『軍艦「甲鉄」始末』
2005.12.25.新人物往来社刊、ハードカバー。著:中村彰彦。
| 粗筋── 舞台は幕末。軍事力の強化を図る幕府は、友好国アメリカに軍艦を発注する。しかし、アメリカ公使プリューインらは私的に軍艦建造を仲介し、不当な利益を得たばかりか肝心の軍艦すら送って来ない始末。困った幕府は、語学に堪能で洋学にも通暁している幕臣・小野友五郎を抜擢し、交渉に当たらせるのであった。 こうして発注された軍艦こそ、後に新政府海軍の旗艦として活躍した「甲鉄」である……。 |
タイトルは「甲鉄」ですが、それのみならず当時の幕府海軍の情勢や、品川・阿波海戦、五稜郭の海戦等にも言及しており、幕末海軍史を概観するのに適した一冊となっています。特に、他の海軍史等ではなかなか触れられない「甲鉄の最後」等も描かれており、非常に面白かったです。
また、内容も幕府・会津鎮魂史観に偏らず両軍を平等に見て居り、薩長贔屓の小官でも読み易かったです。中村彰彦と云えば会津系作家の中堅どころで、「会津のやる事は全て正義! 会津に反するのは全て逆賊!」と云う早乙女貢センセイほどではないにせよ、会津マンセーの強い作家さんだったのですが……今回は阿波沖海戦のジャッジについて薩長側の史家を腐す程度で鉾を収めてくれました。うーん、矢張り政治史から離れて海軍みたいなメカニックと数字の世界に来ると、観念論なんか吹っ飛んじゃうのかも知れませんな。「会津が正義、会津こそ忠君愛国って……会津一隻も軍艦持ってないじゃん! これでどーやって国を守るんだよ!」とか……暗殺されなきゃいいけどw
【総評】:主人公不在の群像劇だし、内容もスペックやこまごましたやり取りばかりでダイナミズムに欠け、歴史小説としては失敗作。但し、幕末史を知る為の副読本としては、ベストに近い作品となっている。幕末好きは必読です。