忘れることのできない教え子達の想い出を、彼らや彼女達の幸せを祈りながら綴っていきます・・・
3.Sちゃんのこと

小学校勤務の大きな楽しみの一つは入学式ではないだろうか。可愛い可愛いピカピカの1年生が入学してくるからだ。私の勤務していた学校では、 6年生のお兄ちゃんお姉ちゃんに手を引かれて式場に入ってくるのだが、毎年、その姿の愛らしさに涙が出そうになったものだ。

そんなある年の1年生にブラジル国籍で来日したばかりのSちゃんがいた。この子がまたまるで西洋人形のように愛らしい。髪は栗色で青い大き な瞳、色がぬけるように白くひときわ目立つ子だった。他の子ども達と同じように笑顔で式場に入ってきたのだが、Sちゃんには言葉が全く通じ ない異国での学校生活の始まりだった・・・・。 果たしてSちゃんは学級や教師にすぐにはなじめなかった。担任は入学したての新1年生を40人近く抱えているのだから、Sちゃん一人にかかり きるわけにはいかない。期待は「子どもは子ども達の中で」と、大人より余程速く言葉を覚えるだろうぐらいのものであった。しかし、Sちゃんは入 学3〜4日で登校をしぶったり教室で涙ぐんだり、イライラすることが多くなった。

その年、私は生徒指導担当で担任がなかったからSちゃんに積極的に関わった。だから、Sちゃんの思い出がいっぱいある。涙ぐんでいるSちゃん を抱き上げて「高いー、高いー」をしてやったり、手を引いてタンポポを探しに行ったり、ご機嫌な時には「花」「雲」などと日本語を教えた。 Sちゃんは毎朝職員玄関で私を待っていてくれて「オハヨ!」と飛びついて来るようになった。私は実子は男の子ばかりで女の子を育てたことがな かったから、Sちゃんとの付き合いはよけいに楽しかったような気がするな。Sちゃんは言葉を覚えるのもとても速かったような気もする。 Sちゃんは抱っこが大好きでなかなか離れようとしないから、抱っこしたまま1年生の教室でよく緒に過ごしたりもした。担任教師との連携プレーも うまくいって段々Sちゃんは担任や学級の子ども達と遊べるようになってきたのだが・・・

1学期の終わり、Sちゃんは突然転校することになった。別れは寂しかったな。別れの朝、Sちゃんは小さな人形のようなものを「センセー!」と 私にくれた。私はSちゃんと撮った写真を小さなアルバムにしてプレゼントした。

Sちゃんは今日本にいるのかどうかわからない。帰国したのかもしれないし、また別の国かも。でもこの地球上のどこかに元気で生きていることには まちがいがない。Sちゃんは24〜5歳になっている筈である。