04.(back) ← → 06.(next)
▼05.遺児


 神官長一族の家の片隅で、忘れ形見は、ひっそりと成長していった。奥の間に控える一家の祖母、つまり神官長の母親が、その庇護者として名乗りを上げ、少年を引き取ったのだ。巫女というよりは地母神を思わせる老女に育てられ、少年は、母親が取り憑かれていた死の影から脱する。しかしながら、生来のどこか翳りのある性格が払拭されてしまったわけではない。いつも一歩身を引いて傍らから静かにことの成り行きを見守っている。年齢に似合わぬ老成した雰囲気がある。ある日、神官長の注意を引いたのもその奇妙なほどに落ち着き払った目の表情だった。「はて、この子は誰だろう?」というぼんやりした疑問が心に浮かぶ。大叔父やら大叔母までが同居する大家族なので、うろつき回る子供の数も多く、誰が誰の子であるのか、当の神官長自身もそのすべてを把握しているわけではない。一家の祖母の傍らにいつでもその子が付き従っていることを知らぬわけではなかったが、おおかた、何か事情があって引き取られた遠縁の子供なのだろうと見当を付けていたのだ。でっぷりと肥え太った老婆に非難がましい目でじろりと睨みつけられ、「お前は自分の息子も忘れたのか?」と言われると、さすがに、少々、狼狽えたものだった。改めて注意してみると、他の子供たちとはいささか勝手が違う。子供らしくはしゃぎ回ったりすることはない。その静かに澄んだ目には、すべてがくっきりと明瞭に映っているかのようだ。この子は、母親よりもむしろ、この自分に似ていると神官長は思う。自分自身が、子供時代、ひどく醒めた傍観者であったことを神官長は覚えている。それが、激変の中で、神官長を生き延びさせたのだ。


04.(back) ← → 06.(next)
作品アーカイブ top
tach 雑記帳 top
update index
file index
BBS tach談話室
©tach 2002 [e-mail: tach@iname.com]