「あなたの頭を・・・」 都市伝説ネタ「メリーさん」より
都心部に位置する13階建てのマンションと言うと 企業の社長やセレブなどが多く住む場所と言うイメージがあるが 建築において家賃と最も密接に繋がっているのは築である。 いくら高層マンションと言っても、オートロック式ではなかったり 建てられた年数が2桁を越す数字だと、家賃の相場は大幅に下がる。 美雪が13階建てのマンションに住む事ができたのも、ご他聞に洩れず、そう言った旧式の要因が挙げられた。 普段は仕事で忙しいため、部屋の整理、ましてクローゼットの整理などしている暇などなく 今日のような休日でない限り、整理するためのまとまった時間など取れなかった。 まるで眠りから覚めたようなクローゼットの中は、美雪が思っていた以上に殺伐としている。 無機質とも形容できる無残な有様は、扉を開けなければ見えない世界の成れの果てのような姿だった。 もはや着る機会を失ったドレスやスーツ。サイズの合わないブーツなど 捨てるに捨てられないものでごった返していた。 「もっと整理しておくべきだったな」 今さらそんな事を言っても手遅れである。むしろ騒然としているのがクローゼットなだけマシだ。 万が一部屋がこのような有様だったら出来る彼氏も出来ないままだろう。 クローゼットの中の物を外へ出すと、その中に見慣れないダンボールがあることに気付いた。 「ずいぶん古そうだな」 美雪は膝を付き、かなり古くなっているダンボールを開けた。 中に入っていたものは引越しの際に一緒に持ってきた荷物の一つで 美雪が幼少時代に遊んでいたオモチャの数々だった。 今ではもうお目にかかれないような古いゲームセットや、すごろくなどが目立った。 「これって・・・・」 美雪はその中から古い人形を見つけ出した。もう忘れ去られた記憶の中に この人形は祖母から買ってもらった人形である事を思い出した。 初めて買ってもらった人形で、美雪は「メリーさん」と名付けてずっと大事にしていた。 しかし、長い間忘れ去られ老朽が進み、見るも無惨な姿に変っていた。 これではいくら幼少期の記憶とは言え、楽しかった思い出も台無しである。 「この人形、どうしようかな・・・・」 それは持っていてももはや何の役にも立たない。古びて汚れており、むしろ捨てるべきではないか?と言う思いが過ぎる。 人形である以上、むやみに捨てるのは少々不気味な感触を残す事になる。 だがかと言って神社に持って行く暇など美雪には無い。 しばらく悩んだ挙句、「ごめんね」と誤り、人形を他のゴミと一緒に捨てる事にした。 翌日。 仕事が終わり家に帰ると、まるで美雪の帰りを待っていたかのように電話のベルが鳴った。 受話器を取り、美雪が「もしもし」と言おうとした瞬間、こちらの言葉を遮るように 「もしもし、私メリーさん。よくも私を捨てたわね。許さない。必ずこの恨みを晴らすために、あなたの元に帰るから」 それだけ一方的に告げると電話は途切れた。 「なに・・・今の・・・」 相手の声に聞き覚えは無い。と言うか相手の声は非常に無機質で、ほとんど機械によるアナウンスのような声だった。 美雪の背中はゾッとした。「メリーさん」と言えば、昨日クローゼットで見つけた人形の名前と同じである。 しかし、アナウンスのような機械音であった事が、美雪の中で「単なるいたずら」として片付けてしまう事となった。 美雪は何事も無かったように電話から離れた。 ところがその5分後、またもや電話のベルが鳴り響いた。 「まさか・・・・・」 美雪は緊張しながら受話器を取り、耳に当てた。 「もしもし、私メリーさん。あなたのマンションの前に来たわ」 「ちょ、ちょっと!」 美雪の声は相手の言葉に遮られ届かなかった。電話はまたしても無機質で一方的だった。 タチの悪いいたずら・・・何とかそう思うように務めたが確証が持てない。 そして更に5分が経過すると再び電話が鳴った。 「もしもし、私メリーさん。あなたのマンションの2階にいるの」 それは終わらなかった。規則正しい時間経過と共に電話が鳴る。 「もしもし、私メリーさん。あなたのマンションの3階にいるの」 「もしもし、私メリーさん。あなたのマンションの4階にいるの」 「なんなの・・・なんなのよ、これはっ!?」 もはや美雪は怖くて電話に出れなかった。だがそれでも人形は電話を続け 留守番電話に一方的なメッセージを残し続けた。 「もしもし、私メリーさん。あなたのマンションの10階にいるの」 「もしもし、私メリーさん。あなたのマンションの11階にいるの」 人形の居る階が5分後ごとに上がってくる。それは美雪に近づいて来ると言う意味と同じだった。 「もしもし、私メリーさん。あなたのマンションの12階にいるの」 人形はとうとう美雪の住むすぐ下の階まで迫ってきた。 美雪の身体は恐怖によって縛られ硬直している。逃げようとも考えたがもう遅い。 人形はすぐ下まで来ているのだから。もはや次は美雪の住む13階である。 そして再び電話のベルが鳴り、留守番電話にメッセージが吹き込まれた。 「もしもし、私メリーさん。今あなたの家の前よ。ドアを開けて」 「いや、いやああああああっ!?」 美雪の心臓は跳ね上がった。信じられないほどの心拍数が胸を叩きつける。 それからまた5分が経過し、電話が鳴った。 「もしもし、私メリーさん。どうして開けてくれなかったの?でももう良いわ。こうして会えたんだから。 あなたの後ろにいるの・・・・・・あなたの頭を・・・・」 美雪はそこまで聞くと後ろを振り返った。そして・・・ 「かち割って・・・・」 と言う言葉を耳にした瞬間、美雪に永久の闇が訪れた・・・・。 END |