未完成な罪状
「ええ、たった今判決が下りました。先月、中野区で起こった一家惨殺事件の容疑で逮捕された 鬼塚 正信(おにづか まさのぶ)容疑者に下った判決は精神鑑定の結果を受け 容疑者は精神病院へ搬送されるという、事実上の無罪判決が下されました。 繰り返します。中野区で起こった一家惨殺事件の犯人、鬼塚正信に事実上の無罪判決が下りました」 「信じられませんね。いくらまだ未成年とは言え、事実上の無罪とは。精神科の吉岡先生はどう思われますか?」 「いやぁ、言葉が無いですね。きっと精神鑑定で責任追及の判断が着かないと断定されたんでしょうけれど これだけの凶悪な犯罪を犯しながら事実上の無罪とは、なんとも恐ろしい現実です」 「またも未成年による凶悪な犯罪と言う事になりますが、事件の内容などにはどうお考えですか?」 「これもまたとても人知を超えているとしか言いようが無いですね」 「警察の捜査では、鬼塚容疑者は殺害した後、死体をバラバラにしただけでなく食べたという話でしたからね」 「ええ、私の知人にこの事件を担当した検察官がいるんですがね、殺害現場は凄惨な状態だったと言っていました。 彼ほどのベテラン検察官でも、あれは地獄絵図だと言ってましたからね」 「警察の話では、鬼塚容疑者は殺害した死体の解体は素手で行なったと話しているそうですね」 「そうですね。凶器などは一切使わず、自分の両手で解体したと言うのだから、まさに地獄絵図でしょう」 「未成年による凶悪犯罪。その背景には心の闇が大きく関わっていると言えるでしょう。では次のニュースです・・」 凶器を使わずに死体を解体する事を思い付いたのは偶然だった。 それは確かに極わずかな、本当に小さな興味本位だったのだから。 ナイフで切り裂いた傷口に手を突っ込み、肉を引き裂いたらどんな音がするだろう? そんな些細な疑問が殺害当時浮かんだのだ。 引き裂かれた血肉はどんな形になるのか。裂けるチーズのように、肉の断面が繊維となりビリビリに破けるのだろうか?と 一度頭に浮かんだ疑問は大きな快楽となって押し寄せた。 だから俺は生身の手で死体を解体した。 切り裂いた大きな傷に右手を突っ込んだとき、何とも言えぬ暖かさが手に伝わった。 それはドロドロになったアメーバの中に手を入れた感触に近く、その手が肉を引き裂き骨に到達すると思わずニンマリとした。 手の中でぐちゃぐちゃになった血肉は意外と硬く、引き裂こうにもぬるぬるしてなかなか掴めない。 ようやく掴んだ血肉を勢い良く抉り出すと、生まれたての赤ちゃんが引き摺り出されたように地に落ちた。 「ボトッ」と言う嫌な音を立てて落ちた血肉には、血管の繊維と筋肉の断面が剥き出しになっており 足で突くとプルプルと震えた。 次に俺はこの一家の妻と思わしき女の首をナタで切りつけ、同じように手を突っ込んだ。 首の皮膚は他の皮膚とは違い、貧弱に出来ていて尚且つ薄い。 そのため手を突っ込んだ瞬間、首の骨に到達した。その骨を握り締め左右に揺すると、女の口から舌がダラリと飛び出し えげつない表情で眼球を反転させた。 首の骨は意外と頑丈に出来ており、所々が突起していた。その突起を一つずつ破壊すると 開け放たれた女の口から「ぐしゅ」と言う気分の良い音を立て、大量の血が吐き出される。 そんな姿が面白く、何度も女を振り回した。 次に俺は夫と思われる男の腹を裂き、中から内臓を取り出した。 抉り取られた心臓には無数の血管が繋がっており、心臓だけを取り出すのは困難だった。 だが俺の力の前では血管など無力に等しい。ブチブチと音を立てながら血管を切れると 小さなシャワーのように血が噴出し、それが俺の口へ入った。 何とも言いようの無い鉄の味が口に広がった。だが悪くない味だった。 鼓動の止まった心臓は赤黒く、そして思っていた以上に大きなものだった。 俺は一通り取り出した心臓を眺めると、それを口へと運んだ。上下の歯が重なり合うたびに心臓の味が口に広がる。 それはまるで巨大なレバーを食しているような食感だった。 二の腕の肉を引き裂き、縦に裂けたチーズのように下へと裂き下ろす。 露になった肉の断面から血が噴出す瞬間がたまらなかった。 手に平に穴を開け、そこに指を突っ込み、中の感触を楽しむ。 太腿を扉を開けるように両手で引き裂く。隠し物が見つかったように太い骨が見えると、俺はその骨にしゃぶり付いた。 抉り出した眼球は飴のように舐めた。だが終いには飽きてしまい、歯で噛み砕き飲み込んだ。 そのおぞましいとされる行為は、頭の中の妄想には留まらず、終に現実となった。 未完成な年頃だな。裁く事も出来ないのだから。 黒い棒線で目を消され、モザイクに守られ、そこに「精神異常」と言う常套句が重なればもう無罪だ。 裁判官は更正の余地を問う事を義務としているようだが 更正が目的なら、殺す事も出来ないだろ。 未成年と精神異常。この二つが重なれば裁きは無いに等しい。 心の闇と言う言葉を味方に付ければ、何をやっても許される。 後は精神異常を装えば、何人殺しても結局は無罪だ。 俺は未成年。瞳の奥で闇を見据える、バケモノだ。 END |