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▼12.目覚め
…不意のうめき声に我に返ると、老人は苦しげに身動きしていた。何層にも織り重なった世界を抜けて、眠りの底から、この世界に帰還しようともがき始めたのだ。一歩間違えば、老人の意識はこの世界に辿り着く道筋を見失い、永遠に夢の世界を彷徨い続けることになるかもしれない。事実、遠い昔には、数知れない見習い達がそのようにして命を失っていったのだという。少年は息を詰めて老人の帰還を待ち受ける。
何の前触れもなく突然開かれた目が少年をじっと見つめる。
老人の目。
あまりにも長い時間虚空を見つめてきたために、自らも虚空と化してしまった目。老人の衰えきった躰の中で、そこにだけ年齢がない。
「陽は沈んだか?」
少年がうなずくと、老人は静かに起きあがる。その目は再び彷徨い始め、何かを思い出そうとするかのように地下室の天井の闇をなおもしばらく見つめていたが、やがて、少年が運んできた水瓶を傍らに見いだす。老人は手を伸ばして、中の水を一口、口に含んだ。
静まり返った地下の空間に水を飲み下す音が響く。
少年は老人の皺だらけの喉仏が上下する様子を眺め、ため息をついた。
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