20 「神殺し」〜紅が真紅に染まった日〜
紅の天叢雲剣は確実にゲノムを斬り付けている。おまけに状況は明らかに紅の劣勢。 だが人間である紅の身体にはスタミナと言うものがある。 人間ではないゲノムにはそれがない。 「明らかに僕の方が勝っているはずなのに」 紅の動きはもはや神業とも言える。あまりにも素早い動きに、その姿を視界に捉えることすらできないのだ。 だがそれでもゲノムの猛攻は留まる事を知らず、致命的なダメージとは言えないものの、ヒットしているのは事実だった。 素早い動き・・・逆に言えば「捕らわれたら最後」を意味する。ゲノムはそれを狙っているのだ。 「このままじゃキリがない。一気に決めるか」 攻撃を止めた紅はまっすぐにゲノムを見据え、こう言った。 「戦う場所を変える。僕を殺したいのなら付いて来い!」 紅はアジトの北西にあるプレハブへと走った。無論、ゲノムも追ってくる。 とても綺麗とは言えない建物だが、紅に取っては慣れ親しんだ遊技場。 別名「処刑場」である。 プレハブの扉を開くと、紅は特殊なルートで奥へと移動し、正面を見据えた。 それとほぼ同時にゲノムが扉の前に現れ、紅を視界に捕らえた。 「ようこそ、僕の処刑場へ」 そこには世界中から集められた処刑の道具が納まっており、その一つ一つがトラップとなっている。 つまり紅が通った特殊なルートを進まない限り、処刑のトラップが始動し、文字通り処刑されるという部屋である。 無論、紅としてはこれだけでゲノムを始末できるとは思っていない。単純に自分の下へ来るまでの間 少しでもダメージを与えようという作戦だった。 「数年前、お前と戦ったときは煉獄だったからね。僕の本当の強さを出せなかったけど、今回は違う。 今はこの部屋がある、そしてこの剣もね」 「グルルルルル・・・・」 「来れるものなら来てみろ、お前がここまで来た時が最後だ」 ゲノムに反応は無い。あるのは強烈な殺意。ゲノムはそのまま直進で紅に迫った。 同じ頃、人間の世界で一仕事終えたウルは紅の伝言を耳にし、さすがに驚愕した。 「バカなっ!ゲノムが動くには速すぎる」 いくら数年経っているとは言え、ゲノムが本格的に動き出す時期ではない。 だが魔矢が言っていたように、前回よりも強くなっているのなら、その可能性もあるのかも知れない。 「さて、仕事も無事終わったわけだし、どうかね鉄君、宴会でも」 「いや、俺はこれで失礼する」 ウルは焦った。もはや一刻の猶予も無い。 「そうかね?せっかく一流のディナーを用意していたんだが」 「すまないが、もう行く」 そう言い残すとウルは大急ぎで魔界へと向かった。 今回の仕事は都心から離れた場所で行なわれたため、魔界へ戻るまで時間が掛かる。 ゲノムが紅の前に現れたと言う事は、魔矢はどうなったのか・・・。そして同行しているはずの羅刹は・・・。 「まさか・・・・・」 ウルの脳裏に最悪のシナリオが浮かぶ。いずれにしても時間が無い。紅に死が迫っている。 「くそっ!」 ウルの悪い予感は、この後見事に的中する・・・。 「そんなバカな・・・・」 もう4つの処刑道具によってダメージを受けているはずのゲノムだったが、その勢いは衰えと言う言葉を知らない。 身体の至る部分が切断されても、ゲノムはその度に再生し元に戻ってしまう。この辺はヴァンパイアと同じようだ。 姿形こそ変化しても、その殺意に変化は無く、より一層禍々しいものに変化している有様だ。 やはり処刑道具で始末できるほど生易しい相手ではなかった。 これが通常の殺人鬼だったら、トラップを抜け出せないままあの世行きだが、ゲノムは例外だった。 「やっぱりこれに頼るしかないのか」 紅は天叢雲剣を構えた。ゲノムはもはや目の前である。 天高く跳躍すると、天井に仕掛けてあった岩石をゲノム目掛けて突き落とす。 だが俊敏な動きを見せるゲノムはそれを避けると、落下してくる紅に触手を伸ばした。 「うわっ!」 両足を掴まれた紅はそのまま大きく揺さぶられ、壁や地面に激しく叩きつけられる。 「ぐうう・・・」 しかしそれで終わる紅ではない。天叢雲剣で触手を切断すると、反撃に出た。 鋭い刃はゲノムの両腕と、軸になっている足を切り裁き転倒した。 「一気に行くよ!!」 紅は再び跳躍すると、高い地点から一気に落下し、天叢雲剣をゲノムに突き立てた。 「ギュオオオオオオッ!!」 まるで悲鳴のような雄叫びが響く。突き刺さった場所から大量の血が流れ、紅に大量の返り血が舞う。 「お前さえ居なくなれば・・・お前さえ消えれば僕たちは!」 鬼の形相と化した紅は我を忘れ一心不乱に天叢雲剣で切り刻む。 それは魔界へ来る前、ウルに殺人を依頼したときの表情とソックリであった。 「お前は魔矢を・・・・羅刹も・・・死んじまえ!!」 紅の頭のネジが飛んだ瞬間に味わったもの、それは呆気なく訪れた敗北であった。 「なっ!・・・・こ、これ・・・は・・・・」 あまりにも突然の事で何が起こったのか分からない。だが紅の身体はその名前の如く真っ赤に染まってしまった。 「か・・かああ・・・」 まさに一瞬だった。ゲノムの身体から無数の触手が鋭い刃と化し、紅の身体を貫いたのだ。 それも一本や二本ではない。合計18本もの触手が紅の肉体の至る箇所を完全に貫いた。 首、両腕、両足、腹、胸、腰・・・・18本の触手は全て紅の身体を貫通した。 「ウ・・・ウル・・・・ご、ごめ・・・・ん・・・」 紅の口から大量の血が吐き出されると、紅の視界に闇が訪れた・・・。 「フタリメ・・・・カンリョウ・・・・」 紅の身体から触手を突き放すと、ゲノムはピクリとも動かない紅に向かってそう言った。 END |