陶芸Q&A
釉薬・調合・施釉
Q3.ところでラスター天目って?非結晶体(←これって世に言うアモルファスですか)でないとダメなんでしょうか?高温灼減成分って何ですか? 珪酸分では焼成でガラス化しないんでしょうか?
A3.ラスター天目は、その名の通り、ラスターがかっている状態ですから、一目で分かると思いますよ。虹色の加減が、大きいですよね。もし、小さいようでしたら、それは還元落としの時間が短いものと考えられます。
え〜と、それから、釉の成分の質問ですね。
非結晶はアモルファスが大切なのではなく、高温でイオン化するかどうか(つまり、分解しやすか)が問題になります。釉薬に使用する原料でも、青磁で発色する鉄の青はイオン化が必須の条件ですから、酸化第二鉄(結晶)よりも第一鉄(非結晶)を使用します。辰砂を作る場合も(これは本来、イオン化した後のコロイドという再結晶がポイントですけども)、酸化銅よりも炭酸銅などを使用して反応を促進させます。通常の基礎釉の場合も、石灰分に白石石灰よりも、ネズミ石灰を使用するのはその為です。従って、灰を使う際にも、通常、焚き火などで出来た白い灰は反応性が良くありません。(とくに藁灰。)くすぶらせて長時間低温で焼成した黒い灰が使われます。ただし、ここで出来る黒は当然、炭素ですから、焼成中には揮発して(揮発じゃないですけども、なくなってしまいます。これが、高熱灼減成分です。高熱灼減は、大体が炭素と水(物理的結晶水)ですけども、木灰は、この成分が多く(有機物ですから当たり前ですけども)、葉になると、殆どがその成分です。つまり、なくなってしまう成分が多いってことですね。
珪酸分は、おっしゃるとおりガラスの成分ですが、葉っぱの釉薬はガラスの成分が多すぎて、木灰のような扱いは難しいという事です。カルシウム分を別に入れれば問題はないでしょうが、入れないと、釉薬にはなりません。珪酸分は単体では釉化する温度が極めて高温ですから、フラックスとなる物を入れないと熔けませんからね。
Q9.上絵具は、釉薬じゃないの?
A9.簡単に言うと、上絵具は釉薬です。
ただ、普通、器に掛ける釉薬が1250度内外なのに対して、上絵具は650〜800度でガラス化するようになっている「低温釉」という分類に入っています。(ちなみに、1250度あたりで熔ける釉薬を「高温釉」というわけですね。)
では、なぜ、「上絵具」などと言うかと申しますと、本来は、高温釉のように全面を着彩するためのものではなく、線や、ある程度の面をぬるための、いわゆる「絵を描くため」の釉薬だからです。つまり、「釉薬(高温釉)の上に絵を描く釉薬」ということで、正式には「釉上絵付けの絵具」と言うべきなのでしょう。(ちなみに、高温釉の下に絵を描くための着色用酸化金属を下絵具と、いいます。古伊万里焼などにある青い線描画が代表的なものですね。)
それで、Sさんが見た物は、上絵具の中でも特殊な「金彩」というものですね。これは近年になって開発された「水金」というやつで、730度で金を上絵として焼き付けるための特殊な釉薬です。一応、説明しますと、金彩は、硝酸ビスマスという金属を繋ぎにして金の膜を器の表面に付けるもので、二つの金属を溶かすために「テレピン(ターペンタイン)」という松油を精製した物を使用します。これが、Sさんが嗅いだツ〜ンとした臭いの原因ですね。(実は私、油絵科出身なので、この辺の油に関しては結構、詳しい。) で、金彩や銀彩(他にもあるけど)などのビスマス金属を利用した特殊な上絵付け以外の場合には、テレピンではなく、水に釉薬を溶かしますが、下に高温釉がすでに焼き付けてあるので、水に溶かした釉薬では流れて、絵を描く事ができません。それで、釉薬の粘性を高めるために「膠(にかわ)」という動物(主に鹿や兎)の油脂を入れてエマルジョンという状態(化粧品でもありますよね)にして、絵付けをするわけです。
あ、そうそう。ちなみに、瀬戸の磁器人形は世界最高水準のしかもシェアー世界一だそうですよ。ヨーロッパの人形でも、実はmade
in Japanというのは、知られざる事実だそうです。(Japanって表記しないらしい。)
Q12.釉薬と金属イオンとの関係
A12.「釉薬に使用する時、その物質がどれだけ釉ガラスと反応しやすいか、あるいは、釉薬に溶け込むかが問題になります。」つまり、安定な分子結合の結晶質よりも、不安定な分子結合の非結晶質の方が、イオン化して釉薬に溶け込んだり、釉ガラスと反応する可能性が高くなる。という事です。で、反応性が高くなると、釉薬が良く熔けたり、金属の発色が良くなったりするわけですね。高温状態では、分子の運動が活発になりやがて結合が外れてきますが、非結晶質の場合、その結合が外れる率が高くなると言い換えても良いかもしれません。
ですから石灰は非結晶質のものを使用する方が、珪酸との反応性が良くなり、鉄などの金属は釉ガラスに溶け込んで発色が冴えるという訳です。
Q13.イオンと鉄の発色について
A13.釉薬に使用する原料は、大前提として水に溶けないもの。つまり、食塩のように、水に入れただけでイオン化してしまわないこと。というのがありますね。理由は簡単で、水に溶けてイオン化してしまうと、釉掛けの際に素地にまで浸透して素地そのものを破壊してしまう可能性が高いからです。だから、水溶性のものは、使用できません。そうすると、鉄を釉薬原料として使用する為には、酸化第二鉄または酸化第一鉄、あるいは珪酸鉄ということになりますが、ご存知のように鉄の酸化物は安定性が高いですから、高温で釉中に溶け込ませる為には、かなり高温で焼き抜く必要があります。特に、青磁はイオン発色の典型ですし、釉中の鉄が完全に釉ガラスに溶け込まなければ、あの深い青色(または青緑色)は発色しません。そこで、安定性の弱い珪酸鉄を使用し、釉中でイオン化して釉ガラスに溶け込みやすくするわけです。
ちなみに、酸化第二鉄というのは赤色(漆の赤に使用しますから、ご存知ですね)をしており、釉として使用すると黄色や黒を簡単に出すことができますが、青磁の澄んだ青色を出すのは大変です。第一鉄は黒色ですから、天目などの黒い釉に使用しますが、青磁の青色に使用すると少々、くすみが強くなることがあります。珪酸鉄も黒色をしていますが、酸化第一鉄よりは、先の説明の通り、発色条件が有利なのです。
Q16.古い時代の色を使わないのはどうして?
A16.これは、至って単純な理由で、古陶磁の再現は、現代の科学をもってしても不可能に近いからです。では、どうして不可能か?というと、特に釉薬は、発色条件となる要素が非常に多様、かつ、複雑に関係しています。「材料の種類」「調合方法」「窯の焚き方」「焼く温度」その他諸々。とにかくそれらの条件を全て一致させないと同様の発色にはならないのです。(しかも、窯なんて本当に焼成が安定しないし。)
また、これらの事は「一子相伝」が昔から基本だったので、技術が他に流れず、相伝が途絶えたら、もう再現は不可能になってしまうわけです。一応、そうした古陶磁の再現に一生をかけている人が沢山いらっしゃるんですが、それでも、難しいんですよね。裏を返すと、それだけ陶芸というのは、複雑な物だってことでしょうか。大体、私だって、一度作ったオブジェの色を同様に再現するのが出来なくて困ることがあるくらいですから。
Q24.釉薬をあまりかけたくない所にはあらかじめ水を塗ればいいの?。
A24.これは、主に急須を作るときの常道って手です。急須の茶濾しの部分は、穴も小さく沢山あるので、何もせずに釉薬を掛けると穴が釉でふさがってしまいます。まぁ、正直言って、茶濾しには釉が掛かっていても、いなくてもどちらでも良いわけですから、水を打って素地の吸水力を弱めて釉掛けをします。
逆に、少量の水を使う(筆などで水を差すと言いますが)と、釉の付き方が良くなるので、細かい細工をしたときには、細部に必ず水を差して、釉薬が細部にまで掛かるようにします。
同じ水でも、使用する量によって、いろいろな技法が出来ますね。そういえば、先の藁灰を使用した釉薬も、緋色にしたい部分に水を打って釉薬の乗りを悪くし、薄く釉が掛かるようにすると、緋色が出ます。もし、やったことがなければ、一度おためしを。それから、火襷を出す方法で、もっとも簡単なのは、丸二陶料株式会社から出ている「火襷釉」っていうのを買う。たぶん、これって藁灰を水簸したときの上澄み液だと思うんですけども(舐めるとかなりしょっぱいし)、非常によくでます。これを吹き付けてから釉薬を適当に塗り残して掛けると、塗り残しに緋色がでますよ。
釉薬の代わりに、ふのりに松灰を混ぜて塗ったり、歯ブラシで飛ばして焼くと、お手軽備前焼のできあがり。(こんなの、備前じゃないですけども。す、すみません。使い勝手は良いと思います。電気窯でもそれなりに出来上がるし、自分の思ったように緋色が付きますしね。ただ、見る人が見ると分かるので、それが難点ですけども。
Q28.柿衛門に代表される白と、白薩摩に代表される白とは
A28.柿衛門に代表される白と、白薩摩に代表される白とは、素地の性質が180度くらい違うので、あのような瀬戸のサラッとした白と、薩摩のぬっぺりとした白との差がでます。瀬戸の磁器土は、その主な主成分が珪酸という「ガラス質」の物質で、この物質が多くなると「透過性」という光を通す性質が強くなり、その上に赤をのせると、幾分、発色が強調されます。
一方、薩摩白は、カオリン(カオリナイト)という土が主成分なので、ガラスの白い発色とは違い、透過性はありません。また、カオリンは良質の物であっても鉄やチタンがガラス質のものよりも多いので、白の発色に、それらの物が関連して、純白の白さを出しにくいようです。そうした、カオリン質の白に、あの柿衛門の赤をのせると、少々、赤が濁って(くすんで)見えることが多いため、どちらかというと、柿衛門赤よりも透明度のある赤を使用することが多いようです。 ちなみにカオリンとは一次粘土という、熱水作用を受けて鉱物が変化した粘土の名称ですが、その語源は高嶺山(たぶん、本当は「カオリンさん」と読むんだと思う)という中国の山に堆積する白色の粘土にあります。
で、そのカオリンの構成鉱物(粘土)の大多数を占めるのが「カオリナイト」という結晶形態を持つ粘土です。
Q29.貫入について(この他の詳細は電脳陶芸・第二回「貫入の話」を参照してください)
A29.貫入の入り方が変わる最も大きな原因は、土そのものの変化と言うよりも、土と釉薬との膨張収縮率の差にあります。だから、釉薬が全く質的に変化せず、土だけが変わったとすれば、貫入の入り方が変わるのも分かりますが、果たして、釉薬の性状変化がどうなったのかを調べなければ、ハッキリとした事は言えないように思います。
基本的に、貫入の大きさは、表面積変動の大小によるんでしょうが、それに加えて、シリカ四面体の成形によるネットワーク連携の大きさっていうのも重要なんだそうな。(でも、あんまり意味が良く分からないんだけどもね。)私が分かる範囲でお話しすると、早い話が、釉や素地が、どれだけガラス化しているか、ということなんだと思います。つまり、磁器素地に磁器釉をかけると、貫入の発生は極めて起こりにくくなるのに対して、アルカリ成分が増して、素地が土質になると、貫入の発生は大きくなります。この事からも分かるように、原料がガラス(石英)に近づくことで、分子ネットワークが強固になって、貫入の発生も少なくなるんじゃないでしょうか。
ところで、シバリングが発生しているか、していないかを見極める、最も簡単な方法は、「なんでも鑑定団(テレビ東京)」の中島鑑定士さんがやっているように、指で軽く器を弾いて、音で確かめてやるものでしょう。(たぶん、中島さんも、シバリングの有無や、焼き締まりの良し悪しを、あれで調べているんだと思います。)この時、キーンやカーンといった澄んだ音がしていれば、器にシバリングは起こっていません。シバリングがあるときは、コッコッっといった、伸びの悪いくすんだ音がします。(これがまた、妙に悲しい響き。)
ちなみに、貫入は、最初から細かい物が入ることはありません。まず、ながーいものが一本、また一本と入り、やがて、それらの線の間を等分割するように、徐々に貫入が入って、お馴染みの貫入模様になっていきます。私の経験では、長いものだと、半年ぐらいかかって、やっと貫入の模様になったものもありましたから、それほど気にすることもないのではないでしょうか。(ちなみに、早い物だと、半日くらいでそれらしくなりますが。もっとも、その後も徐々に貫入が増えます。)
Q32.釉薬の色の話をちょっとだけ
A32.皆さんご存知の通り、陶器には様々な色が使用されています。これらの色の殆どは、着色用酸化金属という高温で焼いても色を失わない(あるいは化学変化を起こして発色する)金属によって付けられているもので、最近では、いくつかの金属をあらかじめ反応させて、高温でも色が安定するように科学的調合を施した「顔料」というものも作られ、陶器で使用できる色は日進月歩で増えています。
ただし、そうした顔料が増えたために、自分が欲しい色を出すためには、それらの顔料を複数混合すれば、複雑な色が作れると思っている方が多いようですが、実は、陶器の色は、そうした単純な混色作用ではありません。
油絵を描く方は、ご存知だと思いますが、色を作る技法には、パレット上で絵の具を混合する「混色」と、画面に油で薄く溶いた絵の具を何層も重ねて色を作る「重色」という二つの技法があります。先の、釉薬に顔料を複数入れるのは、「混色」にあたります。一方、下の土に、何らかの色を付け、更にその上に透明度の高い色付きの釉薬を掛けて複雑な色をだすのが、陶芸における「重色」です。
特に、釉薬は、その成分がほぼガラスですから、素地の色を透過して釉薬の色と純度が高いままの発色で重色されるのです。そして、実は、陶芸の色の深みは、この重色に因って得られる事が多いのです。
一方に「土味(つちあじ)」という言葉があります。これは土を食べたときの味を表現した言葉ではなく(当たり前だって)、土の質感を表現する際に用いる言葉です。この土味は、土の粒子の大きさや、土に含まれる不純物の違いによって語られ、粒子が荒く「石はぜ」と呼ばれる不熔な石が入っている土は「厳しい」とか「男性的」といった土味の表現がされますし、粒子のきめが細かく、不純物も極めて少ない白い土は「柔和」とか「女性的」といった表現がされます。勿論、それら土味の異なる物に同じ釉薬を掛けると、おのずとその感じは変わってきます。
また、土は、単純な視覚的効果の違いと同時に、高温焼成で表面の釉薬が溶けた際に、その釉薬と反応する時の成分の違いも大きな要素となります。科学的な詳細は(頭が痛くなりますので)省略しますが、土には「陶器質、磁器質、せっ器質」という、3つのタイプがあり(本来は、焼成後の吸水率を基準にした区分ですが、普通は質の違いと解釈されます)、同じ白い土であっても、タイプが異なると釉薬の色は非常に変化します。
この辺は、実際に色々な土を焼いてみて、視覚的に理解しないと難しいのですが、とにかく、釉薬の色の差は、釉薬本来が持つ性格によるだけでなく、素地の質感や成分の差も非常に大きく関わるということは、覚えていて損はないと思います。
Q35.瑠璃釉について
A35.陶器に限りませんが、たぶん、青や水色といった瑠璃色は、昔の人にとっては理想の色だったでしょう。瑠璃色は、空の色であり海の色ですが、その実、手に取って近くで見ることは出来ません。青は、近くでみると単なる透明色になってしまいます。その青を、何とか陶磁器に映したい。その結果、生まれた色が砧青磁であったり瑠璃であったりするような気が、私はします。
ま、これはあくまでも憶測なので、信憑性は0ですが、そう考えて瑠璃色を器に使用すると、また違った面持ちもあるのではないでしょうか。
ところで、瑠璃色を発色させるために使用する酸化金属をコバルトと言います。コバルトは1720年頃にドイツのマイセンで使用され始めた金属で、その歴史は比較的新しいものです。
この金属は、非常に着色力が強いのが特徴で、極少量(1〜3%)を釉薬に混入させるだけで、きれいな青〜紺色の発色をします。ただし、産出量が極めて少ないために、非常に高価です。油絵を描く人はご存知だと思いますが、チントではない本物のコバルトブルーは、泣きたくなるほど値段が高いですよね。しかも、値段が「時価」という、非常に不安定な値段なので、大量に買い込むときには、かなり買い時を慎重に厳選しなければなりません。
ま、とにかく着色力が強いのですが、その着色力は、実は釉薬と反応をしないと(もう少し分かり易く言うと、ガラス成分と反応しないと)期待できません。依然、陶土と磁土にコバルトを混ぜて焼いたことがありますが、どちらも5%以下では、瑠璃の特徴的な青色にはなりませんでした。(磁土の方は、それでもパステル調のきれいな青にはなりますが。)但し、コバルトを混ぜた土に透明釉を施釉して焼くと、瑠璃ほど強くはありませんが、少々濁った、やや薄い瑠璃色に発色します。これは、素地表面にあったコバルトが、釉中に熔けたり、釉薬と反応して発色した色でしょう。
このように、コバルトは釉薬に熔けて、青や紺色を出しますが、その被服力は以外に強くはなく、素地の色の影響を受けます。つまり、素地の色が変わると、瑠璃の色の感じも変わるのです。
前々回、重色の話をしましたが、クロムなどの金属に比べ、発色は強くても、被服力が弱いという特殊な効果を利用して、瑠璃釉の色の深みは調節することが出来ます。
Q38.施釉時の注意事項?
A38.釉薬で最下層に沈殿している物質(長石)が、釉薬の根本原料です。これをしっかりと撹拌しないと、釉薬本来の効果は出ません。従って、当然、底の塊はしっかりと溶いて下さい。また、文中で何も触れていませんが、施釉は撹拌直後に行わなければ意味がありません。また、施釉直前には、釉に指などを入れて釉が付くかどうかをしっかりと確認して下さい。「撹拌した」と「撹拌出来ている」は全く違います。
又むやみな,1度掛け、2度掛け、3度掛けはあまり意味がありません。
先にも言いましたが、施釉の厚さは、素地の厚さ、焼きの温度、施釉の時間、濃度など、これらの複合要因が全て一致していなければ、数掛けは意味をなしません。陶芸をあまりにも数値的に考えると、こうした勘違いをしがちですが、陶芸で大切なのは「数」ではなく、経験による「勘」です。
器は作る度に厚みも違えば、素焼きの温度も微妙に違い、2度掛けしたから、かならずこれだけの厚みが確保できるというものではありません。「この土の、この素地の厚さで、この程度の釉薬濃度ならば、このぐらいの時間で、このぐらいの施釉の厚みがとれる」といった複合要因から得られる経験が大切なのであって、何度掛けという一つのファクターをピックアップして試験をしても、失敗を回避できるものではないと思います。
Q42.井戸茶碗などのみどころともなっているカイラギなんですが、これを出やすくするのにはどのようにしたらいいのでしょうか?
A42.知らない方のために、チョットだけカイラギの説明します。
井戸茶碗や萩の茶碗などによく見られる釉薬の縮れ現象で、高台(器の足の事)のちょっと上の部分に出るものです。一般に、これらカイラギのような現象は、クラックという釉縮れと呼ばれる失敗に相当するものです。ただ、茶人はこういった自然の現象(しかも、結構かっこよかったりする)を尊ぶ傾向があるので、「カイラギ」という格好良い名前が付いていますね。
ところで、本来は、鮫の肌のようだという事から、「鰄(かいらぎ)」と書きますが、後に、ちょっと洒落て「梅花皮」と書くようになりました。(ってことで、ここから先は、梅花皮と書くことにします。
で、この梅花皮は、粒の粗い土(普通は、砂気が多いと表現します)を使用し、これをカンナで削った際に出来る表面の荒れが原因で起こります。焼成途中で、釉薬が荒れた素地に食い付かず、剥がれた後、縮れてしまい、ああいったテクスチャーになります。
従って、正攻法でいけば、シャモット(焼粉)を多く入れた土を使用したり、大道土といわれる、かなり砂気の多い土を使用して、梅花皮を出したい部分をガリガリと削ってやれば、大方は、釉縮れが起こって、出てきます。ちなみに梅花皮が出やすい釉についてですが、昇温中に釉薬の粘土が強く、かつ溶けて梅花皮を作るためには、ある程度、釉薬に流動性がなければいけません。また、粘土を高くするためには、成分中のアルミが増えたほうが良いですから、結論は、アルミニウム含有量を増やして釉薬を溶かす。つまり、カオリンなどを少量入れて、灰を使用すれば良いって事になります。ちなみに、ベントナイトは、膨潤土って言いますが、水を含むと爆発的に体積が増え、乾燥すると非常に収縮しますから、多量に入れると施釉直後に梅花皮状態になります。(笑)通常は、珪酸質の接着の悪い釉薬の付きを良くするために、少量、使用しますけどもね。
これらはあくまでも正攻法で、先に、お話しした梅花皮の原理を応用すれば、キメの細かい土でも確実に出すことができます。つまり、焼成中(昇温中)に釉薬が剥がれたり縮れたりする状況を意図的に作ってやればいいわけですよね。
で、私の場合は、器の腰元あたりに、CMC(カルボキシルメチルセルロース)や布海苔を薄く塗り、まだべた付いているうちに釉薬を掛けています。布海苔はご存知ですよね。CMCはそれに似たもので、スーパーの洗剤コーナーに行くと「洗濯糊」という名称で売っていることがあります。ただ、たまに「○○メチル〜〜」という名前のものもあり、これは全くの別物ですが、一応、CMCと同様の効果はあるようです。
CMCや布海苔は、乾燥の際に、多少収縮し、さらに熱を加えることで剥離しますから、結構、本物らしい梅花皮を作ることが出来ます。しかし、濃度や塗る厚み等で、焼き上がりの効果も変わりますから、いろいろなパターンを試してみてはいかがでしょうか?
Q44.しんしゃ釉?
A44.これは、「辰砂」と書きます。本来は、硫化鉱物の水銀鉱石の名前なんです。つまり、硫化水銀ですね。で、こいつが、きっつい赤(というかピンク)色をしているので、それに似た色の釉薬を「辰砂釉」というようになりました。水銀鉱石の辰砂は、その色から赤色の顔料に用いられたり、昔は漢方薬にもなったそうです(勿論、硫化水銀ですから猛毒ですけどもね)。
一方、釉薬の辰砂は、硫化水銀は一切使用しておらず、「銅」のコロイドという現象を利用して発色させています。ちなみに、辰砂釉は、大抵、酸化で焼くとトルコ青に近い青い色になり、還元で焼くと赤い色になりますね。基礎釉の性質をアルカリ質に返ると、織部釉になります。
Q45.マット釉を酸化で焼く?理由
A45.マット釉というのは、分類上は「結晶釉」に属するものです。つまり、釉薬の表面に微細な結晶が析出して、それが結果的に凹凸を作り、釉薬をマットに見せるわけですね。
で、通常、こうした結晶は、酸化の場合に非常に良く出るわけなんです。結晶が出るためには、ある程度、釉薬中に「核」となる微細な鉱石が残っていなければいけないんですけども、還元だと溶けちゃったりすることが多いわけですね。だから、普通は酸化で焼いたりするって事になっているんです。
ただ、何冊か本を読むと分かると思いますが、1150度〜1200度まで還元をいれると析出が良くなるとか、冷却時に還元を入れると良いとか、作家によってこだわりや癖がありますから、必ずしもオール酸化で焚き上げる事が良いことだとは限らないんですね。そこが、釉薬の難しいところなわけです。
Q46.危険な薬品?
A46.安全性を最重要とするならば、「長石」「石灰」「カオリン」「珪石」意外は使用しないことです。石灰は校庭の白線を引いたりするときに使用しますね。「カオリン」は化粧品や豆腐の白さを強調するときに使用しますし、「珪石」はいわゆる水晶ですから、装飾品に使われていますよね。着色剤として弁柄(鉄)でしょう。
ただ、これだけでも十分に実験はできますが、何しろバリエーションが少ないので、いろいろと加えていくわけですが、ハッキリ言うと、上記のもの以外は、安全なものはありません。
釉薬は「フッ酸」以外の酸に犯されないと言われていますが、長期的に見れば、酢の物のような酸でも、十分に解け出すことがあるからです。しかし、その量が微量なので、一応、致死にはいたらないという事になるわけですね。
ただし、取り扱い上、炭酸銅(ロクショウ)やバリウム、重クロムは「医薬用外劇物」として指定されているものですから、吸い込んだら大変なので、マスクをしておくほうが良いでしょうね。
Q47.薪窯で出た灰は釉薬になる?
A47.登り窯等で出た松灰。これ、使えます。かなり良いです。無害です。ただし、灰汁が強いので、何度か水簸して灰汁を抜いておかないと、釉薬として使用するのは難しいですけどもね。灰汁は、水溶性のカリウムやナトリウムなので、釉掛けで生地の中まで浸透して、焼成中に生地を破損させてしまいます。これを防ぐ為に、先に、灰を水に漬けて水溶性の物質を溶かし出しておいて、不溶性のものだけを釉薬として使用する目的で、水簸をするわけですね。
で,続いて松灰の話。
業者から買ったものでも,おそらく,かなりの期間,水簸をされているんでしょうが,そのまま使用すると灰汁が浮きますね。もちろん,買ってすぐに使用しても,問題はないんですけども気分的に。ってことで,松灰の灰汁を完全に取るのは,かなり根気がいります。でも,ちゃんとやらないと,泣いちゃうのは自分の作品ですから,やっぱりやらないとダメですよね。ガンバッテ下さいまし。
Q52.「朝鮮カオリン」と「朝鮮カオリン(風化)」の二種類あったんです。風化という言葉になぜか惹かれてそっちを買ってしまったんですが、どう違うのでしょうか。
A52.私が今までに「ミルカオリン」「スタンパーカオリン」「風化カオリン」の3種類を見たことがありますが,原料を調合する上で多少,粉砕状態が違うという以外,色見に大きな差はないようです。(あくまでも私見ですが。)業者の方の話では,「ミルカオリン」は,トロンミルとかポットミルっていう水を使った擦機でカオリンを粉砕し,水簸したもの。「スタンパーカオリン」は,餅つきみたいにカオリンをでっかいハンマーで粉砕し,かなり粒子を細かくしてから,水簸したもの。
「風化カオリン」は,たぶん,粉砕工程はスタンパーと同種のものだと思いま
すけども,先のカオリンが大抵,ブレンドものであるのに対し,ノンブレンドに近いそうです。
ちなみに,長石などは,志野釉を作るなら風化長石って言われるくらい,釉薬の原料としては風化ものが好まれるようです。
Q54.釉薬で,特に松灰を使用したものは,場合によって弁柄や呉須絵が流れるときがある?
A54.今,使用している松灰(光沢)と,松灰半マット(先の松灰カオリンマットの,ちょっとマットが弱いやつ)は,間違いなく弁柄が流れます。松灰(光沢)の場合は,呉須も流れます。ま,どちらも松灰を40%近く入れているので,そうなるんだと思いますが,もし,流れるのが困る場合は,松灰の半分以上を石灰に置き換えることをお薦めします。
Q55.松灰釉の調合で長石は何を使用すれば良かったのか?
A55.現在,陶芸で使用されている長石は,,福島長石,釜土長石,南郷長石,三雲長石,平津長石などが代表的なものです。では,これらの長石の何が違うのか。というと,1つは長石の組成。もう1つが鉱物形状の違いです。
組成に関しては,おそらく,耳にしたことがあると思いますが,カリ長石,ソーダ長石(ナトリウム長石),リチウム長石,灰長石(カルシウム長石)などに分類されます。これらは,アルカリ成分(釉薬を溶かす成分)として何が多く混入している長石か,ということで分類されています。アルカリは,主に,カリウム,ナトリウム,リチウムなどで,通常,これらが多かれ少なかれ数種混入していますが,その中でも相対的に多いものを長石の名前の最初に付ける事になっています。
で,上記の長石を分類すると,カリ長石は福島,南郷,三雲長石。ソーダ長石は釜土,平津長石となります。ちなみにリチウム,灰長石は,日本では殆ど産出しないので扱うことは無いと思います。最近ではペタライトという名称でリチウム長石を見る事もありますが,非常に溶けやすく(単味でブクを吹く)扱いづらいので,あまり使いません。
次に鉱物形状に関してです。
これは,簡単に言うと,マグマが冷えて長石になる時の速度によって変わるもので,早く冷えると珪石を混入したアプライト,ゆっくりと冷えると長石の純度が高くなりペグマタイトになります。一般的に,単味で使用するならペグマタイト,材料を混ぜるならアプライトが良いと言われますが,私的な意見を言わせていただくと,ペグマタイトは溶けが良く,癖も少ないし釉薬の透過性も良いので,私はペグマタイトを好んで使っています。
で,分類ですが,手元の資料では,ペグマタイトが福島,南郷。アプライトが釜土,三雲,平津となっています。
ということで,たぶん,南郷長石指定は,カリ長石ペグマタイトを使用してください。という意味でしょうから,福島を使っても,全く問題ありません。ただし,南郷は福島に比べアルミナ分が多いので,気持ち,カオリン等を多めに入れる方が良いとも考えられます。
Q56.松灰釉の調合でカオリンはメッシュを通せば良かったか?
A56.,メッシュは必ず通したほうが良いと思います。本来は,すり鉢で良く擦るか,ポットミルで水擦したほうが,原料同士の反応も良くなりますし,沈殿防止にも役立ちます。特に,カオリンは,焼成後に焼け残る事がありますから,最低,メッシュは通した方が良いでしょう。
Q60.楽焼きに挑戦!市販の複色釉?
A60.一般に,市販釉は,100度/1時間の割合で昇温した場合に熔ける事が前提になってます。ただし,フリットになっていると話は別で,この場合,もっと早いペースで昇温しても釉になります。
また,使用する釉に生の鉛(鉛白,唐の土)が使用されているか,ほう酸が使用されているかでもペースは若干変わります。御使用になる釉が,どのようなタイプの基本釉を使用しているかで,この辺は微妙ですから,メーカーに問いあわせるか,あるいは自分で実験してみるかで考えたほうが良いでしょう。(実験してみるのが一番ですけどもね。)
Q62.木灰釉って?
A62.松灰に限らず,木灰というのは,植えてある場所の土壌によって,あるいは,灰にしたものが木のどの部分か(樹皮とか幹とか,枝とか葉っぱとか)によって,成分に差がでることが多いのです。
また,灰の作り方(焼いた温度)によっても,リン酸の量が変化したりしますから,非常に微妙なものです。(それゆえ,安定性に欠けると言われるわけですね)
この辺の灰に対するこだわりは,茶の湯で使用する灰の扱いにも似た,微妙さがあり,御使用の灰が,どのような成分を持っているかは,(ノムル計算とか成分分析機を使うとか,そういう特殊な方法を使用しない限り)何度もテストして調べていかなければなりません。
Q63松灰陶石マットの配合?
A63.今回の実験「松灰陶石マット」から,御使用の灰は,かなりカルシウムやリンが多いらしいということが分かりましたので,対策は,その辺を考慮して行います。
1,カオリンマットは,単純にカオリンを減らすという方法もありますが,それだとあまり変化が大きくならないのと,色味が変化するので(それはそれで面白いんですけども),同時に長石の量も変化させます。カオリンを減らした分,長石を増やすという方法です。たぶん,調合からすると,長石を40〜50,カオリンを30〜20で調整すると,変化すると思います。
2,陶石は,分類上,珪石よりも長石に分けられる事が多い原料です。というのも,中国では,木灰と陶石を混合して磁器釉としている所が多いからですが,成分的には,明らかに珪石寄りです。ここからも分かるように,陶石は珪石に比べると,若干,熔けが良くなりますので,本来,珪石を陶石で置き換える場合は,量を増やして調合しなければいけません。
逆に,珪石(珪酸)系マットを微妙に弱める為に,珪石の何割かを陶石に置き換えるという方法もあるわけです。(私がよく使用する手なんですが)
それから,マグネサイトを使用しない珪酸系マットは,かなり厚掛けしてやらないと,マットの真価を発揮しません。もし,釉が薄いようでしたら,透明釉になるでしょうから,もう一度,釉を2度,3度掛けして,厚くしてみるというのも手ですね。
3,マグネサイトは医薬用外劇物指定はありませんから,(多量に吸い込むのはまずいですけども(笑))扱いは簡単で,単に何%か混合すればOKです。ただし,乳濁効果が大きいですから,3〜4%刻みで増やしていきます。(長石などは10%ですけども)
4,杉の灰ですが,成分を調べたらば,かなり幹と葉で成分が異なるようです。釉原料としては幹を使用するのが良いらしいですけども,ここは実験で,やってみるのが一番ですね。ただし,松灰よりはカルシウムが少ないので,混合する場合は,やや増やした方が良いでしょう。
Q64.土灰って何?
A64.色々な灰を混合したものを「土灰」と言います。今回の,Hさんの「杉、モミジ、サクラ、クヌギなどが混ざった灰」というのが,それですね。ちなみに,この「土灰」は,「竃(釜土)灰」の略語で,つまり,煮炊きをする際に使用した,竃に残っている色々な木の混合灰。雑木灰という事ですね。
焼くまでどうなるか分からないけども,それだけに,焼く楽しさというものもあります。
Q65.外割りってどういう意味?
A65.外割りというのは,基本釉(この場合,長石・松灰・陶石)を100とし,それに10,20,30(マグネサイトならば3.6.10)と加えていくという事です。外割りは,100%計算からすると,かなり粗雑な方法なんですけども,実際的には非常に有効な手段なので,陶芸では多用されます。
Q66.ミル摺り2時間は短いでしょうか?(私は弁柄の粒子を細かくすればする程良いのではないかと思ってますが、摺り過ぎも又具合がわるいし・・・・・
A66.私の場合,時間ではなくて音で判断しています。まぁ,大抵の場合,湿度による原料の吸水具合とか,送られてくる原料の質などによって,擦りの程度が変わりますから,時間はあまり当てになりません。乳鉢ならば,クリィミー状になる程度が基本。ミルの場合は,擦る音がカラコロからキリキリに変わって30分程度したら,私は止めることにしています。(たぶん,この音で分かっていただけると思いますけど)
Q67.釉薬原料ごとの粒子の大きさって?
A67.釉の擦りが難しいのは,基礎釉の原料と,着色酸化物(弁柄などの金属ですね)とでは,逆の発想を持っていることです。
基礎釉原料は,原料そのものの良さを引きだそうとしたら,粒子の大きさを原料ごとに変えなければいけません。一般的に,土類はやや粗めにして素地との密着性を高め,長石は原料の持ち味を出すためにスタンパー等で衝くのが良いと言われています。珪石は粒子の大きさで反応が変わると言われていますし,石灰も同様です。
ただ,そこまで厳密に考えるのは,桃山陶の再現をやっているような,陶芸家よりも研究者に近い方ですから,あまり頭痛くなる事はないでしょう。
ただ,金属に関しては,釉薬が液化した際に,イオンとして分解するかどうかが発色に大きく関わってきますから,粒子は細かいに越したことはないと考えるのが普通です。
弁柄などは,1000日擦りなどと言われ,毎日毎日,老婆が日なたぼっこをしながら,1000日かけて擦った弁柄でないと,柿右衛門のような美しい赤の発色はしないと言われています。
メーカーから買い付ける場合も,弁柄は粒子の大きさによってランクがあり,擦りの甘いものと,かなりキメの細かいものとでは,値段が倍くらい違います。私が知っているのは「錦龍」という最高級弁柄は,粉の状態で,すでに,非常に美しい紅色をしています。上絵や,砧青磁を作る際に使用するものですけども,青磁は,最近では弁柄ではなく,珪酸鉄を使用することが多いですね。(この方が,イオン化しやすいからですけどもね。)
ということで,出来れば,基礎釉と着色用の金属とは,別に擦り,さらに攪拌程度に混ぜてすってやるのが一番ですね。
Q68.”金属の粒子は細かいに越した事はない”との話ですが、イオン発色が好ましい釉、又はコロイド発色を要求する釉等も粒子を細かくすれば良いと言うことですか?。
A68.コロイドによる発色は,御存知だと思いますが,一度釉薬に完全に溶かし込み,更に冷却期において発生させる,いわば,再結晶とも言うべきものですから,やはり,細かい方が良かったりするんです。
代表的な辰砂釉は,銅を利用して赤い銅コロイドを発生させますけども,これも,高温期において釉によく溶け込むよう,酸化銅よりは炭酸銅を使用したりしますよね。
むしろ,擦る,擦らないを問題にするのは,油滴天目やソバのような,核を中心に結晶を発達させ,それを金属で着色するような釉薬でしょう。ソバなどは,意図的に砂鉄を混ぜて,核を作りやすくしたりしますからね。
Q69.コロイドについて?
A69.コロイドですが,2種類あります。一つは金属が細かく砕かれて,ミクロ単位になったもの。もう一つが,成長して出てくるものです。
陶芸では,この2つが微妙にかかわって(かな?)いるので,「陶芸はこうじゃ〜〜」と断言はできません。
通常,鈞窯のようなものは,砕かれたものが多く,なます事によって銅赤を呼び戻すような場合は,再結晶の要素が高くなります。
Q70.白萩の斑紋と蕎麦の結晶の析出について
A70.透明釉(下)蕎麦釉(上)で実験した二重掛けに於ては,かなり良好な蕎麦が検出しました。単釉でも,小さなものは出ますね。ただし,焼き方にポイントがあって,1230度あたりでの温度キープと,かなり徐冷を必要とします。つまり,結晶を発達させるために,目標温度でゼーゲルが倒れた後も,徐々に温度が下がるよう,調節を掛けなければならないわけです。
白萩の斑紋も同様で,特に,斑紋は高温域の何度あたりで温度を引っ張るか,酸化とは言え,低温度域において還元を掛けたほうが良いのか,高温域で温度キープをしたほうが良いのか,それとも,焼ききる形が良いのか。徐冷はすべきか,何度で徐冷を開始するのが良いのか。など,要因は極めて多岐にわたり,非常に複雑です。
しかも,毎回,毎回,同じ状態で作品が詰められている窯ならば,問題はないのですが,焚くたびに,中の物と空間の比率が変化するような場合(これ,個人の窯にはよくある事ですよね)には,本当に,焚く事は胃が痛くなるほど気を使わなければいけません。
陶芸は,未だ,科学的に分析できない複数の要因を駆使して,美しい形態を作る造形表現ですから,それだけに,人間の感性と緻密な観察力を必要とします。
Q71.よくSK8(1250c)焼成釉を、窯の関係でSK7(1230c)に落としたい場合にSK8釉にフリットを混ぜますね。この場合市販のフリットでどれ位の割で混ぜるものでしょうか?
A71.1250度を1230度の釉薬にするなら,私は迷わず,1230度で1時間(以上)温度キープし,釉薬を溶かします。釉薬は,何かを加えればたちどころに性格が変化するデリケートな面を持っています。フリットや亜鉛,ストロンチウムなどを使用すれば,簡単に温度を下げる事はできますが,それによるデメリットは非常に大きいのではないでしょうか?
ただ,どうしてもフリットを混ぜたいという事であれば,10%(外割り)になるんじゃないでしょうかね。無論,フリットの種類は多いですから,どんなフリットを混ぜるかによって,パーセンテージは大きく変わりますけども。
ちなみに,この文章で使用しているフリットは,溶融点700度程度のものを指します。
Q72.松灰陶石マットで,グリーンが薄かったのは何故?
A72.最初に結論を申しますと,グリーンが薄かったんじゃなくて,青色が強かったんですね。青磁でいうところの,天龍寺→砧への変化っていう感じでしょうか。
ちょっと難しい話になりますが,釉薬は主成分となる長石と灰に加え,カオリンなどの土質の原料が多いか,それとも,珪石などの石質の原料が多いかで,着色用の金属の色が変化します。
で,今回の緑は,松灰の中に含まれる鉄による発色なんですけども,この鉄は,釉薬に土質の原料が多いと緑色(OFの場合は黄色)になり,石質の原料が多いと青みを帯びます。
で,調合を見ると,長石と灰の成分以外には,石質の陶石しか含まれていませんので,当然,釉薬は石質になり,鉄が青みを帯びたので,緑色が薄くなったように感じたわけですね。従って,この場合,鉄を緑に発色させようと思ったら,カオリンを加えるか,陶石を減らすという操作を行わなければなりません。 しかし,操作すると,当然,釉薬の性質が変わりますから,マットにならない事もありますし,そこが難しい所です。
Q73.松灰陶石マットのマグネサイトの混入
A73.陶石は,Hさんの調合の場合,珪石に属する原料になりますから,珪石を陶石に変えても,マットの調子は変わらない(むしろ熔けが良くなるかも)と思うんですけども,ま,一応,珪石を陶石に置き換えるというのは,そういう事になりますね。
で,問題の松灰陶石マットに入れるマグネサイトなんですけども,ミルキーにしたいということであれば,もう少し,松灰の量を減らした方が,ミルキー効果は高いと思います。
ただ,もう,調合しちゃっているでしょうから,この場合は,長石と陶石を更に10づつ増やしてから,マグネサイトを5%くらい混ぜると良いのではないかと思います。
いわゆる,珪酸マットと呼ばれる調合に近くなりますが,これは磁器釉の一種で,1250度程度でミルキーな表面になる釉薬です。
松灰の鉄で,やや黄色く着色されるでしょうから,OFならばミルキーになるのではないかと思いますが。(さて,どうでしょう?・・・無責任ですみません)
色の調整は,鬼板土や,弁柄。あるいは,珪酸鉄などを使用して行います。どれでも構わないと思いますけども,着色力では,弁柄はハード。珪酸鉄がミドル。鬼板土がソフトっていう感じでしょうかね。
あ,それから,余談になりますけども,調合は必ず100にしなければいけないというものじゃないですからね。で,いわゆる百分率調合表になっていない場合は,「部率調合」といって,
灰弱マット釉 福島長石 50部
土灰 40部
カオリン 20部
蛙目 10部
っていう感じに表したりします。
Q74.スプレーガン(ピースコン)と施釉について
A74.0.8mmのピースコンが施釉に使用できるかどうかは,釉薬の粘性や粒子の大きさに依存します。私の場合は,長石・石灰系の,いわゆる鉱物釉はピースコンを使用する事が多いです。ただし,ボーメで1.6(だったかな?)よりも比重を軽くしておかないと(簡単に言うと,水で薄めれば良いんですけども),均等にはかかりません。
また,天然木灰を使用した植物釉は,粘性が高く粒子も粗いですから(私の場合,特に木灰の色を出すために擦りを甘くしているので),水で薄めても目詰まりを起こしてしまって,使えません。
ただ,無理すればスプレーガン(塗料用の口径の大きいエアブラシ)を使って施釉出来ますが,木灰系の釉薬は,大抵,マット調になりますし,表面の凹凸が強く出る事が多いので,私は使用しません。あとエアブラシなんですけども,長石石灰系の釉薬は,非常に綺麗にのりますね。
それと,0.3mmは,間違いなく詰まります。0.3は,デザイナーが染料入りの絵具で絵を描く時に使用するもので,陶芸の特に顔料は使用できないと思いますよ。それに,もし,線を書こうと思うのならば,私は口径の小さいピースコンを使うよりも,マスキングフィルムをつかった方が,綺麗だし,失敗もないと思うんですが。マスキングフィルムは高いから,代換え措置として新聞紙でも何でも良いんですけどもね。
Q76.石灰と骨灰のカルシウムの違いって?
A76.確かに,石灰も骨灰も,共にカルシウムの固まりなんですけども,カルシム自体の成分(性質って言う方が,陶芸らしいかな?)が違うんですね。石灰は,成分の約80%が「炭酸カルシウム」であるのに対し,骨灰の約80%は「リン酸カルシウム」なんです。
では,何が違うかというと,どちらも珪石と反応して,αをβに変える主成分になる事はなるんですが,ポイントになるのは,リン酸カルシウムのリン酸が,乳濁剤として機能するという事なんです。
つまり,リン酸〜の方は,釉中に多量の泡を作る(というか,泡を残す)という性格があるんです。それで,乳濁効果が高まるわけですね。
この性格を利用している代表的な釉薬が砧青磁で,あの水色は,鉄(一説にカルシウムの色だという話もありますが)の発色だけではなく,釉中のリン酸によって出来た無数の泡による乳濁効果と鉄の連携プレーで,発色しているわけなんですね。
で,結局,釉薬が単なるガラスではなく,味のある複雑な色味を持っているのは,この泡の存在が大きいわけで,釉薬を別名「泡ガラス」とも言ったりするのも,この為です。
で,リン酸は,1〜2%(ピロリン酸カルシウムの形で混入の場合)で,かなりの乳濁効果を示しますから,リン酸カルシウムとして骨灰を使用する場合は,3〜5%くらいを入れるということになります。
ちょっと難しい話になってしまって恐縮なんですけども,まとめると,石灰は単純に,釉薬の溶融点を下げるための効果として。骨灰は釉に泡を作る効果として使用するので,同じカルシウムでも,使用方法は全く違うという事になります。
「陶芸−やきもの作りの実際−」は,確かに,調合の多くに骨灰が使われていますけども,まぁ,これは個人のこだわりによるものなので,骨灰が無ければ,石灰で置き換えても,問題はないわけです。ちょっと色味が鋭くなるという感じはあると思いますが。
Q79.古代中国の青磁器のかけらを見ると素地が馬鹿に薄いのに対して上薬がひどく厚く掛かっていました。(素地の2倍や3倍ではありませんでした)あれって、釉を掛けては焼き、掛けては焼きを繰り返したのか、糊薬でも付けてめちゃめちゃ厚掛けを繰り返して、超超ゆっくり(10日も15日もかけて)焼成したものなんでしょうかねぇ?
A79.青磁の釉薬なんですけども,あれは,二度掛け,三度掛け,四度掛けという感じで,何度も掛けてから,焼くんです。
もっとも,釉薬そのものの濃度も高いんでしょうけども,あれだけ素地が薄くなると,濃度を濃くしたり,長い時間,釉中に入れても,素地が水を吸いませんから,それほど厚くはつきません。
更に,一度焼いてから,あれだけの厚みを乗せるのは,おそらく至難の技だと思いますから,たぶん,やっていないでしょう。
青磁は,たぶん,テレビでも言っていたと思いますが,その本質は釉中にできる泡が光を微妙に乱反射し,鉄の碧い色を,より深いものにします。さらに,素地を薄くすることで,透光性を高め,より,釉薬の珪酸ガラスとしての美しさを強調するわけですね。もっとも,青磁は,あのくらい厚く掛けないと,美しい碧さが出ないから,仕方ないわけですけどもね。
ところで,西洋の鉄の武器は,冷ます段階で奴隷を刺し,その体の中で徐々に熱を下げる事で,恐ろしいまでの強度を作れたといいます。陶芸も,青磁の貫入の模様を染めるのに,じつは,人間の多量の血の中に陶器を入れて貫入を染めたのではないかとも言われていますね。大陸的思考も,ここまでいくと,脱帽した帽子を投げつけたくなるような気もします。
Q80.塩分と赤色の関係
A80.食塩水吹きかけの事なんですが,あれは基本的に土の中にある少量の鉄が,食塩の塩素と結びついて塩化鉄(赤い鉄ですね)になるという効果を利用したものですので,鬼板のように,鉄の含有量が50%以上の着色の強いものを塗ると,ほとんど差がでません。
通常は,含有鉄が酸化されても赤くならない程度の含鉄土を使う事によって効果を発揮するものですので,鬼板塗るのは無理ですね。
ただ,半磁器土や磁器土は,食塩水を吹きかけても赤くなりませんが,粒子の細かい弁柄を,塗ったかどうか分からない程度に希釈して吹きかけた(塗ると濃すぎます)後に,食塩水を吹きかけると,赤くなります。しかし,磁器土を赤くしても,あまり面白くないですけどもね。確かに,オレンジ色は綺麗ですけども。
本来は,藁灰を水簸した時にでる灰汁を煮詰めて,塩素の濃度が高くなったものを利用しますが,食塩水の方が楽なので,飽和するまで撹拌しながら入れて,これを使います。
Q81.志野の緋色について&志野長石って何?
A81.これは風化長石という種類のもので,原料そのものは,アプライト質のソーダ長石ですから,釜戸長石などと成分そのものは,あまり変わらないはずです。
では,何故,釜戸長石と言わず,わざわざ志野長石という名称を使用するかというと,これは,わざと粒を荒くしているためです。(ですから,志野長石は,擦らずに使用するのが普通なんですけどもね)。
志野釉の神髄は,その淡雪のような白さにありますが,この白さを作るためには,熔けて失透釉になる部分と熔けずに粒として残留する部分の2層が必要となります。この2層の微妙な光の屈折作用によって,あの志野独特の白さが生まれてくるのです。
志野は,長石単味を釉薬とする極めて珍しい釉ですが,それゆえ,花粉という失透釉になる細かい粒の長石と,粗目という粒状残留する大きな粒長石の2種を混合させています。(というか,モノは同じですが,わざと粒に大小を作っています。ところで志野長石は、最初から、粗目と花粉が混じっていますから志野長石だけで釉ができます。ただ、熔け方の調節をする場合は、石灰を入れるという時と、数種類の長石を入れる時があるようなので、そういう目的ならば、釜戸長石や、福島長石を混ぜる場合も考えられます。ちなみに、え〜〜、あんなザラザラの志野長石を使うのぉ。とお思いでしょうが、あれが熔けるくらい焼くのが志野釉ですから、仕方ないと諦めてください。
九州の小鹿田焼きなどでは,この志野釉を作るために,水車を使って長石を突いて,わざと粒にムラを作るという手法を代々続けていますが,大きいメーカーでは,スタンパーという機械で長石を潰しています。
メーカーから長石を買う場合,基本的に粒はかなり細かく,同じ大きさになっていますから,もし,自分で志野長石を調合しようと思ったらば,長石層から自分で石を拾ってくる以外に方法はないかもしれませんね。それが出来ない場合は,志野長石を擦らずに使用しましょう。って事になります。
ちなみに,志野風の風合いを出す為には,志野長石を使わなくても,釉薬調合はいくらでも考えられます。ただ,あくまでも志野の風合いというだけで,いわゆる伝統的な志野釉ではなくなってしまうことは,憶えておかなければいけないかもしれません。
それから,志野の緋色は,基本的に酸化第二鉄と塩化鉄の混合鉄の発色です。ですので,基本は鉄の含有量の多い土を使用するか,あるいは鬼板や弁柄などの鉄を表面に塗ることがポイントになりますね(また,長石に少量の蛙目粘土を入れると良いという話もあります。ちなみに釉自体に食塩を混合したのでは出ませんよ)。
しかし,これを単純に焼くと,ネズミ志野になってしまいます。これは,冷却時に還元で鉄が酸化第一鉄に戻ろうとする作用だと言われており,これは窯の冷却時間の長短によるものだというのが通説です。
そのため,志野で緋色を出そうとする人は,炊きあげる事以上に,冷却の温度に気を使っています。つまり,釉薬が熔けた後が勝負の境目になるわけですね。初心者の方で,志野の赤色がでないという方の多くは,目的の温度になるまでは時間や温度カーブを気にするのに,火を止めたらば知らん顔という方が多いんです。
志野の緋色の本領発揮は,むしろ,火を止めた後にあると言っても過言ではないのかもしれません。
それから、冷却時に酸化還元のどちらが良いかは、基本的に個人の焚き方に依存する事が多いですから、絶対にこっちが良いということは言えないでしょうね。織部などでも、火を止める前に還元をかけた方が良いという人もいれば、きっちり酸化で焼き抜く方が良いという人もいますし。
志野も還元で焚くと決まっているわけではありません。どこで還元をかけるか、あるいはどこで酸化雰囲気にするかは、当人の好みや窯の癖など、様々な要因があります。多くの場合は、釉薬の色の深みに関わる事が多いので、その辺は、いろいろとやってみてから考えた方いいのではないかと思います。
それから、志野は元来、登り窯や穴窯で焼いていたという事を考えれば、冷却時にどうすれば良いかは、おのずと見えてくるような気もしますね。果たして、登り窯や穴窯と同様にすることが、良い事かどうかは、分かりませんけども。
Q84.瀬戸黒と織部黒(あるいは黒織部)はとも に引き出しですが、何処が違うのでしょうか?
A84.時間軸の差によるものだと思います。
正確に言うと,時代が下がるごとに,形態上の変化や装飾上の変化が起こる。このところがポイントになるという事でしょうか。(つまり,産地による違いとか,成分上の違いとか,そういうものではないということですね。)まぁ,これらの違いは,後の人間が学問上分別したものなので,時間軸は当然だとは思うんですけども。
時代の流れからいくと,
黒い美濃の焼き物→瀬戸黒→織部黒→黒織部
という流れになるそうです。
黒い美濃の焼き物は,瀬戸黒や黒楽の原形となるもので,丸い腰に高台がついた,いわゆる黒楽のような器で,焼成中の火がついた状態の窯から,作品を引き出して鉄による黒色を作る製法の器です。
そうした製法が,やがて大窯という巨大な窯で行われるようになり,形態も丸底から,平底へ,そして篦目が入った力強い造形に変化し,瀬戸黒になります。
次に,ロクロで引いた形態をわざと大きく歪ませる「沓形茶碗」という形式が登場し,これが織部黒。更に,そうした織部好みの非対称の形態に,窓絵や象嵌という技法での装飾が加わり,黒織部になります。
結局,非対称の形態も局限まで行き着き,装飾の技法も飽和して,時代と共に変化していった引き出す技法の黒い器は,それ以上の発展性がなくなって荒廃します。
逆に,黒楽は,その単純な色や形態によって,器という根本を捨てなかった事により現代まで連綿とその地位を守っていますね。
どちらが良い,悪いという事は言えませんが,単純で力強い瀬戸黒が好まれる理由は,そうした黒楽が息衝いている事からも,なんとなく分かる気がします。
Q85.鳴海織部って?
A85.鳴海織部は,古田織部が尾張(愛知県の一部)の鳴海で作らせたと言われていますから,織部の意匠という事になると思います。他の織部と時代的に同じ出土らしいですから,間違いないでしょう。
「鳴海織部」
赤土と白土を繋ぎ合わせて形を作り,白土の部分には銅青釉(緑色の釉薬。現在では織部釉とも言われる)を掛け,赤土の部分は白泥で装飾し,鉄絵を施して焼成した器。現在は,よくある装飾ですけども,赤土と白土の融合や,緑と白と赤(鉄の茶色)の3色による装飾など,当時は先進的な器だったそうな。
Q86.釉薬の沈澱防止には何が良い?
A86.最も,沈澱防止になるのは,釉薬の原料に粘性のあるものを使用する事ですね。例えば,蛙目とか陶石とかね。ただ,これは釉薬の原料に,カオリンや硅石などが使用されている場合に,それを置き換えるという事になりますから,釉薬の種類が限定されます。置き換えなくても,少量の蛙目を入れる場合もありますが,かなり良く擦っておかないと,焼成後にプツプツが出る場合がありますから,あまりお勧めはできません。
では,そういうもの以外で何が使用できるかというと,私は布海苔やCMCを入れる事にしています。粘土成分(カオリン,蛙目など)を使っていない釉薬は,施釉後の乾燥で,釉薬がはく離したり,焼成中に釉切れを起こす事が多いんですけども,布海苔やCMCを入れると,それも防止できるので一石二鳥になります。
どちらも,すぐに腐って臭気を放つんですけども(笑),洗濯用糊として売っているCMCには防腐剤が入っているので,私は,それを愛用しています。
沈澱防止は,「凝固回避」と「沈澱速度の低下」という2種類の方法で主に対処します。食塩やニガリ,酢の添加は,凝固回避の側面からのアプローチと思われますが,私は,どうも,これらはかなり釉の使用原料に依存するところが大きいので難しいのではないかと思います。
クリスタリンという沈澱防止剤などもありますが,あれも「凝固回避」のアプローチで,ほとんどの釉薬の沈澱防止にはならないのが実情ですね。
むしろ,釉薬に粘性のあるものを入れ,原料粒子の沈澱速度を遅くする方が,沈澱防止(実際に防止ではないわけですけども)としては効果が大きいと思いますよ。
Q87.,釉縮れの修復方法は?
A87.釉薬の溝にCMCを入れるという方法もありますが,私の場合は,むしろ,器を電気コンロの上であたためて(直置きすると割れますから,網か何かの上に乗せてね),かなり熱くなったところで,CMC入りの釉薬を掛けたり,筆で乗せたりしています。
ま,結局,めくれて素地が露出した部分に釉薬を付ければ,大抵の場合は問題なく埋まります。ただし,これも釉薬の性質に依存するところが大きく,元来,張力の大きい釉薬だと,もっと縮れて症状がひどくなる場合もありますね。粘土が入っていない硅石/石灰ベースの釉薬は,ひどくなる事も多いようですし,塗り直した部分があからさまに分かったりします。長石/石灰系の釉薬で,カオリンなどの粘土類が入っているものは,かなり分からないくらいに直る事が多いです。
ちなみに,2度焼き,3度焼きは,釉薬よりも素地の方に,かなり負担をかけます。特にきめの細かい赤土などを使用している場合は,2度めの焼成で,煎餅のようなブクを生じるケースが多々あります。
これは,土中のガラス成分が,熔けやすくなっているために,短時間で素地が柔らかくなって,素地中の気泡によってできるブクですね。
陶芸での焼き直しは,そうした事を回避するために,普通,2度め,3度めは,1度めの焼成温度よりも低い温度で焼くようにします。同じ釉薬を使用している場合も,20度くらい低い温度をキープさせて釉薬を熔かします。
Q88.ベントナイトっていうのはどんなもの?
A88.別名,膨潤土って呼ばれる粘土の事ですね。
膨潤の名の通り,かなりの勢いで吸水して体積が膨れ,蛙目並にベトベトします。その性質を考えると,確かに,沈殿防止に使用できるかもしれませんが,私はもっぱら沈殿防止になるほど多量に使用していませんでした。
ベントナイト本来の使用法は,可塑性増強の目的で,フリットや粘土に5%以下で使用するというものですね。ただ,5%も入れると,逆に扱いにくくなる事も多く,また含有している鉄分の影響が大きい事もあるそうなので,私はいつも2%程度しか入れませんでした。
また,1〜2%程度入れると,浸し掛けの際に一定の厚さしか素地に付着しなくなると説明書きにはあったんですけども,私の浸し方が悪いのか,一定の厚み以上についてました。
Q89.施釉後の剥離や飛びの原因とは?
A89.実は釉薬の難しさは,成分そのものと同時に,その粒子の大きさとか,熔け方の違いっていうのもかなり関係しているんです。
かなり詳細な陶芸入門書や,専門書でないかぎり,この辺りに触れているものってすくないんですけども,特に,施釉後の剥離などに関するものは,この辺の事に依存する側面が大きいみたいですね。
釉薬の原料は,擦れば擦るほど熔けて反応しやすくなるわけですが,だからと言って,かなり細かくしてしまうと,施釉後の剥がれがひどくなったりもします。特に,粘土が入っているものは,擦りすぎると粘り気が弱くなったりして,剥
離しますね。
一般的には,着色用の金属類は細かく,基礎釉の原料はやや荒めに擦るっていうのがセオリーのようです。
また,釉薬には,それぞれ固有の熔け方のプロセスというものがあります。一度,素地から浮き上がり,やがて徐々に熔けて素地と密着するもの。逆に,素地と密着したまま熔けていくもの。など,さまざまです。昇温時に起こる珪酸の体積膨張がかかわっている事が多いわけなので,かなり大ざっぱに話すと,硅石の含有比が大きくなると,それだけ昇温中に素地から剥離する危険が高くなると言えるわけです。
よく,窯入れの時には釉薬が剥離していなかったのに,焼成が終わって窯出ししたらば,作品の釉薬がはげて,棚板に付いていたとかいう失敗がありますよね。こういうのは,昇温時の剥離によるもので,その多くは,硅石の多い釉薬でみられるものです。
それから,当然の事ですが,釉薬の厚みが増すと,それだけ珪酸成分が多くなりますので,昇温時の剥離現象が促進されます。特に,素地との密着が悪く,かつ,膨張して浮くような釉薬は,自分の重みで剥離することもありますね。
Q90.膨張収縮と釉薬について
A90.△ 温度上昇時の変化
素地は,釉薬が熔け始めるまでの間に,以下のような状態変化を起こします。600度あたりで,素地は急激に膨張を始め,やがて,それが1150度あたりからの焼結現象によって,体積減少(いわゆる収縮)に変わります。
釉薬は,その性質によって様々ですが,素地の変化よりは小さい体積変化しか起こしません。ただし,珪酸質の釉に限っては,SiO2の変化に伴う体積膨張が起こります。
▽温度下降時の変化
素地,釉薬供に,温度が下降するのに伴って,収縮が起こります。
この際,使用原料によって,収縮率に差が生じます。昇温時と同様に,600度あたりから急激な体積減少が起こり,300度あたりで落ち着きます。
つまりこれらの膨張収縮での体積変化の差が,釉縮れ,切れの原因になるわけです。
▲温度上昇時に起こる現象は,釉縮れ,釉切れで,これは,素地の膨張に釉薬の膨張がついていけない場合に発生します。
分かりやすく言うと,例えば,ゴム風船がしぼんだ状態の時に,表面に小さな四角い紙を隙間無く張り付け,その後,ゴム風船を膨らませたとします。このとき,ゴム風船が膨らむにつれ,紙どうしの隙間は大きくなりますね。これが,陶磁器の釉縮れ,切れのプロセスです。
陶磁器の場合は,その後,表面の釉薬が熔け,その表面張力によって,細切れになった釉薬が引き寄せられて,縮れや切れが発生します。
▼温度下降時に現れるのが貫入です。
これは素地と釉薬との収縮差によって発生します。収縮差が,「素地<釉薬」の場合は,いわゆる,一般的に言う貫入になります。これは,素地よりも釉薬の方が縮むので,その隙間が貫入として現れるわけですね。
「素地>釉薬」の場合も表面的には貫入と同じような模様があらわれますが,これは,これ以上縮みたくない釉薬が,素地の収縮によって無理に縮められているので,シバリングと呼び,区別しています。
ただし,多くの場合,シバリングは事故のぶるいに入るもので,大抵は素地の破損が起こります。
Q91.釉薬調合の場合、釉合計(重量%)の内金属物質は何%位を目標に調合すれば良いのでしょうか、その場合金属物質の中に鉱化剤も含めるのでしょうか?
A91.金属物質といっても,非常に多種多様ですから,何%目標というものはありませんね。錫などは数%ですし,マグネサイトは10%以上入れて初めてマット釉として使えます。チタンなどは20%近く入れて乳白色釉にしたりもしますね。
仮にベンガラ(鉄)も金属として考えた場合,2%程度だと黄瀬戸や青磁,5%程度だと飴,10%弱だと黒,15%で鉄赤になります。これと同様に,亜鉛なども,釉薬の溶解温度を下げたいという目標なのか,それとも結晶を出したいという目標なのかによって,混入量は変わってきますから,目標として括る事はできません。
Q92.素焼き温度が低い場合、本焼き時素地の膨張もより大となりますから昇温時に釉縮れの誘因となりますか?
A92.素焼きの温度自体は,釉薬の縮れとはほとんど関係ないと思います。というのも,素焼きもまた,温度の上昇,下降によって体積変化を起こしているからです。完全乾燥時と,素焼き終了後の大きさを見てみると分かると思いますが,ほとんど変化がありませんよね。これは,一度,窯の中で体積膨張した素地が,冷却期にきちんと元の体積に戻っているからです。
このように,体積は,温度によって毎回,体積の膨張・収縮を繰り返します。ですから,素地が400度で施釉をするという事をしないかぎり(笑),常温時の素焼きは,生の土の完全乾燥状態と変わらないと思ってください。
つまり,完全に乾燥した生の土に施釉するのと,素焼き素地に施釉するのは,ほとんど差がないわけです。(水の吸収力などは変わりますけどもね)
Q93.釉薬の保存の期間や状態により微生物の繁殖も多くなると思いますが、これも考慮する必要がありますか?
その場合私は PH の チェック 位しか思い当たりませんが、その必要はあるのでしょうか?
A93.釉薬に発生する微生物は,全く問題ないですよ。私が前にアシスタントのアルバイトをした作家さんのところの釉薬などは,外に放置してありまして,夏になるとボウフラが沸いて動いてました。でも,そんな事などお構いなしに施釉して,施釉後に器の表面がキクキク動いているのをみて,「気持ち悪〜〜」とみんなで言っていたくらいです。
それは極端な話ですが,たぶん,蛙目やカオリンにいる土壌バクテリアなども,全然,関係ないと思いますよ。瑠璃や飴に茶汁とかを入れておくと,確かに腐敗して臭くはなりますが,焼成後の変化はありませんし。Phのチェックするくらいならば,ボーメ計で濃度を調節する方が先でしょう。
Q94.昇温焼成中、引っ張り合いの関係で釉切れの状態になった場合、自然復元(溶融した釉が流れ亀裂部分を埋めて自然復元する)も起こり得るものでしょうか?(粘稠度とか表面張力等の影響が左右するのかな?)
A94.釉薬には原料の調合比率で,溶解した場合の粘性や流動性というものが様々に変化します。粘性だけが高い場合,釉薬は,一度切れると,張力によって縮み,そのまま釉縮れとなりますが,流動性が高い釉薬や,流れやすい釉薬は,多少,切れても溶解時にくっつく事があるようです。(ようです。というのは,実際に見ていないから,そう書いているわけです。見られないという方が正しいかな)
また,1230度で焼成する釉薬を1260度で焼くと,1230度では釉縮れを起こすのに,1260度だと縮れないという事が,まれに起こります。(かなりまれです)おそらく,これは釉が高温で流れ始めているからではないかと思いますが,どうなんでしょうね?
Q95.器の不具合(底にいく程肉厚になる)で肉厚の素地部分の膨張が肉薄の部分より勝ったので釉縮れを引き起こしたということでしょうか?
A95.素地の厚さの違いによる膨張・収縮の関係ではなくて,素地の厚さによる釉薬の厚みの違いです。
通常,膨張差で生じる釉縮れは,まず,薄い口元に表れます。しかし,この場合,口元の縮れが発生していないのと,底へ行くにしたがって白色が濃くなり,なおかつ縮れが強くなっていること,そしておそらくかなり流れたであろう跡状から,口に比べると,かなり腰が肉厚で,かつ,施釉の際に,その厚みの違いで吸収力に違いがでたと判断できます。
外側の色に対して,中の白色が強い事から,たぶん,先に中を施釉して,その後,外側を施釉したんじゃないか。などとも考えたりでもきます。これは,中を施釉しているあいだに,素地の水が飽和しはじめて,外側を施釉する時に,水の吸収が弱まったんじゃないか。などという憶測ができるからです。
Q98.「海鼠釉」として使っていますが、私の力で色々やって見ましたが(皿とか丼等の特に大物中物に出易いんです)釉切れ、縮れが止まらないんです済みません、釉以外の問題は別として、下記調合内容に問題があればご指摘頂きたいのです。
福島長石 20
藁灰 60
土灰 20
弁柄 2
酸化コバルト 1
二酸化マンガン 2
A98.ご制作の海鼠釉は,いわゆる「鵜の斑」という釉薬の典型的な調合例ですね。通常は,この釉薬にベンガラやコバルトを入れるのではなく,下に,透明系の基礎釉に酸化金属を入れた色釉を敷き,その上に掛けて海鼠手を出すために使用します。朝鮮唐津などは,その代表例と言えるでしょう。
ただ,調合比を見ると,ちょっと長石の量が少ないような気もしますが,使用している灰の質にも因りますから,これは,何とも言えません。
まぁ,それはさておき,実は,使用している灰がポイントで,天然のものか合成のものかで,少々,対応策が変わります。
合成の灰の場合,その主成分の殆どは硅石と石灰になるでしょうから,これは,かなり乾燥時の食い付きが悪い。しかも,かなり沈殿することと思います。この場合の,釉切れ,縮れは,おそらく焼成の初期に起こる素地との密着性の悪さからくるものではないでしょうか。つまり,調合そのものの問題ではないと思います。ですので,焼成初期に,釉薬が剥がれないようにするための策として,釉薬に糊をまぜておけば良いと思います。
一般的にはCMCや布海苔など,まれにアラビアゴム(液体のもの)を入れたりしますね。私はCMCを使用していますけども,大体,2%〜4%(乾燥重量比)入れておくと,釉縮れを防止できるのではないでしょうか。
天然のものを使用している場合も,糊剤の混入でも良いのですが,天然灰は,もともと粘り気がありますので,糊を入れてもあまり効果はなかったりします。
ということで,私は,下に薄く透明釉を掛けて,それから,海鼠釉を掛けてはいかがかと思います。
天然の灰は,どうしても素地との密着が悪いので,焼成後でも,たまにペコペコと釉薬が剥がれてしまう時があります。それを防止するために,いわゆる繋ぎとして,長石石灰系の透明釉を使用するわけです。
透明釉は,あまり厚く掛けると,かえって釉薬の流下がひどくなって作品と棚板が一体化してしまいますから,極薄く,さっと掛けてから,すぐに天然灰釉を施釉します。こうすると,乾燥時の素地との密着も(何故か)強くなり,また,焼成して溶解した時の密着性も高まります。
大した事ではないんですけども,ちょっとだけ付け足し。
本来的な海鼠手というのは,白萩釉を使用したもので,鵜の斑釉は,疑似海鼠手という感じですね。白萩の場合は,きれいなポチポチの流文がでますけれども,鵜の斑の場合はダラ〜〜と流れたという感じになってしまいます。
いわゆる,海にいる海鼠のようにポチポチ模様がでるのが,本当の海鼠手ですから,そういう意味から言えば,分層釉の白萩の方がその特徴は顕著ですね。しかも,白萩釉に顔料を入れるよりも,濃い色の釉薬に,白色釉を二重掛けにした方が,粒々の感じはあきらかに強くでます。
ところで,天然灰と合成灰を使用した釉薬の違いは,実際に作ってみると明らかに分かると思いますが,合成灰の方は,ふんわりとした白さがありませんね。かなりペタンとした感じというか,あるいは固い感じというか,「兎の斑(ウサギの毛のような斑紋)」という感じは出てきません。特に,白色の端の微妙な感じは,合成(硅石)のものでは表現できないものがあります。
鉱物と天然灰との違いは,かなり顕著だと思いますよ。
Q99.灰の成分の見分け方
A99.灰が,どういう用法で使用できるかというのを調べる,一番の方法は,単体で焼いてみることだと思います。それほど多量に焼く必要はなく,2cm平方の陶板に,そのまま乗せたものと,水で溶いて薄く塗ったものの2つを焼けば良いと思います。
合成の灰は別として,天然のものならば,単体で釉薬状になっていればカルシウム,不熔ならば珪酸分が多い灰ですから,間違いありません。
また,単体で釉薬状になった際に,どの程度の色が付くかによって,含有する鉄の量もある程度分かりますし,その際の色で成分に含まれる不純物(チタンなど)も予想がつきます。
松灰などは,しっかりと熔けて,還元の場合,きれいなグリーンになりますし,土灰は泡が多少入った濁った緑色を呈し,厚く掛けると黄色いカルシウムの結晶がでてきます。イス灰の場合は,着色の色が薄く,また,泡の量がやや多めです。わら灰や籾灰などは,不溶で白いザラっとした個体(?)が残ります。
このように,灰は,その成分によって固有の熔け方をしますから,まず,焼いてみて,どういう状況で焼き上がるかによって,どういった使用が出来るかというものの予想を付けるわけですね。
それによって,成分表やぜーゲル式を利用して,他の成分(長石や硅石など)と調合した際の実際の効果を計算するという方法が,最も適切なのではないでしょうか。特に,陶芸は数学ではありませんから,まず計算から何かを算出するというのは,かなりのプロでも難しいと思いますよ。
私の先輩で,釉薬の貫入の入り方を見て,釉薬の調合の当たりをつけるという,とんでもない特技を持った人がおりますが,やはり,その貫入の見方も,かなりの数の釉薬を実験したからこそできるものなんだそうです。「理論よりも実践」は,当たり前の事でありながら,釉薬を知る最短の方法という事なんでしょうね。
Q100.樹木の部位による成分?
A100.基本的には樹木は根の部分に燐酸、幹の部分に珪酸や石灰分、小枝には珪酸分が少なく、葉に珪酸質が多い。ただ,樹木も自然のものなので,じつは,生えている場所に非常に反映されるそうです。
酸性の土地であったり,火山灰の土地であったり(完全な火山灰では,樹木は成長しませんけどもね(^-^;)),あるいは,海辺に近い土地であったり,極端に言えば,海の断崖絶壁に映えていたりとか。生え方の密集度や,年数などにも,かなり左右されるそうなので,かならずしも幹に石灰分が多いとは限らないようです。
ただ,木葉天目に見られるように,葉には珪酸分が多く,それゆえ,ああした模様が作れるという事もありますから,きっと,葉には珪酸分が多い事は確かかもしれません。
Q101.墨流しで使う泥漿を珪酸ソーダを溶かして作ることの弊害は?
A101.垂らし絵の技法を総称して墨流しやマーブリングと言います。
その技法の元祖が「アンダースリップの墨流し」で,これは,最近ちょっと話題になっていたバーナードリーチという外国のおじさんが,日本に紹介した技法と言われています。民芸運動全盛の時代に,装飾として広まり,日本でもかなりメジャーになりました。
墨流しそのものは,平安時代からある非常に伝統的な文様の一つですけれども,それを陶芸に使用したのは,かなり最近の事というわけですね。
まぁ,それはさておき,珪酸ソーダ(水ガラス)の事です。
まず最初に,水ガラスを知らない方の為に,ちょっと説明します。水ガラスは,鋳込み成型の際に,泥漿状態での土の流動性を良くする為に使用する薬品で,重量比で0.1%程度,土に混入して泥漿を作ると,土の粘性を弱めて流動性が増し,より濃度の高い泥漿を作ることができるために重宝されているものです。説明終わり。
で,泥漿に水ガラスを入れる効果ですけれども,基本的に素地や焼成には影響ありません。ただ,水ガラスを使用するという事は,結果的に泥漿の濃度が高くなることですから,それゆえ,水の保水力も強くなり,薄い素地の場合には,その保水力の為に乾き始めた素地に再び水気を与えることによる崩壊の危険はでてきます。水ガラスの使用,不使用にかかわらず,それゆえ,素地は少々厚めに作らなければなりません。
また,成型とは関係ないですが,水ガラスは数週間で効果が無くなりますから,効果が切れたらば,また泥漿に加えます。
Q102.塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2 かな?)の高温焼成による末路は?
A102.最終的に出来上がる物質はCuO(酸化銅)ですね。硫酸銅(陶芸俗称・タンパン)も,最終的には酸化銅になります。
結局,1250度相当の高温においては,残る物質も少ないですから,どのようなものを入れても,似たような物質になってしまうという事でしょうかね。
あとは,その物質になるまでの反応性の良し悪しで,最初に使用する物質が異なるという事になります。
Q110.蕎麦釉によく砂鉄を混ぜますが、あれってどうゆう意味があるのでしょうか?
A110.これは、蕎麦が出やすいから。というのが理由のようです。蕎麦釉のソバは、結晶が鉄で着色されたものですから、元となる結晶が発達しやすいように、核として、粒の大きな鉄砂を入れるという事になります。
ただ、鉄砂の粒子の大きさをなるべく一定にする、混入する粒の量を留意するなど、混入にはいろいろと面倒だったりもしますし、かならずしも、その条件が整ったからといって、綺麗なソバが発生するとも限りませんから、まぁ、出来るだけ良い条件を釉薬に与えるための気遣いという感じでしょうかね。
逆に言えば、わざわざ核を入れなくても、調合の仕方や、施釉の方法、温度調節で、ソバを作ることは可能だったりもするわけです。
Q112.釉に於ける鉄の結晶と分相について
A112.一括りに、鉄の結晶と言ってしまうと、かなり語弊があって、正確には以下のように分類されます。
一つは、釉中に鉄のコロイド(相当粒子)が発生して、それが発達した場合。油滴天目は、このタイプです。
二つ目は、釉中に発達した結晶の中に、鉄の微粒子が溶け込んだ物。鉄は微粒子として残ったり、結晶を着色させたりします。これは、蕎麦釉のようなタイプ。
同じ結晶でも、鉄本来の結晶によるものと、釉中に発生した結晶に副次的に鉄が関わる場合の2つがあるわけですね。
白萩に出る「なまこ紋」という模様は、こうした結晶とは全く別で、釉薬で発生する分相現象というものに起因しています。
釉薬は大別すると、透明釉、マット釉、乳濁釉の3つになりますが、分相は乳濁釉に発生するメカニズムで、簡単に説明すると、2層形式の釉薬です。乳濁釉は表面に透明釉、その下に0.1μm程度の粒子のある釉の二層に分離しており、その二層の光の屈折差で、白濁を起こすものです。
で、こうした分相した釉薬を、特に二重掛けなどした場合、釉が流動する際に、その気泡によって均一分散を起こさず、ああしたムラが出来ます。そして、そのムラを維持したまま、釉薬が流下するので、なまこ紋という模様になるわけです。
じつは、このなまこ紋の模様っていうのが、現在天文学で問題になっている宇宙の大規模構造っていうのと、非常に似た模様で、宇宙の〜については、未だそのシステムが解明されていないらしいんですけれども、意外と、なまこ紋を調べることで、解決のヒントが見つかるのではないかと、私が勝手に思ったりしていたりします。あくまでも、ド素人の勝手な言い分なんですけれどもね。
Q114.真鍮の使用について
A114.真鍮に関しては、真鍮板をそのまま焼いて、亜鉛の結晶を出すなんていうアートは見たことがありますが、真鍮粉を素地の装飾に利用するというのは、私は知りませんでした。
なので、ちょっとコメント出来ません。ごめんなさい。
ただ、成分的には亜鉛と銅の合金ですから、おそらく釉裏紅のような赤い色でも出すのではないかと想像しますが、どうでしょうか?亜鉛の方を利用する事は、素地に関しては無いと思うんですけれどもね。
追伸。沖縄の焼き物に好んで使われるそうです。釉薬に混合して用い、あの綺麗な緑色を出すために使われる。との事です、やはり銅成分を利用するんですね。
Q118.素焼きをした器に施釉し、その上から金やプラチナで彩色して本焼き(OF
で1250度)したら、金・プラチナ等の彩色は飛んで消え失せてしまうでしょうか?
A118.釉薬の上に金やプラチナで彩色すると、使用する量にもよりますが、発色はしますよ。ただし、高温で焼成した場合、金は「金茶」という赤茶色っぽいものになってしまって、金色にはなりません。
白金やプラセオジウムの場合は、鈍い銀色やネズミ色に発色し、釉薬に金属が完全に溶け込まずに表面に残っている時には、金属磨きで研磨すると、光沢が戻る場合もあります。
銀などは、いぶし銀のような感じで面白い効果も出たりするんですが、如何せん、高価なので、私はほとんど使えませんけれども。
ところで、高温で使うの金は、「本金」、低温で使用する金は「水金」と言います。金の成分そのものは同じですが、水金の場合は、前にも話た通り、ビスマスなどと反応させて、接着出来るように加工しているので金の使用料が少なく、本金は、ほとんど(あるいは完全な)金なので、使用料が多くなります。マロン色、つまり金茶色は、上記の「本金」を使用した発色で、言うところの、「下絵用の含金絵の具」です。
Q120.化粧と釉薬を使用した際に発生する変化
A120.あれは、化粧土に使用されている顔料が、どういったものか。によって変わるんです。
今回の黒化粧を例にとると、黒化粧には、着色剤として添加している顔料が、黒い顔料(複数の金属の化合物)を使用しているものと、鉄・クロム・コバルトなどを単純に混ぜて撹拌しているものの2種類がありますが、そのどちらのケースも、施釉すると、化粧土と釉薬の接触面で反応を起こします。前者の黒い顔料の場合は、ほぼ高温でも安定しているはずなので(というか、安定させる為に、わざと化合させているんでしょうけれども)、あまり変化がなかったり、化合せずに残った少量のコバルトやクロムの色が表れる程度ですし、後者の場合は、個々の金属が高温で釉薬と反応しますから、かなり複雑な発色になります。
そのどちらが良いかは、作品を作る人間の好みによるわけですが、どちらにしても釉薬が素地に食いつく時に、反応をするわけですね。
釉薬は、素地面と表面では、素地面の方が先に熔け出します。炎に当たっている表面の方が、先に熔けるような気がしますけれども、実は素地の成分と反応する方が早いわけですね。
なので、反応色は、表面から熔け始めた釉薬に、素地の顔料が徐々に溶け込んで発色するわけではなく、素地と釉薬の接触面で、複雑な反応を起こしながら釉薬が熔けていき、面白いな発色や流下現象が生まれる事になるんです。
この辺りは、陶芸の不思議でもあり、楽しい所でもありますね。
Q123.ピンク顔料に色留めに酸化錫を用いたピンク(桃色)釉薬
A123.ピンクというのが、一体、どんなピンク顔料なのかというところがポイントになるようですね。
陶芸の高温で使用するピンク(あるいは紅)系の顔料は、大別すると、含金マロン(正円子)タイプ、燐酸マンガンアルミナ(陶試紅)タイプ、クロムアルミナ(ピンク)タイプ、クロム錫(濃ピンク)タイプなどがあり、それぞれに性質が異なるので、使用する基礎釉が、結構、シビアに規定されています。
単純に、錫を用いれば色止めになるというわけではなく、錫どういった用途で使っているかという事を推測しなければなりません。
釉を珪酸質にするためか、あるいは、混濁用原料として用い、それにピンク顔料で着色させて発色を良くさせる為なのか等、いろいろとありますね。使用量や基礎釉調合割合が分からないので、この場合は、どういった用途で色止めになっているのか、見当が付きませんけれども。
ところで、高温で使用する正円子は、カシアス紫に、硅石やアルミナを化合させて作ったものですね。ここで使用しているカシアス紫というのは、ご存じだと思いますが、王水に金を溶かしたものと、錫を溶かしたものとを反応させて作っています。つまり、元来の顔料に錫は入っていますし、過剰に錫を投入しても、色止めとしての効果が期待できるかどうかは、少々、疑問のような気がします。
ただ、顔料には、ほぼ必ずと言ってよいのでしょうが、残留した元素があって、反応しきれずに孤独になっていたりするものがありますから、そういうものと、錫を反応させようという事なのかもしれませんが。(勿論、目に見える程の効果があるかどうかは、分かりません。)
それから、ストロンチウムは、石灰と一緒に使用すると、非常に使い勝手の良い原料なんですが、素地を選ぶという悪い癖も持っています。お話からかなり珪酸質の釉薬と判断できるので、素地が信楽土のような陶質の場合、釉切れや、釉縮れなどの現象が起きやすくなります。出来れば、1:10よりも、1:7程度あたりの陶質の石灰釉でご使用になった方が、良いかもしれません。
Q130.天目の釉だれについて
A130.釉薬が垂れて盛り上がっているのは、施釉後に上向きにしているからではなくて、単純に、焼成中の流下現象によるものです。この事は、油滴天目や禾目天目茶碗などの結晶流下跡で、非常によく分かると思います。
では、何故、釉薬が流下するのかという事ですが、これには2つの理由があり、1つは釉中にある鉄の影響で、釉薬の軟化が進んで腰に溜まったもの。もう1つは、腰の部分の素地がかなり厚くなっている為に、釉薬が厚く掛かってしまったことによるものです。
釉薬は施釉の際に、素地の厚さ(=吸水力)に依存するので、口辺よりもずっと素地が厚くなっている腰の部分に多く付き、熔けて、あのように溜まるわけです。
もっとも、結果的に釉薬が厚く掛かってしまったというよりは、油滴や禾目のような結晶(いわゆる模様)を出す為に、意図的に厚く施釉しているのでしょうが。
Q135.黄瀬戸にタンパン(丹礬)の話
A135.タンパンというのは、硫酸第二銅の別称で、これは基本的に水溶性です。つまり、水に溶けてイオン化しやすい金属で、水溶液は非常に綺麗なマリンブルーの色をしています。
硫酸銅(タンパン)は、1250度程度ですと、鉄のように強いフラックスにはなりませんし、3割程度は揮発しますから、塩化鉄のように、素地をボロボロにするという事はありません。
黄瀬戸の抹茶茶碗で、抜けタンパンという茶人が喜ぶ装飾(?)がありますが、あれは、表に塗ったタンパンが、素地に浸みて内側まで到達したものです。
しかし、抜けタンパンを作るのはかなり難しく、多量に使えば、確かに抜けるんですが、表面に銅の結晶が析出してメタリックになり、淡い緑色にはならないので、いまでも、抜けタンパンは貴重品となっています。
つまり、それくらい、タンパンは素地に浸透しにくいわけですね。
さて、このタンパンが、素地を透過するには、いくつかの条件があり、それを全てクリアーすると、抜けタンパンが発生します。まず、素地に十分、タンパンが浸透している状態でなければならない。という条件が必要です。水に溶かしたタンパンを筆で素地に付けると、すぐに浸透して拡散します。しかし、、浸透させる量が多いと、美しいブルーグリーンのあの色ではなく、黒緑色の酸化第二銅そのものの色になってしまうので、適度な量、適度な浸透性でタンパンが素地を透過させなければいけません。また、タンパンは、空気中で徐々に風化しますので、浸透を強くさせようとして長期放置させると、逆に、色が無くなってしまう場合もあります。
次に、確実に発色する銅を残留させるという条件があります。銅は、陶芸で使用する発色金属の中では、揮発力が強く、かなり早い段階で何割かが揮発します。あぶらげ手の黄瀬戸を作るためには、ウオラストナイトという結晶を作る為の1100度相当を必要とするのですが、この温度域の窯調節が非常に難しく、ちょっと温度が高くなると、すぐに結晶が消失して、光沢のある釉薬に変わり、変化した釉薬は銅を溶かし込んで拡散させてしまいます。そして、更に、銅は揮発して、銅の色が弱くなります。
最後が素地の性質と、器の厚みです。強く焼き締まらず、かつ、あぶらげ手の釉薬と相性の良い土で、適度に水溶液を吸収して拡散させない。これは、現代のようなマシーン生産式の均質な土ではダメで、適度に不純物の残留したものが良いと言われています。また、こうした性質を熟知したうえで、タンパンの浸透性を考慮し、最良の素地の厚みを作れる職人技というものが必要になるわけです
Q136.珪酸鉄の話
A136.天然の珪酸鉄というのは聞いたことが無いので、たぶん、自然界には純粋な珪酸鉄結晶のような形では、ほとんど存在しないのではないかと思います。
珪灰鉄鉱という黒い鉄の結晶はありますけれどもね。それを釉薬に使っているというのは、あまり聞きませんね。
ちなみに、珪酸鉄は、酸化鉄と硅石を混合し、SK11番相当で焼成したものを粉砕して作ります。
ところで、珪酸鉄を、青磁によく利用するのは、反応性が高いためです。
弁柄のように酸素と結びついていないので、還元の際にイオン化しやすいとい事らしいのですが、私が今までに作った青磁だと、じつは珪酸鉄よりも鬼板土の方が色が綺麗だったりします。
青磁は、鉄の色以上に、釉薬に残留する泡の量がポイントで、鬼板土を使うと、不純物が多い分(燐酸カルシウムとか入っているのかな?)、泡が増えて青みに深さがでます。ま、この辺りは好みの問題もあるでしょうが。
Q138.曜変天目は現代でもつくることが出来るのでしょうか
A138.黒い地に、青白い暈が表れた静嘉堂文庫の曜変天目は、まさに幽玄を表す魅力ある器ですね。
で、ご質問の件ですが、結論から申しますと、現代でも作ることは可能です。ただし、その制作のプロセスが未だに確定されておらず、世界に3つしか存在しないと言われる曜変天目を再現することは、現代においても、いまだ不可能と考えられています。
似たような曜変を作る事自体は、何度か成功しているという話は聞いたことがあります。実際に、見たことは無いので、本当に似ているのかどうかは知りませんが。
しかし、曜変天目が何故、あのような発色をしているかという事そのものは、すでに解明されていて、ああいう泡の文様が無い状態ならば、同様の色を作り出す事だけは、比較的簡単に作る事ができます。
詳細は、科学的な話で難しくなるので省略しますが、簡単に言うと、鉄釉と、分相現象が起こる白い釉薬との複合技で、あの青白い発色が発生します。釉薬が熔けた時に発砲し、その泡のまわりに、鉄と分相との複合技が生じることで、あの模様が出来るわけですが、その現象が起こるには、卵を10個、縦に積むくらいの偶然性のあるプロセスらしいので、それを意図的に行うのは、やはり、至難の業という事なのでしょう。
ただ、偶然に起こるものというのは、絶対に起こらないという訳ではなく、また、現に、そうしたプロセスで出来上がった曜変天目が、世界には3つもあるわけですから、4つめの曜変天目が出来る可能性は、十分にあるわけです。
もしかしたら、たまたま作った器に、そうした曜変が出てくるという夢も、全くの夢では無いわけですね。
Q139.建盞天目(けんさんてんもく)について
A139.建盞天目(けんさんてんもく)というのは、中国の建窯で焼かれた鉄分の多い土を使った天目形の茶碗の総称(っていうのかな?)で、その中に、曜変、油滴、禾目などの天目茶碗があるわけです。ですから建盞天目には、藁灰のかかっているものもあるわけですが、ほとんど掛かって無いと思いますけれどもね。
もっとも、天目茶碗という大括りの分類自体は、昭和初期に出来たものらしいのですが。
Q140.灰釉について
A140.、「灰釉」というのは、釉薬(陶芸で使うコーティング用ガラス)の原料の中に灰を使っているものの総称で、使用する灰は非常に種類が豊富です。
灰は、大きく分類すると、「ガラスを熔かしやすくする灰」と「ガラスを熔けにくくする灰」の2つがあり、前者の代表的なものは、土灰(かまどの灰の略。いろいろな樹木の混合灰)、松灰、柞灰などがあり、後者の代表的なものが、藁灰や籾灰です。
前者・後者どちらの灰を使用しても、名称は「灰釉」になります。また、陶芸では、灰を「原料灰」と「自然灰(あるいは自然降灰)」の2つに
分類していて、成分的には同じものですが、「原料灰」は、あらかじめ釉薬として器に塗ってある灰、「自然灰」は、窯の燃料として使った樹木の燃えカスが炎に煽られて窯の中を舞い、器に降った灰です。
古い信楽の壺や、備前焼きに登場する器についた釉薬が、自然灰の効果によるものですね。
Q141.灰被天目について
A141.灰被天目というのは、原料灰で調合した釉薬(これが黒釉だったり、黄釉だったりするわけです)を掛けた器に、さらに自然灰が着いたもので、複合技です。だから、灰被りと呼ぶわけですね。
Q142.除鉄(脱鉄)の方法
A142.10%の塩酸で撹拌混和、沈澱物が溜まるのを待って上澄み液を捨てて、沈澱物を使用する。
Q148.釉付け(ゆづけ)・釉継ぎについて
A148.この方法は、結構、古くから行われている方法で、江戸時代には釉継ぎで陶磁器の修理を行う職業人が、かなり沢山いたそうです。もっとも、江戸時代の釉継ぎ職人は、楽焼きなどで使用する鉛入りの低温釉(玉ぐすりと言われていましたが)を使い、高温焼成した作品の破損部分を再焼成して接着するという方法でしたし、楽焼きのように焼成中に火箸で取り出して、接着を調節したりもしたようですから、作品を焼き上げる際に釉薬で接着を行うという話とは、ちょっと違うんですけれどもね。
ただ、このような焼成温度の違いを利用した釉継ぎの方法は、現在でも非常に有効な手段で、エポキシ接着剤などが使用できず(施釉部分に接着剤を使用すると、あまり接着強度が強くないので、重量がかかる施釉部分への接着には不向きなのです)、なおかつ実用強度が必要な場合には、この低温釉を利用した釉継ぎが行われる事があります。
私も、器の修理を頼まれたりすると、場合に応じて、低温釉の釉継ぎを行う事がありますよ。
例えば、カップの取っ手のように、側面の接着が必要な場合などは、一度、カップ本体と取っ手を別々に高温焼成した後、カップを横にして、そこに取っ手を付けて低温で再焼成すると、簡単に接着することが出来ます。高温釉は、800度程度ならば熔けませんから、釉薬が付いた面が、窯の棚板に触れていても、問題ないわけですね。
この要領で、1250度、1000度、750度程度の差で3種類の釉薬を利用すると、かなり複雑な釉継ぎも可能になるので、修理のみならず、作品制作の場合にも、極めて有効な手法として使う事ができるわけです。
特に、750度の低温釉などは、気に入らない場合には、焼成中に火箸で取り出してしまえば、何度でも接着修正が出来るというメリットもあります。(熱いので、何度もやる気にはなれませんけれども。)
もし、上絵付けをするような事がありましたら、一度、自分の家の割れた器などを釉継ぎしてみるのも良いかもしれませんね。
Q151.イルメナイトって何?
A151.その前に、チタンが分からないという方の為に解説。
最近では金属アレルギーを起こしにくいという事で有名になったチタン合金というものがありますが、陶芸の世界では、この合金の主成分であるチタンを、一般的に乳濁剤として使用しています。
で、このチタンは、酸化チタンという形で釉薬に入れるわけですが、その元になる鉱石が金紅石(きんこうせき)、またの名をルチルと言います。宝石に興味が有る方は、ルチレッドクオーツという金色の水晶を御存知かもしれませんが、あれは、水晶の原石にルチルが入ったものです。つまり、ルチルというのは、黄色の鉱物なわけですね。
で、前振りが済んだところで、イルメナイトの説明です。
イルメナイト(Ilmenite)というのは、酸化ルチルの粗製物とか副生成物ではなく、「チタン鉄鉱」という鉱物の英語名です。ルチルが「TiO2」なのに対して、イルメナイトは「Feo2+TiO3」という理論組成からも分かるとおり、非常に多量の鉄を有しています。磁鉄鉱と同じくらい、地球上には普遍的に存在しているものです。
ちなみに、ルチル原石は、綺麗な黄色〜金色をしていますが、イルメナイトは黒(というか金属光沢黒)色ですから、おそらく、釉薬に入れると鉄の性格が相当強く出てしまうと思います。私は使ったことが無いので、断定は出来ませんけれどもね。(ならば、書くなという話もある。
Q152.クレオライトって何?
A152.クレオライト(Cryolite・氷晶石・ひょうしょうせき)は、「Na3AlF6」という論理組成の鉱物で、主に、アラスカやグリーンランドなどの北方で産出するそうです。
一般的にはボーキサイトからアルミニウム地金を取り出すときに使用するもので、、ホール・エルー法という電気分解法を用いる時に、使われるらしいです。
ただ、組成を見ていて気が付いたのですが、私、過去に1度だけ、この名前を見たことがありました。某宗教団体が「これは、バッチを作る為に使っているんです」と言ってフッ化ナトリウムを見せるシーンで、その後ろに山のように積まれた袋に、「Cryolite」という文字が書かれていました。
で、陶芸関係の本を見たらば、琺瑯などで希に使用される釉薬の溶媒剤という内容を発見。ただし、焼成中に猛毒のガスを出すので、かなり換気をしっかりしないと危ない原料なのだそうです。
つまり、陶芸では、まず使わないと思って間違いありませんね。
Q153.粉引きの化粧土のかけ時
A153.粉引きというのは、一般的に赤土に白絵土(今日では白絵土は枯渇してしまっているので、それに近い化粧土をブレンドしていますが)という純白に近い土を掛け、その後、透明釉を施釉して焼成したもので、その姿が粉を引いた(あるいは吹いた)ように見えるところから、その名前が付いています。
で、この粉引き。生と素焼き後のどちらの方が、化粧を掛けるのが良いか、という事ですが、結論から言うと、好みの問題です。どちらが良いという事はありません。
また、素地土の乾燥具合や性質によって、あるいは、使用している化粧土の濃さや性質によって、生の方が良いか(良い悪いではなく、好みの問題ですが)、素焼き後の方が良いかも変わってきます。
例えば、土の中には、どんなタイミングでも、乾燥し始めた素地に化粧を施すと、かならず吸水して崩壊するものがあります。こういう場合には、生掛けの粉引きはできませんから、素焼きしなければなりません。逆に、かなりぼってりと化粧を掛けても、ビクともしない土もあり、こういう時には、生掛けでも、素焼き後に化粧を掛けても、どちらの選択肢も可能になりますね。
また、化粧土の性質について言えば、化粧土に膨張収縮率の大きな原料(生の蛙目など)を使っている時には、素地は生で、しかもまだ素地が湿っている早いうちに行わないと、化粧土が剥離しますし、逆に、原料の多くがすでに素焼きまでやってあるものを使っている場合には、膨張収縮率が小さいので、かなり乾燥した素地や素焼き素地にも化粧掛けをする事ができます。自分が使っている化粧土が、どちらの性質のものかによって、素地の調整を行う必要があるわけです。
更に言うと、化粧を掛ける手順でも、浸し掛けの場合、柄杓掛けの場合、刷毛塗りの場合など、いろいろあって、それぞれにケースバイケースであったり、好みの問題があったりします。どれが一番良いと断定することは出来ません。
それから、生掛けのタイミングですが、これも素地の性質や厚みに依存し、自分がどのような粉引きにしたいかによって、自主的の調整していく事になります。
一般的には、乾燥が進むと、化粧を掛けた後に素地が崩壊する可能性が高くなりますから、大抵は削り仕上げが終わった後か、その後、すこし乾いた状態の時に行うという事になります。
前者の場合(削り仕上げ直後)、素地が相当湿っているので、化粧の乗りにムラが生じ、そのムラが味のある表情を生みますし、後者の場合(少し乾かしてから)は、素地に厚く化粧がかかるので、ぽってりとした暖かく柔らかい白さの表現になります。
しかし、土の中には、完全に乾燥してから吸水しても形が崩れない。あるいは、素地が厚いので、多少の吸水には耐えられるという時には、完全乾燥してから行う事もありますね。
ちなみに、化粧を掛けた後、透明釉を施釉しますが、これも、生の時に行って、素地との一体感を強め、力強さを出す方法もあれば、逆に、一度、素焼きをしてから、しっかりと釉薬を乗せて柔らかい感じに仕上げる方法もあり、器の形に合わせて、あるいは好みに合わせて施釉のタイミングを変えます。
まぁ、粉引きも一つの表現ですから、あまり、方法の良し悪しに翻弄されず、自分が最も納得のいく結果を出すための手段ととらえて、自由にやっていただければ良いのではないかと思います。
Q159.バナジウムについて
A159.五酸化バナジウムは毒ですから、扱い、気をつけて下さいね。弁柄と何が違うかと言えば、おおよそどんな基礎釉に入れても、弁柄より不透明度が高いと思います。
ちょっとオーバーに書くと、黄瀬戸のような色合いを作るとしたら、バナジウムは下地になる土味を出しにくい黄瀬戸になる。という感じでしょうか。緑色で言えば、銅とクロムの関係に似ているかもしれません。ある程度の量を入れると、銅の緑は、わりと透明性があるけれども、クロムの緑は透明性が低いですよね。そんな感じです。
それから、熔融剤の相性は、特別、無いと思います。
ただ、何と反応するのか忘れましたけども、何かと反応すると緑色になったのは憶えています。何で、こんな色が出たんだろうとびっくりしました。(ジルコンと反応すると緑になるそうです。)
弁柄とクロムを加えて青磁を作ろうとしたらば、クロム磁鉄鉱になって黒い釉薬が出来た時と同じ驚き加減でした。
最後に毒性ですが、これは、釉薬の熔け具合に関係します。釉薬を十分に熔かせば、(酸で器物の表面が冒されたりしなければ)金属はガラスにコートされていますから、基本的には安全です。
しかし、マット釉や不溶性の釉の場合には、毒性はあると思って良いと思います。もっとも、程度の問題からすれば、即死とか、即効性腹痛とか、そういうことは無いでしょうが。むしろ、釉薬を作る時の方が、ずっと危険ですよね。
Q160.長次郎の黒釉について
A160.技術的なお話をすると,釉薬の艶がなくなる理由は3つあります。
1つめは,釉薬は熔けたが,冷却時,釉薬表面に何らかの微細な結晶が析出したので,曇りガラスのように光沢が無くなってしまった場合。
2つめは,キメの荒い素地土を使用したために,釉薬が焼成中,素地に吸収されてしまった場合。
3つめは,釉薬が不熔(熔けない)状態である場合。あるいは,あえて熔けない物質を釉薬に入れている場合。
の3つです。
この内,1の微細結晶の析出は,作品を徐冷といって,非常にゆっくりと冷ます必要がありますから,火ばさみでつかんで,いきなり水や湯につける楽焼きや引きだし黒の方法では,極めて作るのが難しい黒色です。そこで,仮に艶のある黒が作れなかった(つまり,技術的に問題があった)と仮定すると,理由は2または3になります。
2の素地吸収は,一番可能性の高い理由です。というのも,長次郎の楽焼きの素地は,もともと素地の粒子が粗いものを使用していますし,焼成温度も低いので素地の焼締まりが悪く気密性が良くありません。この素地上で釉薬が溶けると,砂地に水をこぼした時のように,釉薬は素地に吸収されるので,結果的に釉表面の凹凸が強くなって反射光が散乱し,見た目がつや消しになります。
ところが,じつは楽焼きの釉は,思ったよりも厚く掛かっており,釉薬が吸収されて光沢が無くなったものとは,おもむきが異なります。
そこで3つめの,釉薬不熔の可能性ですが,一般的に楽焼きで使用する釉薬には鉛が含まれており,750度を越えると容易に熔けてガラス化します。木炭にドライヤーで風をあてて温度を測定すると,簡単に1000度相当の熱量を得る事ができますから,燃料的に釉薬が熔けなかったとは考えにくいということになります。
となると,結局は,かなり保温性の悪い窯をあえて作るか,釉薬をわざと熔けにくいものに調合するか,または釉薬が完全に熔ける寸前に掴み出して作品を冷却し,釉ガラスの熔解を止めてしまうといった人為的操作が必要になります。
つまり,つや消しは,出せなかった色ではなく,あえて作った黒ではないかということになり,そこで,矢部良明さんの推察が登場します。言い換えると,千利休と長次郎は,「マット(つや消し)」というテクスチャーを,あえて作り,それを世に問うたのではないか,ということです。
私は,お茶を習った事も無いし,茶席もFTEAで招待されたものしか出席したことがないので,茶人が茶席にかける並々ならぬ心意気は分かりませんが,茶席に他人を招待するというのは,おそらく,バンドのメンバーがライブを開く時の心境,あるいは,役者が芝居の公演を行う心境に似ているのではないかと思っています。
つまり,お客さんに楽しんでもらう為に,また,自分の可能性を他人に見せるために,極限まで練習や稽古を積んだ後,ライブや公演は行われます。茶人もまた,他人を招待する為に,その茶席の場を極限まで突き詰め,一期一会を最高のものにするために,あらゆる手段を使い,道具や食材をそろえるそうです。
もし,仮につや消し黒という色が,失敗で出来たものだとするならば,そんな茶席に,あえて失敗作を持ち込んだ亭主の思想や意味性は,一体,何なのでしょうか。
黒楽が世に登場してから,それは,たびたび茶席に登場するようになります。あえて失敗作を茶席に出した亭主の心境は,実に興味がありますね。その未完に,侘び寂びの心を見つけたんでしょうか。
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