「無言の殺意」 都市伝説ネタ「無言電話」より
それまで静かだった家に、今日も突然静けさを打ち破る呼び出し音が鳴った。 鳴っているのは家に設置されている家電話だ。 時枝はうんざりした動作で受話器を取った。 「もしもし」 「・・・・」 「もしもし?」 「・・・・」 時枝の言葉に今日も相手は何の返事もしなかった。しかしそんな相手の反応も今ではすっかり慣れたものだった。 ここ一週間ほど時枝の家に掛かってくる無言電話は有に五十回を越えている。 数えているわけではないので明確な数字は判断しかねるが、少なくとも五十を超えているのは確かだった。 それはいつも同じパターンで、時枝の「もしもし」と言う言葉に対し 何の反応も無いと言うのが毎度のパターンである。 いつもはうんざりして何も言わず電話を切るのだが、この日の時枝はかなりイライラしていた。 仕事で疲れている上に、職場の人間関係に嫌気がさしている。 おまけにここ数日は女性の日に当たっている時期で、否応なく気分は尖っていた。 「あんたさ、誰だか知らないけどいい加減にしてくれない?ウザイのよ、このバカ!」 時枝は溜まっていたうっぷんを晴らすように叫んでしまった。 すると受話器の向こうでゴソゴソと音がし、低い、押し殺したような声で 「・・・・・殺してやる・・・」 と言い残し、通話は途切れた。 「なんなのよ・・・・」 時枝の不快感は募る一方であった。だがしかし、初めて聞いた相手の声で「殺してやる」とは尋常ではない。 さすがの時枝も怖くなった。誰とも知れぬ人間が自分に対し「殺してやる」と言い放ったのである。 それが例え時枝のような女でなくとも、恐怖は感じるだろう。 友人に相談する事もできた。だが時枝の友人は皆女である。男友達がいないわけではないが 特定の彼氏が居ない時枝にとって、単なる脅しとも取れる無言電話に男友達を付き合せるのも躊躇われた。 となるとやはり警察しかない。まともに取り合ってくれるとは思えないが、言わなければ何も変わらない。 意を決した時枝は警察に通報し、その旨を伝えた。 最初は諦め半分で連絡した警察だったが、驚いた事に警察は動いてくれた。 最近、無言電話から始まるストーカー事件が相次いでおり、問題が深刻化しているため 警察は時枝の話を詳しく聞いてくれた。その結果、時枝の家電話に逆探知機を設置し 捜査を行なってくれるという事になった。これは時枝に取ってこれ以上にない味方である。 諦め半分で連絡した先でまさかまともに取り合ってくれるなど、思いもしなかった事だ。 「言ってみるもんね」 まるで得した気分でその日をやり過ごし、翌日を迎えた。 案の定、この日も電話が掛かってきた。 時枝は電話に逆探知機が設置されている事を確認し、慎重に受話器を取り耳に当てた。 「もしもし」 「・・・殺してやる・・・」 それは昨日の夜に聞いたあの声だった。低く、押し殺したような声。 (やっぱり掛かってきた)時枝がそう思ったときだった。 一階のリビングにある携帯電話の着信音が響いた。時枝は掛かってきた無言電話を無視し、受話器を元に戻すと 急いでリビングへ戻り、通話ボタンを押した。 「時枝さん?」 「はい、そうです」 この声には聞き覚えがあった。先日逆探知機を設置しに来てくれた婦人警官の声だ。 だが少し様子がおかしい。心なしか興奮しているような声だった。 「良い?良く聞いてちょうだい」 「どうしたんですか?」 「今すぐ家から出なさい!」 「は?どう言う事です?」 「今掛かってきた電話の逆探知の結果が出たの。電話はあなたの家の中から掛かっているわ。 犯人はあなたの家の二階に居るのよ!?」 時枝の顔が真っ青に変った瞬間、二階から降りてくる足音が響いた・・・・。 END |