今回は便衣兵です。
いままで、さんざん議論されてきたテーマではあるんですが、逆に避けて通ることもできないと
思われるので、これまでに調べて解った事を、お披露目しようと思います。
ここでは、肯定派、否定派という表現より違法派、合法派という方が適切だと思いますから、
こっちを使うことにします。
便衣兵狩りを合法とする研究者(以下、合法派)は、兵隊が私服に着替えた時点で捕虜資格を喪失し、捕虜としての特権が剥奪されるため、彼等を処刑したとしても
国際法違反にはならないと主張しています。
これに対して、便衣兵狩りを違法とする研究者(以下、違法派)は、摘出された
敗残兵達は、なんら裁判を経ることなく処刑されており、この裁判を省略したことが、
国際法違反に相当すると主張しています。
つまり無裁判での殺害が違法か合法かで両者の見解が異なるわけです。
果たして、違法派と合法派のどちらが正しいのでしょうか?
南京戦当時の国際法の資料を読むと、どうやら違法派に分が有るようです。
いくつか引用してみましょう。
■「南京大虐殺否定論13のウソ」柏書房 P164
凡そ戦時重罪人は、軍事裁判所又は其他の交戦国の任意に定むる裁判所に於て
審間すべぎものである。然れども全然審問を行はずして処罰を為すことは、
現時の国際慣習法規上禁ぜらるる所と認めねばならぬ。
■「南京大虐殺否定論13のウソ」柏書房 P166、167
而して此等の犯罪者を処罰するには必ず軍事裁判に附して其の判決に依らざる
べからず。何となれぼ、殺伐なる戦地に於いては動もすれぼ人命を軽んじ、
惹いて良民に冤罪を蒙らしむることあるが為めである
上は「戦時国際法論」(立作太郎 1931年)、下は「北支事変と陸戦法規」外交時報84巻通巻788号(篠田治策 1937年)が引用元です。
これ以外にも、よく引用されるものとしては「上海戦と国際法」(信夫淳平 1932年)があります。
以上見てきたように、いずれも無裁判での殺害に否定的と言って良いでしょう。
が、しかし・・・。
鋭い人は、既にお気づきかもしれませんが、これらの学説は、あくまで犯罪者として処罰することを想定したもの
なんですよね〜。
ほかにも、「戦争・テロ・拷問と国際法」(アントニオ・カッセーゼ、1992)によると「犯罪を行った嫌疑で告発された市民あるいは軍人については」裁判が必要である
ことが、ニュルンベルグの裁判でも、確認されたということです。
つまり、犯罪者として「告発」した場合に限定した上で、裁判が必要であるという判断が下されたことになります。
じゃあ南京で日本軍がやった便衣兵狩りは、犯罪者の処罰だったんでしょうか?
私もね〜戦闘詳報やらなんやら、いろいろ調べてみたんですが、残念ながら
”敗残兵を戰時重罪で處罰しろ〜!!”
というような命令は、見つかりませんでした(;w;)
残敵掃討命令ならあるんですけどねぇ・・・。
ならば、敵兵を犯罪者としてではなく、あくまで軍人として殺害するのは、どうなんでしょう。
この場合もやっぱり、裁判が必要なんでしょうか?
これについて書かれた本が、なかなか見つからなくて苦勞しましたが、なんとか見つけました( ^‐^)!
まず、有賀長雄の「万国戦時公法 陸戦条規」。1894年(日清戦争当時!)に出版されたかなり古い本なんですが、
その中で「審判ヲ経ヘキ必要ナキ」と明記した上で銃殺してかまわないと書かれています。
他にも高橋作衛の「戦時国際法要論」(1905年)にも、偵察や密使の処分について無裁判での殺害を認めた学説があります。
いづれもハーグ陸戦法規と同時代(1899年第一回平和会議、1907年第二回平和会議)の学説ということで重要だと思います。
逆に軍人として名誉ある死を与える場合でも、裁判が必要であるとする学説は、見つけることができませんでした。
ここまで見てきた学説をまとめると、次のようになるでしょう。
”犯罪で告発した場合は裁判に依らなければ処罰は認められないが、
単に軍人として、殺害するのであれば無裁判での殺害が認められる”
これを便衣兵狩りに当てはめると、どうなるでしょう?
犯罪で告発した記録が存在しない(少なくとも私は見付けられませんでした)ことは、すでに説明しました。
ということは、犯罪者としてではなく、あくまで軍人として敗残兵を殺傷したことになります。
将来、新史料でも発見されて、犯罪で告発したことが証明されれば別ですが、それまでは、合法と判断する以外ないようです。
ちなみに、ネット上の議論でよく目にする「第一モールメンタキン事件」も「反日行動の罪」で処罰したにもかかわらす、裁判を行わなかったことが理由で起訴されました。
やっぱり、犯罪で告発したことが問題になったんですね。
*次回へつづく*
2005/01/22
|