃいられねえんだ」と鋭く言う主水。かくして、超難敵相手の仕置きの日は決まった!
 ◎体を触られた事を嫌そうに言うおていに対し、「まだ触ってくれる奴がいるだけ、嬉しいんじゃねえか?」と言う主水がおかしい!
 話がややこしくなるので、ストーリーガイドでは触れなかったが、アジトの場面‥‥何と鉄がいない!正八の「説明」では、鉄は「死に土産に20両分女と遊んで来る。(仕事を)やる段取りが決まったら知らせてくれ」との事だが‥‥はて?結局、今回鉄が仲間たちと一緒の場面に収まっているのは、三本杉の屋敷に入り込む時に後に映っているだけで、しかも言葉は一度も交わしていない!

 ‥‥そして、再び庚申の夜がやって来た。夜を徹して騒ぐ江戸の人々!だが、いずこかのお堂では、鐘の音を耳にしながら、今しも月三の命の火が消えようとしていた。最後まで彼を見守っていた虎が、息絶えた月三の手を胸の上で組み合わせる‥‥。
 難敵相手の仕事に、主水も憂い顔で中村家を出て行く。「これが最後になるかも知れぬ‥‥」と、二人に向かって、深々と頭を下げながら‥‥。そして、いつもと違う婿殿の様子に、せんとりつも言いしれぬ不安に襲われるのだった。
 一方、何かの予感に襲われたのか‥‥「どこへも行かないわね。私と一緒にいてくれるわね」と問い質すおきぬが、眠りについた事を見届けた巳代松は、自分が帰ってこなかった(仕事に失敗して死んだ時)時の事を書き置きして仕置きに赴く。鉄も、女郎の背中に残った金を貼り付けて出て行く。もはや、この世に未練はない!賑わう夜の街中を、三本杉の屋敷へと向かう主水・巳代松・鉄・正八・おてい!果たして、彼らは生きて帰ってこれるのか?

 上方落語の芸人に扮装する正八。チャイナドレス姿で、中国奇術の芸人ランランと名乗るおてい。後で、舞台道具の箱を持っているのは、中国服を着た弟子のカンカン‥‥巳代松だ。そして、鉄はアホダラ経を披露する願人坊主に扮している。
 正八の落語が始まる。演題は「饅頭恐い」‥‥正八の見事な語り口に、次第に引き込まれていく三本杉。一方、その間に厠へと赴いた巳代松が、仕掛箱の中の竹鉄砲を組み立てる!佳境に入って行く正八の落語‥‥。
 本物そっくりの「饅頭の食べ方」に、庚申の夜の事を思い出す三本杉‥‥。伊勢屋一家に、奉行所から下しおかれた賞状と饅頭を手渡す同心・平田。何やかやと理由を付けて、主人から丁稚に至るまで、その場で饅頭を食わせるが‥‥饅頭を次々と頬張る伊勢屋の人々と、饅頭を食べる正八の仕草が交互にカットバックで描かれて行く!そして‥‥のたうち回って死んで行く一同を、笑みを浮かべながら平然と見つめている同心・平田の顔が、はっと我に返った現在の三本杉となる。その額から流れ落ちる油汗‥‥。
 ◎三本杉が、過去の悪行を回想するシーンは、正八の見事な手つき・語り口と相まって、見事な場面構成となっている!これはあくまで、三本杉の主観描写であり、正八たちが毒殺事件の概要は知り得ても、真実を知る者は真犯人の三本杉以外に誰一人としていないのだが、そう言った事を全く感じさせていない!

 次は、ランランことおていの花火を使った中国奇術だ。美しい花火の中に、巳代松の…鉄の…正八の顔が映し出される。そして、もうもうたる煙が座敷を覆った‥‥その時!巳代松の竹鉄砲が炸裂!三本杉は息の根を止められた!屋敷の外へと逃げ出す巳代松、正八、おてい!その後を追って、脱兎の如く駆け出してきた四人の用心棒たちの前に、悠然と主水が現れた!瞬時にして、二人をたたっ斬る主水!だが、残る二人の鋼鉄製の棒術使いの前に、さすがの主水も大苦戦!辛うじて仕留めたものの、したたかに体を打ち据えられ、もはやボロボロの状態だ!
 ◎ここでの激闘は、主水の強さとその苦戦振りを同時に現わしている点で、「新・仕置」殺陣ベスト10の上位に入るくらいだ!

 そして、もう一人の標的‥‥。尼御前の般若心経を聞きながら、一心に写経にしている秋野。だが、お経を読む声が、不意に野太い男の声に変わった事をいぶかしげに思った秋野を、鉄が強引に抱き寄せて唇を奪う!いつしか、鉄のなすがままになっている秋野の胸目掛けて、必殺の背骨折りが唸りを上げた!果たして、秋野が庚申の夜に写経に勤めていたのは、一抹の良心、または僅かばかりの贖罪感に突き動かされてのものだったのであろうか‥‥?
 そして、巳代松が家に戻った時、そこにおきぬの姿はなかった。後に、鶴の柄の着物一枚を残したまま‥‥。
 「月の光と一緒にいなくなっちゃった。ひょっとしたら、かぐや姫だったんじゃないかな?」と言ったものの、「可愛いな、俺の言う事も」と照れ恥ずかしそうな顔をする正八。何故か笑顔を浮かべながら、おきぬの事を思い出す巳代松だった‥‥。(※C)
 一方、ボロボロにされて中村家の門前で倒れ込んだ主水を「出かける前の不安が的中した!」とばかりに、助け起こすせんとりつ!名誉の負傷!敵は何人、強者揃いでしたか?…と問い質してくる二人に、本当の事を言えない主水は、魚屋の喧嘩の仲裁に入って、天秤棒でしたたかに打ちのめされたんです…と言い訳をする。「ご褒美は?」と聞くりつ。「ありません」と答えた主水は、そのままぶっ倒れてしまうのでありました‥‥チャンチャン!
 ◎今回の不満点(2)が、このおきぬの扱い。物語にほとんど絡んでこないばかりか‥‥ラストの、巳代松の元から姿を消した理由もはっきりと描かれていない。「三本杉の過去の悪行と月三の因縁話」「巳代松とおきぬのラブロマンス」「難関突破モノ」とおいしい要素を詰め込み過ぎた為に、どれもが少しずつ消化不良になってしまったのだと言えるだろう。だが、全体として見るならば、正しく傑作の部類に入る回でした!
 ◎最初のガイド作成では、ラストの暗示は「かぐや姫」よりも、「鶴の柄の着物」が巳代松の元に残されていた事からしても「鶴の恩返し」の方がもっと良かった‥‥と思っていた。だが、ニフティーの会議室での感想で、おきぬはお月さん=月三の元に帰った(つまり「かぐや姫」)と言う暗示があったのではないか?‥‥と言うところから、実はおきぬ=静子は三本杉の子ではなくって、月三とお秋の間に生まれた子供ではないだろうか?‥‥と言う考えが生まれてきた。(※A)
 (※B)で記したように、おきぬは「前の事=自分の過去の記憶」を思い出す事を極端に嫌がっていた。本当の記憶喪失ならば、思いだそうとする記憶自体が不鮮明であり、思い出す事自体を怖れる必要はない筈だ。逆に言えば、「思い出したくない事」が自分の心の中にあるからこそ、それを否定しようとしているのである(つまり、記憶喪失はその為の言い訳に過ぎない?)。一度は首を吊って自殺しようとまで考え、更には記憶喪失を装ってまで否定したかったおきぬの「思い出したくない事」とは、一体何なのか?それは(※A)のシーンとラストの(※C)での暗示から浮かび上がって来たのが、先に記した「おきぬ=静子は三本杉の子ではなくって、月三とお秋の間に生まれた子供ではないだろうか?」と言う考えなのだ。
 三本杉が静子=おきぬをほとんどヒステリックなまでに盲愛している様子を、秋野は非常に冷ややかな目で見ている(静子が行方不明になった時、月三が誘って行った!…と、三本杉が喚き立てたのも、その事を怖れていたからでは?)点が上げられる。つまり、三本杉が自分の娘と思っている静子が、実はそうではない事を秋野は知っているのだと思われる。かつて、お秋が同心・平田の言うがままになったのも、ほとんどの理由は「ダイヤモンドに目が眩み」状態だったのだろう。だが、もしかすると秋野は、子供が出来た事を夫に打ち明けようとする前にあの事件が起こり、やがて生まれてくる子供の為にも「貧乏暮らし」よりも「裕福な地位と身分」を求めたのかも知れない(例えそうであったとしても、それは言い訳でしかない事は確かだが)。
 そして、真実=母親が男と共謀して実の父を裏切り、犯罪者に仕立て上げた‥‥を何かの折に知った静子は、絶望に陥って自殺(&記憶喪失のふりと家出)しようとしたのではないだろうか?だが、この考えを採ったとしても、何故おきぬが巳代松の元を黙って去って行ったかについては、説明不可能なのである‥‥ああっ、分から〜〜ん!


「新・必殺仕置人」第31話/牢獄無用

 船頭頭・常神の十郎太(清水紘二)の自白により、ご禁制の品を密輸した罪で店は取り潰し。死罪に処せられた廻船問屋・鳴海屋の娘・いくは、父を罠にはめた十郎太とその張本人(プラス、その陰に隠れているらしい黒幕も)の仕置きを、寅の会に依頼する。
 「渡海屋と〜共に船出の波荒らし〜〜!」
 付句=正体不明の人物がいる事に躊躇はするものの、30両もの仕置料は、俳諧師たちに取って十分魅力的だった。結果、15両で競り落とした鉄は、渡海屋を正八に‥‥牢内の十郎太は、巳代松を牢に送り込んで見張らせる段取りとなる。
 ◎今回、冒頭の回想シーンにおいて、既に被害者は死亡。頼み人も、誰が自分たちを罠にはめたかを、十分に熟知した上で寅の会に依頼‥‥と、仕置きに入るまでの過程が、非常にスムーズ(ある意味では、細部の手抜き…笑!…とも言える程)に描かれている。これは、この後の牢内での一進一退の攻防を時間を掛けてじっくりと描く為に、あえて簡略化したとも言えるだろう。
 ◎取り潰された鳴海屋に一人残っていた娘・いくと主水の会話の場面は、その直後現れた子供に「おじちゃん、誰と話してんの?」と言われて、はっと我に返った主水が見るや、そこには誰もいない‥‥と言う、ちょっと不思議な雰囲気が漂ってくるオープニングだ。
 ◎仕事を競り落とした鉄たちは、正八の地下のアジトで主水が来るのを待っているが、全く風通しのないアジトは相当暑いらしく、鉄も正八も上半身裸!一応着物を着てる巳代松も、鉄同様に手拭いで自分を仰いでいる(ちなみに本放送の日時は8月26日)。まだまだ残暑厳しい時期!この後、十郎太を見張る為、牢屋に入り込む事に「決められてしまった」巳代松が「俺がか?」と言った表情を見せるのが可笑しい!

 ‥‥ここは往来。うっかり定町廻りの同心に水を掛けてしまった鋳掛屋は、調子に乗って、相手の事を「昼行灯」と嘲笑し、その顔にまで水を掛けてしまった為、怒った同心によって牢屋に一晩叩き込まれる羽目となってしまう‥‥主水と巳代松のケンカ芝居は大成功!かくして、巳代松は十郎太のいる牢へと入り込む事となる。
 そこでは、牢名主の蝮の三次(役人を三人殺害)以下、牢内を取り仕切っている毒蜘蛛の六助(保護観察委員を殺害)・閻魔の与七(付け火の常習犯)・竜巻の五郎蔵(押し込みと殺し)の四人が、視聴者サービスの為か(笑)、いちいち自己紹介をしながら、笑って巳代松をブチのめして行く!命のツル=隠し持っていた金を三次に差し出す巳代松。早速三次は、その小判で牢外から美味い食事を取り寄せるよう牢屋番に言い付ける。
 「毎度ありがとうございます!」と丁寧な返事を返す番人。実は‥‥近い内に死罪になる事が決定している三次たち四人は、新入りの囚人から手に入れる金によって、担当の牢屋番や牢屋同心とツーカーの関係。彼らに金を手渡す事によって、美味い食事から物騒な刃物・花札と言ったものまで自由自在に入手し、とても牢内の囚人とは思えない「贅沢三昧」な身分を楽しんでいたのだった!
 そして釈放の為、南町筆頭与力・高岡刑部(今井健二)の前に引き出された十郎太たちだったが‥‥。その場にやって来た病弱な南町奉行・堀田内膳正を十郎太たちが捕らえ、刃物を突きつけて人質に取った時から事態は急変!慌てふためく刑部が「お奉行はご病気なんだ‥‥放してくれ!そうすれば、お前たちの望みは何でも聞いてやる!」と訴えるも、せせら笑う十郎太たちは、そのまま奉行を牢内へと連れ込んで籠城してしまう!ビビる三次たちを手下の如く扱う十郎太。今や二人の立場は逆転した!かくして、最初はごくありきたりの仕置き…と思われた今回の仕事は、全く意外な方向へと転がり始めたのだった。

 「何の為にこの様な真似をした?」と問い質す刑部に、異国へ行ける船を要求する十郎太たち‥‥それも、渡海屋にある筈だという。とにかく渡海屋と交渉してみると答える刑部。だが、この事件が外部に洩れると奉行所の威信に関わるとして、刑部は南町に箝口令を敷き、警戒の為に市中見回り・非番の者まで徴集するよう命令する。(※注1)
 慌てて駆けつけた牢屋敷与力・石出帯刀は、刑部から「なぜ牢内の囚人が刃物まで持っていたのだ!」と責め立てられる(実は、主水も顔なじみの牢屋同心が、三次から渡される金と引き替えに渡していたのだ)が、とにかく二人して奉行救出の為の対策を練る事となる。以前、牢屋同心をしていた経験から、同輩に意見を求められた主水だったが、刑部の一喝で牢の見張り番をする羽目に‥‥。
 ◎今回の主要舞台が伝馬町の牢である上、寅の会&鉄の存在が希薄で、主水の主役性がかなり前面に出てきている事から、ほとんど「仕業人」の一編に置き換えても成立するような気がする。島忠助に出戻り銀次はそのまんま、主水に喧嘩を吹っかけて牢に放り込まれるのが捨三で、主水と牢内外の繋ぎを取るのがお歌(あ、どっちも中尾ミエだ!)。十郎太と渡海屋を始末するのが剣之介とやいとやとしても、全く遜色はない。仕業人風にサブ・タイを付けるなら「あんた この人質をどう思う」?

《奉行救出大作戦/その1》
 ○天井裏・床下からの侵入‥‥牢回りを頑丈に作ってある為不可能。
 ○隣の牢に囚人として入り込み接近‥‥囚人が協力しない為、バツ!
《奉行救出大作戦/その2》
 ○鉄砲狙撃作戦
 真夜中に、医者に奉行の容態を見させると言って、牢の鍵を開けさせ、その瞬間に牢の向かい側の拷問蔵から鉄砲で狙い撃ち!同心たちが抜刀し突撃する。(石出の案)

 一方、囚人たちの要望を刑部から聞かされた渡海屋は、品川から佃島まで廻船するのに一日の余裕がほしいという。(※注2)その事を十郎太に伝えた刑部は、奉行の常備薬を手渡す。‥‥夜。囚人たちが寝静まった頃、鉄砲隊の用意が整う。物陰で大刀を抜き放ち、突入に備える熱血漢の若き同心。そして、医者が訪れ、眠い目をこすりながら囚人が渋々牢の鍵を開けた、その瞬間!鉄砲が轟音と共に発射され、牢名主の三次が寝ている場所が蜂の巣にされた!‥‥だが、そこにいたのは全くの別人だった!何故か奉行所の策略を察知していた十郎太たちは、身代わりを据えておいたのだ!突入した同心も、メッタ差しにされて、無惨に落命する‥‥。「お前らのやる事はお見通しなんだよ!」
 不敵に嘲笑する十郎太を、いまいましげに十手でドン!…と突く高岡刑部!何故、完璧な筈の救出作戦が失敗したのか?‥‥疑惑にかられる主水と巳代松だった。
 場所は変わって‥‥その頃、正八に監視されていた渡海屋では、思いも掛けぬ事態が進展していた!奉行人質事件の為、江戸市中の警備が手薄になっているのを狙って、渡海屋配下の一団が、押し込み強盗を働き始めたのだ!両替商の板倉屋・備前屋を始めとして、次々と店の者を皆殺しにし、莫大な証文・千両箱を奪って行く!そして、渡海屋自身も以前金を貸して貰えず、鳴海屋と仲が良かったから‥‥と、無理無体な理由で、両替商・分銅屋の主人を自ら刺殺!それら総ての悪巧みを目の当たりにした正八は、今後の対策を練っていた主水とおていに告げたのだった。

 そして、某所では意外な人物が和やかに歓談しながら顔を合わせていた‥‥それは渡海屋と高岡刑部!実は高岡刑部は、借金の証文が積もり積もって、にっちもさっちも行かなくなった為、渡海屋の悪事に加担する事となったのだ。いかに奉行を救出しようとしても、捕らえている側と助け出す側がツーカーでは、成功する訳がない!
 ◎ここまで、意識的に描写を控えていたのも、高岡刑部が悪党の一味だったという先入観を排除してもらう為。‥‥と言っても、演じているのが今井健二だから、当たり前の役人でないのは、火を見るより明らかだろうが(笑)!これで始めて(※注1)の刑部が市中見回りの同心まで呼び集めるよう命じた理由と、(※注2)の船を持ってくるまで一日必要な理由‥‥が分かって来る。つまり、一連の押し込み強盗計画を立てている渡海屋と高岡刑部にとっては、余り早く人質事件が解決してしまっては、押し込に必要な時間がなくなってしまうからだ。
 ◎ちなみに、「新・仕置」に登場する南町奉行所の与力は、#1の筑波重四郎(岸田森)・#2〜7の高井(辻萬長)・#36の神崎(西山辰夫)・#41の諸岡佐之助(清水紘治)がいるが、筆頭与力である以上、高岡刑部の方が彼らよりも上である筈。刑部が、筑波や諸岡を前にして、奉行所の日常の職務を命じている光景を想像するや、何とも笑えて来ると言うか‥‥恐るべき光景(笑)と言うか‥‥。

《奉行救出大作戦/その3》
 ○眠り薬作戦
 「腹がへった!」と喚き立てる囚人たち!あくまで「お奉行の身を案じる職務熱心な役人」を演じる刑部は十郎太ともみ合い、そっと紙切れを手渡す。そして、彼らの要望に応じて、牢内に飯が運び込まれるが‥‥。
 「毒が入ってるんじゃないだろうな?」と疑う十郎太は、同心に飯を食べて見ろと迫る。眠り薬が入っている事を知られてしまい、作戦は物の見事に失敗!誰の仕業だと責める十郎太に対し、今まで牢内の囚人にいろいろと便宜を図ってきた牢屋同心は、こみ上げる自責の念から「俺がやったんだ!」と一人責任を被って牢内に突入するものの、囚人たちの手で無惨に斬り殺されてしまう!‥‥かくして、犠牲者はますます増えて行くのだった。
 ◎この牢屋同心。冒頭では、三次たちとツーカーの仲で、ユーモラスな雰囲気まで漂わせていたが、十郎太たちの策謀によって、事態がとんでもない方向へ転がって行くや、己の自責の念から、生きては戻れぬと知っている場へ勇気を振り絞って突入して行く‥‥。その姿は、正に涙モノ!

 牢屋敷につきっきりで家に戻ってこない主水に業を煮やし、伝馬町までやって来たせんとりつは、主水がおていと親しげに話している現場を目撃して、二人が良い仲と勘違いし怒り沸騰!二人に責め立てられたおていは、牢内の夫への差し入れをお願いしてるんです…と慌てて言い訳し、主水に一両を手渡す。ただし、「後で返してよ‥‥」とこっそり言う事を忘れずに。わざとらしく「全く悪い習慣だ!」と言いながら、それを懐に入れる主水。だが、結局その一両は、せんとりつが美味しい物を食べに行くのに巻き上げられてしまうのでした!
 ◎内容盛り沢山の今回。せんとりつの出番はこれだけである。何事も程々が一番!?

 一方、誰からも標的の動向に関する情報が入ってこない事に苛立った鉄は、巳代松がとんでもない事態に巻き込まれた事を知らせに来た正八をボロクソに怒鳴りつけ、屋根の男のフンドシを引っ張って去って行く!「ヤブ鉄、ボロ鉄‥‥!」と言いながら、その後を追いかけて行こうとした正八の前に落ちてくる屋根の男!
 ◎先にも書いたが、今回鉄の出番がほとんどない。また、ここでこれだけ正八に対して怒り来るっていたのに、この後もう一度正八と顔を合わせた時には、そんな事は全く忘れ果てたような雰囲気で、ギャグに徹している!(→※注3)

《奉行救出大作戦/その4》
 ○囚人仲間割れ作戦
 牢内に普通の飯が差し入れられた隙を狙って、一人の囚人が飛び出してくる!罪を軽くして貰えるんなら、喜んで加勢をします!…と訴える男。役人に協力しようとする囚人グループのリーダーだ。かくして、次なる作戦が動き出す!

 高岡刑部が、奉行を診察する医者が来ると十郎太に告げるが‥‥その時、二人の間で何かが手渡されたのを巳代松は目撃する。その夜、牢内に医者が入ろうとした瞬間!役人に協力しようとした囚人の一団は、それをあらかじめ予期していた十郎太たちによって叩きのめされてしまう!一人、我関せずを通していた巳代松は、十郎太が捨てた紙切れを手に入れ、こっそりと主水に手渡す‥‥。かくして、この作戦も失敗に終わった!
 一向に船が来ない事に業を煮やした三次は、遂に船の到着が一刻遅れる毎に牢内の囚人を一人ずつ殺していくと言い放つ!一番最初に上げられたのは‥‥巳代松だ!刻限は暮六つの鐘。巳代松、絶体絶命のピンチか?
 ◎この後、巳代松の家に駆け込んだ正八が、巳代松っあんが死んだ時には俺が代わりに!‥‥とばかりに、床下に隠してある竹鉄砲を取り出すや、その気になって構えるが、それを見た鉄が正八を馬鹿にするシーンがある。が、さっきの怒った鉄との落差は何なんだ!(※注3)

 主水は、巳代松から手渡された証拠の紙切れと正八が目撃した情報を元に、高岡刑部と渡海屋が、裏でツルんでいた事を確信する。そして遂に、江戸市中に暮六つの鐘が鳴り渡る‥‥。巳代松の喉元に短刀を突きつける三次!ああ、巳代松の命ももはやこれまでか?焦る正八に向かって、主水が呟く。「‥‥勝負だ!」
 ◎「からくり人のテーマ」に乗って、いよいよ展開はクライマックスへ!この場面の主水の格好良さは最高だ!

 腹を据えて居直った巳代松を、三次が今にも殺そうとした時、主水が駆け込んで来た。「船が来ました!」これは主水のハッタリだったが、その直後渡海屋が現れて船の用意が出来ました…と告げた為、間一髪巳代松の命は救われる!は〜〜っと、安堵のため息をつく巳代松‥‥。七人分の着物と奉行を運ぶ為の大八車を要求した十郎太たちは、攪乱戦術の為に総ての牢の囚人を解放!喜び勇んで、江戸市中へ飛び出して行く囚人たちに紛れて、船着き場へと突っ走る!
 十郎太たちの後を必死に追う刑部&帯刀と南町の同心たち!更に巳代松も、竹鉄砲を隠し持ってきた正八と着物を交換し、その後を追う!その合間を縫って、密かに渡海屋と打ち合わせる十郎太。船に乗り込んで海上に出れば、もはや用済みとなった三次たちは処分する段取りなのだ!船の支度に、先に一人で船着き場へ向かうと三次たちに告げる十郎太。十郎太の先回りをせんとひた走る巳代松!その間、逃げ出した囚人たちも、次々と役人の手で掴まって行くが、巳代松の身代わりで囚人の着物を着た正八にとっては、迷惑千万な事態でしかなかった!

 ひたすら突っ走る大八車‥‥その前に、闇の中から突如「白い影」が現れた。主水だ!白い着物に白い頭巾、白づくめの衣装の主水は、三次を始めとする六人の強者揃いの囚人たちを、あっと言う間にたたっ斬った!ただ、それを見つめているしかなかった渡海屋が、呆然と立ちすくむ。その直後駆けつけた刑部や石出帯刀らによって、無事保護される南町奉行。かくして、南町を騒がせた大事件は、ひとまず終幕を迎えたのだった。
 渡海屋と二人きりになった刑部は「何者の仕業かな?」と密かに問い質す。だが、渡海屋は「白い影が‥‥走った」と答えるしかなかった。三次に虐められていた囚人の仕業だろうと判断した刑部は、「いずれにしても、こいつらを片づける手間が省けた」と笑って呟くのだった‥‥。
 ◎「仕置屋」の中村主水のテーマに乗って、一気に六人もの囚人を始末する主水の殺陣は見事!やはり、今回の主役は中村主水だと言えよう。

 これでザコは片づいた‥‥後は、いよいよ大物三人の仕置きだ。スタートする殺しのテーマ!‥‥風と波が荒れ狂う船着き場。十郎太の先回りをして隠れ潜んでいた巳代松の前に、十郎太が現れる‥‥轟音炸裂!巳代松の竹鉄砲が唸りを上げる!「誰だよう‥‥誰なんだよう!」自分が誰に殺されたかを知ることもなく絶命する十郎太。巳代松は、牢内での恨みも込めてか、十郎太を水の中へ蹴落とすのだった。
 そして、自分の手で潰した鳴海屋の看板を満足げに眺める渡海屋の側で、不振な物音が‥‥。何気なく店の出入り口を封じている竹組みを覗き込んだ瞬間、渡海屋の喉笛を鉄の指が捕らえた!そのまま仰向けにねじ伏せられ、渡海屋は息の根を止められる!
 夜道。一人物思いに耽る高岡刑部の耳に、一つの声が届く。
 「筆頭与力・高岡刑部‥‥。右の者、渡海屋玄兵衛と共謀し、役人にあるまじき悪行の数々。不届き至極に付き、死罪に処するものなり‥‥」
 刑部の悪行を書き記した手配書の影から、ゆっくりと現れる主水!じっと不敵に見つめる刑部に、主水は証拠の紙切れ(刑部が十郎太に手渡したもの)を見せる。「‥‥それがどうした?」と返す刑部に「だから‥‥あんたは、こうなるんだ」と手配書を主水が指し示した瞬間、刑部が抜刀!それを素早くかわした主水の大刀が、刑部に向かって真っ正面から一気に振り下ろされた!そのままのけぞって手配書に凭れる刑部の小刀を奪った主水の怒りの一撃が、更に刑部に加えられる!断末魔の呻き声を上げながら息絶えた刑部に向かって、吐き捨てるように言う主水!「てめえは‥‥汚ねえ!」
 ‥‥翌朝、自らの罪状を記した手配書の前で息絶えている高岡刑部の死体が発見される。その場に駆けつけた主水は「高岡様がこんな事をする筈はないだろ?」と白々しく言うのでありました。
 ◎主水の主役性が目立ち、非常に盛り沢山な内容だった今回の話は、正しく傑作!牢内の攻防だけでなく、それに渡海屋の押し込み強盗計画が絡んでいるのも、話の大きさを感じさせる。が、その半面盛り沢山過ぎて、話の細部が疎かになった点も‥‥。
 依頼人が裏の事情を総て知っていた点や、鉄の出番がほとんどなかった事。押し込み強盗を働いた一味は、そのまま見逃されてしまった事。無い物ねだりは分かっているが、後30分あれば、もっと話が緻密になったような気が‥‥。
 ◎今井健二氏は、「新・仕置」では#3で外道仕置人の玄達、#21で証文を偽造する質屋のみなづきを演じているが、「仕置」の鬼の岩蔵や「仕留」のマムシの以蔵のように、権力を笠に着る凄みのある役人役が、一番似合ってるのでは?
 ◎今回、事件をリードして行く常神の十郎太は巳代松に仕留められているが、「新・仕置」で清水紘治氏が悪役を演じたのは計三回。#18「同情無用」での服部左内の下っ引き・辰三(!)は鉄にやられ、今回の十郎太は巳代松に。最終回では、皆様よ〜く御存知の諸岡佐之助として、主水にメッタ斬りにされる。その意味で、清水氏は三仕置人によって、それぞれ違った技であの世へ送られてると言えるでしょう(笑)!


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