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●永田町

 次の土曜日の昼下がり、僕は永田町界隈の裏通りをうろついていた。再開発の波に取り残されてしまった地域らしく、古ぼけた小さなビルばかりが軒を連ねている。うららかな陽射しが降り注ぐ路上には人っ子一人見当たらない。静かだ。都会のエアポケットの中に迷い込んでしまったらしい。
 ようやくたどり着いた建物は、周辺の建物に比べてもその古さがひときわ際立っていた。解体を待つばかりの廃屋のようにしか見えない。事実そうだったのだろう。エントランスホールに足を踏み入れても人の気配が感じられない。天井が高いせいか、空気はひんやりとして、どこか水黴の臭いがする。言われていた通り、突き当たりの階段を登り、正面のドアを開けると、そこに柴田が待ち受けていた。
「お入り下さい。」
 入り口で立ち止まった僕に向かって柴田は言う。
 何もない部屋だ。事務机とファイリングキャビネットが一つずつ置いてあるだけなので、妙に広々と感じられ、壁の白さが目立った。ちょうど南に面しているらしく、殆ど天井まで届きそうな背の高い窓からいっぱいに陽光が射し込んでいる。先ほどのエントランスホールとは対照的に空気は乾いて埃の臭いがした。
「お待ちしてました。」
 読みかけていたファイルをキャビネットに戻しながら柴田は言う。
「『古参』に会ってもらいます。」
「古参?」
「一種のコードネームだと思っていただければ結構。確かに経歴の長い人物ですが、まぁ、あまり気にしないことです。」
「それで?」
「色々話を聞いてもらいます。過去の経緯を振り返るというか、思想の歴史的展開の復習というか、詰まるところは、我々がどのようにして『今日』に辿り着いたのかと言うことですね。何故、今、我々がテロを行わねばならないのかということ。」
「…復習、ですか…」
 何か腑に落ちない。
 言いたいことがあるなら言ってみろという目つきで柴田が僕を見る。仕方がないので尋ねてみた。
「実技の方は?」
「実技?」
「射撃訓練とか、爆発物取り扱いの訓練とか、いろいろありますよね…?」
 いくらひとけがないといっても都会のど真ん中だ。拳銃を発射したり爆弾を爆発させたりはできそうにもない。
「そんなことはやりません。」
 柴田の返事は素っ気ない。
「あなたはパートタイムのアマチュアテロリストだから、付け焼き刃でそんな訓練をしたって何の役にも立たない。専門家たちはそう言ってます。今は、アマチュアだって使える便利な武器がたくさんあるそうですよ。いざというときはそういうものを使えばいいんです。」


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