残留死念
人が人を殺す事に理由なんて必要ないだろ。そう思わないか?俺はそう思うぜ。 殺人ってのは些細な事なのさ。喉が渇いて水を飲むのと同じように 血に飢えたから人を殺すのさ。殺人と言う甘美に酔いしれたいだけ。 何故かって?そりゃたまたま目に映った人間が目障りだったからさ。 そうさ、俺もそんな理由で殺されたんだからな。 だから俺も理由無き殺人を繰り返すんだよ。 生きた人間に乗り移ってな・・・・。 沢登は最寄の駅で下車した高校生の後をずっと付けていた。 髪の毛は茶色で耳には下品なピアスが光っており、ズボンはだらしなく下がっている。 携帯電話がよほど好きなのか、下車してからずっと画面を見つめ歩いている。 時折耳にあて「え?知らねぇよ、そんな事」などの言葉を繰り返している。 「つうか、そんな事で電話すんなよ、タコ」 今時の高校生なんてそんなもんかと、沢登りは思った。外見がだらしないければ口調もだらしない。 あまりにも見るに耐えなかったので、沢登りは高校生の後頭部目掛けて勢い良く拳を振り上げた。 「ゴン」と言う鈍い音が拳に伝わると「ッテ」と言う短い言葉が高校生の口から漏れる。 ほう、下品でも痛みだけは感じるのか。前のめりになって転倒した高校生を見ながら沢登りは思った。 殺す気で殴ったのだが、高校生はしぶとく生きていた。後頭部を殴ったため焦点はグラグラと揺れていたが、起き上がろうとしている。 沢登りは起き上がらすまいと、すかさず彼の上へ馬乗りになり、高く握った拳を何度も振り下ろした。 「ちょっ・・・やめ・・・」 高校生はあまりにも連続して殴られ続けているため、言葉を発する余裕も無い。 振り下ろされる拳は鉛のように重く、打ち付けられるたびに金属音が響いた。 「グシャ」「ガシュ」と言う何かが潰れるような音が拳に伝わる。 顔面を打ち付けるたびに、高校生の両手が痙攣したように跳ね上がるが、それも3分くらいで動かなくなった。 沢登りは真下を見下ろす。そこにはもはや原形を留めぬ高校生が死体に変わっていた。 「きゃあああああっ!」 その時、沢登りの後ろで女性の悲鳴が響いた。 「ひ、人殺しっ!?」 悲鳴を発したが女は恐怖縛られ尻餅をついた。あまりの恐怖で動けなくなったようだ。 沢登りは馬乗りになっていた高校生の身体から立ち上がると、死んでいる高校生の顔面に強烈な蹴りを食らわせた。 あまりにも威力があったため、高校生の右耳が削げ落ちた。おまけに眼球が地面に飛び出ている。 目の前で尻餅をついている女は殺人鬼と化した沢登りを見上げ失禁した。 周囲ではパトカーのサイレンが響き、その音はこちらへと近づいている。 人を殺すのに理由なんてあったっけ? (ねぇな。だから俺も理由無き殺人を繰り返すんだよ。無惨に残った死念が人間の身体に乗り移ってな) そんな声が頭に響いたときには、女はグチャ味噌の物体と化していた。 人が人を殺す。それによって無惨に刈り取られた人間の憎しみが 残留死念と化し、理不尽な形で殺された恨みを晴らそうと人から人へ乗り移る。 世に言う「殺人鬼」の心の中では、ひょっとしたらそのような現象が起こっているのかも知れない。 END |