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●降下


 あなたは空を翔んだことがあるだろうか?
 旅客機の小さな丸窓に顔を押しつけて地上を覗き込んだぐらいでは決して分からない。車で移動する者にはその土地の地形が、つまり微妙な大地の起伏やそれによって引き起こされる気流の変化が、感じ取れないように、飛行機やヘリコプターを使う者は決して空を感じ取れない。
 自らの動力を捨て、ただ風に乗って翔ぶものだけが空を翔ぶということの真の意味を会得する。空気の流れや微妙な密度の差異を、あたかも大地の起伏がもたらす地形のように感じ取ることができるのだ。
 この特製ハンググライダーは、最初、まるで礫のように落下し、ヘリコプターの回転翼が引き起こす乱気流の圏外まで一気に飛び出して行く。その数秒間、あなたが直面するのは「死」だ。その冷たくて硬い感触。吐き気。研ぎ澄まされた「生」の感興。
 やがて翼が開き始め、落下が滑空へと徐々に変化して行く。
 正しく捕まえていさえすれば、大気はまるで固形物のよう。翼をがっしりと支える大気の力が、握りしめたパイプを通して手元に伝わってくる。空を翔んでいるという感覚が訪れてくるのはこのときだ。青い空と霞む大地の中間に、僕はただ一人、ぽっかりと浮かんでいる。大きく息を吸い込む。地上では決して味わえない清浄な大気の香り。地上の空気はいつだって臭気に汚染されている。ただ空を翔ぶときだけ、人は清浄な大気とは本来どのようなものであるのかを知ることができる。
 体勢を整えると、僕は旋回を始め、標的に向かってゆっくりと降下して行く。


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