神殺し〜破天荒な出会い〜
「気は済みましたか?鮫島さん」 先ほどから一点のみを見つめている鮫島に等々力が話しかけた。 「ああ。どうやらちゃんと始末できたようだ」 「当然だ。兄の獣斬(じゅうざ)がその命を賭けた相手だ。生きているはずが無い」 鮫島の手に握られている鬼三が言った。 「悲しいか?鬼三。兄を失って」 「少しな。だが、それが兄の運命だったんだろう。俺とお前が無事でいる。それが一番良い結果だ」 鬼三は静かにそう言った。 茨木童子との死闘の後、傷付いた身体がどうにか回復の兆しに向かうまで療養していた鮫島だったが 自分が本当に茨木童子を始末できたのか、実はその真意を確かめられずに終わったのだ。 茨木童子が消滅したときには既に鮫島の意識は無く、自分の目でその死を確認できなかったのだ。 そのため鮫島は魔界を離れるその最後に、本当に茨木童子を倒した事を確認しておく必要があった。 だがその心配は無用だった。鮫島は確かに茨木童子を始末した。これで依頼は果たした事になる。 となればもはや魔界にいる必要は無い。こんな危険極まりない場所からは離れるべきだった。 しかし鮫島の頭の中には気になる事があった。何を隠そう魔界に降り立った直後に出会った紅と言う少年である。 あの時の感触は忘れるにも忘れられない。強豪を相手に恐怖を感じたのと同時に、襲ってきた好機な感触。 刀を持つ者だけが感じる、いわば「同士」のような感触は鮫島に根付いていたのだ。 鮫島は見抜いていた。あの少年が自らの最大の敵である茨木童子を、遥かの凌ぐ強さを持っている事に。 本当に魔界を去って良いのだろうか・・・。 「そろそろ行きましょう、鮫島さん。あまり長居をすると厄介な事になる」 「何か思い当たる節でもあるのか?」 「ええ、まあ。実はパイフーと鬼武も魔界に来ているんです」 「なんだとっ!!」 どうやら鮫島はその事実を知らなかったらしい。まあ当然である。彼は魔界に降り立った直後にこの魔界の鍋蓋を訪れている。 他の場所との接触はないのだから、知らなくても当然である。 「連中と会ったのか?」 「ええ。ついさっきね。それに今魔界はヤバイですよ。ゲノムとか言う超凶悪なモンスターまでいる」 「モンスターとな」 鬼三がいぶかしがった。 「俺が掴んだ情報に寄れば、魔界No,3の魔矢という男が、そのゲノムにやられたそうで ウル一座はゲノムを倒そうって目論んでいるらしいんですよね。ホント、危なっかしい連中です」 「聖よ、あまり関わらない方が良さそうだな」 「ああ、そうだな」 鮫島の返事は素っ気無かった。何かを迷っているような、そんな返事だ。 その時だった。 「グオオオオオオオオ」 「な、なんだ!!」 突然雄叫びのような声が響いた。場所はこの魔界の鍋蓋とは正反対の方角。この世のものとは思えぬ抱擁だった。 「凄まじい殺気・・・聖、こいつは茨木童子以上の・・・」 「ああ、とてつもない力を感じる・・・」 「ゲノムだな、きっと。急ぎましょう、鮫島さん」 「ああ」 等々力がきびすを返し、乗ってきた車に向かおうと思った時だった。 「ちょっと待ちぃや!お二人さん!」 一台の車がまるでレーサーのようなドリフトを見せながら、等々力の車の真横に停車した。車種はブレイドである。 「ああ、どうやら遅かったようです」 「なに?」 車の扉が開くと、そこには見慣れない男が二人と見覚えのある女が一人。 そしてかつて殺しの死闘を繰り広げたパイフーの姿があった。 「久しぶりじゃねぇか、鮫島」 「パイフー!なんでここに」 鮫島は目を見張った。 「やれやれ、手遅れだ」 等々力が項垂れた。 「一体何者だ、こいつらは」 鬼三つが言った。 「等々力はんと鮫島はんやな?」 「そうですが」 「そうだが、俺たちに何のようだ?」 「あれが鮫島か・・・」 鬼武は初めて見る鮫島の姿に少々驚いた。パイフーからある程度は聞いていたが実物を見ると、その佇まいには威厳が感じられた。 「ワイは焔 羅刹。こっちは由佳ちゃん。んで、こっちはもう知っとるやろ?」 「まあな。いずれケリを着けなきゃいけない相手と、その相棒」 「ケッ、いずれケリねぇ。その前に誰かに殺されなきゃ良いけどよ」 犬猿の仲、パイフーが言った。 「お前がな」 「んだとっ!!」 「待てや!こっちの話はまだ済んでないんや」 羅刹がそう言うと二人とも口をつぐんだ。 「貴方は・・・あの時の!?」 「お久しぶりと、言うべきかな」 「由佳さんでしたね。あの時は助かりました」 由佳を前にした等々力の顔は少々だらしなかった。まあ無理も無い。由佳ほどの美女を前に照れぬ男などいない。 「騒々しくなってきたな」 「ほほう、あんさんが鬼三はんか」 「!?貴様なんで知っている?」 鬼三がそう言った。 「ワイたちに知らん事なんかないんや。あんさんたちはここで茨木童子と戦ったんやろ」 「魔界と言うのはどうしてこうも見抜かれるんだかな」 鮫島がやれやれと言った様子で言った。 「倒したみたいだな、茨木童子」 「当然だ。お前、鬼武とか言うヤツだな。腐れヴァンパイアの世話は何かと疲れるだろう」 「ゴルァ、鮫島!!てめぇ喧嘩売ってんのか!?」 「どっかの誰かと同じ事言ってやがる」 鬼武は等々力を見た。 「ん?僕ですか?さて、そんな事言いましたかね?」 等々力はしらばっくれている。 まったく持ってまとまりが無い・・・・。 「ちょっとストップ!皆黙って!?」 見かねた由佳が叫んだ。一同凍り付く。 「やっぱこの女怖ぇ・・・」 「羅刹、二人に説明してあげて」 「ほいさ」 静まったところで羅刹が話し始めた。 「とある事情でこっちの二人には協力してもらう事になった。ワイと由佳ちゃんはウル一座の仲間や。 まあ本来ならあんさんたちとは関わり合いの無い関係やが、ちょっと状況が変わってもうてな」 「今さっき聞こえた雄叫びの持ち主と関係があるのか?」 鮫島が言った。 「ご名答、ゲノムってヤツや。簡単に言うと、そのゲノムを倒すために力を貸してほしいって事や」 「へぇ、それでそっちの二人は承諾したんですか」 「そういう事や」 等々力の質問に羅刹は答えた。 「いちいち我々の力を要する事は無いだろう。そっちにはウルを始め、魔矢、そしてあの紅と言う少年も居るんだろう?」 「その魔矢と紅がやられたんだとよ」 パイフーが言った。 「なにっ!!」 「バカな!魔矢と言う男は良く知らんが、天叢雲剣を持ったあの少年が!?」 さすがに驚いたのか鬼三が叫んだ。 「それで、あの少年はどうなった?」 「心配すな。ちゃんと生きてる。そうそう、あんさんに伝えてくれって伝言頼まれとるんや。 絶対に死なないでね・・・だってよ」 「あの少年・・・・」 鬼三を握る手に自然と力が入った。 「あの少年をやったのは・・?・・」 「ゲノムや。天叢雲剣もへし折られた」 鬼三の問い掛けに羅刹がそう言った。 「どうや?紅を半殺しにまでさせた相手や。剣客として興味あらへんか?」 無いわけが無い・・・・。宿命の相手になりえたあの紅が倒されたのだ。ゲノムとはいかなる相手なのか・・・。 「等々力さん、あなたの力も貸して欲しいんだけど」 由佳が等々力に聞いた。 「僕ですか?そうですねぇ、じゃあこういうのはどうですか?ゲノムを倒したら僕と一度デートしてください」 「な、なんやとっ!!ゴルァ!!」 すかさず羅刹が噛み付いた。 「ワレェ!なんやその条件は!!」 「アイタタ・・・・離してくださいよぉ、交換条件ですってば」 「由佳ちゃんはワイとデートするんや!!手ぇ出すなヴォケ!!」 「誰があんたとデートするのよ」 冷ややかな視線が羅刹に注がれる。 「良いじゃないですか、減るもんじゃないんだしぃ〜」 等々力、愉快な男である。 「なんなんだ、こいつらは・・・・」 鮫島もパイフーも鬼武もポカンと口を開けるより他になかった。 こんなんでゲノムを倒せるのかどうか・・・。 一人頭を悩ませる由佳であった。 END |