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▼03.廃寺


 少年は立ち止まり、夕暮れの薄闇の中に黒々と浮かび上がる建物の影をじっと見つめた。
 ひとけはない。
 かつては整然と掃き清められていた広場の石畳の上にも塵が降り積もり、周囲の回廊の一部は崩れ始めてすらいる。それは街の中にぽっかりと口を開いた傷口のように見える。
 とうの昔に神官たちは古い神々を見捨て、新市街の神殿へと居を移していた。神官長は命惜しさに身売りしたのだと、口さがない街の住民たちは陰で噂する。古い王家が滅び、街に新しい王家がやって来たとき、神官たちは、あっさりと寝返ったのだ。
 神官たちの卑劣をあざ笑う街の風評を耳にしても、神官長は微笑むだけだった。神官は、神に仕えているのでもなければ、王家に仕えているわけでもない。この街に暮らすすべての人々のために仕えているのだと言う。王家が替わり、新しい時代が始まったとき、奉ずる神がそれとともに変わるのは当然ではないか? それこそが天意ということではあるまいか? 次々と移り変わる神々や王家とこの街の人々との間に立って、両者の関係を円滑に調整してゆくことこそ、神殿の役割である。
 確かにそうなのかもしれない。
 しかしそんなことはどうでもいいことだ。少年には非難する気持ちもないかわり、興味も持てなかった。少年が興味を抱くのは、そんな俗世のことではない。
 建物の中に足を踏み入れると、祭壇に取り残された古代の神の立像ががらんとした広間を無言で見下ろしている。出入りは自由なのにここに住み着こうとする者はいない。いまだに古代の神への畏れは人々の心から消え去ってはいないのだ。少年は祭壇の裏側に回ると、かがみ込む。二〜三回、硬いものがぶつかる乾いた音が響いたかと思うと、少年の手元にぽっと小さな灯が点った。種火を慎重に灯火に移すと、少年は、それを高く掲げ、祭壇の陰に隠れていた暗い階段を下り始める。降りるにつれ、空気は冷ややかになり、潮騒のような巷のざわめきが遠ざかって行く。


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