壊れた世界



凄まじいノイズ音が脳裏を駆け巡る。
それは何かが壊れる寸前に起こる衝撃の前触れのように、叫びとも断末魔とも取れる嘆きが響いた。
死の世界へと誘う「何者」かの、甘美な感触さえ与えてくれた。

「な、なんなんだよ、これは!?」
先ほどから起こる奇怪な現象に、赤坂はたじろぐばかりだった。
突然真っ暗になったかと思うと、全ての視界が開け、そこには無数の死体が転がっている。
宛もなくその上を歩いていると、踏み付けた死体が起き上がり
「ランランラン〜♪」と奇妙なダンスを始めるのだ。
腐敗の進んだ身体で踊るダンスは、地獄の宴さながらの狂気であった。
恐怖に怯えていると今度は自室へ戻り、畳の間から巨大な手が「ぬっ!」と飛び出し
親指だけを突き立てて「グッド」のポーズを取る。驚いた赤坂が部屋から飛び出すと、他の部屋の畳もグッドに支配されており
もはや足の踏み場もなくなっていた。
「や、止めてくれぇ!?」
それでも何とかグッドを払い除け外に出ると、辺りは一面血の池地獄。
「うわっ!なんだよ、これ!!」
血の池が文字通り津波となって襲い掛かってくる。
その波の上を「波乗りジョニー」よろしく無数のゾンビたちがサーフィンを楽しんでいる。
「ヒャッホーッ!」
ゾンビたちは波の上で叫び、赤坂へと迫ってくる。
大津波が赤坂を包んだ瞬間、再び場面は切り替わり元の自室へと戻っていた。
「なんだったんだ、今のは・・・・」
そう呟いた赤坂だったが、どういうわけか右手が生温くドロドロとした感触を伝えている。
何事かと思って右手を見ると
「な、なんだこれ!!」
その右手には医療用のメスが握られており、手の平全体が真っ赤に染まっている。
一体誰の血だろうかと慌てていると、今度は自分の後頭部が熱くなった。そして赤いものがポタポタと床に落ちた。
赤坂は怖くなって鏡を見た。するとそこには後頭部がすっぽりと切り抜かれている己の頭が映った。
「ひいいいいっ!」
頭を揺する度にかつて後頭部があった場所から脳味噌がボタボタとこぼれた。
「と、父さん!母さん!」
赤坂は両親のいる部屋へと急いだ。だがそこで待っていたのはあまりにも凄惨な現実だった。
「なんだい?」
「さ、小夜子!?」
赤坂の両親は妹の小夜子を食っていた。
「お前も食べるか?美味しいぞ」
「今朝産地直送で届いたのよ、人間のボイル。最高の味よ」
「お兄ちゃんも食べてよ」
顔面から眼球が抉り出されている妹が起き上がり、そう言った。
「なんなんだよ、この世界は。ええっ?どうなってんだよ!」
「なんだ、食べないのか?それにしてもお前・・・・美味そうだな」
赤坂の両親はギラついた目付きで彼を睨み付けた。そして立ち上がり今度は赤坂に襲い掛かる。
「来るな!来るなよっ!うわっ!コ、コノヤロー!」
「ぎゃああああっ!」
「があはあああああっ!」
「うおおおおおおおっ!」
両親の返り血が赤坂に飛び散った・・・・。

警察車両が現場に到着したのは、事件が発覚してから4時間後の事だった。
凄みのあるベテラン刑事が、口から大量の泡を吹いて死んでいる赤坂を見ていた。
「警部」
「おう!こっちだ」
「どうだった?」
「はい、別の部屋で死んでいた3名はやはり家族の人間ですね」
「やはりそうか」
「ええ。あまりにも酷い状態だったのですぐに判別できませんでした」
「だろうな。ナイフでメッタ刺しにした後、原形も留めないほど殴られたとあっちゃ当然だな」
「死因は分かりましたか?」
「十中八九これだ」
そう言うと警部はビニール袋を取り出した。中には白い粉が入っている。
「仏さん、LSDとヘロイン、それにコカインを同時にキメやがった」
「3種類もですか!?」
「ああ。おそらくヤクでラリって幻覚症状が出た。そんでリビングにいた家族を殺したんだろう。バカなヤローだ」
「この頭部に残っている深い傷もそれですかね?」
「だろうな。ヤクでおかしくなって自分の後頭部をハサミでグサリだ」
「まるで地獄絵図ですよ」

「ああ、まさに壊れた世界ってヤツだな」


END




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