第十一章「神が産み落とした時代の堕天使」
10月14日、時刻は午前11時35分。都内にあるラジオ局に 完全武装を施した捜査員、延べ200人が取り囲んだ。 そんな中、捜査は最前線にいた渡辺、輪島、京子の3人は 医学教授の藤崎と共に、同局でラジオのパーソナリティを務める 「西島 太郎」、本名「園田健一」を正式に逮捕した。 西島、いや、その園田は犯行を素直に自供した。 以下は、園田の犯行自供である。 「私がやりました。最初の連鎖は別に高校生だけを狙ったわけではなく あくまで重度の悩みを持っていて、尚且つ「地下鉄」を利用している人間を狙ったまでです。 私は兼ねてより、周波数40ヘルツの詳細を独学で学んでおりました。 地下鉄のトンネル付近の音が、周波数40ヘルツの音声に近いと言う事も、その独学の中で知ったんです。 私は警察が憎かった。既にお調べになっていると思いますが 私の本名は園田健一。半年前、港区で起こった一家心中事件で、唯一生き残った園田家の長男です。 あの時、警察に電話した私の言葉を信じてくれれば、私の家族は死なずに済んだかも知れないのです。 それなのに警察はまるで取り合ってくれなかった。 警察は日頃大きな事件ばかり目を向け、一家心中のような個別な事件には目を向けようとしない。 それが原因で私の家族は心中したんです。ウチは経済的な問題を抱えており 父親はノイローゼになっていて、母親は酒に手を出すようになって 家族はバラバラになりつつあったんです。だけど、そんな家族でも私にとっては大事な家族です。 きっと経済的な問題から一家心中へと繋がったのでしょう。 私は大事な家族を失った。それも警察のせいです。 私は警察が憎くてたまらなかった。絶対に復讐してやると誓ったんです。 以前から科学的な事に興味があり、独学で「人間は周波数40ヘルツの音声を聞くと精神的に狂ってしまう」という 事実を知っていました。一家心中の後、警察に復讐する事を誓った私は 復讐の材料に使えると思ったんです。 そこで私は、自分が受け持っているラジオの番組内で、使っている機材に細工をして 私の声が周波数40ヘルツになるように設定してラジオを放送したんです。 ただでさえ、日常生活において重度の悩みを抱えている人たちです。 ましてや、その人たちが地下鉄を使っていれば、日頃から蓄積されたストレスが 私の流した周波数40ヘルツの音声によって大爆発を起こすだろう。そう思ったんです。 結果的にそれは見事に当たり、145名もの被害者を出すことに成功したんです。 絶対に見破れないと思っていました。何せ明確な証拠が残らない上に 同日の同時刻と言う事で、私まで辿り着く事は不可能だと思っていたのです。 だけど、まさか被害者たちが全員地下鉄を使っている事実に気付き 更に被害者たちの部屋を撮影した写真で私を見つけ出すとは、正直言って思ってもみませんでした。 第2連鎖も要領は同じです。15時ちょうど、私のラジオが始まるのと同時に 周波数40ヘルツの音声を一緒に流しました。 病院で自殺した人たちは、私のラジオを聴いていた人たちです。 それは第1連鎖のときも同じです。145名の被害者は全員自宅で私のラジオを聞いていたはずです。 だから皆自宅で狂い始めた。そういうわけです」 木下桜が証言した事実は、園田健一が自供したように 「事件当時、香澄の部屋でラジオが流れていた」と言う事実であった。 黒川香澄の家には何度か遊びに行く事があったそうだが 事件当日は、「音がないと寂しくなるから」と言って 香澄はラジオをつけたという。 その時間が15時ちょうどで、ラジオを付けてしまったがために 周波数40ヘルツの音声に犯され、狂い始めたと言う事実であった。 園田の供述通り、145名全員が黒川香澄と同じように、自宅で同じラジオを聴いていたのである。 被害者全員は重度の悩みを抱えており、それがいつ爆発してもおかしくない状況だった。 更に被害者は全員が「周波数40ヘルツの音声が濃厚な地下鉄と言う場所」を 通学の経路としていたのが原因で、周波数40ヘルツに最も近い、悪性の音声が体内に蓄積されていたのである。 そこへ、園田の周波数40ヘルツを含んだラジオを聴いてしまったせいで 精神異常と言う結果になってしまったのである。 だが、木下桜の「ラジオを聴いていた」と言う証言だけでは、力不足であった。 被害者全員が事件当時ラジオを聴いていたかどうかなど分からないのだ。 しかし、「ラジオを聴いていた」と言う決定的な証拠があった。 それが渡辺がずっと気掛かりだった被害者たちの部屋を撮影した写真だった。 渡辺が言った「あまりにも普通過ぎて気が付かない」と言う部分は ラジオが内蔵されたステレオの事だったのだ。 被害者145名の部屋の写真には、ラジオのアンテナが皆立っていたのだ。 それは「事件当時被害者はラジオを聴いていた」と言う確固たる証拠である。 コンポなどにはラジオ専用のアンテナが付属されており 極普通のステレオには銀色で折りたたみ式のアンテナが付いている。 それが145名全ての部屋で立っていたのである。 木下桜の「事件当時ラジオを聴いていた」と言う証言は 渡辺が発見した「アンテナが立っている」と言う事実を、真正面から裏付けたのである。 またラジオ局を家宅捜査した結果。 犯人、園田健一が使っているラジオ放送用のデッキ内に 周波数40ヘルツの音声に切り替えた証拠が残されていた。 更に、同じ現場のスタッフの証言で 「園田は事件当日、放送のシステムを自分で設定いた」と言う証言が取れた。 つまり、「自らの手で周波数40ヘルツの音声に切り替えていた」と言う事だ。 木下桜がもたらした証言。そして渡辺が発見した被害者たちの部屋の写真。 そして、被害者たちの地下鉄と言う共通点。輪島が見つけた一家心中。 この全ての証拠を持ちいて、見事園田健一容疑者を逮捕したのである。 尚、逮捕後の園田の供述では、本人の口からこんな言葉が発せられた。 「私は人間の命を自在に操る神だった。それは間違いないんだ。 警察への復讐は間違っていない。あんたたちは何が正義なのか 何が悪なのか、ちゃんと説明出来るのか? お前たちのせいで、私の家族は・・・・家族が・・・」 取調べに当たった渡辺、輪島、京子の3名の間で、深い溜息が広がった。 園田のいう事は一理ある。 今回の事件は、園田からの電話をしっかりと警察側が受け止めていれば このような結果にならなかったも知れないのだ。 あの時、警察が園田の言葉を信じ、何かしらの対応をしていれば 園田もこのようなバカな事をしなかったかも知れない。 復讐するのは間違っている。だが、警察が事態を重く受け止めなかったと言う事実は その復讐に値する「悪」なのではないだろうか? だとすれば、警察は園田に対し「悪事を働いた」と言う事になる。 犯人逮捕となった今ではどうしようもない事だが もしかしたら、一番の犠牲者は園田健一自身だったのかも知れないのだ・・・・。 この一方は瞬く間に全国ネットで報道され、事の真相に市民は驚愕した。 まさか遠隔操作による異常発生だとは、誰も思わなかったのであろう。 環境と、周波数40ヘルツと言う特殊な状況を作り出せば 遠隔操作で人間を狂わせることが出来ると言う証明が、この事件で成立してしまったのだ。 専門家の間でもこの話は大きく上げられ、今後の環境対策に大きな波紋を呼ぶ結果となった。 「園田の言う事も分からんでもない。俺が逆の立場だったら 復讐はしないにせよ、自分の切なる願いを受け入れなかった警察に対し 少なからず疑問を持つだろう。ひょっとしたら憎しみを覚えるかもしれない。 俺たちは日頃大きな事件ばかりに捕らわれて、小さな事件を見落としているのかも知れん。 そうだとすれば、今回の事件で罰せられるのは、むしろ俺たち刑事かも知れんな」 園田を乗せた車が刑務所へと搬送されるその風景を見ながら 渡辺は誰にもなく、静かに呟いた。 こうして事件は無事、解決した・・・・・。 |