夢のあと

 

 

 

 

 ずっと、見ていたんだ。

 僕は、君が・・・。

 

 

 「星、成果はあったのか?」

 星は、がっくりとうなだれていた。

 成果がなかったことぐらい、容易に想像がつく。

 「・・・お前か・・・、いや・・・駄目だった」

 その黒の瞳が悲しげに細められる。

 星を悲しませることができるのは、その、心に住む者だけ。

 ―――心がきしむように、痛い。

 

 

 星は「死神」と呼ばれる存在だ。

 一般に、知られている存在ではない。

 現れるときは、その人物の死ぬときだ。

 

 ただ、死神を降りるときがある。

 その時、僕たちは「人」になることができる。

 そんなこと、まったく利点がないが、数百年に一度、そんなことをやる死神が出る。

 今回も、そんな酔狂な死神が出た。

 同朋、月と呼ばれた青年。

 

 

 星は月が好きだった。

 そんなこと、周りは皆、分かりきっていた。

 分かってなかったのは、月だけだ。

 

 

 地上から帰って、星はふさぎこんだままだった。

 見ていられないほど。

 「星、月が追いかけていった女、連れてきたら?」

 そうすれば、月は戻ってくるかもしれない。

 そう言うと、星は自虐的に笑った。

 「やろうとした。けど、返り討ちにあったよ。月に」

 「・・・・・・」

 痛いところを突いてしまった。

 星は、唇をかんで、目を伏せる。

 

 「だったら・・・」

 「?」

 星は疑問を表情に浮かべ、僕を見上げる。

 「だったら、僕を、月の代わりにすればいい」

 僕の身体は、ほろほろと崩れていく。

 代わりに現れたのは、月と呼ばれた青年。

 「僕が君の側にいるよ」

 「・・・馬鹿にするな。そこまで落ちぶれちゃ、いないさ」

 星はすっと、目をそらす。

 「これは僕が望んでいることだ」

 「天使様のお優しい心ってか?」

 口の端が皮肉げに歪む。

 「・・・僕が堕天した理由を教えてあげようか?」

 「・・・・・・」

 僕は過去、天使だった。

 青い瞳の天使。

 今のこの赤い瞳、黒の髪は堕天の証。

 

 

 天使は清らかな存在。

 死に何度も手を染める死神という存在には、普通近づかない。

 けれど、僕は・・・

 「君を愛したから」

 そういうと、星の瞳が驚いたように見開かれた。

 「・・・別に責任取れとか言ってるわけじゃないんだよ」

 ゆっくりと、星の頬を、指先で撫でる。

 

 あぁ、このまま傷つけて、目も当てられないほど、この綺麗な顔を無様にしてやりたい。

 そうすれば、この孤高の存在は、僕だけのものになる。

 

 「悲しいことに、君は僕のものじゃない」

 それは哀しい事、けれど・・・。

 「僕は君のものだ・・・」

 それは、唯一の、僕のよりどころ。

 「・・・一緒に消えてくれるか?」

 星は僕の方を見た。

 「・・・いいよ。君が望むなら」

 僕は星を抱きしめた。

 

 

 空には、血を垂らしたように赤く丸い月がぽっかりと浮かんでいる。

 

 

 

 END

 

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