神殺し〜殺人鬼3人、美女1人の旅〜
ブレイドは魔界処理場を離れ、魔界の鍋蓋へ向かっている。 茨木童子を撃破した鮫島が、本当に茨木童子の死を確認するために、再び魔界の鍋蓋を訪れているという。 そしてそんな彼を無事生還させる任務を担っているのが等々力と言う男だった。 いずれにしても奇妙な連中だなと羅刹は思った。数多の修羅場を潜り抜けて来た羅刹の洞察力から推察するに パイフー・鬼武両名の強さはほぼ互角と見ている。パイフーの特徴と鬼武の特徴は似ても似付かぬが それぞれが独立した個性を攻撃に変える力を持っている。敵に対する攻撃の違いも顕著で その破壊力たるや常軌を逸しているのは明白だった。 それに鬼武から得た情報を分析する限り、等々力と言う男もこの二人に勝るとも劣らない実力を持っているように思う。 二十代前半にして、優秀な傭兵と言う経験とずば抜けた記憶力。 一度敵に回すと、命を落とす確率が天井知らずに高くなる。 逆に、運良く味方につけると、彼以上に頼もしい奴は居ないと鬼武は言う。 一方、パイフーと犬猿の仲である鮫島に関しても同様のことが言える。 年齢・38歳。実年齢より若く見えるが、凄腕のスナイパーであり、21世紀の剣客。 傭兵だった経験もあるらしく、あらゆる武器・重火器を華麗に使いこなす。 しかし鮫島の持つ強さが最も力を発揮するのは、間違いなく彼の愛刀「鬼三」だろう。 刀であるにも関わらず自らの意志を持ち、持ち主である鮫島に力を貸している。 魔矢の情報に寄れば、鮫島は以前、紅と手合わせをしており、その際に紅に傷を負わせたと聞いている。 いくら天然少年とは言え、魔界No,2の紅にダメージを与えた辺り、やはりその実力は計り知れない。 羅刹は病院から出るときに、意識を取り戻した紅が言っていた事を思い出した。 「鮫島のお兄さんに会ったら、絶対に死なないでねって伝えて」と紅は言った。 羅刹には紅のこの発言が何を意味するのかは分からなかったが 同じ刀を持つ者同士としての「絆」のようなものがあるのだろうと個人的にそう思っていた。 逆に羅刹が紅の立場だったら、羅刹も同じ事を言っていたかも知れない。実に奇妙な話だった。 等々力と鮫島の間には奇妙な上下関係が存在するようで、その詳細は明らかではないが いずれにしても等々力、鮫島の二人も、その実力はおよそ互角と見ている。 殺し合いの死闘を繰り広げた経験のあるパイフーと鮫島。 その勝敗が両者痛み分けであった事からも、パイフー、鬼武、等々力、鮫島の4人の実力はほぼ平行線であると言えるかも知れない。 それならそれで都合が良い。それだけの強さがあるならむしろ頼もしい限りだった。 「にしてもウルのヤツは何考えとるんやろな」 「そうだ!そのウルは今どうしてんだ?」 羅刹の言葉を聞いて鬼武が質問した。 「今頃ゲノムのとこへ向かっとるやろうな。もう居場所は割れとるから急ぐ必要も無い。多分歩いて行きよったはずや」 「お前たちみたいに一緒に行動はしないのか?」 今度はパイフーが聞いた。 「ウルは人と一緒に行動するのは嫌いなのよ。例え仲間の紅君や魔矢であってもね」 「それに、あのゲノムってのはウルの母親らしいからのう〜」 「は、母親!!」 見事にパイフーと鬼武がハモった。 「あのバケモノ・・・女なのか・・・」 「元はな。今じゃウルたちに殺された殺人鬼たちの怨念の塊やけど、原型はウルの母親やったらしい」 「ウルとしては自分だけでケリを着けたいんだと思うの。自分のせいで仲間が犠牲になったと思ってるだろうから」 「そないな優しいとこあるんかいな?あの男に」 「ウルは口数が少ないだけで、本当は優しいのよ。神殺しなんて言われているけど、あれは殺し屋をやっているから そう言われているだけで、彼にとって殺しは仕事なの。だから彼は自分の意志だけで人を殺したことなんて無いはずよ」 「なんか、想像していた神殺しとは違うんだな」 パイフーが頭を掻きながら言った。 「そりゃあなたたちが想像している通り、凄く強いし、負けた事もないけど実際はそういう人なのよ」 「はは〜ん、何となく紅と魔矢が慕った理由が分かりそうや」 「俺、以前コンビニで神殺しウルに会ったんだけど、そん時に思った。実は一番人間らしい殺人鬼なんじゃないかなって」 「人間らしい?」 パイフーが反芻する。 「ああ。なんて言うか、単純に独立しているだけっぽい感じって言うか。普通に会話の返事が返ってきたからさ」 「何考えとるんだか分からんようなヤツやからな」 「なあ、魔界はウルが居ないとダメになるのか?」 パイフーがそれとなく聞いた。 「もしウルが居なかったら魔界の秩序は無くなるわ。ウルのような物言わぬ鬼のような人が居るから それを恐れてみんな魔界のルールに従うのよ。不動明王のような人ね」 「ああ、なるほどな。それごっつ分かるわ」 「それにあなたたち二人だってそうでしょ。ウルと言う存在がなかったら、あなたたち好き勝手やってたでしょ」 「うっ!・・・・」 図星である。 自分たちよりも上の存在がなかったら、パイフーも鬼武も好き勝手に殺人鬼たちを相手にしていただろう。 それはつまり先ほどパイフーの言った「ダメになる」を意味している。 「ウルって殺人鬼っぽくないのよ。私からしたらあなたたち3人の方がよっぽど殺人鬼らしく見えるわ」 「そうかも知れねぇな」 パイフーが一人でごちる。そして続けて話し出した。 「結局のところ、俺たちの行動って特に意味がねぇもんよ。暴れる目的も無ければ、何かを守るって事でもない。 でもウルは違う感じだよな。俺たち勘違いしていたのかも知れねぇな」 「言われて見ればそうかも知れへん。好きなだけ殺して好きなだけ暴れてきたのはワイも同じや」 「だからウルの存在は必要なのか」 鬼武が静かに言った。 「そう言う事。ウルが死ぬ事は魔界の消滅を意味する。まあ、ウルが死ぬとは思えないけどね」 なんだか自分たちがとても小さい存在のような気がした。自己主張はウルよりも羅刹たちのほうが上である。 だが人間としては圧倒的にウルのほうが上なのかもしれない。無意味に人を殺さないという部分が特にそう思えてならない。 「見て、もうすぐ着くわ。あれが魔界の鍋蓋よ」 フロントガラスの向こうにはいかにも禍々しい空間が広がっていた。 「おい、あれ等々力の車だぜ」 鬼武が指差しながら言った。 「本当だ。あの車だ、俺たちが等々力と一緒に乗ってきたのは」 パイフーが続く。 「等々力とか言う男がおるのは確かみたいやな。これで鮫島もおれば一石二鳥や」 「まあ何気に私、等々力って人も鮫島って人も一度会っているんだけどね」 「えええっ!?」 羅刹、パイフー・鬼武が同時に叫んだ。 「以前、一度だけ店に来たのよ。ただ一瞬見ただけだからどんな人だったかは良く覚えてないけど」 パイフー・鬼武 「只者じゃねぇ・・・この女・・・」 「一気に行きましょう」 「おっしゃ!」 魔界の鍋蓋は目の前まで迫っていた。 END |