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▼06.神殿
手ほどきを受けた少年は、程なく、誰に勧められたわけでもないのに、自ら進んで神殿の書庫に出入りし始める。奥の暗がりから重たい粘土板を引っ張り出しては、時間を忘れてしまったようにいつまでも読み耽る。本来なら神官以外の立ち入りを禁じられた禁断の場所であっても、神官長の息子を阻む者はいない。それどころか、神官たちはこの珍客を面白がった。大きな台の上には所狭しと何十枚もの粘土板が広げられている。その真ん中で真面目くさった顔をして鎮座している少年の姿には思わず笑いを誘うものがある。しかし、その手元を覗き込んでみると、手引きを数表とつきあわせながら月の満ち欠けや蝕の計算をしていたりするので、神官たちは驚きを覚えるのだった。中には身を乗り出して真剣にあれこれと助言をし始める者まで出てくる。
「さすがにご子息は出来が違いますな」などと言われるたびにまんざらでもなかった神官長だが、そのうちいわれのない不安を抱きはじめる。熱心なのは結構だが、それにしてもこれは少々行き過ぎだ。しかとは判らぬが、この展開の中には何か厭なものを感じる。ことばにはならぬ神官長の直感がそう告げていた。
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