「亡霊の末路」 都市伝説ネタ「小さな男の子」より
「あんたなんかと結婚して子供を生んだのが、そもそも間違っていたのよ」 「な、なんだとっ!」 「そうじゃない!ロクに稼ぎもない、何の取り得もない。この甲斐性なし!」 その時、龍太郎の中で何かがキレた。 「もう二度と口を聞けないようにしてやるからな!」 龍太郎は我を忘れ、台所にあった包丁を手に持った。 「な、何する気・・・や、やめてよ!冗談でしょ・・・」 「こうしてやる!!」 「いやあああっ!」 大絶叫が響き、数分もしないうちにかつての妻佳代の人生は幕を閉じた。 「はあ・・はあ・・はあ・・・」 やってしまった・・・そんな言葉が龍太郎の脳裏を過ぎるころには、すっかり我に戻っていた。 別に殺す気などなかった。ただ結婚してから何十年も続いている妻との不仲に嫌気がしていたのは事実だった。 龍太郎は悔やんだ。いくら罵られたとは言え殺すことは無かったのではないか・・・。 自首しようか・・・いや待て。それは出来ない。そんな事をしたら残された我が子の光一はどうなる。 光一はまだ幼い。自分が捕まるのは良いが、今はまだ捕まるわけには行かない。 光一はまだ小学生だ。ただでさえ母親の必要な時期だというのに、両親を一度に無くしたら それこそこの現実がトラウマとなってずっと引き摺る事になってしまう。 そう考えた龍太郎は物置からシャベルを持ち出し、台所の床下に妻の死体を埋めた。 「ねぇパパ。ママは何処に行ったの?」 夕食を取りながら光一が聞いた。 「ママはしばらく旅行に行っているんだよ。だからしばらくパパと二人だ」 「そうなの?」 「ああ、そうさ。何も心配することはない」 「そっか」 我ながら聞き分けの良い子供だと龍太郎はつくづく思った。どうにか光一には誤魔化せたが、いつまで持つかどうか。 息子へのはぐらかしを成功させた傍ら、龍太郎は近所には「しばらく実家に帰っている」と嘘を付いた。 出来る限り誤魔化しを突き通しておきたい。せめて光一が大きくなるまでは。 二十歳の頃から商社マンだった龍太郎の給料は、決して良いとは言えないものだった。 それでも佳代と結婚当時は二人で幸せな家庭を築いて行こうと躍起になった。 毎晩のように愛し合い、永久を誓い合う言葉を言い続けた。しかし女ほど現実的な生き物は居ない。 龍太郎がいつまでも出世しない事について、佳代はじわじわと不満を洩らすようになった。 そんな折、光一を授かった事が後の佳代殺害に至る不仲の始まりだった。 ロクに収入も無いのにどうやって子供を育てるんだ。もっと仕事しろ。稼ぎを持って来い。 それまでは不満を口にする程度だったが、光一を出産すると、その不満は嫌悪感に変わって行った。 龍太郎はうんざりしていた。稼ぎが少ないのは分かるが、男として罵られるのは何者にも勝る屈辱である。 最も、その佳代を殺した今となっては、殺したことを後悔しているのだが・・・。 龍太郎は何とか光一を誤魔化せたと思っていた。 ところがその日以来、光一の龍太郎に対する態度が急に変ったのだ。どうも自分を見る目がおかしい。 もしかしたら見られたのか?・・・・いやそんなはずは無い。あの時誰も居なかったはずだ。 しかしどう考えても自分を見る光一の目には疑いの眼差しが光っている。 龍太郎は絶望した。我が子に我が妻を殺害した現場を見られたのであれば、もう逃げようが無い。 何より父親失格である。いっその事光一を殺して自分も・・・・。 龍太郎はいよいよ追い詰められつつあった。 その日の夜、龍太郎は夕食の席で光一に切り出した。 「光一、一つお前に言って置きたいことがあるんだ」 我が子をこの手に掛ける前に、真実を伝えておこうと龍太郎は思った。自責の念と最低の親である事の後悔を含めて。 ところが龍太郎が話し出す前に光一がこんな事を言った。 「パパ、僕もパパにどうしても聞きたいことがあるの」 龍太郎は驚いた。一体どんな事だろう。「ママを殺したでしょ?」と聞かれるだけは勘弁して欲しかった。 「な、なんだい?」 そして光一は言った。 「パパはどうしてずっとママをおんぶしているの?」 END |