神殺し〜魔界処理場〜
ブレイドは約1時間ほど停まる事無く西へ向かって走り続けた。 その間車内の羅刹と由佳は、時折冗談を交えながら会話を続けていたが その流れを100%楽しむ事は出来なかった。これで紅、魔矢が健全であれば言う事は無いが 今となっては魔界屈指の彼らは不在も同然。その頂点に立つウルは単独行動と来ている。 自分たちがこの戦いの鍵となる事を承知している羅刹の頭の片隅には 常にゲノムと言うおぞましい存在があった。本音を言うならもう二度と戦いたくない相手である。 しかし魔界に来た運命は決して変えられない。来てしまった以上、関わらざるを得ないのだ。 それは新参者と謳われるパイフー・鬼武・鮫島・等々力も同じである。 彼らが自らの意志で魔界へ来た以上、ゲノム撃破と言う現実から逃れる事は出来ないのだ。 関わりあう事を避けようとも、既にその魔界でド派手に動いている以上、無視するわけは行かない。 例え彼が協力する事を拒もうと、上級ランクの殺人鬼には絶対服従と言う掟がある限り、従わせるしかない。 魔界No,2、No,3を失った今、ウルを覗けば次の実力者はNo,4の羅刹が事実上のリーダーと言う事になる。 本来ならウルがその役割を果たすはずなのだが、神殺しと言う異名や魔界No,1などと言う栄誉には興味の無いウルは その権利はあっても義務は無いのだ。彼が魔界の掟を作ったと言うのなら適任なのだが 掟を作ったのは暗黙の了解であり、人工的な作為はない。 むしろ魔界を管理していたのは魔矢と言って良い。魔界唯一の良心が魔矢であった。 だがその魔矢はもはや戦えない。となると否が応にも羅刹がそのポジションに来る事になる。 魔界と言う突然変異的な場所を既に気に入っている羅刹に取っても、諸悪の根源を絶つ必要があると言うことくらい分かっていた。 「あれが魔界処理場よ」 左手でハンドルを握ったまま由佳が指差した。 「なんか、ごっつ根暗な雰囲気やな」 「まあゴミ捨て場だからね」 そこは夥しいほどに積み上げられたガラクタの山が無数に点在していた。 ガラクタの山はまるで堀のようになっており、その中央にある廃墟を守っているようにも見える。 廃墟は4階建てのビルのような建物で、窓ガラスはほとんど割れており、コンクリートの壁も所々劣化が進んでいる。 「でも変ね。以前来たときはあんなもの無かったんだけど・・・」 「なんや?」 「屋上を見て。あれ、なんだろう」 羅刹と由佳は目を凝らして屋上を見た。そこには今にも発射しそうな大砲やバズーカが無造作に設置されている。 「ねぇ!今屋上で何か動かなかった!?」 「そか?ワイには見えなかったんやけどな〜」 と、羅刹が呑気にそう言った時だった。 走るブレイドの進行方向で何かが落ち、大爆発が起こった。 「きゃあああっ!!」 「ぐわっち!!」 由佳は咄嗟にハンドルを切り、難を逃れた。 「見て!屋上から誰かがこっちに撃ってるわ」 「な、なんやてっ!!」 屋上に設置された無数の大砲、そしてバズーカが火を噴いた。 「あわわわっ!あ、あかん!由佳ちゃん、避け!避け!」 「分かってるわよ!!」 見事なハンドル捌きである。 ブレイド目掛けて飛んできた銃撃は、地面の至る所で大爆発を起こした。 「コノヤロ!やめれ!!ワイたちは敵やないで」 いくら叫んだところでまだ距離があるため無駄だった。 「クソッ!あの車の運転手レーサー並だぜ!全部避けやがって!」 パイフーから受け取ったバズーカの弾を込めながら鬼武が言った。 「等々力の車とは別の車だよな。またバウンティハンターかよ」 やれやれと言った表情でパイフーがごちる。 「こんな事なら等々力と一緒に行けば良かったかもな」 「冗談じゃないぜ!アイツは鮫島の下へ向かったんだろ?俺は嫌だからな」 今度会ったら殺し合い。それはパイフーと犬猿の仲である鮫島との暗黙の了解である。 「ったくこんな時に好きだの嫌いだのって。世話が掛かる」 「お前に言われたくないぞ!黒猫!」 「ああ!?だ〜れが黒猫だって!?」 そんな痴話げんかをしている間に車はビルの真下で停車した。 パイフーと鬼武は咄嗟に身を屈め、下の様子を伺う。 「おい、女がいるぞ」 望遠鏡で下の様子を見ているパイフーが言った。 「俺にも見せろ・・・・。ホントだ、女だ。それに片割れは男か。なんだあの真っ黒な服装は。センスねぇな」 「ハ〜ックション!!ブルル、おお〜さぶ!誰やワイの噂しとるやつは」 「あんたの噂なんて誰もしないわよ」 「そ、そんなぁ〜吊れない事言わんといて〜」 パイフー・鬼武 「なんだ、あいつは」 「ちょっとそこのあんたたち!!」 ビルの真下から由佳が叫んだ。 「な、なんだ一体」 二人とも手すりから下を見た。 「な、なんだてめぇらは!!」 「なんだじゃないわよ!!せっかくこっちから出向いて上げたのに、バズーカで攻撃するなんてバカじゃないの!? あやうく事故るとこだったじゃない!!」 その前に死ぬと思うのだが・・・・。 羅刹はもはやあんぐりである。 「今そっち行くからね!首洗って待ってなさい!」 そう言うと由佳は猛然とビルの階段を駆け上がった。 「パ、パワフルやな・・・・」 「おいおい、あの連中来るぞ。どうするよ!」 「どうするたって、ここ屋上だし逃げ場無いぜ」 「だから言ったんだよ。いきなり攻撃はヤバイって」 「しょうがないだろ、あのゲノムとか言うモンスターだったらどうするんだよ」 「考えてみりゃあのモンスターが車運転するなんてあり得ない話だぜ!」 「い、今さら言っても遅いだろうが」 と、その時、屋上に繋がる扉がバタンと開いた。 「ひぃぃ!で、出た!!」 「私は幽霊か!!」 パイフーと鬼武が縮こまる。 「さあ、観念しなさい!どっち!?バズーカ撃ったのは!!」 「お、俺じゃないぜ」 パイフーは目の前で手を振った。 「お前!裏切るのか!?」 「あんたね!!」 由佳はズカズカと鬼武の前に歩み寄り、目の前で停まった。 「あんた、どういう神経してんのよ!!死ぬとこだったじゃない!!」 「あ、当たり前だろ!!殺す気で撃ったんだからさ!!」 「敵じゃないって羅刹のバカが叫んだの聞こえなかったわけ!!」 そ、そりゃ無理だぞ由佳←作者(^^;) 「聞こえるか!そんなもん!!」 「ゼェ・・・ゼェ・・バ、バカ言わんといて・・・あ、あかん。足がもう限界や」 ようやく屋上に辿り着いた羅刹が半ばギブアップ状態でやって来た。 「おいおい、大丈夫かよ」 今にも死にそうな羅刹にパイフーが近づく。そして肩を貸し、羅刹を立たせた。 「おおきに。な、なんで由佳ちゃんは息切れてないねん・・・」 「さ、さあな・・・あの剣幕じゃ出るに出られねぇ・・・」 由佳と鬼武の攻防は尚続く。 「あんたでしょ、鬼武って男は」 「だったらなんだってんだ?」 「まったく曲がりなりにもあの巨漢の連れなら、もっとおしとやかにしたらどうなの!?」 「な、なんだと!!」 「あの巨漢って・・・俺の事か・・?・・」 パイフーが羅刹に聞いた。 「せやろうな」 「あんた以外誰がいるって!?」 「ひぃぃ!!ゆ、由佳ちゃんマックス状態や・・・」 「こ、こえぇなこの女・・・・良い女だけど」 「なにっ!!」 パイフーの一言を聞き漏らさなかったのは鬼武だった。 「おい、パイ公!?お前今この女の事良い女って言っただろ!?」 嫉妬深い鬼武の矛先が変わった。 「え、あ、いや・・・別に深い意味は無いぜ・・・うん・・」 「コノヤロ!俺と言う相手がいながらてめぇってやつは!!」 「オホホ、彼言い事言うじゃない。まあ、事実だしね」 「なに!?」 またまたカチンと来る鬼武。 「このアマァ!!ちょっと可愛いからって調子に乗るなよ!!」 「フン!嫉妬深い女男に言われたくないわね」 「なんだとぉ!!」 「なによっ!!」 パイフーと鮫島が犬猿の仲であるように、どうやら鬼武と由佳も犬猿の仲のようだ。 恋愛と言う世界において、鬼武と由佳は常に受身の側である。 分かり易く言い換えれば、本来の恋愛においては形式上、男がパイフーで女が鬼武と言う構図になる。 つまり同じ女・・・鬼武からすれば「女役」だが、二人とも同じ共通点を持っているという事になる。 そのため気が合う合わないはどうしても露骨になってくる。それが著しく悪い方向へ出るのが鬼武と由佳のようだ。 「ちょっと羅刹!私嫌よ、こんなヤツ仲間にするなんて!!」 「ふざけんな!おいパイフー!俺も嫌だぜこの女!気に入らねぇ!なんとかしろ」 パイフー・羅刹 「そ、そんなこと言われてもさ・・・」(^^;) このユニークなやり取りは、その後2時間ほど続いたとさ。 END |