次のページ目次へトップへ前のページ

概説
 幕木という時代は黒船によって引き起こされた。黒船と呼ばれたアメリカ太平洋艦隊は僅か4〜8隻だったが、その偉客は時の為政者の脳裏に深く刻み込まれる事になった。最も素早くこの時代の変化に対応したのは、皮肉にも幕府であった。幕府は長崎に海軍操練所を創り、諸藩に先駆けて洋式海軍を創り始めた。その発展は、幕府内の保守派の反対や資金不足の為遅々として進まず、海軍操練所も長崎、築地、神戸等を転々とした。しかし、そこで育てられた人材は、確かに一流の海軍軍人であった。艦船の整備も諸藩など比較にならない規模で押し進められ、幕末にはヨーロッパの二流国程度の海軍力を持つに至った。
 一方で、諸藩の中でも、特に実力を持つ雄藩は、幕府とほぼ同時に海軍の拡張に乗り出した。特に佐賀藩は諸藩に先駆けて自ら蒸気船を造船、その後も人材・装備共に諸藩の中では最高とされた。薩摩藩も最初は洋式艦船の造船に積極的であったが、明君島津斉彬の死後は保守化し、薩英戦争に敗北するまで装備の洋式化は額座していた。しかし、薩英戦争後はイギリスと友好を深め、多くの艦船を輸入した。その多くは輸送船であり、薩摩と大坂を往復して物資・兵員、そして情報を運んだ。薩摩藩と並んで雄藩のもう一方の雄である長州藩は、海軍の増強には不熟心で、小型の軍艦と輸送船を小数装備しているのみであった。この他の諸藩も、西国に限って言えば、何処の藩でも1隻位は輸送船を所持していた。これら小型輸送船は、瀬戸内海を中心に交易を行い、大坂と瀬戸内海の海運は殆どこの蒸気船によって行われた。
 さて、注目すべきは、土佐の坂本竜馬率いる海援隊である。この浪人結社は元は長崎に本拠地を置く商社「亀山社中」であり、幕末の戦機が熟す中で戦時編成として海援隊を名乗っている。所有船舶は殆ど無いが、その行動力はすさまじく、何時も何処かの藩の船を借り受けており、交易や倒幕活動にいそしんでいる。

表の見方

項目 内容
○○丸:  艦船の名称を表す。慶応元(1865)年に幕府は軍艦奉行の諸議により、軍艦と輸送艦を区別する為、軍艦の名称の末尾には「丸」を付けない事とした。だから、末尾に丸が着いていれば輸送船、そうでなければ正式な軍艦である…筈なのだが、この命名法が制定される前に配属された幕府軍艦「観光丸」・「咸臨丸」は一般的に丸を付けて呼ばれるし、仮装軍艦「朝陽丸」は丸を付けたり付け無かったりするし……正直言ってどう言ったらいいか。この当時は各藩がばらばらに、各々漢文から引用して名前を付けているので、後の帝国海軍の様に決まった法則性があるわけではない。
 なお、余談だが日本の船には人名を付けた物が無い。これは海軍大臣が天皇に艦に人名を付けるべきか聞いた所、もし沈んだらヤバいから、と言う理由で却下されたらしい。
所属:  その艦船の所属及びその転変を表す。
艦種:  その艦の帆船としての「大きさ」と、軍艦としての「役割」から成る艦船の分類。この分類は複雑で、特に大きさに関しては全てを掲載する事は到底不可能なので、ここでは大まかに以下の様に分類する。

「大きさ」艦の大きさ
シップリング(全装帆)型:ここで言う「シップ」 とは「船」の意味ではなく、マスト、素具の鱗装がシップ型である。形式上備えるべき帆は全て備えている最も典型的な帆船を示す。マストは3本でその全部に横帆を備え、各マストには全てのステイスルでマストを前に引っ張って支えている静索「ステイ」に沿って引き上げて展張される三角帆)、スタディング・セイルで風の弱い時に横帆の左右に取ク付ける薄手で軽い帆)を備え、前部マストにはジブ、後部マストにはスパンカーを備えた帆船。
パーク型:3〜4本マストで最後部マストに横帆がなく、スパンカーの上方にガフ・トップスルを持った帆船。ラムがなく、船首か丸いのが特徴。
ブリッグ型:シップと同様の帆装でマストが2本の帆船。
スクーナー型:十八世紀アメリカで開発された軍艦。2本マスト以上で後部マストが前部マストより高く、縦帆のみの帆船。艦砲は両舷と2本のマストの周の旋回砲座に設置する。

「役割」
戦艦:従来の主力艦であった「戦列艦」を、クリミア戦争に於ける戦訓に基づいて、機動戦を行える様にした軍艦。重装備・重装甲で、国家の技術力・経済力を如実に表す級種だが、当然当時の日本には存在しない。排水量2000t前後、備砲80〜200門。なお、戦艦とフリゲートは単艦でも戦闘単位と見なされ、「軍艦」と呼称され、佐官を以て艦長に任じた。また、単独で航海するので船首像が付けられた。
フリゲート:1646年頃にイギリスで開発された軍艦。とは言え当時はまだ6〜12門程度の砲を装備した小型快速艇に過ぎなかった。十八世紀に至って植民地を巡る遠洋での争いが激化すると、フリゲートの任務は商戦の護衛から敵船を攻撃・拿捕するまでの広域な任務、即ち今日の巡洋艦に匹敵する任務を受け持つ事となり、重要性が高まった。特に遠洋に向かう商船の護衛や植民地の島々の警備が重視され、それに合わせて流線型の船体や船体に比較して多数の帆と言った設計を取り入れ頑丈な快速船として建造された。排水量に対して重武装であり、全長は50m程、全幅は12m程、マスト3本、単甲板側舷砲20〜30門程度を装備し、かつ排水量を2000〜3000t内外に収めた小型・重武装の鑑種。機動性・スピード共に良好であり、この時代の海上戦略の主力とされる。後には甲板を二重にして積載砲を倍増させる等して武装を強化した。
 フリゲートまでは、単独航海を行うので船首像が取り付けられた。
 1870年代以降は「装甲巡洋艦」と名前を変えて発展した。
コルベット:フランスで発祥したが、その際にはイギリスで云うところのスループやカッターを言い表していた。後にフリゲートが戦闘用に特化すると、代わって威力偵察等を行うフリゲートとスループの中間的な艦艇が必要となり、蒸気機関時代にコルベットが創設された。3つの横帆付きマストを装備し、全長53m・全幅22m・マスト高60m・砲30門以上を標準とし、排水量は2000t以下。堅牢な船体と高い機動性を有し、偵察や連絡に従事する。またそのしっかりした構造が好まれて、十九世紀には科学的探検の為にしばしば使用された。軍用に用いる場合には、三隻の艦隊での運用が前提なので、船首像は取り付けない。
 1870年代以降は「防護巡洋艦」と名前を改めて発展した。
スループ:コルベットの下位に位置する軍艦。排水量1000t以下、平坦な甲板に2〜3本マストを立て、舷側に砲門2列20門程度を装備している。厳密には、2本マストのスループをブリック・スループ、3本マストのスループをシップ・スループと称する。偵察・護送・敵商船攻撃拿捕を任務とする。コルベットと同様に、船首像は付けない。
カッター:カットル等とも呼称される。マスト1〜2本、備砲4門、乗員20名程度の艦。
砲艦:ガンポート。ナポレオン戦争時代には排水量120〜130t・マスト2本・砲5〜8門程度の小型艦艇で、沿岸防御やパトロール・伝令に使用された。19世紀に入って砲艦は殆ど無くなっていたのだが、イギリスはクリミア戦争の戦訓から沿岸部での陸上砲撃、占領、封鎖等の為に喫水が浅く、かつ重武装の軍艦を必要とし、かくして砲艦の復活となったのである。
商業用帆前船:遠洋航海用に横帆を用いて艤装したラウンド・シップ。単独で航海するので、艦の大きさに関わらず外洋を航海する限りに於いて船首像を付ける。

材質:  艦船を構成する主要な材料。此の時代、製鉄技術が飛躍的に向上し、木よりも鉄の方が安価に作れるようになった為、先ず骨格部分が鉄製に改められた。こうして、新造される船は大抵「鉄骨木皮」や鋳鉄装甲を増加した物であった。しかし、鋳鉄の時代はすぐに終わり、鋼鉄の時代が来つつある。
 なお、幕末日本の艦船が殆ど木製なのは、貧乏だったり外国商人に騙されたりと云う以上に、鉄製の船を修理する為の設備が日本に少ない事が理由である。
機関:  艦船の航行方法を示す。但し、この時代にはまだ蒸気機関と言っても高性能な物ではなく、平常の航行には帆を用い、戦闘・出入港等の特別な際に蒸気機関を使用するのみである。蒸気推進機には外輪と内車(スクリュー)の二種類が存在し、当初は外輪式の方が建造も簡単で、喫水が浅く、操艦も容易いので多用された。しかし、後にスクリューの方が同じ出力でも高い推力を得られると云う事が判明すると、外輪を納めたスポンソンは格好の敵の標的になり、かつまた外輪が有る分だけ砲門が減少する等の戦闘力上の理由から廃れつつあり、各国でも下位の軍艦から順次改装されている。ちなみに、列強諸国では英仏が既に戦列艦まで改装を始め、米蘭が其れに続いてフリゲート・コルベット級の改装を進めている。
マスト:  艦船が甲板上に有するマスト(帆桁)の数。
備砲: 開陽12ポンドカノン砲 艦船が装備する大砲の数。なお、砲の種類の判明している艦船については下に記して置いた。「○ポンド砲」とは重量○ポンド(1ポンド=453.6g)の砲弾を打ち出す大砲の事を示す。同様に「○斤砲」も、斤は日本の古くからの度量衡で言う「斤」ではなく、西洋文明導入の過渡期の呼称としてポンドの事を言い習わした物である。これらの多くは砲弾はただの鉄の塊であり、爆裂弾ではない。
 それに対して「○cm砲」や「○インチ砲」等の数値は砲の□径を示し、その口径に応じた爆裂弾を発射する事が多い。何れの砲も特に記述が無い限り、船体の側舷に砲門を設けて配置されている。特に「旋回砲」等と記述されている場合には、船首や甲板上にその砲を積んだ砲塔が有る。
定員:  艦船を運用する為の標準的な乗り組み人数。これ以上の人数を「乗客」として搭乗させる事も当然可能である。
全長:  船体の前後の長さ。
全幅:  船体の左右の幅。
排水量:  艦船のある状態に於ける自重は、その水に浮かんでいる喫水線以下の水中容積に相当する水の重量に等しい。船の自重を直接計測する方法はないが、喫水を計れば水中容積は正確に計算出来るので、これに水の比重をかければ船の自重は正確に算出出来る。その水中容積を排水量と呼称し、艦船の重量の単位として使用する。特に軍艦はその軍事的価値を排水量に依って示される。
 なお、ここでは通常の就役時の平均的な状態を示す常備排水量を表示している。
出力:  蒸気機関の出力。
速力:  艦船の速力を示す。1ノットは1時間に1海里(1482m)進む速度を示す。ちなみにノットとは「結び目」の意。この辺の謂れは誰でも知っているだろうと思うが、知りたい人はその辺の喋りたそうな人に聞いてあげる事。
解説:  その船の経歴や特筆すべき事項についての記述。特に建造年に注意。この頃の木造船は船内に湿気が溜まって木が腐り易く、軍用としては八年程度が限界である。

次のページ目次へトップへ前のページ