神殺し〜最終章「それぞれの明日」〜
「そっか・・・ウルはゲノムと一緒に・・・」 「どうにもならへんかった、すまん」 「お前が誤る事ではない。仕方なかったんだ」 「せやけどな・・・」 「気にするなよ」 魔界唯一の病院、魔界病院に戻ってきた一同は、夜叉によって治療が施された。 特に重症だった羅刹、パイフー、鮫島には手厚い保護がされ、三人とも徐々に回復の兆しを見せている。 ウルの事実を知った紅は酷く落胆していた。無理も無い。紅にとってウルと言う存在は自分に取って初めての理解者だったのだから。 無理してヘリを飛ばした紅と魔矢の傷もまだ癒えておらず、二人ともベッドの上だ。 軽症で住んだ鬼武と等々力は夜叉の指示によって治療の手伝いに回っている。 「大丈夫か?パイフー」 「なんとか・・・しかしひでぇ戦いだったぜ」 「大健闘だったらしいな」 魔矢が声を掛けた。 「どうだかな、一番美味しいところをそこの関西人に持って行かれちまったけど」 「ワイ?よく言うで、パイちゃん死にそうやったやん」 「だからパイちゃんって言うんじゃねぇ!!」 「アハハハ!」 その隣では鮫島と鬼三がようやく一息付いていた。 「大丈夫か?聖」 「ああ。貫かれた部分がまだ傷むが、歩けないほどではない」 「それにしても凄まじい戦闘だった」 「後にも先にもあんな戦いは最後だろう。出来れば御免被りたい」 「それにしても鮫島さんがあんな強いなんて知りませんでしたよ」 等々力が言った。 「いや、あの時は無我夢中だったからな。実のところ良く覚えていないんだ」 「でも僕の事は覚えているよね?」 ベッドからひょっこり飛び起きた紅が鮫島の下へ来た。 「戦いやゲノムを忘れる事はあっても、お前を忘れる事など有り得ない」 「良かった〜♪鬼三は元気?」 「とても元気とは言えんな・・・って相変わらず無邪気なヤツだ」 「アハハ!!何事も楽しくだよ」 一通り治療を終え、一同は病院の外に出た。 各自包帯を取る事は出来ないが、歩けないほどではなかった。 外に出るとすっかり朝日が昇っていた。どうやら夜が明けてしまったらしい。 「終わったな」 魔矢が言う。 「うん。これで魔界は元通りね」 由佳がそう言った。 「まさか魔界に来て早々こんな目に合うとは思わなかったけどな」 「ホントだよ。俺たちってどうしていつもこうなんだろう」 パイフーと鬼武が言った。 「依頼は果たし、ゲノムも撃破した。これで完全に終わりだ」 鮫島が続く。 「刺激ありすぎですよ、魔界は」 苦笑いの等々力。 「これから魔界はどうなるんや?ウルはその・・・」 「ウル無き後も魔界は魔界だ。なんら変わる事は無い」 魔矢が羅刹にそう言った。 「ゲノムは死んだ。これでウルが居てくれたら、どんなに良かったか・・・」 紅の呟きで一同に静寂が訪れた。 「さて、んじゃ帰るか」 「そうしますか」 パイフーと鬼武が口を開いた。 「二人とも魔界で生きるのか?」 「リアル世界で強い連中がいるならぶっ倒しに行くが、とりあえず俺らのアジトに戻るぜ」 魔矢の質問にパイフーが答えた。 「疲れたしな」 鬼武が呟いた。 「おい、鮫島」 パイフーが鮫島を見た。 「てめぇとのケリは次までお預けだ。それまで死ぬんじゃねぇぞ」 「貴様こそな」 「フン!じゃあな。行こうぜ、鬼武」 「ああ。それじゃまた」 「気をつけてな」 「バイバ〜イ」 パイフー・鬼武は寄り添い合う様に振り返る事無く去って行った。 「聖よ、我々も行くとするか」 「そうだな」 「ちゃんとリアル世界まで送りますよ」 等々力が言った。 「行っちゃうの?鮫島のお兄さん」 「ああ。依頼主に仕事が完了した事を伝えに行かなきゃならん」 「その後は?」 「さあな。気の向くままだ」 「そっか」 「パイフーとのケリもそうだが、矢吹紅、お前とはもう一度戦ってみたいと思っている」 「僕もだよ♪ただ愛刀が折れちゃったから、次までに新しい刀用意しておかなきゃいけないけど」 「ああ。今度は本気でな」 「勿論♪」 「いろいろ世話んなったな、鮫島はん。感謝しとるで」 「良い経験が出来た。上には上がいるとな」 「足はあるのか?」 「一度魔界処理場に戻って車を取ってから帰ります」 魔矢の質問に等々力が答えた。 「等々力さん、あの約束どうしよっか?」 由佳がそう言った。当然デートの件である。 「約束?」 魔矢が由佳を見る。 「あ、いや・・アハハハ・・そ、そんな話しましたっけね〜」 「それだけはワイがさせへんぞ!!」 「ひいぃ!さ、鮫島さん、早く行きましょう」 「やれやれ・・・それじゃ、また会おう」 「元気でね♪」 「いろいろありがとう」 紅と由佳が言った。 鮫島、鬼三、等々力の三人は車を取りに魔界処理場へと足を向けた。 そしてその場に残ったのは羅刹、紅、魔矢、由佳の4人になった。 「さて、ワイもそろそろ行くさかい」 「お前もどこかに行くのか?」 「ワイはそもそもウルの首を取るために魔界に来たんや。そのウルがもうおらへんのやったら狙う意味もないからのう。 しばらくこの魔界を旅してみよう思ってるんや」 「魔界をか。魔界は広い。俺たちのいる場所は広い魔界の一角に過ぎんからな」 「せやろ?だからどっかにメッチャ強いヤツがおるかも知れへん」 「死んじゃったりしてね♪」 「勝手に死なすな!ワレ!」 「アハハハ!」 「どれくらい流れるんだ?」 「せやな。3年くらいは流れるさかい」 「そうか」 「なんや?そない残念そうなツラして」 魔矢は紅と由佳を見た。その表情は「話してみようか?」と言う様子である。 「実はリアル世界に探偵事務所を開こうと思っていてな」 「探偵事務所!?なんや、もう魔界はええんかいな」 「この身体で戦うのはもう無理だ。今のところ俺たち3人がメンバーなんだが、お前もどうかと思ってな」 「良かったら一緒にやらない?きっと楽しい事務所になると思うの」 「やろうよ、関西人」 「だから羅刹言うてるやろ!!おもろい話やと思うし、せっかくの誘いやけど、遠慮しておくわ。 魔界の旅をしてみたいんや」 「そうか」 「なんだよ、つまんない」 「ツマラン言うな!このヴォケ!」 「それじゃ旅が終わってその気になっていたらいつでも来てくれ」 「せやな。そん時は世話になるさかい」 羅刹は簡単な荷物を背負った。 「それじゃ、もう行くわ」 「ああ。気をつけてな」 「ちゃんと帰って来いよ!関西人」 「せやから羅刹や!!」 由佳は羅刹の前に出ると右手を差し出した。 「おろ?」 「貴方がいたから魔矢は助かった。そして私も。ありがとね」 「ええ女やな〜由佳ちゃんは・・・これで旅から戻って魔矢のガキがおったらワイショックやで」 「フフフ・・・十分ありえる話よ」 「ハハハ!ほな、幸せにな」 「ありがとう」 羅刹は由佳と握手を交わし、歩き出した。 地平線から朝日が昇り、魔界を明るく照らす。それぞれの明日を描きながら今日と言う日が始まる・・・。 魔界における激動の時代は終わりを告げた。 1年後・・・・。 今は海だけとなった場所。 そこにはかつて「忘れられた孤島、煉獄」と言う島があった。 傷付いた身体で塩水を泳ぐのは苦痛だったが 男はそれほどの痛みは感じていなかった。 平泳ぎで岸辺に辿り着くと、男は短い髪の毛をかき上げ、周囲を見渡した。 「やれやれ、相変わらず変わらんな、魔界は」 男の風貌には懐かしさが感じられた。 黒髪でスポーツ刈り、黒皮のジャケットに長身の身体。ジャケットの中には無数の凶器・・・ そして男は静かに言った。 「魔界・・・俺の帰るべき場所だ」 The End |