戦火に残された希望-プロローグ-

日本公式サイト-タウンクライヤー-より

ニスタル(Nystul)は研究室の椅子に腰掛け、永遠とも思える時を経たかのような古い革表紙に飾られた大きな本に顔をうずめていた。老魔道士は静かに息を吸い込みながら顔を上げると、傷を付けまいとゆっくりと古書を閉じた。古書にはかつて強力な神秘の力が秘められていたのだろうか、やんわりと青白い光を放っている。
ある者はそれを信じてやまない。『真実の本』…ほとんど人の目に触れたことのないその古書がニスタルのもとへ届けられたのは今日の昼前のことだった。ライキューム研究所(Lycaeum)のどこかに納められていると言われながらも、具体的には誰もその正確な場所を探す術を知らずに今日まで保管されてきたのだ。

ニスタルはライキュームに入ってきたマリア(Mariah)が教壇から何かを手に取り、また部屋を出ていく様子を見つけると、アノン(Anon)に向かって微笑を投げた。アノンは険しい表情をあらわにしたが、ニスタルは気にとめる風もなくなおも微笑み続けていた。 彼の怒りは、ニスタルが計画のすべてをすでに実行してしまったことに違いないのだが、何にも増して自分がその計画に参加できなかったことに他ならなかった。 しかし、古い友人でもあるアノンがそのことを理由にニスタルを憎むなどあり得ないことをニスタルは知っていた。

『いつの日か』彼は考えるように続けた。『すべては丸く収まるじゃろう…』

ニスタルは、元々想像や予測に頼るような人物ではなかったが、かつてそうだったように若さによる理論を振りかざす若さを保ってはいなかった。 若い頃には偉大なる魔道士として名を馳せたものの、今ではその呪文の一つ一つが彼の命の活力を奪っているかのように思えた。 彼は苛立ちから足を踏み鳴らしていた。年老いた魔道士の人生最大の目的を成し遂げるには、どうしてもあと1つだけ必要なものがある。 パズルの最後のかけら。それはデュプレ(Lord Dupre)とジョフリー(Lord Geoffrey)の両卿の手に握られているはずだ。

ニスタルは燭台の置かれている部屋の反対側に視線を向けた。 クリスタルで作られたランタンのような「愛の蝋燭(Candle of Love)」は、FoA(Followers of Armageddon)による問題が起きるまでエンパス修道院(Empath Abbey)に密かに安置されていたが、 今では何事も起きる気配もなく黄色がかった柔らかな輝きを落とし続けている。

『ジュリア(Julia)…』ニスタルは呟くとため息を漏らした。
『いつの日か』そして続けた。『おまえの意思を引き継ぐものが出てくるじゃろう。だが、決しておまえの名が人々の記憶から忘れ去られることがあってはならん…』

ニスタルは燭台の隣に古書を置いた。すると蝋燭の明かりが革表紙の青い光と交わり、鮮明な緑色の輝きを見せた。

『正義…』ニスタルは呟くと優しく微笑んだ。

この2つの物はソーサリア三大原理のうちの2つを具現化したもの、そして3つ目こそが彼の友人達がサーペンツホールド(Serpents Hold)から持ち帰えるはずの「勇気の鐘(Bell of Courage)」だ。 その旅には両卿が必要だった。唯一、鐘の正確な場所を知るデュプレ卿、そしてジョフリー卿だけが台座から取り外すことができる。ニスタルは先に彼らと相談した計画を再び回想していた。

『それが重要じゃ…』老魔道士は自分に言って聞かせていた。

そのときだった。デュプレが険しい面持ちで戸口に姿を現した。

『デュプレ!鐘は持ち帰ったか?』ニスタルは願うように訊ねた。

『だめだ』デュプレが吐き捨てるように言い放った。

『それと持ち帰ったという栄誉もな』ジョフリーはそう言いながらデュプレの脇をすり抜けると、薄暗い明かりの灯る小さな部屋に入ってきた。

『だめじゃと?何が起きたんじゃ?』ニスタルは困惑した顔で質問を投げた。

『粉々さ』デュプレは息を吐くと剣の鞘を強く床に叩きつけた。

『粉々?一体なぜに…、場所を知るものは誰もいなかったはずじゃぞ!』

『台座の置かれた床の上にこれが残されていたんだ』ジョフリーは束ねたカラスの黒い羽を勢いよく放り投げた。

『魔女か!』ニスタルは激怒した。『ミナックス(Minax)が何故鐘の隠し場所を知っていたのじゃろうか』

『そうであるなら、私にもそれは分かっていたはずだが…』デュプレは、ため息をつくと小さな椅子に腰掛けた。

ニスタルは一瞬凍りついたかのように固まっていたが、生きている証拠に再び瞬きを始めた。

『デュプレ、それについてはまた後で考えるとしよう。今は新しい鐘を造り出す方法を見つけることが先決じゃ』ニスタルは彼の書棚に近づいていった。

『新しい鐘を造るだって?』疑問にはジョフリーが最初に反応した。

『ああ、そうじゃ。元からあったものも何らかの方法で鍛造されたはず。何も希薄な空気から沸いて出たわけではないはずじゃ』ニスタルは中空に両手を掲げながら伝えた。
『これら3つの物はすべて、徳自身の持つ神秘の力を使うことで誰かの手によって造られたことは間違いない。そう、今では時代遅れともとられがちな三原則、真実、愛、そして勇気を使ってな…』

デュプレは顔を上げた。『我々は何をすればいいんですか?』

ニスタルは微笑んだ。『まずは休息を取るんじゃ。おまえたちの顔はどう見ても何日も寝ていないように見えるぞ』言い終わるとニスタルは戸口に向かって指を差し出した。

2人はうなずくと部屋を去っていった。

ニスタルは椅子に崩れるように座り込むと深々とため息をついた。

『卑劣な魔女め…』彼は噛むように低い声でつぶやいた。

デュプレとジョフリーが部屋を去ったことでニスタルの緊張はやや薄らいだようだ。 朝には一番で旅に出なければならないことは分かっているのだが、時が過ぎるのが妙にゆっくりと感じられた。 老人は立ち上がると古書を書棚の元の位置へ戻して寝室へと向かった。
「明日は面白くない一日となるじゃろう…フェルッカ(Felucca)のムーングロウ(Moonglow)を訪れるということは何かのトラブルが起きることしか考えつかん…」思惑は堂々巡りになっていた。


ニスタルは夜明けと共に目を覚ますと、秘薬を充分に袋に詰めてベルトに縛り付けて呪文書を片手に握り締めた。 彼は階段を足早に降り、城の広大な中庭に出ると、人気のない朝焼けの中、ガード圏外まではわずか数分の事だった。 圏外の森の中に入ると、ニスタルはムーンストーンを足元に置き、それが大地に吸い込まれていくのを見守った。 次の瞬間、面移動のゲートが開き、ニスタルは駆け込んで安全なトランメル(Trammel)を後にした。

ニスタルの寝室へ辿り付いたデュプレは拳で強く扉を叩いた。

『ニスタル!』彼は大声を上げた。

デュプレは返事がないことを確かめると踵を返して廊下を駆け出した。衛兵に目を留めると詰め寄った。

『ニスタルを今朝見かけなかったか?』

『はい、デュプレ様。ニスタル様はつい数分前に城を後にされました。』

デュプレは懸念そうな顔つきになりさらに訊ねた。『行き先について何か言っていなかっただろうか?』

『いいえ、私は声をお掛けしませんでしたので、単に出て行かれるニスタル様を見かけただけです。 そして、ちょうどこの城壁から見える遠くの方で、ニスタル様が森の中へ墓場の方面へ向かわれるのを目にしました。』

『恩に着るよ』デュプレはジョフリーが待ち構えている中庭へ向かって、階段を稲妻のように駆け降りていった。

『まだ起きてなかったのか?』ジョフリーは驚いた風も見せずに訊ねた。

『いや、それが…』

ジョフリーは納得させようとデュプレの肩に手を乗せて言った。『デュプレ、おまえの見た夢はつまり、ただの夢ということさ』

『ああ、そうならいんだが…。しかし、これは放っておくわけにはいかない。彼の身に危険が迫っているのは間違いない』デュプレは続けた。『せめてニスタルの後を追ってみようじゃないか』

ジョフリーはうなずくと、2人は旧友を求めて歩き始めた。


強い風が吹き上げると、ニスタルがゲートから姿を現した。砂埃が収まり、フェルッカの傷つき変わり果てた大地を目にした老人の胸は空しさに包まれていた。 彼はバッグの中をまさぐると一冊のルーンブックを取り出した。

ルーンにマークした地点からライキュームまではさほど遠くない。捜し求める知識の記された本はフェルッカから持ち出されることなく保管されているはずだ。 本の保管場所については魔道士評議会(Council of Mages)でも意見が分かれ、論争が繰り広げられた経緯があったのだが、 最終的には街の統治のために戦う派閥魔道士たちの意見を尊重して、フェルッカの地に保管されることとなった。

『Kal Ort...』ニスタルの集中力が途切れた。何者かの気配をその場所に感じとったのだ。

『久しぶりですな、ニスタル殿』背後から声が掛けられた。

ニスタルがゆっくりと振り向くと不思議な格好の人物が目に入った。 その人物は珍しい灰色の鹿製のマスクをかぶり、奇妙な杖を手に携えていた。そして、ぼんやりと黒っぽいオーラに包みこまれた人影にニスタルは寒気を覚えた。 朝の光はまだ暗く、ニスタルが鹿マスクの下にある顔を確認するには多少の時間が必要だった。

『きさま!』彼の感情は一気に高まり、声は罵りに変わった。

『ほぅ、覚えていてくれましたか』その男は答えた。

『魔道士との唯一の和平への道を閉ざした貴様を忘れるわけはなかろう』ニスタルは唸った。

『それは違いますな。あなた方の間に起きた亀裂を誤魔化すための嘘、あるいは見栄だったのではないですか?
私はただ真実を述べたに過ぎない。そう、あなたの嫌いな真実をね。どうです、ニスタル殿?』

『すべてを語るべきではない状況もある…』ニスタルは息を吐いた。
『アノンやその仲間達は確かにすべての真実を解き明かすための議論をして止まないが、世の中の知識にはその危険さから白日の下にさらす必要のないものもあるのじゃ』

『ほほう、あなただけはその真実を求めるに相応しいとでも?』その声は忍び笑いを含んでいた。

『相応しいかじゃと?』ニスタルは続けた。
『わしには判断はつかん。しかし、知識を手に入れる運命にわしがいた。分かるのはそのことだけじゃ。さぁ、立ち去ってくれ!わしには急がねばならない用事があるのじゃ』

男は笑い出した。『もし嫌だと言ったら?どうしますか、ニスタル殿』

『レブロ(Revlo)、わしはおまえを傷付けなくはない』ニスタルは歯軋りしながら答えた。『それとも近頃は別の名前を使っているのか?プロフェット(Prophet)あたりはどうじゃ?』

レブロは再び笑い出し語った。『私は選ばれし者、あなたが理解することもできないような強力なパワーに選ばれた者だ』

『おまえの魔力などわしが怖がると思うか?』ニスタルは応戦の構えでいた。

レブロは笑顔と共に姿を消した。次の瞬間には、ニスタルの背後から低い声が響いて肩に両手が乗せられた。

ニスタルは即座に振り向いたが、またもレブロに背後を取られてしまった。

ニスタルは立ちすくしていた。『これは一体…』

レブロは複数のコーラスのように響く声で語った。『我々はおまえ達の想像を絶する存在…。おまえ達の夢の背後に忍び寄る黒い影、そして最上級の恐怖。我らは畏怖そのものである』

ニスタルの肩に掛けられたレブロの手の冷たさが移動し始めた。指の一本一本から冷たさがニスタルの心臓へ向かって進むと、凍りつくように身体が震え出すのを感じた。 かつて老人はこれほどの恐怖を味わったことはなかった。

『ニスタル、これで我々の恐ろしさが分かっただろう』声がこだました。

身体全体に冷気が回るとニスタルは膝から崩れて落ちていった。そして、朝焼けの風景がしだいに老人の視界から薄れていった…。


ニスタルは自分の寝室で目を覚ました。起き上がると全身が硬直しているかのようだった。

『友よ、休んでいてください』デュプレが微笑んだ。

『何が起きたのじゃ…どうやってわしはここへ?』ニスタルはめまいと格闘しながら訊ねた。

『私達が見つけました。ちょうどよいタイミングだったようで』ジョフリーは暖かいエールを差し出した。

『その通り、あなたが恐ろしい痛みに苦しんでいる悪夢を見たんです。その後すぐに様子を見に伺ったのですが、すでにあなたは旅立たれていた。 急いで森へ駆け込んでみると、ちょうどあなたの出した面移動のゲートが消えるところでした。ジョフリーはムーンストーンを調達するために街へ戻り、私達はすぐに追いかけたのです。 フェルッカに到着すると、あなたは膝立ちのまま苦痛に顔をゆがめていて、その上にWraithが覆い被さっていた。 ジョフリーがとっさに攻撃を開始して決着したと言うわけです』デュプレがいきさつを説明した。

『魔法なんかには頼る必要はなかった。単純にやつを地面に叩きつけると、デュプレが押さえつけてくれたしな。 どういうわけだか、妙に嫌な気分がしたんだけど、二度とあの断末魔は聞きたくはないよ。』ジョフリーが言った。

デュプレは思案げな顔つきになり次のように語った。『そうなんです。自分でもよくわからなかったんですが、どうもあのWraithに大きな嫌悪感を覚えました』

ジョフリーは笑い出した。『きっとおまえさんの口臭だったんじゃないか?』

デュプレは苦笑いするとニスタルに視線を向けた。

『ニスタル、何を考えているんですか?』デュプレが訊ねた。

『何かではなく、誰かを考えていたところじゃ』ニスタルはそう言うとエールを口に含んだ。

『あれが誰か人物だったと言うのですか?』ジョフリーは混乱した面持ちで聞いた。

『ああ、あれはレブロじゃ。毎日のように勢力を拡大しつつあるシャドーロード(Shadowlords)のカルト集団を創設した者じゃ。』ニスタルはため息をついた。
『やつらの存在は虚空の幻影に過ぎないと思っていたんじゃが、それも今では信じられなくなってしまった。 やつはわしが瞬きをするよりも早く風のように移動することができる。やつの声は増幅して、指先でふれるだけでわしの身体を麻痺させることもできた。 恐らく、その力は我々が見たこともない悪魔的な存在に直結しているのかも知れん』

『ところで、なぜ1人で旅に出たのですか?』ジョフリーが訊ねた。

『ライキュームに眠る2冊の本を単に持ち帰る…、ほんの遠足程度の気持ちでいたのじゃが…』ニスタルはゆっくりと椅子に深々ともたれかかった。

『それならば本の題名を教えてくだされば私達が持ち帰ってきましょう。いずれにしても、あなたには休息が必要です』デュプレが優しく語った。

『ああ、そうさせてもらうよ』ニスタルは巻物に何かを書き込んだ。『この2冊の本をわしに届けてくれ。きっと新しい鐘を造るための手がかりを見つけることができるはずじゃ』

ニスタルは眠りに落ちてしまった。


『デュプレ、俺は心配でたまらない。ニスタルは俺達の知る限り最も強力な魔道士のはず。レブロはその彼を指先1本で跪かせる力を秘めているんだぞ』

『ああ、その通りだジョフリー。だがどうしてそいつは俺達の前から逃げたりしたんだ?』

『さっきも言ったろう。おまえさんの口臭に違いないってな』ジョフリーは笑顔を見せた。

『そうだったのかもな』デュプレはクスクスと笑い出した。『さあ、本を取りにいくぞ』

『ああ、そうしよう』ジョフリーはうなずき、そして2人は旅立っていった。


デュプレがニスタルの部屋の扉を叩いた。しばらくすると、まだやつれを隠せないニスタルが姿を現して彼とジョフリーを部屋に招きいれた。

『本は持ち帰れたのか?』ニスタルは自分の机に向かって足を進めながら訊ねた。

デュプレは悪戯そうな笑顔でバッグから2冊の本を取り出すと、疲れ果てた魔道士の前にそれらを置いた。

『途中、何事もなかったのか?』ニスタルが問い詰めた。

ジョフリーが話に割って入った。『些細なことです。適当にこなしておきましたよ』

ニスタルは怪訝な顔で訊ねた。『どのくらい殺したのじゃ・・・』

デュプレが答えた。『ただの1人も殺していません』

『ただ…衛兵には2名ほど休んでもらいましたがね。意識を取り戻せば元通りになるはず』ジョフリーが笑った。

ニスタルは安堵のため息をついた。『派閥抗争は血生臭いものじゃが、使命を忘れることなくよく頑張ってくれたな。 誰の命をも奪うことは避けたいが、時としてそれは贅沢な望みとなることもある。何事もなくこれらの本を持ち帰ってくれたことに礼を言うぞ。後はわしに任せてくれ』

『ニスタル殿、お身体の方はもう大丈夫なのですか?』デュプレが眉をひそめて訊ねた。

『ああ、ありがとう。悪魔との遭遇で確かに疲れてはいるがな』ニスタルは渋い顔をした。
『さあ、おまえたちはいつもの仕事に戻ってくれ。デュプレ、おまえはタイボール(Tyball)を探し出すための手がかりを見つけたのだろう?2人とも出て行くのじゃ』ニスタルは優しく言った。

デュプレがジョフリーに視線を投げると、ジョフリーはうなずき、2人はニスタルの部屋を後にした。


ジョフリーとデュプレは城の中庭を歩き始めたがすぐに立ち止まってしまった。

『デュプレ、どうもニスタルが心配なんだが…』ジョフリーが言った。

『ああ、私も同じだ。あれほど怯えるニスタルをかつて見たことがない。新たな鐘を作り出すことで少しでも自信を取り戻してくれることを祈ろう』デュプレが応えた。

『まったくだ。神殿を清めることでフェルッカでの命に活力をみなぎらせ、あの魔女を倒すきっかけになって欲しいものだ』

デュプレは振り返ると再び歩き出した。『あの魔女が鐘の在り処を知り得、そしてそれを破壊することができたということを、私は事実として受け入れるしかないようだ』

『鐘、蝋燭、そして古書に魔法が宿っていたとしても、それらがまた同時に物質的な存在であることも事実だ。そうであるなばら破壊という行為には屈することができない可能性は十分にあるんじゃないか?』

『恐らくな。では、私はこれで帰ることにする』デュプレはそう言い残すと城門に向かって歩き始めた。

『じゃあな』ジョフリーはそう言うと城の中へと消えて行こうとした。

『ジョフリー』デュプレが呼び止めた。『おやっさんを頼んだぞ』

『ああ、そうだな。そうするよ』


翌日、デュプレとジョフリーはニスタルの部屋にいた。疲労の残っているだろうと予測されたニスタルはそれ反して今日は自信に満ちているように見えた。彼は探していた知識を手にいれたようだ。

『勇気の鐘を製造するための材料リストを書き出しておいた。わしが最も恐れているのは、このうち一部の材料についてじゃ』ニスタルは腰掛けると巻物を机の反対側のデュプレに示して見せた。

デュプレとジョフリーの2人は巻物をじっくりと読んだ。

『ニスタル殿?これはあまりにもレアと呼べるものばかりのようですが…』デュプレは困惑した。

『そうかも知れん』ニスタルはにやけて見せた。『おまえたちならば、きっとこのすべてを、しかも短時間に見つけてきてくれるじゃろうと信じているぞ』

2人は互いに顔を見合わせると低く唸った。

『おまえたちは世界で最も尊敬されている人物のはずじゃ。きっと幾人もの優れた男女が材料を探す支援を申し出てくれるじゃろう。 1つ注意しておかなければならんのは、敵対する他の派閥の者達は、巧みにおまえ達の行く手を阻み、そしてこの使命を阻止しよう狙うことじゃ。 その1つ、魔道士評議会のアノンは我々がすでに真実の本、そしてフェルッカからおまえ達が借りてきてくれた2冊の本の存在に激怒するじゃろう。 ミナックスの連中は鐘を破壊したらかには、おまえたちがこれらの材料を見つけ出すことを全身全霊を掛けて防ぐはずじゃ。そして最後に』ニスタルはそこで言葉を止めた。
『最後にレブロとシャドーロードの崇拝者達…奴らの恐ろしさには底知れぬものがあるじゃろう…。どうか充分に気を付けて行動して欲しい』

『ニスタル、あのときはふいで準備が整っていなかっただけのこと。決してあなたの力が及ばないなどとお考えにならないでください』ジョフリーが返した。

『まったくです』デュプレは続けた。『ニスタル、あなた以外に自分の背後を守ってもらいたい魔道士などこの世界には存在しません』

『優しい言葉に感謝しよう。しかし、わしは憶測はせんたちでな』ニスタルは静かに言った。
『さあ、2人とも出かけるのじゃ。どうか迅速にこれらの材料を集めてきて欲しい。長い間に渡って崩壊寸前の神殿を早々に清めなければならん。 必要なすべての材料が揃った時点で役目を果たすべくシャミノ(Shamino)もすでにこちらへ向かっているはずじゃ。蝋燭と古書はすでに我らの手中にある。 しかし鐘はどうしても作り直さねばならない。時間が経てば経つほど神殿を清めるには強大な力が必要となるじゃろう。さあ、一刻も早く行動を起こすのじゃ!』

ジョフリーとデュプレは同意のしるしにうなづくと、巻物をつかんで部屋を足早に出て行った。

ニスタルはゆっくりと椅子に身体を預けた。

『友よ、どうか安全に戻ってきてくれ…』

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