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●襲撃

 一瞬、陽が陰り、黒い影が地上を横切ったとき、人々はそれが自分たちの死の影だとは決して思わなかったろう。見上げれば、太陽を背景に大きな翼が浮かび上がる。翼は、風に乗って、しばらくの間、入場ゲートの上を旋回する。その後方から何物かがバラバラと地上に降り注いでくるが、まだその正体は分からない。
 いよいよ地上が近づいてくると、僕はグライダーに角度をつけて残された十メートルを一気に滑り降り、最後の瞬間、機首を上に向ける。地上すれすれで失速した機体は、まるで羽毛のようにふんわりと地上に降り立つ。
 予定通り、ゲート前広場の中央部だ。
 翼を脱ぎ捨てたときも、人々は遠くから取り巻いて眺めているだけだ。新手のアトラクションでも始まるのかと思ったのだろう。装備の点検をしているうちに最初の爆発が背後の入場ゲートの周辺で起こる。好奇心に駆られた誰かが、ばら撒かれた地雷に触れたのだ。軽いどよめきが起こったが、それでも人々はまだ何が始まろうとしているのか気付こうとしない。
 遠くのゲートからは数人の警備員が姿を現し、こちらへ向かってゆっくりと歩き始める。
 僕はグライダーの機体にくくりつけてあったマシンガンを取り外して、銃口を警備員たちに向ける。一瞬、警備員たちの動きが止まる。僕の手にしているものの正体に気づいのだ。すかさず引き金を引く。辺りに響きわたる凄まじい銃声。教えられた通り、銃口を心持ち下に向けて、薙払うように動かして行くと、警備員たちは全員あっけなく倒れる。
 引き金から指を離した瞬間、甦る静寂。
 空気が凍り付く。
 家族連れが、寄り添うカップルたちが、中年の女性の一団が、僕をじっと見つめて立ち尽くす。
 次に何が起こるかは誰でも知っている。
 その痺れるような認識が彼らを釘付けにする。
 恐怖は、まだ、彼らに追いついていない。
 僕は銃口を人垣に向けると、横に薙払いながら引き金を引く。
 たちまちのうちに数十人が地面の上に崩れ落ちる。その内の半数はまだ死にきれずのたうち回っている。
 ようやく巻き起こる悲鳴。
 人垣は崩れ、人々は雪崩を打って逃げまどう。
 僕はその後をゆっくりと追い始める。
 時間は十分にあるはずだった。


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