髑 髏
千里(ちさと)に奇妙な現象が起きるようになってから2週間が過ぎた。 相変わらず「それ」は続いているが、未だにこの奇妙な現象が何を意味するのか分かっていない。 「ああ、今夜もだわ」 部屋の電気を消してベッドに入り、瞼を閉じた千里に「それ」は起こった。 「まったく何なのよ、この髑髏たちは・・・・」 いつもの事とは言え、少々うんざりした口調で千里が言った。 通常なら「髑髏」と言う言葉自体禍々しい言葉であるが こうも頻繁にその髑髏を見ていると、さすがに慣れてしまう。 この現象に出くわした当時は、気味の悪いものを感じていたが 今ではすっかり日常と化している。 千里に起きる奇妙な現象・・・・ それは寝る時に瞼を閉じると、電気の放射する光の余波が変化し、それが髑髏に変化すると言う現象だった。 暗い部屋で瞳を閉じ、意識的に一箇所だけを見ようとすると 帯状になった無数の光が現れ、それが様々な形に変化するときがある。 大抵の人はそこで目を開けると元に戻るが、千里の場合それがしばらく続くのだ。 しかも形は決って髑髏であり、それ以外の形に変化する事は無かった。 浮かび上がる髑髏の形はその時によって異なる。 大きな髑髏が浮かぶ事もあれば、子供のように小さい髑髏が現れるときもある。 そうかと思えばまったく浮かばない時もあるのだ。 その髑髏たちは瞼の裏を浮遊するように動き回る。時計回りに動き、その回転が止まらぬうちに眠ってしまう日もあった。 「いい加減にして欲しいわ。疲れてるのかしら・・・」 千里は思わず声に出してそう言った。 「あれ?何かしら」 瞼の裏に浮かび上がった髑髏たちに変化が起こった。 時計回りで動いていた髑髏の一つが、群れから外れて徐々に自分の方へ迫ってくる。 それと共に言いようの無い不安感が千里を襲った。 恐怖?いや悲しみ?それとも絶望? ありとあらゆる負の感情が込められたようなマイナスのエネルギーを瞬時に感じ取った。 ベッドの上で言い知れる不穏な感覚を察知した千里は、自分へと迫ってくる髑髏をじっと見つめた。 髑髏が近付くにつれその輪郭が明らかになる。 千里にはその髑髏が女性である事を察した。 「多分女性ね・・・」 千里は心でそう呟くと、徐々に近付いてくる髑髏に警戒心を抱き始めた。 自分の目の前まで来ると、その髑髏はピタリと止まり、次の瞬間上の方へと移動し、最後には見えなくなった・・・。 翌朝、晴天と言う天気には相応しくない、母親の急死と言う現実が飛び込んできた。 千里の母親は昨日の深夜、突然心臓発作を起こして帰らぬ人となった。 母親の突然の死。計り知れない悲しみと絶望が襲った。 だがその悲しみもいずれ時が解決してくれる。 そうなれば眠れぬ夜が続く現在も、少しは落ち着いてくるだろう・・・。 そう思った千里の脳裏にある「疑惑」が浮かんだ。 よくよく考えてみれば最近人が亡くなりすぎている。 母親が他界する前は近所で仲の良かった主婦が脳梗塞で亡くなった。 更にその数日前には夫の友人が交通事故に合い、他界している。 千里はここ最近の状況を冷静に探ってみた。 すると、この2週間の間に4人もの知人や家族が亡くなっている。 「2週間・・?・・・」 2週間と言う明確な数字に思い当たったとき、千里はそれとまったく同じ時期に始まった「あの」現象を思い出した。 千里が就寝時に瞼の裏に髑髏が浮かぶと言う奇怪な現象が起こり始めたのも2週間ほど前からである。 「まさか・・」 千里は思い立ったように日記帳を引き出しから取り出し、焦る気持ちを抑えながらページをめくった。 「やっぱり・・・それじゃあの髑髏たちは・・・・」 この2週間の間で知人や家族が亡くなる前日と、千里が髑髏を見ている日が見事一致したのである。 髑髏が浮かび上がった翌日に4人ともこの世を去っているのだ。 言い換えれば、あの髑髏は誰かが死ぬと言う予知現象とも呼べる出来事だったのだ。 「あの髑髏たちは翌日に死んでいった人たちの、いわば抜け殻・・・」 千里の全身に鳥肌が立った。 そして千里は気付いてしまった・・・。 今はまだ悲しみの渦中に居る事で眠れぬ夜が続いている。 しかし、そんな夜もいつかは終わりを告げるだろう。 もう2度と髑髏を見ないと言う保証は何一つ無い。 髑髏が浮かぶたびに身近な人たちが死んで行く・・・。 そしてそんな予知を自分は知ってしまうのだ。 その人間が死ぬ前日の夜に・・・・。 「冗談でしょ・・・・」 力無く崩れ落ちた千里の真上で 自分の出番を待ち続けている「死の髑髏たち」が ニッコリと微笑んだ・・・・。 END |