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a b c d 沼レ コード 2005ぉぉぉぉぉおおおお |
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(1)枯れ帯びたヒーロー 「食べているのか名前なのかとにかく正義の味方。」 薄汚れた白い布地に、赤い糸でこう刺繍された旗を持って、一人の男が今日もまた、街を歩いている。小汚いこの男には、街に徘徊するきれいに着飾ったその誰もが近づこうとはしないため、いつもいつもいつも一人だった。 男の持つ旗は、いわば男の虚栄心の固まりで、誰も寄りつかない孤独な男にあって唯一の心のよりどころであることは否めなかった。誰も、男の事を理解する者はいなかった。その薄汚れた旗の意味するところもまた、理解されなかった。夕暮れ時が近づき、それぞれの家庭からは、しあわせな声が聞こえ始めても、なお男はどことも無い場所へ向かい、その足を進めていた。 「あたしはひどい女よ。だって、いつでも人をせせら笑うもの。もしあなたが、人生を四回繰り返しても返せないほど莫大な借金を背負って、アスピリンの入ったエスタロンモカ錠を一度に200粒飲んでいたとしても、あたしはキチガイのように笑うことでしょうね。ふふふふふ。」 何かを思いだした様に女はせせら笑った。これから始まるであろう重苦しい何気ない物語にも、男は惹かれるものを持たなかった。 まだ、この現在の世界にある言の葉が存在しない時代のことを、ここでは旧世界と呼ぶことにする。旧世界、一人の男がヒーローとしてもてはやされ、一時代を担ったことは、もうすでに現在誰も知る余地のない話だ。だがしかし、男は生きていた。いくつもの冬を越え、いくつもの時代を超え、いくつもの年月を越えてなお、男は生きていたのだ。もちろんのこと、男は旧世界がなくなり、現在の世界が成り立っていく全ての流れを見て、そして知っている。その中で、ひとつの真実を見付け出すことにも成功した。それは、旧世界においてはひどく重要視され、故に男をヒーローに仕立て上げる要因にもなった。だが、それは現在の世界において全く意味をなす事もなく、気が付けば男は、薄汚れた旗を持ち、ただただ道を歩く存在へと成り下がってしまったのだ。 それでは、現在の世界とはいかなるものか。以下は、簡単にまとめた、現在の世界の概要である。 現在、あまねく全ての生きとしいける子どもは、大人によって夢・希望を強制させられていた。テレビでも本でも音楽でもこと学校における授業でも、子どもは夢・希望を強制させられた。夢と言えば聞こえがいいが、その本質は欲である。それは、本人の欲、親の欲、世間の欲、多種多様に渦巻く欲であり、夢と形を変えて子どもたちにのしかかる結果となった。欲は、常に一定量満たされなければ苦しみに変貌する。数多く語られる夢・希望は一定量を満たせるにはあまりにも大きく、同じ数だけの苦しみとなってこの世界を覆い始めた。人々は、苦しさの中ストレスを抱え、今日を生きることだけにわき目も振らずに邁進した。するしかなかった。程なくして、世界には限界値以上の苦しみがたまり、それはこの世の終わりを多くの人間に示唆させるには十分だった。様々な極めて退廃的な宗教がおこり、多くのものがそれに殉情した。 「この世に夢・希望があるから、同じ数だけ絶望・苦しみがあるのです。」 男の見付け出した真実はおそらくはこの一言につきるだろう。それは、現在の世界における現状と照らし合わせても間違いはない。夢や希望を持たなければ、どんなに苦しくとも絶望しようとも平気だろう。しかし、だからと言って、そうおいそれと夢・希望を捨てることが出来るほど人間が単純ではないこともまた、男は知っていた。だからこそ男は、旧世界においてヒーローになることが出来たのだ。 男は実は、夢・希望を糧に生きることの出来る人間で、その力を使えば、どのような人間も救うことが出来るのだ。救うというのは、あくまでも旧世界における価値観で、それが、現在の世界においてはどのように考えられるかは、今は置いておくことになるが、とにかく男は再び、その長きに渡って生き抜き、誰からも必要とされない体を使って歩き出したのだ。 全人類全てをとりとめなく救うために。 男は名を「夢喰いバクヲ」と言う。 3月4日 完成 |
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(2)少女の夢〜実食〜 その少女には夢があった。 それはその少女以外にも数多くの少女が夢見るもので、特異なものであるとは言い難かったが、それでも少女にとっては大切な夢だ。 少女は、テレビ局のアナウンサーになりたかった。アナウンサーと言っても、ただニュースを読んだり、スクープを探し出すそれではなく、現在のテレビにおいてなくてはならない存在、所謂女子アナになりたかったのだ。多くの男の目にさらされ、視姦されることなど夢にも考えず、ただ少女は、敬愛と憧れの念を持って夢見ていたのだ。 夢見るだけなら、なんらこの少女の人生において重荷になることはない。誰もがこの少女に明るい未来を見ることだろう。例えその夢が、数え切れない数の欲望と羨望の上に一握りだけしか満たされない夢であったとしても・・・。 今、少女は眠っている。 少女の見る夢は、もちろんのこと、自らが持つ輝かしい妄想についてかと思われたが、実のところそうではなかった。そして、見る夢はいつも決まっていた。 闇・・・。 そう、それは例えようのない闇。 上下左右何も知覚することが出来ないばかりか、何の音もなく、自分が立っているのか座っているのか、あるいは浮いているのかさえも分からない闇だ。 常人は、闇の中に閉じこめられると1時間と間を空けずに、精神に異常をきたし始めると言うが、少女は、すでに10年の月日をこの闇の中で過ごしてきた。時折現れる、この世界を握りつぶすほどの大きな手は、少女の体の一部を常にむしりとっていく。ひどく不快な経験だ。しかし、皮肉にもその大きな手が少女が闇の中で10年も過ごすことの出来た要因のひとつでもあった。 光が見えたこともあった。それは、これまでほんの数回だけではあったが、少女に生きる希望と喜びを持たせ、しかし消えることで、絶望と悲しみを味あわせた。 とは言っても、これは全て少女の見ている夢の中の話である。現実における少女は、すでに述べたとおり、その他大勢の少女と同じように、夢を見て成長するかわいらしい少女だ。ただ、ひとつ言えることは、夢に見るものは、現実の世界での経験が、何らかの形となって、時には暗喩的に現れたものだと言うことである。 では、少女の家庭、育ってきた環境の中に、少女が夢の中で見る闇に関わりがあるものがあったかというとそう言うわけではない。少女は、大切に育てられ、良い友人にも巡り会えた。 バクヲは、少女の寝顔を見つめていた。バクヲはこれから、正義のヒーローとしての使命を全うしようとしていた。しかし、それは同時にこの少女の家族にとって、耐え難い悲しみになるであろう事はバクヲでなくとも想像に難くなかった。 バクヲに出来ることは、この少女のアナウンサーになりたいという夢を消し去り、自分の糧にすることだけだ。 バクヲは大きく息を吸い込み、少女の夢を食べ始めた。そろそろ、朝日が昇り、この部屋に人がやってくる。バクヲはいそいだ。そして、この少女の夢を食べることをためらった自分に後悔した。 夢を食べる作業のことを「実食」とバクヲは名付けていた。実食は、どんなに急いでも小1時間はかかる。すでに外には、美しい朝焼けが見えていた。いそがなければならなかった。 朝の回診の時間。少女の担当医が、朝の回診にやってきた。 少女は冷たくなっていた。 「我々も、最善の努力をいたしましたが、その甲斐なく本日午前8時04分、心配停止を確認させていただきました。」 担当医は少女の家族を病院に呼びだしたんたんと事務的にこう告げた。 「あの事故から10年になります。ハルナはよく頑張りました。」 「植物状態のまま10年間も頑張りました。それに、時折目を開けようともしました。ハルナも必死だったんでしょう。本当に・・・良くここまで頑張って・・・くれて・・・」 家族の言葉は、涙もまじり、ひどく聞き取りにくいものになっていた。うなだれた空気の部屋。バクヲによる実食終了、少女の死から12時間と21分が経過していた。 その日、幼い頃、交通事故に遭い、脳を損傷したため植物状態となっていた少女は17年という短い生涯に幕を下ろした。17年のうち、実に10年を植物状態で生きるという、およそ、その他の少女とは違う人生だった。少女は、その他の多くの少女とは違い恋を知らないまま、楽しい学園生活を知らないまま、何も知らないまま、夢を叶えることも出来ずに死んでいった。 バクヲは知っていた。少女が、アナウンサーになりたいという夢のために必死で生きようとしていたことを・・・。そしてその夢を消し去ってしまえば、少女が絶望し、生きることを諦めることも・・・。 それでも、バクヲが少女に対し実食を行ったのは、もう一つの事実を知っていたからだ。 少女が夢の中で見る大きな手は、実は、少女の担当医の手で、担当医は少女にいたずらをしていたのだ。植物状態で、抵抗できない少女をレイプし続けていたのだ。 それでも、少女がバクヲによって殺されたことは変わりない。 まだ、この現在の世界にある言の葉が存在しない旧世界。バクヲは正義の味方「夢喰いバクヲ」としてもてはやされた。しかし、価値観の違う現在の世界においてバクヲの評価は決して同じものではない。それでも、バクヲは夢だけを糧に歩き続けるだろう。 3月10日 完成 |
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(3)新世界における違和感 世界は救われた。 今、この世には絶望はない。もう誰も、苦しむことはないのだ。 かつて、世界には欲望が渦巻き、それに起因して多くの人間が絶望に、悲しみに身を委ねていた事実があった。しかし、今誰もが、その絶望から脱却し、平和に生きている。 具体的な例を挙げるとすると、もはや戦争はない。もはや犯罪は起きない。もはや奪い合いすらない。誰もが、向上を望まないため、誰においても平等であり、貧富の差はなくなった。 「この世は、まさしくのところ楽園だ。幸せなら、手をたたこうじゃないか。誰も彼も一緒にたたこうじゃないか。何も恐れることはない。そう、何度でも繰り返そう。この世は、まさしくのところ楽園だ。」 大きな声でそう言い放つ男がいた。確かのその通りだ。誰も異議を挟む者はいない。なぜなら、誰においても幸せだったからだ。 人は、いつしか夢を持たずただただ生きていくだけだった。目的など無い。必要ない。なぜなら、幸せだからだ。果たして、それが本当の意味での幸せなのかどうか、それは誰も分からない。しかし、繰り返すことになるが、旧世界ではそれは確実に幸せと呼ばれる状態だった。そして、現在の世界でも、多くの人が幸せだと言う。それはひとえに、現在の世界と旧世界が同一化してきている何よりの証拠だった。この世界の状態を新世界と呼ぶことにする。 新世界では、すでに述べた通り、絶望は無く、誰もが幸せだと信じ込むことで今日を生きている。今や、幼い子どもまでもが夢を持たない。10000人の子どもに聞いてみた。「将来なりたいものなんですか?」と。誰もが、変化無く一言だけこうつぶやいた。「ただ生きていればいい」と・・・。 それは、全てバクヲの功績だった。 バクヲは、食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べて食べ続けた。 バクヲの実食は強力な効果を持っていた。誰も、逆らえないばかりではなく、一度実食されたものは、二度と夢を持つことができない。だが、それを恐れるものはいない。恐れる必要はないからだ。なぜなら、実食のために、多くの人が幸せになれるのだ。 ここで、ひとつの真実を語らなければならない。 これは真実であり、それ以上でも以下でもない。 一人の薄汚れた年増の女がつぶやいた。 「幼い頃、この世の全てがあるマイクの部屋にいたからこそ、あたしは夢を持つことが出来たのよ。あの部屋は凄いのよ。例えるなら太陽がふってきて、世界がなくなっちゃた後、それでもあたし一人が生き残り、誰もいない場所で終わりの風景を見ているようなものよ。」 最後の方では、女はケラケラと笑い始めていた。遠い記憶。しかし、それは確実にこの女の中に刻まれている。かつてこの世界には、数え切れないほどの数の「マイクの部屋」が点在していた。今となっては「マイクの部屋」の事を伝える記述はひとつとして残っていない。唯一、当時を知るかつての子どもに話を聞くことだけがヒントになる。 「この歳になってしまっては、今更マイクの部屋には入れません」 無気力に歩く大人は、一言こうつぶやいた。 どうやら、「マイクの部屋」は子どもでなければ入れないらしい。一体、「マイクの部屋」とは何なのか。それが分かるのは、もう少し後の話になる。そして、その頃にはもうどうすることも出来ない危機的な状態になっているのだった。 ひとつ言えることは、現在、誰もが楽園として幸せに新世界を生きていると言うことだけだ。 そんな中、ある恐ろしい病気におかされた人間が発見される。その病気は後に「レイ=プレイ症候群」と呼ばれるようになるのだった。 3月16日 完成 |