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▼15.汚された神秘
また星が流れる。
今度も南の羊飼いと海蛇の間だ。
老人は再び天空に目を戻す。
「天空の動きを見守ることも似たようなものだ。目を凝らせば、お前自身の運命も天空に刻み込まれているのが見える。天空の中に描かれたお前も、また、天空の中の天空に目を凝らしているだろう。こうして天空の中に天空が無限の連鎖を続け、その中でお前は自分自身を見失い、ただの視線と化してしまう。お前はただの視線として生きる。星の動きを見守ることは、もう、それ自体がこの地上の世界を生きると言うことと同じことなのだ。いやむしろ、普通の人間であれば到底生き通せないような期間にわたって人の世の移り変わりを眺められる。天空に繰り広げられるこの壮大な物語に比べれば、地上に縛り付けられたお前自身の日々の生活は、何と取るに足りないものに思われることか。天空を望むとき、お前は、その小さな人生から解放されて、壮大な時間と空間に一体化する。お前はもはや天空の虜となり、地上の生活は完全に色褪せてしまう。天空こそが唯一の実在となり、地上に起こる出来事は、全て、その影に過ぎないと思いこむようになるのが当然だろう。お前はもはや全てを投げ打って、一晩中みじろぎもせずに星空を眺め、空が白むと、今度は寺院の地下に隠って天空の夢を見続ける。それがお前の生活の全てだ。それでもお前は占星術師になりたいというのか?」
「それでもいい」
「やめておけ。お前はまだ地上の生活の価値を知らない。やがてお前は恋を知り、子供の愛しさを知り、その取るに足りない小さな地上の生活こそが自分に幸せをもたらしてくれることを知る。天空を読む技を身につけ、予言者になったところで、幸せにはなれない。もはや誰もお前の予言など必要としていない。天空を読む技はお前を孤独にするだけだ。お前は自分の父の後を継げ。お前はもう算術を習い始めたのだろう?」
「あんなもの。そもそもあんなものは商人の技じゃないか」
「ああ、全くその通り。お前の父親達は、かつて人々の畏怖の対象であった聖域に卑俗な生活の方便にしか過ぎないものを持ち込み、その神秘を汚した。素晴らしい成果でないか。今や日蝕も月蝕もいったい何時起こるのか正確に言い当てることが出来る。天空は商人が計り売りする穀物か何かのようにいとも簡単に計測できるとお前の父親達はうそぶくのだ。何という力だ。人々はひれ伏すぞ。ただし、天が語ることそのものにではなく、天空の動きを支配するかのように予言するその力に対して。日蝕や月蝕が意味するものが何か、お前の父親達は真剣に考えようとしていない。ただ人を人の前に平伏せさせる道具として利用する。地上の営みの方便として利用する」
「だから僕は…」
「天空の語ることばの真の意味を理解したいというのか? だがな、誰もそんなものを求めていない。人々が新しい神と新しい王家を選んだとき、同時に天空の語ることばの真の意味を求めることをやめた」
老人は突然ことばを切る。
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