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●公園


 数ヵ月後、会社を抜け出して、近くの公園へ足を運んだ。今時誰も読みそうもない経済雑誌を胸に抱えている。日常に追われる日々の中で徐々に記憶が薄れ、登録をしたことがどう考えても白昼夢としか思えなくなってきた頃になって、突然、連絡があったのだ。
 オフィス街の真ん中の午後の公園は平和そのもの。陽射しが眩しく、瑞々しい木々の緑が胸に浸み透って行く。こんな美しい風景の中を自分がテロリストに志願するために歩みを進めているのだと思うと、何か妙だった。
 指示された通り公園の片隅の池のほとりの東屋までやって来ると、男が一人待っている。
 小太りの神経質そうな若い男だ。
 蒼白く浮腫んだ顔がただでさえ暑苦しいのに、子供じみた前髪を垂らし、それを始終鬱陶しそうに指で梳き上げる。今時珍しい分厚い銀縁眼鏡をかけているので、目が異様に小さく、その分顔がいっそう膨れて見える。
 僕が胸元に後生大事に抱え込んでいる経済誌に目を留めると、物静かだが、意外とはっきりした調子で話しかけてきた。
「『金融自由化は国家主権の放棄、迷走する日本の衆愚政治』という大竹教授の論文に目を通されましたか?」
「盲人が手を取り合って互いを導きあえば、必ず二人とも穴に落ちると聖書に書いてあります。」
 指示された通りの返事をすると、男は深く肯いた。
 その様子がいかにも落ち着いているのが意外だった。
「委員会の柴田です。」
「委員会?」
「今の段階では詳しいことをお教えすることはできません。逆に言えば、今ならまだすべてを白紙に戻せますが、どうしますか?」
「いきなりそんなことを言われても…、まだ何も知らされていないのに。」
「知らないから白紙に戻せるのです。どうなさいますか。今、この場で決めていただかないと。」
 僕が困惑して黙り込んでしまったのを見ると、柴田は妙な薄笑いを浮かべた。
「事にあたって逡巡するというのはテロリストとして不適格と判定される要因の一つになるんですが、あなたの場合、他の要因を高く評価されていますからね。詰まらぬ芝居はやめて率直にお話ししましょう。あなたはテロリストになりたくて仕方ないんです。」
 呆気に取られている僕に柴田はなおもたたみかける。
「何ヵ月も我々が何をしていたと思いますか。あなたの身辺を洗っただけではなく、二十四時間、あなたの行動を観察して、心理状態を徹底的に分析しました。その結論が、これです。あなたは我々の勧誘を断れない。今ここで断ったとしても、数週間後にはあなたの方から頼み込んでくる。結果が分かっているのですから、余計な手間暇をかけるのはやめましょう。一つ自分の気持ちを素直に見つめて、ここで片をつけていただけませんか?」


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