第六章「連鎖ゲーム」
「やあ、無能な日本警察の諸君。元気かね? 私は10月8日に起こった「連続精神異常事件」の犯人。ドリームマスターだ。 先の事件に置いて、私がどれだけの力を持っているか 警察諸君には分かってもらえたと思う。 テレビのニュースや報道などでは、偶然ではないか?という仮説も出てきているようだが まったく専門家の無能さにも呆れているよ。 一つここではっきりさせて置こう。あの事件は私が引き起こしたものだ。 諸君は今頃、事件の原因や理由、そして犯行手段などを探しているだろうが そんな事をしても無駄だ。諸君のような無能な人間たちでは 私が仕掛けたこの特殊な犯行手段は決して見破れない。 例えFBIのような人間たちとて見破る事は不可能だ。 まず最初に、何故私がこんな大それた事を仕出かしたのか、教えてやろう。 これは「復讐」なのだよ。 諸君ら警察は無力だ。大きな事件に目を向ける余り 本当に些細な、そして小さな事件には目を向けない。 諸君たちのそんな常識外れの行動で、どれだけの一般市民が苦汁を舐めた事か。 諸君たちは考えた事があるかね? 警察にとってはそれが正義だと思い、行った事が、どれだけ人を傷つけた結果になったか 言い換えれば警察の横暴な態度、ずさんな管理、取調べ。 ありとあらゆる不祥事は「無差別」と言っても良いだろう。 いつか復讐をしてやろう、そう思っていたわけだ。 そこで私はある手段を思いついた。 それが今回の事件「連続精神異常事件」の真相だ。 この手段については、練りに練り足掛け半年もの歳月を費やした。 言ってみれば私の「傑作」だよ。 そしてあの日、10月8日にそれを実行に移した。 結果は上々。君らもテレビのニュースくらいは見るだろう? コメンテーターや専門家も腰を抜かすほどの結果が得られたのだ。 私はね神の生まれ変わりなんだよ。 いや、神そのものだと言っても良い。 なんせ人間の精神をコントロールし、正常と異常を自由に操れるのだからな。 これを神と呼ばずして何と呼ぼう。 今は人間の命など、私が握っていると言っても過言ではない。 さて、警察諸君。 ここでゲームをしようじゃないか。 神となった私と、日本警察の威信を掛けたゲームだ。 肉体を使うわけじゃないが、対戦ゲームだと思ってもらえればそれで良い。 ルールは簡単だ。 明日、12日。午後15時。連続精神異常の第2連鎖を起こす。勿論、犯人は私だ。 しかし、今度は間違いなく死者が出る。正確に言えば自殺者だ。 いわば犯行予告と言ったところか。 これを脅しと取るか、本気と取るかは諸君たち次第だ。勝手にするが良い。 だが、間違いなく死者が出るぞ。第1の連鎖で起こった被害者の自宅、そして彼らが入院している病院。 それに人間が存在するありとあらゆる場所に気を付ける事だ。 このゲームで私は諸君ら警察の実力を測ろうと思う。 諸君らが明日の15時までに事件を解決、つまり私を捕まえられるか それともこのまま黙って第2連鎖を迎えるか。 全て諸君たちに掛かっているぞ。 おっと、言い忘れていたが、今度の被害者も高校生になるだろう。 だが、必ずしも高校生だけとは限らんぞ。 人間は誰しも深い闇を抱えている。特に病院は要注意だ。 フフフ・・・・さあ、どうする警察諸君。 時計を見たまえ、もうゲームは始まっているぞ。 ぼんやりしていると死者が出る。死者が出れば市民が諸君らに抗議をする。 抗議をすればマスコミが黙ってないだろう。 そうして君ら警察の株は落ち、自らの恥を知るが良い。 一つヒントをやろう。 「暗闇には注意しろ」だ。 フフフフ・・・・・・・。 「なんてヤツだ!?」 送られて来たテープが流れ終わると、行き場をなくした怒りをデスクに叩き付けた輪島が叫んだ。 渡辺と京子が水上警察署に戻った頃には、既に本庁のプロファイリング班が 送られて来たテープの解析に入っており この場で流したこのテープはダビングしたものであった。 本物のテープは本庁の手によって、声の声紋や、機械によって変化させていた音声の分析が進められている。 本庁の話によれば音声は機会によって変えられており 声紋の特徴は見られず、後ろで流れている音声や物音が何一つ無かった事から 犯人へと繋がる有力な手掛かりにはなりそうにないと言う事であった。 それに加え、テープが直接この水上警察署に届けられた線に付いても まさか犯人が自らの手で、ましてテープと言う形で犯行声明を送ってくるとは思っておらず 現場周辺の聞き込みや捜査などにも進展は無かった。 本庁は動員数を増やし、水上警察署周辺や、近隣の地区に捜査の範囲を広める決断を下した。 今では述べ300人もの警官が動いている。 「今朝の8時です。残り7時間しかありません」 京子が腕時計を見ながら言った。この口調にはどこか焦りが込められている。 「クソッ!何か手掛かりは無いのか!?なんで何一つ掴めないんだ!」 焦っているのは輪島も同じであった。 輪島は半ばヤケクソ気味に椅子に座り、額を右手で触れた。 「このテープが偽物だとは思えません。恐らく犯人でしょう。 このままでは犯人が言うように次の連鎖が起こってしまう」 「分かってる」 京子の問いかけに渡辺は静かに答えた。 「とにかく皆落ち着け。犯人は我々が慌てふためくのを面白がっている。 ここで冷静さを見失ってはヤツの思う壺だ」 輪島、京子以外の捜査員は各自己の持ち場、そしてやるべき事へと戻って行く。 「まず、状況を整理しよう」 渡辺が切り出した。 「まずこの事件は事件だったと言う事。犯人が存在する。 そして次の連鎖は今日の15時。これは8日に起こった第1の連鎖と同じ時刻だ。 おそらくヤツは前回と同じようになぞらえたんだろう。 そして、声明文の中で今回は高校生だけとは限らないと言っていた。 特に病院は注意しろと。そして、ヤツからのヒントが・・・・」 「暗闇には注意しろ」 渡辺の補足をするように、京子が言った。 「犯行声明文を聞く限り、ヤツは警察に何らかの恨みを持っている。 現にヤツは復讐だと言い切った。きっと警察に関して嫌な記憶があるのだろう。 一番のネックは死者だ。今回は死者が出ると言い切りやがった。 しかもそれが自殺者だと。どうなっているんだ・・・・」 「人間の生死まで操れると言うのでしょうか、だとすれば狂ってる」 「きっと何かあるのよ。私たちがまだ気付いていない何かがね」 輪島と京子が議論している間、渡辺は被害者たちの部屋を撮影した写真をじっと見つめた。 しかし、どれも平和そのものを映し出したような部屋で おかしな点など一つも見つからなかった。 「輪島、被害者の通っていた学校やその通学経路はどうだった?」 「はい、調べましたよ。全て行って来ました」 そう言うと、輪島は被害者たちが通っていた学校をリストアップした報告書と 被害者たちが通っている学校の所在地を記した地図を広げた。 「学校、通学路全て調べましたが、妙な点はありません。 同じ学校に通っていた人間も数名いましたが、明確な共通点はありませんし 悩みを抱えていた事は事実ですが、その悩みも被害者通しの繋がりはありませんでした。 通学路に関しても特に不審な点は無く、ごく普通そのものです」 「中野高校・・・・目黒駅・・・・豊島区・・・・池袋・・・・」 渡辺は地図に記されている被害者の学校の所在地と 学校のリストアップを見ながらその現場を手で記した。 「ん?・・・・」 「どうしました?」 途中で手を止めた渡辺に京子が聞いた。 「いや、何でもない」 輪島がリストアップした学校名と、その所在地を記す地図を見ていた渡辺は なんとも説明しがたい違和感を覚えた。 勿論、その違和感を説明するのは無理であったが、どうにも奇妙な違和感がある。 それは地図上で記す学校の所在地と、学校名から感じられる。 そして犯人が残した「暗闇には注意しろ」と言うヒント。 何かがおかしい。だが、それを説明するだけの明確な答えは浮かばない。 分かりそうで分からない。まさに「首まで出ている」と言う釈然としない感覚であった。 それにもう一つ、渡辺には気になる事があった。 それは被害者の部屋を撮影した写真である。 それは有り触れた部屋の様子を明確に映し出している。 一見、問題の無い部屋のように見えるのだが、何かが違うような気がするのだ。 それも先に述べた事と同じように、明確な答えは見つかっていない。 それでも異変は写真を見る己の視界に入っているような気がするのだ。 だが、それに気付かない。いや、あまりにも普通過ぎて見過ごしているようにさえ思える。 「どうしますか?もうあまり時間がありません。 犯人へと繋がる物的証拠もありませんし、何より繋がりすら見つかってません」 「ああ、分かっている」 渡辺は冷静に答えた。 「クソっ!きっと犯人のヤロー今頃笑ってやがるんだ」 「落ち着け輪島。冷静さを失っては見つかるものも見つからなくなる」 渡辺がそう言った瞬間、自分デスクに置いてあった携帯電話の着信音が響いた。 急ぎ足でデスクに近寄ると、渡辺は携帯を持ち上げた。 「良いタイミングだな、藤崎さんからだ。もしもし」 どうやら相手は藤崎だったようだ。 「あ、藤崎です。先日はどうも。何か進展はありましたか?」 「いやまったくです。進展どころか犯人らしき人物から犯行声明を録音したテープが 送られて来まして。もう慌てふためいてますよ。そちらは何か分かりましたか?」 「ええ、非常に重要な事が分かりましたよ」 「おお!何か掴んだんですね!?」 渡辺は思わず大きな声を上げた。 渡辺の歓喜に、藤崎が何か見つけたことはその場にいた輪島と京子にも見て取れた。 「それで一体何がありましたか?」 「電話での説明は非常に厄介です。もし宜しければこちらに来ていただけると助かるのですが」 「分かりました。今すぐ向かいます」 渡辺はそう言うと通話を終えた。 「藤崎教授が何か掴んだんですか?」 「ああ、そのようだ。良いぞ、さすがは藤崎さんだ」 京子の質問に、渡辺は興奮した様子で答えた。 「輪島、お前は過去に東京都23区内で何か警察に恨みを持つような事件が起こっていないか 調べてくれ。声明文でも言っていたように、やつは明らかに警察を恨んでいる。 その引き金になった事件が必ずあるはずだ。もし分かったら随時連絡をくれ。 俺は京子君と藤崎先生の元へ向かう。何故時間が限られている。出来るだけ急いでくれ」 「分かりました。任せといて下さい」 輪島はそう言うと、署内の資料館へ数名の部下を引き連れて向かった。 「我々も行きましょう」 「そうだな。時間が無い、急ごう」 時刻は8時35分。第2の連鎖まで残り7時間を切った・・・・・。 |