幻の裏稼業
『続・必殺仕置人』

『殺した奴をまた殺す』
1996年17号(夏季号/8月3日発行)掲載
1998年8月10日加筆修正

 「続・必殺仕置人」‥‥そう言うタイトルのTVシリーズは存在しない。 だが、映画「必殺!主水死す」を分析すると、そこにはTVシリーズの間に隠れている幻の作品が顔を現して来る。

 権の四郎―かつての名、三日月の清吉。お夢―かつての名、お千代。彼らと主水が、かつて一緒に組んでやっていた裏稼業(本編では、その時の裏稼業を「仕事人」と呼称していましたが、それはここではさて置いて)‥‥それは、いつの頃なのだろう?
 三人の言葉によれば20数年前。彼らがまだまだ若かった頃。TVシリーズに当てはめると、「必殺仕置人」の前後と言う事になる。だが、主水が裏稼業に足を踏み入れるに至ったきっかけは、表の正義を代表する奉行所をも仲間に引き入れ、庶民の涙を踏み台にして、ヌクヌクと肥え太る悪党共をブチ殺してやりたいという「仕置人スピリッツ」が根底にあった筈。従って、主水が鉄や錠と共に「仕置人稼業」を始める以前に、裏の稼業に関わっていた…と言う事は到底考えられない。
 (「とらの会」会誌に掲載された初稿では、主水が清吉・お千代と組んで仕事をしていたのは、何と主水が「中村家」に婿入れする前―北大路主水の頃!余りにムチャな設定で、ある意味では「必殺仕置人」という作品に対する冒涜とも言える)
 ただ、映画本編とパンフレットの解説では、主水と清吉・お千代の昔の関係が、「一人の女を取り合った宿敵」としての描写しかなかったが、「とらの会」の初稿では、その頃の状況が、二人の言葉と回想でかなり詳しく語られており、非常に興味深いものがある。
 そして、そこから感じ取られる主水の(清吉やお千代に対する)想いは、TVシリーズの中期〜後期にかけて描写される、プロ意識の強い闇の仕事師たちの「裏稼業だけでのパートナー関係」と言うよりは、アマチュア感覚の強い、仕置人時代の鉄や錠のような「裏の仕事だけでなく、常日頃からの友達・仲間関係」に近いように思える。
 (これら、悪党共を思う存分仕置きする快感。裏の稼業に対して、未だプロ意識が見られない友達感覚・仲間意識‥‥等々は、TVシリーズにおける真の続編―「暗闇仕留人」にも少し見受けられる)
 葛飾北斎の娘・お栄による恨み晴らしの依頼が一方にあるとは言うものの、今回主水はお千代親子を救う為に、欲得抜きで命懸けの戦いを大奥の一味に挑んでいる。権の四郎=清吉に対しても、「昔なじみ」「かつての仕事仲間」「同じ一人の女を愛した男」としての立場から助太刀を頼んでいる事からも、それが伺えるだろう。
 言わば、清吉(&お千代も)は主水にとって、中期以降の仕事師仲間とは少し違った、ある種特別な存在だったのかも知れない(それ故、信頼していた清吉の裏切りを知った時、凄まじいまでの怒りを覚えたのだと思える)。
 そう‥‥かつて、「新・必殺仕置人」第八話/裏切無用−において、主水に裏切られた(と思った)鉄が、「こいつとは古いなじみだ。殺るのは俺しかいねえよ」と言ったように‥‥。
 ラストで過去の記憶を取り戻したお千代は、自分が刺した主水に対して、「昔は良かったねえ‥‥」と呟いた‥‥。主水・清吉・お千代の三人が固い絆に結ばれた仲間として、生き生きと仕置をしていた「昔」は、プロの殺し屋として互いに殺し合うようになってしまった「今」と比べると、遙かに燃えていたのかも知れない。「昔」は良かったのだ‥‥。

 では、ここで「必殺仕置人」と「暗闇仕留人」の間に隠れている「幻の裏稼業」を、映画本編と「とらの会」に掲載された準備稿とを中心にして、一つの物語を構築してみよう。言わば、「続・必殺仕置人」と言う名の、主水の知られざる裏稼業だ。
 時は、「必殺仕置人」最終話。
 鉄・錠・半次・おきんら、かけがえのない仲間たちと不本意な形で分かれ、ただ一人江戸に残らざるを得なかった主水‥‥。この時、錠に裏稼業を続けて行くのかどうか尋ねられた鉄は、「足を洗うかも知れねえ。洗わねえかも知れねえ‥‥」と答えた。それは、主水も同じ気持ちだったとも言えるだろう。 
 それは、ふとした事から嗅ぎ付けた「助け人稼業」の口入れ屋清兵衛たちに対しても、彼らを捕らえて手柄を立てようとするよりも、「上手い話があったら、俺にも一つ噛ませろ!」と持ちかけた事からも、その頃の主水が「仕置屋稼業」にやる気満々だったのが見えてくる。  
 (もっとも、主水よりも清兵衛の方が一枚上手で、まんまと盗賊一味を捕らえさせて手柄を上げさせ、自分たちの元から追っ払ってしまう。だが、ラストにおいても、主水はそれで諦めてしまった訳ではなく、隙あらば文十郎たちと組んでやろうと考えていたようだ。ここで、清兵衛が主水を「仕置人」の時のような知恵袋として仲間に加えていれば、後々あの様な過酷な事態だけは避けられたと思うのだが‥‥閑話休題)
 かくして、「助け人」に加われなかった(?)主水は、「仕置人時代の夢よ、もう一度!…とばかりに、世の中の片隅に隠れ潜んでいる「凄腕の仕置人(候補)」を探し求め、コンビを組み、世の中に巣くっている悪党共を地獄送りにしてやろうと、飽くなき闘志を燃やし続ける。そんな中、ふとしたきっかけから出会った男女を、主水は裏稼業の仲間として引き入れる。それが、火薬使いの三日月の清吉と、簪を武器にする女芸人のお千代だった。そして、もう一人は‥‥走り屋の捨三!
 悪党共の罠にはめられて、小塚原に首を晒される寸前だったところを主水に救われ、「命の恩人」として忠誠を誓った捨三を加えて、中村主水・(幻の)二度目の裏稼業が始まる。(「必殺仕置屋稼業」#1において、主水と再会した際、捨三が「また、あれ‥‥やるんですかい?」と言ったように、過去に捨三は主水と組んで、裏稼業に携わっていた事実が伺われる。その事から想定して‥‥)
 友情と愛情の固い絆で結ばれた、主水・清吉・お千代。この時期、まだ「プロの殺し屋」ではなかったものの、三人の「仕置」は冴えに冴えた! そして、主水と清吉の二人を愛してしまうお千代。だが、りつと言う妻と、八丁堀同心と言う役目を持つ主水にとって、お千代と一緒になる事は不可能だった。 
 清吉と祝言を挙げるお千代を心から祝福する主水! そして二人の間には、最愛の息子・清太が生まれる。だが‥‥この良い意味での三角関係は、清吉の妻であるお千代が、主水を忘れられなかった事から、清吉の嫉妬心を燃えたたせる結果となり、無惨に崩壊して行く‥‥。
 己の心の中で膨れ上がって行く嫉妬心と猜疑心の虜になった清吉は、清太さえも自分の子ではなく、主水とお千代の間に生まれた子供ではないか?…と、疑心暗鬼に陥ってしまう。そして、武家相手に請け負った大仕事の最中、清吉は事故に見せかけて、主水とお千代を爆殺しようと謀る!
 だが、不注意によって火薬の量を誤った為に、仕置の現場で大爆発が起こってしまい、清吉とお千代は行方不明‥‥辛うじて、主水一人が生き延びる羽目となる。「不慮の事故」で、友達であり、恋人でもあった仲間を失ってしまった(と思い込んだ)主水には、ただ悔恨だけが残っていた‥‥。
 再び一人ぼっちになってしまった主水は捨三とも別れると、死んだ清吉とお千代の事を忘れる為に「仕置人」と言う名を封印する。そして、「仕留人」(または「始末人」)と言う名の新たな仲間を探し求め、果てしなき裏稼業‥‥いずれは、自らを地獄へと導く闇の世界を、ひたすら歩んで行くのだ。
 主水が、清吉とお千代が生きていた事を知ったのは、遙か20数年後‥‥。かつての恋人は記憶喪失となり、かつての友は自分を付け狙う復讐鬼と化していた!そして、主水と彼らとの再会は、主水の裏稼業人生が、遂に終焉を迎える時だった‥‥。 
 
この物語は、あくまで「仮説」に過ぎないか‥‥。あり得たかも知れない、主水の「幻」の過去。それは、果たして、如何なる裏稼業だったのだろうか?


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