教え子を戦場に送らない

 昔、一緒だった校長さんにこんな人がいた。
彼の口癖は「一人一人の子どもを大切に!」だった。研究授業なんかやると、この視点からの鋭い観察眼でよく私たちを唸らせたものだった。でも、私はこの校長さんを好き になれなかった。
 彼は大変な酒豪なのだが、酔っぱらうととんでもないことをいうのだ。戦時中、彼は陸軍の輸送部隊で満州にいたことがあって、相当悪辣なことをしてきたらしいのだ。彼 がそのことを悔い、懺悔の涙を見せるのであれば、彼のことを尊敬もし彼の授業論も素直に受け入れることができたろう。だが、お酒が入ったときの彼はちがった。
 「今の若い者はかわいそうだ!赤線もないし暴れることもできん。わしが若かった頃はそれはそれは面白かったぞ。満人なんかどれだけ殴りつけたものかわからん。馬に 一本ずつ満人の足を縛り付け、別方向に馬を走らせて股を引き裂いたこともあったな。女なんかやりたい放題だった。本当に暴れ放題だったもんだ・・」というようなことを 黙って聞いていればいくらでも言うのだ。話の中には「チャンコロ」とか「ロスケ」とか「チョン」とかアジア人の蔑称が日常語のように出てくるのも耐えられなかった。
そんな彼がひとたび研究授業ともなれば滔々と「一人一人の子どもを大切にする視点から言うと・・・」とやり出すのだから本当に嫌になったものだ。
 で、ある時、題名は忘れたが宗像誠也(確かこういう字だったと思うのですが、まちがっていたらご免なさい。)先生の岩波新書を読んで欲しくてプレゼントしたことがある。 宗像先生は、戦時中に軍国主義教育に加担したことを悲痛なまでに悔い、二度と教壇に立たないと誓われた大学教授だ。(学生時代の記憶なので詳しくは覚えていないのです。) 彼がプレゼントした新書を読んでくれたかどうかはわからないが、私には忘れることのできない記憶だ。
 ついでに言うと、多くの戦後の教師達は、戦前の軍国主義教育に手を貸していたことに苦しみぬき、「教え子を二度と戦場に送らない」ことを誓ったのです。忙しい毎日ですが、 若い先生方には時にはそういう勉強もしてもらいたなーと思う。いい本もいっぱいあります。頑張って!応援しています! 応援してます!