赤い向日葵
どうして、出会ってしまったんだろう。
出会わなければ、こんな思いを知ることもなかった。
出会わなければ、こんなに満たされることはなかった。
背中あわせの矛盾。けれどもどちらも真実。
「私は罪を犯しました。
・・・人を殺めてしまいました。
けれど、一番罪だと思うのは、それに罪悪感を持っていないことなんです。
それどころか、すっきりした、というのが一番しっくりくる私の心情です。
殺した者は私に消えがたい苦痛と屈辱を与えました。
けれど、そのことを塵ほどにも思っていません。
しかも、のうのうと日常を生きていたのです。
それが私には許せませんでした。
そんな人間に生きていく資格なんてあるんでしょうか?
ありませんよね。
まぁ、それが人を殺して良いという免罪符になるとは思っていません。
だから、この神の家に懺悔に来ました。
けれど、やはり、殺したことに関しては、悪いとは思ってないのです」
ステンドグラスが様々な色の光を床に分けている。
この教会の中には、沈黙がゆったりと流れている。
「吉良、まだここに居るの?」
「・・・もう、帰らないよ」
吉良と呼ばれた青年は、教会の床に座りこんでいる。
その姿は凄惨だった。
白いTシャツであっただろうものは、真っ赤に染まり、白い手には血のりがべっとりとついていた。
黒い髪が頬にかかる。
その髪を払うことさえ億劫そうな表情には、何の光も見出せない。
「真架は帰れ」
吉良は手を払うような動作をした。
帰れ、ということらしい。
「嫌だ」
真架はその動作を見て、首を振った。
「俺はすぐに追われる身になる。お前は家に帰れ」
「嫌・・・嫌だ。一緒にいる」
「駄目だ」
睨みつけると、気弱そうな表情をするが、ややもすると首をかしげ一番聞きたかったことを尋ねた。
「・・・どうして、殺したの?」
「・・・・・・」
「吉良が言えば、私が殺したのに」
「・・・俺が殺したかったからだ。俺にあいつは酷いことをしたんだよ」
「そうなの?」
「ああ」
じゃあ、と真架は身体を乗り出す。
「吉良に酷いことをすれば、殺そうと思うほどに私のことを思ってくれるの?」
「・・・どうだろうな。憎むか、殺そうと思うか、愛しいと思うか・・・」
「どれでもいい」
「じゃあ、俺を殺してくれないか?もう、いい。どうでもいいんだ。
憎しみは昇華されて、俺はもう生きなくてもいい」
「死んだら、私をどうも思えないじゃない」
「死ぬ時の強い思いは残るんだって言う」
「そうなの?それだったら、吉良の言うとおりにする」
だから、と微笑む。
「吉良、愛してるの。だから、私を思って。一瞬だけで良いの。強く強く私を思って・・・」
「私は罪を犯しました。
・・・人を殺めてしまいました。罪・・・?
違うな・・・私のしたことは罪ではないですね・・・。
何故って?
彼が望んで、私が手を下したから。
だって、私は彼の望みをかなえることが出来て、とても満足しているんです。
彼は悩んでいました。
私はそのことに気づいていました。
それなのに、何もできない自分に歯がゆさを憶えていました。
けれど、私は彼の苦痛を止めることができたんです。
とても、満足です。
これからどうするのか?
・・・さぁ・・・どうしましょうか・・・」
血まみれの向日葵が風に揺られて笑ってる。
END
Presented by yutori