ラストレター





「ねぇ、潤。お国のために死ぬってどういう事なんだろう」
「要するにこの先の未来を国に託すって言う意味じゃないかな?」
「だけど未来なんてどうなるか分からないんだよ。良くも悪くも」
「そうだけど、でも日本を守らなきゃいけないよ」
「そうね。だけどそのために死んでしまうなんて私はイヤだな」
「夕実・・・」
「だってそうじゃない。生きていればきっと良い事がある。なのに国のために死ぬなんて」
「おいおい、特攻隊にそんな事を聞かれたらどんな罰を受けるか分からないんだよ」
「分かってるわよ。だけど国のために死ぬなんてイヤよ」
「そりゃ、僕だってそうだけど」
潤はそれ以上言葉が出て来なかった。
「潤」
「なんだい?」
「あの噂って嘘だよね。潤のところに召集命令が来たって・・・・」
「・・・・・・」
「嘘だよね?そうだよね?」
「・・・・・・」
「どうして黙ってるの?ねぇ!嘘でしょ?」
夕実は潤の肩を揺さぶった。
「なんとか言ってよ!!黙ってたら分からないでしょ」
「本当だよ・・・」
「えっ・・・・」
「明日、午前11時に第三航空隊の戦闘機に乗れって」
「第三航空隊・・・・な、なにそれ?新しい飛行機?あ、それってどっかの空港の名前か何か?」
夕実の表情は明らかに何かを否定していた。
「飛行機に乗って私と旅行かな?アハハ、それって凄いね。私たちそういう関係になるんだ」
「第三航空隊・・・・別名・・・特攻隊・・・」
「・・・・・」
特攻隊・・・この言葉は言葉そのものが殺人と同じ意味である。
特攻隊とは読んで字の如く、相手の陣地に突撃する事。即ち死である。
「僕だってどうしてお国のために死ななきゃならないのか、分からないよ」
「だったら行かなきゃ良いじゃない・・・」
「それは・・・」
「無理だって言うの?なんで?どうして?断われば良いじゃない!?」
「無理だよ、そんな事。今日本は戦争で皆戦っているんだ。僕だけ断わるなんて国を裏切るようなもんじゃないか!」
「だから死ぬって言うの?バカじゃないの?この先の未来は?夢や希望は?なにそれ・・・」
「夕実・・・・」
半ばパニック状態になっている夕実は泣いていた。静かに頬を流れる涙は潤との最後の別れを嘆き、そして悲しんでいる。
「行かないよね?」
「・・・・・」
「行かないって言ってよ!!」
「夕実」
「ねぇ、行かないで!!私はどうなるの?一人ぼっち?そんなの嫌!」
「僕は・・・僕は・・・・」
「潤・・・・」
夕実はそれだけ言い残すと潤から離れ、その場を走り去って行った・・・。

翌日、午前10時40分。
「揃っているな、屈強な戦士たちよ」
約束の場所に召集された若者35名。その全員がこの場に集まっていた。
「諸君はこの大日本帝国のために、今日、アメリカ軍第八海上艦軍に突撃する」
司令官がそう言うと若者たちの背後に集まった家族、親族たちの間ですすり泣く声が聞こえてきた。
今日、我が子を失う母親や家族たちは最後の見送りに来ている。
司令官の話が終わると、出撃までの間、家族や親しい人たちの最後の別れを交わす事ができた。
「夕実はどこだろう」
「夕実は来てないよ」
夕実の変わりに見送りに着ていた友人の加奈が言った。
「来てない?」
「うん。行かないの?って言ったんだけど、部屋から出て来ないの」
「そんな・・・・・」
潤は昨夜、夕実のために書き綴った手紙を握り締めながら言った。
この手紙には潤の心境、そして夕実への思いが綴られている。
どうしても行かなくてはならなくなった情況。そして最愛の人との別れ。
せめて最後に彼女に自分の気持ちを伝えよう、そう思ったのだ。
「手紙?夕実に?」
「いや、なんでもないんだ」
「そう?もしなんだったら渡しておこうか?」
「ありがとう。でも本当に良いんだ」
「そっか・・・・」
「全員集合!!」
その時司令官の集合命令が下った。
「夕実によろしく伝えてくれ。楽しかったと」
「ええ、分かった。お別れだね」
「ああ。夕実と仲良く」
「ありがとう」
そう言うと加奈は目に一杯の涙を浮かべながら去って行った。一度も振り返る事無く・・・。

潤を乗せた戦闘機は着々と目的地に向かっていた。
潤はこれまでの人生を振り返る。だが不思議な事に思い浮かぶのは夕実の笑顔ばかりだった。
「諸君。君たちは英雄だ。今日の日を誇りに思って良い。お国のために健闘を祈る。
そしてさようなら・・・」
司令官による最後の通信が途絶えると、いよいよアメリカ軍からの攻撃が始まった。
「ぐうう・・・・」
艦軍からの凄まじい砲撃が戦闘機をかすめる。砲弾に当たった戦闘機は爆発し、次々と墜落していく。
潤は戦闘機の操作レバーを力いっぱい握り締め、もはや目と鼻の先まで迫った場所で目を閉じた。
そして右手を手紙が納まっている胸のポケットにそっと置いた。


夕実へ。
夕実はどうして国のために死にに行くの?と言ったよね。この質問に対する答えは僕にも分からない。
だけどこの国を守り、未来を守る事できっとその先に何かが待っているような気がします。
戦争は人を傷つけ殺しあうだけの行為。戦争からは何も生まれないし、意味も無い。
だけど僕たち特攻隊が居た事実が後の未来で何か役立つのなら、ひょっとしたらそれが答えなのかも知れません。
僕は特攻によってこの世から去るけど、残った夕実たちはそれを語り継ぐ事が出来る。
そう遠くない未来、夕実が結婚して子供を生んだら話して上げて下さい。
貴方たちの未来を守るために死んでいった人たちが沢山いると。
だから戦争は絶対にしちゃいけない。許されない事なんだと、伝えてあげてください。
国のために死んで行くんじゃないよ。残された人たちのために死んで行くんだと思う。
今日から僕は星になって日本を見守ります。
悲しい事だけど、僕は後悔してません。
だって最後の最後まで僕は夕実を思い浮かべながら死んで行くと思うから。
夕実と一緒に過ごした日々を思うだけで、心が暖まる思いです。

結局最後まで言葉に出来なくてごめん。
僕は貴方を愛しています。大好きです。
だからそんな大好きな人のために、僕は君の未来の希望になります。
僕の死が無駄にならないように、夕実はこれからの未来を頑張って生きてください。
願わくば来世でまた夕実と出会えますように・・・。

最愛の人に渡せなかった最後の手紙は、未来のために死んでいく潤の胸に秘めたまま
灼熱の爆炎の中で美しく散って行った。
まるで、別れを告げるように・・・・。

END


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