奇妙な倫理〜抗議者たちへのFAQ
団体による抗議文や118ページ3コマ目の他に、ネットで言われている『国が燃える』への非難は、おおむね次のようになっています。それらがいかに言いがかりであるか、検証していきましょう。
| 言いがかりその1.少尉2人が「百人斬り競争」をしているシーンがある。この話は反日サヨク報道によるでっちあげであり、2人は冤罪によって殺された。現在、遺族が名誉毀損で裁判中である。この漫画もまた同じ罪を犯している。 |
| 言いがかりその2.集英社はこの漫画をフィクションと主張しているがそれは誤魔化しだ。この漫画の煽り文句には「巨匠が描く戦争の真実!」という言葉がある。『国が燃える』がフィクションでない証拠である。 |
| 言いがかりその3.南京虐殺を肯定的に描けば、この件で反日感情をあおって政治利用している中国政府を利することになる。日本の誇りと国益を損なう売国行為だ!! |
| 言いがかりその4.第88話冒頭の松井石根大将の発言は捏造だ。 |
| 言いがかりその5.第89話で松井大将が、松前洋平に語っている発言こそ捏造だ! |
| 言いがかりその6.本宮ひろ志は松前洋平という架空の男に、日本人・日本国を口を極めて罵らせている。本宮の「反日性」は明らかである。 |
| 言いがかりその7.お前のような第三者がいくら擁護しても、本宮と集英社は11/11にヤングジャンプ誌上に謝罪文を出しているんだ!本人が罪を認めている以上、お前の擁護など関係ない! |
その1.少尉2人が「百人斬り競争」をしているシーンがある。この話は反日サヨクによるでっちあげであり、2人は冤罪によって殺された。現在、遺族が名誉毀損で裁判中である。この漫画もまた同じ罪を犯している。
結論から言います。
『国が燃える』に百人斬りのシーンなんかありません。
とりあえず、百人斬りとは何かについてご説明しましょう。
これは東京日日新聞(現在の毎日新聞)に載ったエピソードで、野田少尉・向井少尉という2人の軍人が、戦闘のさなか競い合ってそれぞれ百人以上もの中国人を斬殺したという趣旨の記事が載りました。で、そんなことをしているシーンはこの漫画のどこにも描かれていないというわけです。
この記事は1937年当時のものです。つまり百人斬りをでっちあげたのは反日サヨクなんかではなく、戦時中の戦意昂揚記事です。この点を少なからぬ歴史修正主義者が誤解しています。
現在この「百人斬り記事」には、
・日本刀は何人も(具体的に何人ぐらいかは諸説があります)斬ると切れなくなってしまう。百人なんて斬れるものか。
・野田少尉と向井少尉は砲兵隊であった。刀を持って白兵戦に突入するはずがない。
・そもそも、一人で百人に勝つ超剣豪がどこにいる。
などの意見があります。すべてその通り、1本の日本刀では百人を斬るのは非現実的のようですし、2人が砲兵であったことも事実。最後のももちろん当然です。
結論から言って、百人斬りは事実ではないということは本当です。
では向井・野田両少尉は、無実の兵士だったのでしょうか?そうではありません。記事の元ネタとなった事実そのものはあります。実はこの2人、捕虜の斬殺競争をしたらしいのです。
この件に関しては、証言・証拠が出ています。野田少尉自身が故郷の小学校で講演したのを聞いた人の証言もあります。『国が燃える』では、まさにその通りのシーンが描かれています。殺した人数が実際に100人にも達したか否かということは争われていますが、100人であろうが無かろうが、『国が燃える』に対する批判理由にはなりません。『国が燃える』は百人だなんて一言も書いていないからです。しかも人名は仮名となっています。
なお、上記の「日本刀で百人も斬れない。ウソに決まってる」という論は『国が燃える』の作中できちんと紹介されています。百人斬り否定論者は本宮氏に感謝すべきなのです。


なお、上の画像は『本宮ひろ志先生の『国が燃える』南京事件捏造問題を考察してみるHP』からの拝借です。拝借しておいてなんですが、このサイトの、特にこのコーナーはちょっと酷すぎます。戦意高揚記事である百人斬りそのものを否定しただけで、『国が燃える』で描かれた捕虜虐殺まで否定してしまっています。
南京大虐殺論争について私なんかより遥かに詳しいこの人が、なんでこんなすぐわかる詭弁を弄するのでしょうか。
(百人斬りに関する参考サイト)
http://www.marino.ne.jp/~rendaico/daitoasenso/taigaishinryaku_nankinziken_hyakuningiri.htm
その2.集英社はこの漫画をフィクションと主張しているがそれは誤魔化しである。この漫画の煽り文句には「巨匠が描く戦争の真実!」という言葉がある。『国が燃える』がフィクションでない証拠だ。
流石に、こんなことを言っている方々の日本語力が不安です。「真実の愛」という言葉が煽りに使われているラブストーリーは全てノンフィクションなのでしょうか?
どう見ても、それは単なるレトリックです。たとえば戦争は悲惨であるとか、そういうメッセージの内容を指して「真実」と言っていると考えるのが自然です。
『国が燃える』には「この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。」というおなじみの表記があります。これが抗議が起きてから書き加えられたのであれば誤魔化しとも疑われましょうが、そうではありません。ずっと以前から常に載っていたのです。
さらに主人公の本田勇介や松前洋平をはじめ、架空のキャラクターが初回から何人も登場しています。このことを見ても、『国が燃える』という漫画がはじめからフィクションであることは明白です。
この煽り文句を持ち出して、『国が燃える』がフィクションであることを否定する人々の中にひとりでも、同じ文句を虐殺が描かれる前から言った人がいますか? いないでしょう。それで当たり前です。
非難する人々は、つい先日まで当然のこととして受け入れてきた『国が燃える』のフィクション部分に、なぜ南京虐殺が描かれてから初めて非難しはじめたのでしょうか? 「南京虐殺の描写が気に喰わなかったから」でしょう。歴史漫画に虚構が加わることは、悪質でも捏造でも、なんでもありません。
彼らは虚構が描かれたから非難したのではなく、南京虐殺が描かれたから非難したのです。
その3.南京虐殺を肯定的に描けば、この件で反日感情をあおって政治利用している中国政府を利することになる。日本の誇りと国益を損なう売国行為だ!!
そういう発想を全体主義と言います。なんで漫画家が、南京大虐殺論争で中国に対抗するために筆を曲げなければならないのですか。挙国一致で国難に当たってでもいるつもりですか?
というか、それほど重大な問題に直面しているのなら、ヤンジャンや漫画家に当たってないで、中国政府に直接文句言ってください。
その4.第88話冒頭の松井石根大将の発言は捏造だ!
いいえ。フィクションを主張するまでもありません。
彼は史実、あの台詞を言っています。
東京裁判の法廷で言ったわけではないというだけです。処刑の前に語った台詞らしいですね。
さて、実際の漫画を見てみましょう。

ごらんの通り、法廷の場に立っている松井大将にはフキダシが付いていません。
普通に漫画を読んでいる人(つまり日本中の若者たち)なら分かるでしょうが、このような表現の場合、コマにかぶさっている台詞を絵の場面の時点で喋っているとは全く限りません。またキャラクターも明らかに口を閉じて黙っている絵なんかには普通しません。
「回想を語る言葉」を、語っているその場面でなく回想場面の絵にかぶせるという手法は、漫画上ぜんっぜん珍しくない表現技法です。常識です。
仮に誤解した人がいても本人のせいですし、別に害になるような間違いではありません。どこで語ろうと同じでしょうに。
その5.同じく松井大将が、第89話で松前洋平に語っている発言こそは捏造だ!
これも同様に、場面は違うが語ったこと自体は史実というパターンですね。つまり元ネタとなる台詞が別にあるというだけの話です。
確かに、ここではフキダシが使われています。漫画の中の松井大将はこの時点でしゃべったことが分かります。しかし、実際に画像を確認してみましょう。(こちらから借りました)

松井大将と話している黒服の男に注目してください。
読者の誰もが架空と知っている準主人公・松前洋平です。ご存知でない方には、えーと……手塚治虫『ブッダ』でいう盗賊タッタみたいなもんでしょうか。抗議者の中に「松前洋平の存在はフィクションだと誰でも分かるからいい。しかし南京虐殺の描写は真実と誤信する人がいる可能性があるから許せないんだ!」と自己弁護する人がいるくらい、明々白々に架空のお兄さんです。
実在しないことが分かっているキャラクターとの会話に出てくる台詞を「松井石根が実際この場面で言った」と誰が誤解するというのでしょう。この台詞の元ネタを知らない人は、むしろ全く架空の台詞だと思っているはずです。
「元ネタがあるんだよ」と言われた方がむしろ意外でしょう。
愛国主義者の皆さん、お願いです。
捏造を捏造して日本の誇るべき漫画文化を侮辱しないで下さい。
貴方がた、それでもサムライですか?
その6.本宮ひろ志は松前洋平という架空の男に、日本人・日本国を口を極めて罵らせている。本宮の「反日性」は明らかである。
「これが…日本人の…正体か…!!」
「勝手な勘違いはしないでもらおう 日本男子などという言葉は 俺の何をも支えてなどくれん…」
「この俺もアジア人として大アジアの敵日本という狂犬に百万回噛み殺されようが甦って戦い続ける…」
確かに日本への怒りに満ちていますね。
しかし、怒りに満ちているのは松前洋平であって、本宮氏も満ちているとは限りません。つーか、別に満ちてないでしょう。
漫画の台詞を即作者のメッセージと脊髄で反射する前に、少しは頭を冷やして「キャラクターの言葉」として捉えてみてはいかがでしょうか。「登場人物の心情を汲み取りましょう」と現国の時間に教わりませんでしたか?
展開を考えれば、松前洋平の言葉は、彼としては無理もない感情の発露だと思われます。
そもそも当時の日本人は(漫画でも史実でも)、五族共和だの八紘一宇だの大東亜共栄圏だのを大宣伝し、アジアの家長気取りでした。そのことをよく知っている同時代人が、民間人の万単位での虐殺など見たらどう思うでしょう。「これが正体か」と思って当たり前ではありませんか。
まして松前洋平は、日本人がアジアとの共栄を選んでくれることを彼なりに信じ、日本を含めた大アジアのために戦ってきたのです。その理想も見通しも、彼は自分の故国に踏みにじられたことを目撃した、それが第88話であることを念頭に置く必要があります。
。
ショッキングな体験をした正義の味方が激情に駆られ、「俺は間違っていた、この腐った人類になど守る価値はないのだ!!」などと叫ぶことは、よくある展開ではありませんか。その後『デビルマン』や『マーズ』のように本当に人類を滅ぼして最終回を迎える漫画もありますが、あくまで少数です。相場としては主人公たちの人間性に触れ「そうだ、人間にも素晴らしいヤツがいるんだな」などと言い出して仲直りするのが多数派のパターンです。
松前洋平が主人公らと再会し、「そうだ、日本人にも素晴らしい人間が残っているんだ」と言い出すベタベタな展開にならなかったという証拠はどこにもありません。
その7.お前のような第三者がいくら擁護しても、本宮と集英社は11/11にヤングジャンプ誌上に謝罪文を出しているんだ!本人が罪を認めている以上、お前の擁護など関係ない!
ああそうですか。
その謝罪文が、本宮氏や集英社の自発的信念に基づくものならば構いません。
しかし公表された事実によれば、謝罪文を要求した西村修平氏は、ヤングジャンプ編集長に対し次のような行動に出ています。トップページにも置きましたが、再掲しておきましょう。
「私は集英社の編集長に雑誌を叩き付けて言ってやったんですよ、
もし本宮のマンガを見たシナ人がここに描かれている事を真に受けて
おたくのお嬢さんをレイプしたらアンタどうしますか
それでも許せるんですかってね。」
この言葉はTVを見た方の記憶に基づくようで、編集長ではなく広報室長の間違いだという話もあります。
ここには、最低でも一件の暴行。そして編集長に「お嬢さん」がいる事実を調べ上げているという通告、さらに「シナ人」のせいにしてはいますが娘さんがレイプされる事態の暗示という脅迫行為をも、含まれているのではないでしょうか。
以前にも書きましたが、西村氏は威力業務妨害罪を犯して執行猶予中の右翼幹部(2ちゃんねるで韓国嫌いの人を「おまえはウヨ」とか言ってるレベルではなく、本物の右翼団体幹部)です。その犯人がこうした発言をするということは、娘を持つ父親にとってどういう効果をもたらすでしょうか。
しかもこの文章は、「ゲラ刷りの段階で西村修平の確認を受ける」ことを確約させられていることが公表されています。暴行脅迫行為を行ったその当事者による検閲を通しているのです。
謝罪文は明らかに圧力の結果であり、自発的信念に基づくものでないことは明白です。