17 「神殺し」〜戦闘開始!パイフー・鬼武〜(前編)
「まったく、こうも毎日戦いじゃ疲れるぜ」 「だな。あれから一体何人のバウンティーハンターを殺ったのか、もう覚えてないからな」 自分たちの足元で転がるバウンティーハンターを見下しながら、パイフーと鬼武は一息ついていた。 二人が事実上魔界でNo,5の座に着いて以来、ほとんど毎日のように賞金を狙った連中に付け回されていた。 そのほとんどは二人がベッドで愛し合っているときに訪れ、お楽しみを邪魔される形になった。 特にパイフーはそれが不満で、向かってくるハンターたちを怒り任せにぶちのめすと言うのが恒例になっていた。 「パイフー、お前自慢の爪が血塗れだな」 鬼武がニヤついて言った。 「似合うだろ?」 「ああ、凄く似合ってる」 そうは言った鬼武だったが、彼の手にはちゃっかり地対空ミサイル・スティンガーFIM−92Aが握られている。 本当ならパイフーのように素手で相手しても良かったのだが、相手が複数だった上に飛び道具を使う連中だったため こちらも飛び道具の方が能率が良かったのである。二人とも少々疲れてはいたが、その辺はさすがNo,5。強さは本物である。 「おい、ありゃなんだ?」 身体に飛び散った返り血を拭いながらパイフーが言った。 見ると自分たちの遥か南側から何かがこちらに向かって突進してくるのが見えた。 「なんだあれ。おいおい、なんだかヤバイ感じがするぞ!!」 過去に一度ウルと会っている鬼武が感じ取ったヤバさは、決してウルの気配ではなかったが ある意味ではそれ以上の禍々しさを感じる。 「す、すげぇのが来る・・・見ろよ、ありゃ人間じゃないぜ!!」 そう叫んだのはパイフーだった。 突進してきたそれは二人の目の前で止まった。その瞬間、パイフーの鬼武も言葉を失った。 眼前に現れたのは凄まじいモンスターだったのだ。無数にある手足と、有に百は超えるであろう眼球。 その醜い姿に驚いた事も去ることながら、それよりもモンスターから発せされる邪気に腰が抜けそうになったのだ。 もはや邪気とすら呼べないほどの殺意、そして憎しみの塊。 「な、なんだてめぇは!!」 パイフーが叫ぶ。 だが相手・・・いや、ゲノムは無反応だった。 「コイツだよ、魔界に来た当時から感じていた嫌な感触の正体は・・・」 鬼武が怯えたように呟いた。 「どういうことだ?」 「お前も感じていただろ?神殺しウルばかりに気を取られていたが、それと同じくらい・・ いや、それ以上に禍々しい感触を・・・」 「確かにそんなものを感じた事もあったが・・・それがコイツだってのか!?」 「ああ、多分。ヤバイぜ、パイフー、俺たち死ぬかも知れない・・・」 「ふ、ふざけんな!!そんなことになってたまるかっての!!」 「グルルルルルル・・・」 パイフーと鬼武は驚いてゲノムに注意を払った。 「ターゲット・・・ハンベツフノウ・・・ニンシデータニトウロクナシ・・・ナマエ、ミカクニン・・・」 「な、なんだよ、コイツ・・・」 鬼武が一歩下がった。 「薄気味悪いヤローだ!おい!てめぇも賞金狙いか!?」 パイフーが叫ぶ。 「イズレモカンケイナイ・・・・アンノウン・・・」 ゲノムはそう言うと、進路を変え去ろうとした。 「待てコラ!!」 「おい、パイフー、止せ!?」 鬼武が止めるが、どうやらパイフーは自分たちがシカトされたように思えて気に入らなかった。 ゲノムの動きがピタリと止まる。 「コノヤロー、俺たちは無視か?この極悪紳士二人組みの俺様たちをシカトしようってのか!?」 「ドウデモイイアイテ・・・ショセンザコ・・・・」 「殺すぜ!?」 もはや止められなかった。パイフーはその巨漢を宙に預け、ゲノムに飛び掛った。 「止せ、パイフー!!」 鬼武がそう言った時には既にパイフーの鋭い爪がゲノムに命中していた。 「ヘヘ、どうよ。俺様の拳の味は」 しかしゲノムは無反応だった。それどころかまったく動じてない。 「ジュンビウンドウナラ・・・モウシタゾ・・・」 「なにっ、おわっ!!」 突き刺さった爪を引き抜かれ、パイフーは軽々と宙に舞う。そして勢い良く投げ付けられ、隣のビルに激突した。 「パイフー!!くそっ、どうなってももう知らねぇからな!!」 そう叫んだ鬼武は持っていた地対空ミサイル・スティンガーFIM−92Aを構え、そして撃った。 ミサイルはゲノムに命中、大爆発が起こった。 「おい、パイフー!大丈夫か?」 「あ、ああ。なんとか・・・チキショー!不意打ちだったぜ」 もくもくと煙の上がる中、鬼武がパイフーを抱き起こしたときだった。 「グルルルル・・・」 「なんだっ!?ぐはあっ!!」 「うわっ!」 文字通り肉の塊が鬼武とパイフーに体当たりしてきた。それも尋常ではない凄まじいスピードで。 その勢いで二人とも地面に叩き付けられた。だがしかしゲノムの攻撃はまだ終わらない。 ゲノムの身体から伸びた触手が二人を持ち上げ、周囲にある建物に身体ごと叩きつける。 「くそっ!なんなんだ、あの怪物は!!」 「ヤバイぜ、このままじゃ殺られる!!」 ほとんど攻撃する余地さえなかった。それでも二人はどうにかして触手を外そうともがく。 「うおおおおおっ!!」 「パイフー!!」 「殺られる?冗談じゃないぜ。このまま何も抵抗しないまま終われるか!?」 文字通り怪力で触手を振り払ったパイフーは、鬼武をそのままにして一度アジトに戻った。 だがすぐに出てくると、その手には大型のチェーンガンが握られていた。 「ああ!それ俺のだぞ」 「借りるぞ、鬼武。待ってろ、すぐ助けてやる」 パイフーはチェーンガンの安全装置を解除し、その銃口をゲノムに向けた。 「こいつは優れものだ。30秒で200発の銃弾が襲い掛かる。いくぞ、モンスター!!」 するとゲノムは鬼武を持ち上げたままパイフーに迫った。 「これでも食らえ!!」 パイフーの叫びと共に、凄まじい轟音を響かせながらチェーンガンが火を噴いた。 「おらああっ!!」 爆炎にゲノムが消えると、鬼武は触手をすり抜け地面に落ちる。たまらず鬼武はパイフーの後ろへと後退する。 「クソッ!仕入れたばっかなのによ!!」 鬼武が悔しがった。 「良いじゃねぇか。魔界用に仕入れた物なんだろ?早速の出番だぜ!!」 撃ちながらパイフーが言った。チェーンガンにはしっかりと手ごたえを感じる。全ての弾丸が命中している証拠だ。 「うおおおおっ!!」 そこに間髪いれず、今度は鬼武が持っていたミサイルの全弾を打ち込んだ。凄まじい衝撃と爆風が巻き起こる。 更に鬼武は持っていた手榴弾の全てをゲノムに向かって放り投げる。その直後竜巻のような爆発音が響き、大地が割れた。 爆音が静まり始め頃になると、チェーンガンの弾はガス欠となり、回転がゆっくりと止まる。 二人の目の前は地面が大きく凹み、まるで隕石でも落ちてきたかのような有様となった。 「はあ・・・はあ・・はあ・・どうよ!?」 さすがに撃ちっぱなしは疲れたのか、パイフーの息が上がっていた。 「これでもし生きているようなら・・・・」 鬼武が想像もしたくないような表情で言うと 「ああ、もう打つ手はねぇ・・・」 とパイフーが続けた。 事実そうであった。これでまだゲノムが生きていたら、後はもう頼るのは己の肉体のみ。そう、肉弾戦である。 だが二人の願いは見事に砕かれた。 「ああ・・ああああ・・・そんな・・・」 「バ、バカな!!あれを受けてまだ・・・」 クレーターのように凹んだ地面に、ゲノムが立っていた。それも外傷はほとんど見当たらない。ほぼ無傷である。 「どうしてだよ!!確かな手ごたえを感じたってのに」 パイフーが叫んだのと同時に、ゲノムがゆっくりとこちらへ向かってくる。 「こ、殺される・・・・」 それは絶対と呼べる恐怖・・・。あの時、ウルや紅、魔矢と会った時に感じたライオンを見るような威厳とは別次元の 心の底から沸き起こる真性の恐怖。二人は身体の芯から震え上がった。 「ウットウシイヤツラ・・・ハイジョスル・・・」 「く、来るぞ!」 だがその時だった。 パイフー、鬼武の後方から何かが飛んできたかと思うと、それはゲノムに命中した。 そしてけたたましいブレーキ音を響かせ、二人の真後ろで車が停車した。 「な、なんだ!何が起きた!?」 「久しぶりだな、変態バカップル」 「なっ!お、お前はっ!」 「等々力!」 そこには巨大なバズーカを手にした等々力が立っていた。 END |